東方幻創録―永人行雲譚   作:鳥語

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旧題『枯れ木に花を』


枯れ木咲く

 焼けた木々は灰となり、土を鼠に染め上げる。

 煤けた灰は宙を舞い、彼方の場所に降り注ぐ。

 はらはらと散った命。さらさらと流れた命。

 

 風はいつしか吹きやんで、浮かんだ鳥も止まり木に。

 何処かの、遠い空気をはらんだままに土に落つ。

 

 そして、新たに命が芽吹く土地。

 新たに運ばれた大気を吸って、そこには、いつしか花が咲くこともあるだろう。

 

 枯れた命を糧として、花は色づき、緑葉が咲く。

 聖灰から再誕する焔のように美しくはなくとも、灰被りに汚れた手だからこそ、魅せられる姿が描かれる。

 一つの命の生き様を示した、異端の辿った軌跡。

 奇跡をなぞって恒常へと至る道程。

 

 何処まで外れても、その中心は変わらない。

 

 きっと どこまでも どうしても

 私は私でしかないのだから。

 

 

 

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――調子が狂う。

 

 胡散臭い笑みを浮かべていたと思えば、妙に真剣な雰囲気に妙な話を語り、かと思えば、急にふざけた調子になって冗談めいた言葉へとすり替える。格言めいた言葉を吐いておいて、すぐさまに飾りをはぎ取っては、その種を明かして誤魔化してしまう。

 はぐらかされているようで、からかわれているようで――それでいて、励まされても叱られているようにも聞こえ、どこまでもつかみ所がない。

 

 語られ、諭され、誤魔化され、そして、落とされる。

 その雰囲気に呑まれて、己が怒っているのか、呆れているのかもわからなくなってしまう――いや、その両方の感覚を同時に感じてしまう不思議な感覚に巻かれてしまうのか。

 どこまでも、わけがわからない。

 

――でも……。

 

 話せている。

 ちゃんと会話することができている。

 まるで――

 

「……当たり前の、人間みたいに」

 ぼそりとこぼした言葉。

 それを聞きとがめた男が「何か?」といったように首を傾げるが、「なんでもない」と片手を振って否定する。男は、一瞬何か考えている様子を見せたが――何も聞かずに、先ほどから行っている作業の続きに戻った。

 

 それに――少し安心した。

 そう、なんでもないのだから、これ以上は必要ないのだ。

 

――だって、そんなわけ、ないんだから。

 

 戸惑いや迷い。恐れや怯え。

 溢れでるものはずっと変わらない。

 ただ、今回は話しやすい相手だった。先ほどのことと同じで、運が良かっただけなのだ。

 

「……」

 

 そもそも、これほど他人と話したのは久しぶりだった。最近はほとんどが野宿で、人里には近づこうとしなかったから、それは当然のこと――本当に、怖かったのだから、仕方がない。

 

――私は……。

 

 己が違ってしまっていること理解させられる。自分という存在が、当たり前のものではないことを再認させられる

 

――何か別のものになってしまった。

 

 そんな「  」であることを、また、知ってしまう。

 

――それが、怖かった。

 

 他人の視線。自分の力。

 投げかけられる言葉も、向けられる感情も。

 だからこそ――

 

「さーて、そろそろ寝床を考えませんとね」

 

 そうやって沈んでいく思考は、そんな脳天気な言葉によって中断された。

 見れば、先ほどまでの作業を止めて、暢気に辺りを見回す男の姿。ちょろちょろと動き回って小屋の棚を漁り、布団代わりの布切れを見つけて何かを考え込む。

 顎に手を当て、目を細めながら考える。

 

 どうにも、気が抜けてしまうもの。

 

――だから、かもしれない。

 

 やはり、私は毒されていたのかもしれない。

 この男の雰囲気……何かを考えているようで、全くなにも考えていない様子の男の、その脳天気な姿に、少々、調子を狂わせてしまったのだ。

 この、まるで何事もなかったかの様子で、ただの日常の延長とだとでもいうように、欠伸をする男の、そのぬるま湯加減に中てられて、良い気分にのぼせていたのだ。

 

――こんなわけのわからないのがいるから……。

 

 私でも、まるで当たり前のように接してしまう。暖かい――そんな暖かい場所が、ほんの僅かにも見つかるはずがないのに、勘違いしてしまう。

 今が、ほんの僅かな時間だということを、忘れてしまいそうになる。

 

「――不思議じゃないのか?」

 

 ぽつりと、また独り言のようにいった言葉に、男は訝しげな顔をこちらに向ける。

 

「あ、えと……」

 

 ほとんど無意識に口にした言葉に自身でも少し驚きながら、慌てて言葉を探した。

 自然とうつむいていく体に、長い髪が視界を隠していく。

 

「こんな、わけのわからない姿で、炎を出して――」

 

 声が擦れて、聞き取れないほどに小さくなって――縮こまっていく。口に出すのが、自分でも辛く、重くなっていく。

 

――けど、本当のことだ。

 

 あとで――相手の言葉で言われてしまうよりも、ずっとまし。己で言ってしまった方が、覚悟はできる。

 だから、覚悟を決める。

 

「こんな、ばけ……」

 

 続けようとしたその言葉。

 それを――

 

「ああ、そういや水沸かしとかないといけませんねぇ」

 

 中途のところで遮った男のぼんやりとした言葉。

 「夜半に沸かしなおすのも面倒だ」と、そんなことをいいながら立ち上がる。

 

「あ、え……ちょっ」

「――っと、あんま遅くに井戸使うのもなんですし、すいませんが、ちょっと待っててください」

 

 勢いがつんのめった。そのような感じにたたらを踏んだ私を片手をあげて制して、男は置いてあった鍋を抱えて扉の外へと出ていってしまう。

 

 

 その後ろ姿に伸ばした手。

 それをぐっと握りしめて――

 

「――ああっもう!?」

 

 思い切り膝を打った。

 こみ上げる何ともいえない感情に頭を抱えてしまう。

 

――あれはいったい何なんだ!?

 

 ほんとに調子が掴めない。

 話を聞いているのか聞いていないのか――気ままなにもほどがある。いくら手を伸ばしてみても空を掴むといった風にいなされてばかりいる。

 

――なんなのよ……この男は。

 

 何だか涙までこみ上げてしまいそうな苛立ち。

 そんなこちらの様子を知ってか知らずか、鼻歌混じりに戻ってきた男は、慣れた様子で囲炉裏に並々と水を入れた鍋をおく。そして、火を調整し、妙に手際のよい手つきで、何かの作業を行ってる。

 そんな――なんだか上機嫌に続けられる作業が、余計に癇に障る。

 

「――で、火がどうしましたって?」

 

 かちゃかちゃと鍋に何かを放り込みながらの言葉。

 火を落ち着けたところで、自在鉤にぶら下げた鍋から、男はやっとこちらに向き直る。

 一応聞いていたのか、と半ば呆れて、残りは苛立ちながら――睨みつける。

 

「ああ、もう……」

 なんでこんな奴に私は。

 

 もはや、口を開く意味もわからない。

 それでも、ここで止めてしまうのも癪だ。

 

 

「こんな炎を出す――こんな“化け物”のような人間。それをおかしく思わないのかっていってるんだ!」

 

 やけくそのような気分で――実際その通りの投げやりさで、苛立ちを吐き出すように一気に吐き出した。

 

 本当は口にしたくない言葉。認めるしかない現実。

 それでも言ってしまってすっきりしたのは――それほどに、私が苛々していたからだろうか。

 

「……」

 

 沈黙とぱちぱちと小さな火が弾ける音。

 思った以上に軽い感覚で言えてしまった己の引け目に、何だか自分でもよくわからない感覚に陥りながら、その返答を待った。

 

「ふむ」

 男は、口元に手をやった。

 その様子は――何かを堪えているようで。

 

――もう、どうでもいい。

 

 受け入れられるとは思っていない。

 認められるとも思っていない。

 ただ、それでも。

 

――何かが変わるかもしれない。

 

 諦めがつくのか。何かを得るのか。

 

 そんな希望とも絶望ともつかない、小さな予感。

 それを感じさせる――何処までもよくわからない男の、その答えを待った。

 

 握りこんだ拳は、白く――痛みを伴うほどに力がこもる。

 そんな状況で――

 

「――くくっ……」

 

 聞こえた声と知らぬうちに下がっていた視線。

 それを上げると、こみ上げる笑みを隠してしまおうと口に手を当てる男。

 

 

「――何が、おかしいんだ……?」

 

 いたって真剣だったはずの発言。

 それに対して、笑う男。

 

「なんだ……いいたいことがあるならいってみろ」

 

 心なしか自分の声が低くなった気がした。

 俗にいうと――ドスを聞かせた声。

 

「いやいや、すいませんね」

 

 そんなこちらの様子を察しながらも、全く反省の色もない声色で男はにっこりと答える。

 その様子にますます目尻がつりあがる。

 

「あー、ははは……悪気はないんですよ?」

 

 こちらが少し本気になっていることに気づいたのか、男はあわてた様子で両手をあげる。

 それでも、目だけは笑ったままで。

 

――胡散臭い。

 

 まったく信用できない態度だ。

 

「まあまあ、落ち着いてください」

 

 そんな私の訝しげな目に、男はゆっくりと指を持ち上げて――

 

「あんまり興奮するから――指から(ちから)がはみ出してますよ」

「……っ!?」

 

 指された先にある自らの両手。

 握りしめたままだったそれを、慌てて開いて確認する。

 

「――え?」

 

 そこにあるのは、白く汗ばんだ手のひら。

 いつも通りの、傷一つない手――だった。

 火花の一つも飛んでいない。

 

 はっと顔を上げると、口元を押さえて声を抑えながらも――先程より数段笑みを深くした男の顔があった。

 

「……」

 

 すっと、冷えた血が頭に上る。

 視界が絞られ、冷静に拳が握られる。

 

「――おい」

 

 さらに低く、苛立ちのこもった声。

 妙に落ちついた怒りが、身体を支配する。

 頭は冷えているのに、腸が煮えくり返っている。

 

「ふざけるなよ……」

 

 今なら罪悪感もなくこいつを殴ることができる。

 そんな感覚に反応してか、いつもはぎりぎりのところで抑えている炎が思い通りに――掌の上でごうごうと音をたてるのみに収まっている。

 

――妙に落ちついてる。

 

 造り出した炎に自分でもそんなことを思ったが、今は置いておいた。

 それよりも、この男の相手が先なのだ。

 

――痛くたって大丈夫なんだから……。

 

 それで殴れば己も痛む力加減で拳を握る。

 先ほどよりも鋭く、敵意を込めて睨みをきかす。

 脅しのように炎を見せつけると、男は興味深そうに目を細めた後、胡散臭そうな笑みを浮かべた。

 

 そして、降参するように両手を上げる。

 

「まあまあ、落ちついてくださいよ、お嬢さん」

「人をからかっておいて……」

 よくいう。

 

 鼻先に炎をちらつかされても笑んだままの男。

 

――本当に殴り飛ばしてやろうか。

 

 危険な思考が頭をよぎる。

 けれど、そのようなこちらの様子を見つめ、面白そうに目を細める。先ほど、私を諭していた時と同じ――何かを想い出しているような、懐かしむような目。

 それは、幼子を眺めるような、昔を思い出すような――そんな老人のような表情で。

 

――なんだ?

 

 僅かにだが、疑問が浮かぶ。

 しかし、それは一瞬垣間見えただけのものであって……その表情はすぐに、先程までと同じ胡散臭い笑みへと変わった。

 

「では――」

 

 そして、男は小さく呟いて、男はこちらに片手を向ける。こちらに見せつけるようにそれをゆっくりと開かれるそれ。

 

「なんだ」

 

 ぶっきらぼうに言いながら、その手に視線を向ける。

 そこには、何ものっていない。

 

「一つ面白いものを見せましょう――これで許してください」

 

 男は大仰そうにそういって、小さく息を吐いた。

 身体から力を抜き、脱力した様子で――その手をぐっと握る。

 そして――

 

「さてさて、お立ち会い」

 

 そんな、軽い調子に放たれた言葉と共に――開かれた拳。

 

「え……?」

 

 漏れた自分の声に――照らされる己の姿。

 揺れる光に、目が瞬いた。

 

 

「これだけじゃ種火ぐらいにしかなりはしませんが……」

 

 そこには、小さな、蝋燭の灯りほどの炎がふっと浮かび上がっていた。何もなかったはずの手に、私と同じような炎が握られている。

 

「――それは」

 

 呆然とする私に、男は手のひらを広げ、水、火、光の玉など、次々と小さな何かを生み出していく。

 黄色に、青に、白に――

 

「――よいよいのよいっ、と」

 

 そんな軽い掛け声と共に、生み出されたものたちはふわふわとその手の上に浮かび、複雑にその空間を動き回る。自由自在に、様々な何かで造られたそれら。互いに光を反射し合い、くるくると渦を巻くように揺れて、木々の隙間を照らし上げ――きらきらと星のように明滅した。そして、最後に一瞬だけ大きく光を上げた後、男の手が閉じられたと同時に、音もなくすっと消えた。

 

「……」

「おやおや」

 

 固まった私に、にやにやと嫌味な笑みを浮かべながら、男が視線を向ける。

 

「どうしましたお嬢さん。何か不思議なことでもありましたか?」

 

 からかうように上げられた声。

 にこにこと笑う胡散臭い顔。

 

 それに――

 

「お前……一体」

 

 それだけ言えた疑問に、男は口元を歪ませて――一瞬だけ、なぜか寂しそうな表情を見せて――男は口を開く。

 

「なあに、ただの長生き爺さんですよ」

 

 低く、落ち着いた声で。

 その不思議と、呑まれてしまうような老成した雰囲気で。

 

「髪の白くない、若づくりの、ね」

 

 そういった。

 

 そうしてから、がらりと表情を入れ換えて、「内緒ですよ」と悪戯っぽく笑う。

 軽い調子で――飄々と、あくまで自然体。何もおかしいところは存在しないし、存在していない。

 ただ、当たり前の普通のことだとして、特別なことをしていた。

 おかしな普通さ。不思議な自然さ。それでもいいか、と思ってしまえるような当たり前のように。

 

 それが、妙に滑稽で、妙に可笑しくて――なんだか子どものように笑ってしまいそうになった。

 頑張って堪えたけれど、少しだけ、笑ってしまった気もする。

 

 それくらい、おかしいことだと思えた。

 自分も。相手も。

 

――それでもいいのか。

 

 そんなことを、思ってしまうくらいに。

 

 こぼれた笑いは、なんとなく湿っぽかった気もする。

 少し、温いものだった気がする。

 

 

 そのぬるま湯に浸って、頬を濡らしてしまった気がする。

 

 

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「さて、と」

 

――始めますか。

 

 小さく息をついて荷物を探り、一枚の衣を取り出した。

 すでに夜も更けて、鳥と虫の声を微かにしか聞こえない、とっくりと暮れてしまった時間である。いつもなら――平常通りにいった日ならば、既に高いびきと決め込んでいるころだ。

 少女も既に眠りこけ、部屋の隅で布切れをかぶって丸くなっている。――人とこれだけ言葉を交わしたのは久しぶりなのだろう、大分と疲れているようで、随分とぐっすりである。

 

――丁度良いか。

 

 これならば、さほど気をつけなくても起こしてしまうことはないだろう。作業を進めるのには気を使わなくて丁度良い。

 そう考えて、その広げた衣に視線を向ける。

 

――市で捌こうとでも思ってたんだが……。

 

 鮮やかな紅色に白い線で模様がいれられた布。真朱に染め抜いて、白抜きに模様を描かれたそれ。

 実用的ではないが、華美に造り上げられたそれは貴族の姫君や反物を取り扱う商人にとっては随分と高値で取り引きされているものである。その布自体もかなりの上物であり、それに相応の職人が色を染め、模様を描いての織りあげられた高級品。それが、仕立てのよい形に縫い上げられて、さらに昇華したという品。

 上手くすれば、貴族や豪族を相手に結構な額を引き出すことも可能な品だろう。

 

 けれど――まあ、いいだろう。

 

 路賃に困っているわけでも、これからの予定に先立つ物が必要なわけでもない。無用に財をもっても、旅の邪魔になるだけ――ならば、使える場所で使ってしまうのも、意味あることとなる。どこかの倉庫にしまわれて年に一度しか使われないよりは、ずっと有意義というものであろう。

 

 そう考えて――綺麗に縫いつけられた衣をほどき、一枚の布の形へと戻していく。

 

――加工しやすい部分だけを残して……あとの端切れは大きいものを残して村人に渡せばいいか。

 

 端切れといっても、こういう上等の繊維は貴重品。

 きっと上手く役立ててくれるだろう。

 

「よし、と」

 

 ばらばらとなった衣。

 その必要のない分の布を適当な袋に押し込み、細長く、長方形のような形になった残りを、しわのないように丁寧に広げて床に置く。

 

――確か、と。

 

 そして、壁際においておいた荷物の奥から筆と灰色の小瓶を取り出す。

 大体、手のひらほどの大きさそれは、揺らすとちゃぽちゃぽと水気のある音を立てる。その栓を引き抜き、中身を小皿へと引っくり返すと、その細長い口からは、とろとろとした白色の液体が落ちた。

 

――少し薄めるか、これじゃ描きづらい。

 

 それが円の形へと波が落ち着いたところで、隣に置いておいた鍋――温めておいた白湯の残りをそこに注ぐ。半々と分離しているそれを、筆の先でくるくるとかき混ぜると、先程までは白く濁っていた塊が半透明程度の液体へと変わった。

 

「……まあ、こんなもんだろう」

 

 そう呟いて、改めて広げた布へと向き直る。

 向けるのは、先ほどかき混ぜるのに使った筆の先。

 

――基本的には封印の式。それを長期発動、装備者への簡易的干渉と制限。

 

 あまり複雑にすると、式が短命となる。なるべく長期的に考えるなら、無理矢理にではなく、術者が自主的に動く方向に働きかけるもの。

 小さく干渉し、細く長くと続ける。

 

――夜明けまでには完成する。それでいてそれなりに効果的な……。

 

 無数に思い浮かべる式の中、その中の最適な一つの術形を選出し、目の前の布へと刻んでいく。

 染み入るように吸い込まれていく液体は、乾くと何もなかったかのように消えて、見えづらくなっていく。全体図を把握しておくためにも、あまり時間はかけられない。

 熱いうちに、たたき込む。

 

――円と線、曲と式……継ぎと繋ぎ。

 

 力を込めながら、淀みなく腕を動かして、その図を組み上げる。参考とするのは、朝に眺めた封印の式。あれよりは余程に簡単ではあるが、様々な要素を組み合わせるのに違いはない。

 水で消し、土で沈め、金で塞ぐ。

 風を止め、氷で冷やし、木で和らげる。

 その火を、その感情を、その高まりを――薄める。

 

 あくまで微かに、あくまで簡単に。

 けれど、気づける程度に。

 

――あとは、当人次第。

 

 あくまで、これは、ただの印。

 今の現状を知らせるだけのもの。

 

――完全に抑えはしない。

 

 ただ、きっかけを与える。

 それ以上の効果はつけない。そこまでする気はない。

 あくまで、忠告程度のお節介。

 

「これくらいかね、と」

 

 一つ目の術式を描き終えて、再び筆を濡らす。

 薄い物を重ねて、さらに一つの形へと織りあげる。

 

――自分で自分を扱えなければ、結局繰り返す。

 

 だからこそ、最初の切っ掛けだけおいておく。

 一つの機会はそこにあり、あとは、掴むかどうか。

 

 その猶予を作るわずかな時間。

 

――完全な封印をずっとなんてのは、俄然無理な話だが……。

 

 その印はいつか消えてしまう。

 いつまでも緩まぬ強さは現物には存在しない。

 

 だからこそ、赤子は自分で立ち上がる。歩くことを必死で覚えていく。

 

――ここまで口を滑らした以上、ほっぽりはしませんがね。

 

 必要以上に手を貸す気もない。手を貸す必要もない。

 何をすればいいのかは、自分で考えて決めること。方法はいくらでもあり――学びたいなら、学び舎への地図ぐらいは置いていく。年寄りができる節介など、その程度。それ以上するには、こっちは頭が堅すぎる。

 新しいことを始めるには、新しいやり方で初めてみることだ。こちらは、その失敗を笑いながら拭ってやって、偉そうにしているのが愉しみなのだ。

 

「――それに、ね」

 

 それは――この少女の問題は、きっと己一人でしか見つけられない答えをもっている。掴めてしまえばそういうもので、掴むまでがややこしい。

 そういったものだと、なんとなく感じているのだ。

 

 原因は少女自身で、解決するのも少女自身。

 これは、それに気づく切っ掛けに過ぎない。

 

――自分で自分を律するためにも……自らを由する力を得るためにも、まずは歩き方から。

 

 

「さてさて、どうなりますやら」

 

 一人呟いた言葉は何処か楽しげに。

 それはそのまま、響きどおりの感情を示していた。

 

――いやいや、愉しいねぇ。

 

 若者を笑って眺める老人の笑みだった。

 

 

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 久し振りに感じた感覚。

 それは、目が覚めたというものだった。

 夢か現か、朦朧とした意識をさ迷うような眠りではない。目蓋を閉じた暗闇の中に、身を任せる感覚。

 

――ああ、朝なのか。

 

 ぼやけた思考の中で、差し込まれた光によって日の出を知る。なんだか、それがとても懐かしいことのような気がした。

 

――いつもと同じはずなのに……。

 

 少しだけ、違う。

 それは、何だか悪くない感覚だ。

 

――昔は、そうだったかな。

 

 温かい布団の中、慣れ親しんだ人たちの声で起こされて、誰かと隣に食事をとる。

 当たり前で、普通のことだった日常。

 

 それは――

 

「――ん、目が覚めたのか」

 

 暖かな追想――それに水をさすように、無粋な声が響いた。

 びくりとふるえながらも、いささか緩慢な身体を動かしてそちらを見ると、「ふわあ」と眠たげに欠伸をしながら、ぼうっとした様子でこちらを見つめる男。

 

「まあ、よく眠れたようだな。お嬢さん」

 重畳重畳、とやる気なく呟く様は昨日と同じ。けれど、妙に覇気がない。胡散臭い印象の言葉遣いもどこか薄れて、なんだか疲れているようにも思える。

 

――眠っていないのか?

 

 なぜ――そんな疑問。

 そして、その原因……もしかしたら、という様々な憶測が頭の中に満ちていく。

 

――建物は焼けてない。怪我は……見当たらないけど、隠してるのかも……でも、えっと?

 

 蓋が外れたように溢れだす悪い予感。

 先程までの清々しさが嘘のように萎んでいく。

 寝ぼけ頭が混乱し、何だか涙でも溢れてしまいそうに火がついてしまう。

 

 久しぶりの感覚。妙ちくりんな状況。わけのわからない相手――まるで、赤子にでも戻ってしまったかのようにわからないものばっかりだ。

 新しいものばかりに襲われて、目が回ってしまう。押さえられなくなってしまう。

 そこへ――

 

「落ち着きなさい、と」

 

 トンッと、軽く突くようにして、額に指が当てられた。 急いで立ち上がろうとしていた体の力が抜け、ぽてんっと尻餅をつくような形で座り込んでしまう。

 

「あ……」

 

 目の前には、呆れ顔でこちらの前にしゃがみこむ男の姿。疲れた目で、ぼんやりとこちらを眺める大人。

 

「何を勝手に盛り上がってんですか……」

 寝ぼけないでください、とそういって男はまた眠そうに口に手を当てて、大きな欠伸する。

「まあ、おかげで少しは目が覚めましたが…」と目蓋を指で擦って――随分と、調子がもどったようだ。

 

「ね、眠ってないのか?」

「あー……ちょっと野暮用で」

 少しやりたいことがあったんですよ、と男は答える。

 億劫そうに座り込み、うーんと延びをしていて――

 

「――私のせい?」

 

 また、迷惑をかけたのかもしれない。また、いらぬ事をしてしまったのかもしれない。

 そんなことが浮かんで、恐る恐る尋ねた。

 

「いや……」

 

 男はまた小さな欠伸を噛み殺す。

 眠そうに、けれど、まっすぐこちら視線を向けて――。

 

「それは半分くらいで……」

 あとはこっちの都合です。

 言いながら、男は先程まで座っていた場所へと移動し、床に拡げてあった何かを取り上げた。

 そして、それを確認するように全体を眺めてから、「うん」と軽く頷いて――それをこちらに放り投げた。

 

「わわっ!?」

 

 ばさりと風圧に拡がって、ひらひらと舞い飛んできたそれを、慌てて掴みとる。

 

――これは……。

 

 薄紅色の細長い布に、何かの文様のようなものが白い線で描かれているもの。繊維のざらつきも感じられないするりと指を通る感触の良さに、その布が随分と仕立てのよいものだという事がわかる――昔、屋敷で持っていたものと比べても、結構な上物かもしれない。

 そんなものを。

 

「やる」

「え、あ……?」

 

 端的にそう告げられた。

 

――一体……何?

 

 疑問しか浮かばない――が、男は気にした様子も見せずに眠たそうに目を擦る……本当に眠たそうで、昨日の人を食ったような態度が幾分減退しているが、それもまた――なんだか、微妙な印象だ。

 素直に、ずれている。

 

「さてさて――」

 

 こちらの戸惑いをよそに、男は調子の悪そうに伸びをする。ぐっと両腕を上げて「うう」と苦しそうに呻いて腕を下した後、片手で腰を叩きながら、隣においてあった荷袋から何かを取り出して、隣に置く。

 そして、そのまま何かの作業を続けながら、口を開いた。

 

「――あんたはこれからどうしたい?」

 

 視線は別の方向に向けたまま、何気ないようにそう問われた。

 その質問――何処か、試すような言葉に、少し悩んでから答える。

 

 ずっと決めていて――なかなか決心つかなかったこと。

 

「――もうこんなことがないように、山奥にでも引きこもるさ」

 

 そうすれば、誰にも迷惑はかからないし、このまま何もしなければ――何もなかったことになる。

 私は、自分の罪だけを背負っていればいい。それだけで、全部すむ。

 

――もう、誰とも会うことはないかもしれない。

 

 それでも、これ以上傷つけることも傷つくこともない。暖かさもないが、冷たさもない。

 

――全てが止まる。私と同じように。

 

 そう考えれば、随分と楽になる。

 自分でもそれで納得がいく。

 

 覚悟も、できた。

 

 けれど、そんな答えに、男は顔をしかめた。

「はあ」と小さくため息をついた後、また問い直す。

 

「どうするんじゃなくて、どうしたいかって話だ」

 

 少し強く問われた言葉に疑問がよぎる。

 

――一体なにをいっているんだ?

 

 そうするしかない。

 そうしなければならないのはわかっている。

 それが、私の罪だ。

 

 他に方法はない。

 

 そんなこちらの様子に再び嘆息しながら、男は私の手にある布切れを指差した。

 

「それを身につければ、お嬢さんの力を抑えることができる」

「……!?」

 

 告げられた言葉に思わず男の顔を見つめた。

 変わらぬ調子で、言葉は続く。

 

「――そうだとしたら、どうする?」

 

 ざわめいた私の内側にあるもの。

 捨てた方が楽なのに、ずっと捨てられなかった――私を止めるもの。

 

 それを、再び揺らされる。

 

「どうする、って……」

 

 迷う。迷ってしまう。

 その程度の覚悟なのだと、ひっくり返されてしまう。

 

 それに男はにこりと笑い――

 

「まあ、正確に言えば、そのきっかけとなるものってとこですが――」

 

 男が語る。

 その役割――制限と方法。

 

「お嬢さんが止めようと思えれば、それは止まるかもしれない」

 

 制御の法と意識の蓋。

 方法自体はごく単純なもの。

 

 あとは、私の気持ち次第、という可能性。

 ただ……。

 

「ただ、それを止めようと思えなければ、それはとまらない――すべてはお嬢さん次第、お嬢さんが本当にそれを止めたいと思っているのかどうか」

 

 自分を制御できるか。自分を止められるか。

 自分次第の―――自分の責任。それを、背負う覚悟があるのかどうか。

 

「受けとるかい?」

 

 突きつけられたのは、一つの選択。

 このまま諦めるのか、足掻こうとするのか。

 

――私は……。

 

 黙ってしまう。沈黙してしまう。

 その決断を、迷ってしまう自分。

 己の弱さに――

 

 

「――まあ、その前に一杯といきますか」

 

 その答えを出す。

 その前に男は時間を止める。

 

「少し待ってください」

 

 いつの間にか沸かされていたお湯に、先程隣においていた容器から何かを注ぎ、細長い棒でそれをかき混ぜる。そして、それが湯の中に完全に溶けると同時に、微妙に強めの香りが広がり、部屋全体を覆う。

 

「ちょっとした滋養の薬湯です。少しは目が覚める」

 

 そう説明しながら、それが注がれた器が差し出される。

温かい湯気を立てるそれ、少し息を吹きかけて冷ましながら、男はそれを口に含み、こちらにも、どうぞというふう掌が向けられる。

 

「……」

 

 強めではあるが、何だか身体に活力を与えてくれるような香り。僅かに緑に濁った半透明の液体に、少し迷いながらも――相手と同じようにふーふーとすこし冷ましてから、口をつけた。

 

――瞬間。

 

「……っにが!?」

 

 舌の上に絶大な苦味がはしった。

 思わず叫び声を上げ、器を放り出しそうになる。

 

「――ね、目が覚めるでしょう」

 

 思わず涙目になったこちらに、けらけらと笑い声を上げながら、平然とした様子でそれを飲み続ける男――確かに、先程よりも目が覚めたようで、昨日の調子に近づいている。

 そんなにやにやとして笑み。

 

「おまっ……」

「身体にいいことは確かです。ゆっくり呑みながら――悩んでください」

「む、ぐ……」

 

 言い放たれた言葉に、怒鳴りつけようとした言葉がしぼむ。猶予を与えてくれているという事に、溜飲が下がる。

 

「まあ、お子さまにはいつまでものめないかもしれませんが」

「……」

 

 微妙に釈然としないが、一応、時間(・・)をくれた、ということなのだろう。

 すっかり子ども扱いしてからかわれているのに、少し憮然としえしまいながら、ぶっきらぼうに「ありがとう」と礼をいった。

 それに対しても、「いえいえ」と軽く笑って受け取って大人の態度を見せる男――ずずっと、薬湯を啜る仕草は、どこか、爺臭い。

 

――本当に、子どもにでも戻った気分だ。

 

 随分と馬鹿にされている気がする。

 けれど――

 

――なんだか、悪くない。

 

 

____________________________________

 

 

 

「――私に出来ると思う?」

 

 やっと半分ほど薬草汁を飲んだところで、少女は口を開いた。

 その姿には、昨日ほどの悲壮感は見られないが、やはり、あまり明るいものには感じられない。それは、積み重ねてきた失敗の重さであるのだろうし――自分を信じきれない自信の無さでもあるのだろう。

 それだけの、経験がある、ということだ。

 

「さて、ね……」

 

 そんな様子の少女の器に、鍋の中身を継ぎ足してやりながら呟いた。

 微妙に嫌な顔をしていた気もするが、まあいいだろう。

 

「ふいー……」

 

 自分の分の器に口をつけながら、軽く息を吐いた。

 昨日に使いすぎた気力が少し回復し、頭が働き始めるのがわかる。

 

――やっぱり、二徹はきつかったか……。

 

 ただでさえここのところちゃんと眠っていなかったのが、昨夜に力を使った分、かなりの疲労となっている。保存しておいた薬草によって多少緩和できるが、この体の重さは、きっちりとした睡眠をとらない限り抜けきることはないだろう。

 その半分はぼんやりとした頭で――

 

「わからん」

 

 正直な返事をした。

 

「そんなばかな」といった感じに少女の表情が強ばった様子が見えたが、構わず言葉を続ける。

 

「お嬢さんが何を抱えているのか――何に囚われてるのかも、知らないですからね」

 

 人間何人分もの時間。

 その間中、保ち続けた感情など、決して共有できるものではないだろう生きてきた道程――たとえ、まったく同じ時間を生き続けたとしても、感じるものは違う。

 それが、人の生というものだろう。

 

「それがどれだけ大きいもので、どれだけ根深いものなのかもわからない」

 

 苦しいもの、なくしてしまいたいような重荷だとしても、きっと、なくしてしまえば、何かを失ってしまうほどに大きくなることもある。それほどに――生きる意味だと言い換えてしまってもいいほどに、大きくなった楔というものは、そう簡単には呑み込めない。

 それと似通った何か、それなら、少しは理解ができるが――それでも、それは違うもの。

 

 どうしても、同じ答えは出せないし――はっきりとした正解など用意をしてやれない。

 けれど――

 

「それでも、嫌なんでしょう?」

 

 そうしてしまうのが。

 そうとしかできないのが。

 

「苦しくて、辛くて、何もかもを終わらせたくなって、消えてしまえと願っても――それでも、嫌だ」

 

 そう思ってしまう。それだけが変わらない。

 

「消えない火のなかで、ずっと在り続ける」

 

 それが何なのかはわからない。

 ただ、いつもそこにあることだけは確かなもの。

 振り切れない、磨耗しない、風化しない。折角消えたと思っても、いつの間にか、また生まれ、そこに居座って――いっそ失くしてしまえば、そう願っても。

 

「自分が自分である限り――焼け残る」

 

 そんなもの。

 そういう己。

 

――それが、忘れられない。

 

 身体の不調を訴えて込み上げた欠伸。

 それをどうにか噛み殺しながら、ぼうっとしている頭に浮かび上がる言葉を連ね続ける。

 

「そんな不老不死みたいなものを――ずっと相手にし続けるだけ面倒だ」

 

 これはきっと、実体験を語っているだけの思い出話。

 ただの事実で、自分を振り返っているだけに過ぎない。

 

「なら、相手にできるほうを相手にしてる方が楽ってもんだ」

 

 昔の後悔、過去の失敗。自分の中に根付く教訓と経験。

 

 当てはまるなら、そうしなければいい。当てはまらないなら、そうすればいい。

 

「その力はお嬢さんのものだろう?」

 

 選ぶのは自身の想い。

 したいことをしたいようにするというだけのこと。

 

「悲しみだとしても、憎しみだとしても、それはお嬢さん自身のもので、そこから沸きだしたもの――なら」

 

 止められない想いで、振り切れない感情で。

 それでも、自分自身のものならば。

 

「方向を逸らすくらいはできるでしょう」

 誰も、何も巻き込まないように。

 消えない炎ならば――広がらないように。

 

「少なくとも、この一夜は――ぼや騒ぎ(…・)程度ですんだんだ」

 

 あとは――

 

「それを繰り返して――ちょっとした不始末で終わらせてしまえばいい」

 それだけのこと。

 

――偶然を繰り返せば、それがいつかは当たり前になる。

 

 

 それがずっと続けば――日常に。

 

 

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「こんなじいさんより、よっぽど若いんだ――時間は腐るほどあるでしょう」

 なら、腐ってしまう前に。

 腐ってしまって、曲がりきってしまう前に。

 

 そういって微笑んで――

 

「年寄りが新しいことを始めるのは大変だ」

 軽い調子で嘯く。

 

「先はお嬢さん次第」

 

 その手をとるのか、払い飛ばして逃げ出すのか。

 選択するのも私自身。

 

「年寄りにできるのは、その手伝いだけですよ」

 

 言い渡すように指された指先には、赤い布。

 まだ汚れぬままにいるのは、私のことを示すのか。

 

「当たるも当たらぬも、信じるか信じないかも――お嬢さん次第」

 

 この手をとるか――闘う気はあるのか。

 そう問うたのは、言葉ではなく、その眼差し。

 無言のままに迫られる選択。

 

 自分の想い。自らの覚悟。

 

 頭によぎったのは、過去の過ち――そして、その元凶への暗い感情。それを思い浮かべるだけで、焦げつくような炎が胸を焼く。

 

――それでも……。

 

 眠るのが怖い。近づくのが怖い。

 

――もう嫌だ。

 

 何度も振りおろしかけた腕。

 焼け焦がした生活。

 

――この炎に呑まれても。

 

 見過ごせないもの。捨てられないもの。

 無間地獄のように続く生とその切欠と――届くかもしれない指先。

 

 希望に続くのか。絶望に終わるのか。

 

「ああ」

 

 きっと、睨み付けるような視線を男に向ける。

 自らを奮い立たせるように。誰かに誓うように。

 

 己と戦うために――。

 

「私は――」

 

 ばらばらに放っていた髪に手を差し込んだ。

 ずっと変わらない傷みのない髪の間にしゅるりと音をたてて、通り抜けていく感触。半分に閉じていた世界が広がって、はっきりと視界が開けた。

 

――どうせ、逃げないと決めたんだ。

 

 その先に立つのは、眠たげに目を細めながら、どこか楽しそうに微笑む男。

 負けじと、こちらも不適に微笑んでみせる。

 

 焼き尽くす炎ではなく。

 この先を照らす灯を燈せるように

 

 

 私は――

 

 

 

 荷車にのせてしまえば楽になる。

 けれど、これだけは自分で運んでいこう。

 その荷車だけが別の場所に行ってしまっても失わないように。

 

 重くとも。辛くとも。

 これだけは失くしたくないものだから。

 

 隅に置いておこう。

 きっとそれだけで――

 

「私は、私を失くさない」

 

 

 私という存在を、外れない。

 そういう芯を持つことに決めた。

 

 

 




 遅くなりました。
 そして、再び出先ですので推敲が甘いかもしれません。
 何かしら不備が見つかれば、あとで直します(このままでいくかもしれませんが)。色々と中途半端で申し訳ありません。


 ご指摘、ご感想は参考と励みにさせていただきます。
 読了ありがとうございました。

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