わーい!めでたいです!
これもひとえに皆様のおかげです!
そんな皆様に感謝の気持ちを伝えるため、歌を作ってきました。
聞いて下さい「マイ k(ry
第七話始まるよ!
結局僕らは、ティアがユウにお願い(という名の脅迫)をしたので女性陣三人のレベル上げを手伝うことになった。
「ごめんなさいね。騙すような事しちゃって……」
優子が本当に申し訳なさそうに呟いた。
「いやいや、そんなに気にすることじゃないよ」
試召戦争とかじゃ、僕らの方が絶対多く騙してるしね。
「あなた達がそれでいいならいいけど……」
ああ、優子っていい人だな。
率直に思った。
「この中じゃ、優子が一番常識人だよね」
「むしろ、このメンバーと常識の有無で比べられたくないわね」
ごもっともです。
「……ていうか、いきなり呼び捨てなのね。アタシ、ライト君とあまり親しかった記憶が無いんだけど」
「アバターの名前だしね。普通呼び捨てだと思うよ」
「ふーん、そういうもんなんだ……。じゃ、アタシもライトって呼んでもいいわけ?」
「うん」
「……じゃ、そうさせてもらうわ」
僕は優子に小さく頷きながら、肯定の言葉を発した。
二層に覗く朝日に照らされたのか、優子の頬が少し色ずいている気がした。
☆
「そろそろ圏外だぞ。準備はいいか?」
ユウの言わんとしていることはつまり、もう少し歩けば命の危険が冒されるということだ。
特にティア、リーベ、優子の三人は一層初期との急激なレベル差に苦戦するだろう。だがしかし、そんなものに臆するような僕達じゃない。
当然、ユウの問いには全員で首肯する。
「「「おう!」」」
「おい、何付いて来ようとしてるんだ、ライト?」
「え、どういうこと?」
「いや、お前足手まといになるじゃねえか。適当に宿屋で待機でもしとけ」
や、やだな!泣いてないよ!
というか、素手で戦えって言ったのユウじゃないか!
そんなこんなで、思わぬ時間が出来てしまったので、ちょっとやっておきたい事をかたずけておこうと思う。
いや、むしろ僕にとってはこれが何より大切なことかもしれない。
即ち、キリトとの会話だ。
第一層ボス攻略後のあの別れ方がどうにも僕の中でモヤを描いて渦巻いていた。
僕はキリトと唯の「フレンド」から唯の「友達」に戻りたいのだ。
もしかすると、戻りたいという表現すら僕の身勝手なのかもしれないけど。
先ずは聞き込みから始めて見た。
キリトの顔を知らない者や、キリトという名を出すだけで嫌悪感を露わにする者もいたが、キリトの名前自体はこの二層に来ている人たちのほとんどが認知していた。主に悪い意味で。
しかし、幾ら聞き込んでも本当に誰もキリトの居場所を知らなかった。
さて、万事休すか……、次は何をしようかな。そう思っていた僕の目にある人物の影が飛び込んで来た。
土色のローブから、日本晴の空に浮かぶ日輪のような美しい髪を揺らしている。
彼女なら、キリトの現在地を確実に知っているだろう。
そう当たりをつけた僕は、俊敏ステータスにものを言わせ、高速で駆け寄りながら彼女の名前を呼んだ。
「おーい!アルゴ!」
僕の声に反応して彼女が振り返り、トレードマークの左右三本づつのペイントされた髭が見える。
間違いない。彼女はこのデスゲームで最も有能であろう情報屋、ネズミのアルゴだ。
「やア、ライト
いつの間にか、僕のあだ名はライト兄に決定していたようだ。
そこには深く触れず、僕は単刀直入に用件を伝えた。
「アルゴ、情報を買いたいんだ。」
ネズミの片頬が三日月のようにつり上がった。
それは、僕が彼女の土俵に乗り込んだということを表す。
「どんな情報を買いたいんダ?初めてだからお安くしとくヨ」
その言葉を充分に噛み砕きもせず、何かを急かすように僕は言った。
「キリトの居場所って分かるかな?」
僕の疑問を耳にして、ネズミは拍子抜けだと言わんばかりの表情を作る。
やっぱり、情報屋の名は伊達じゃないようだ。
「そんな情報ナラ……そうダナ、百コルでいいゾ」
今度は僕が拍子抜けする番だった。
というか、キリトの情報安過ぎだろ……そんな感想を抱きながら苦笑混じりに僕は言った。
「OK、じゃあ支払うね」
そう言って僕はフレンド一覧からアルゴを選択し、百コルをプレゼント扱いで彼女に送った。
ピローンという音と共にアルゴの眼前に通知窓が現れた。
そして、僕がメインメニューを閉じようとすると
「待テ」
という短い静止の命令。
当然、僕はそれに従い手を止める。
「その一覧からキリ坊を選んでキリ坊の画面を下にスクロールしてクレ」
言われた通りに指を動かしていくと、あるタグを見た瞬間僕の悪い頭に悪い予感が訪れた。
曰く、フレンドの現在地。
ばっと顔を上げると、もうネズミの姿は何処にも見当たらなかった。
とどのつまり、僕はフレンド機能のレクチャーを百コルを出して買ったわけだ。
改めてゲームの説明書は読むことにしようと決意を新たにした所で、僕はメインメニューに表示された地図に従って歩を進めた。
一時間程歩いただろうか。僕は今、二層にそびえる山脈の内の一つの山頂を目指して絶賛山登り中だ。何故こんな所にキリトは居るんだろうか?
レベリングでもしてるんだろうと勝手に想像していたのだが、出発時から今の今まで同じ座標から動く気配がない。そう、ずっと山の頂きから移動していないのだ。
当たり前だが圏外である。最初にモンスターと少し戦ってみたものの、やはり素手で倒すことは難しかった。というか、無理ゲーだった。よって、ポップしたmobには全て、伝家の宝刀『逃げる』をお見舞いしている。
そうした苦労も遂に実を結んだ。山頂が視界に確認できたのだ。そこには心地よい音を響かせる泉、どこかユーモアのある形をした一本の木、そして、小さな小屋があった。
キリトの現在地は……ビンゴ!
僕は小屋のドアノブに手を掛け、何の躊躇も無しに開いた、いや、後になって思えば開いてしまったと言うべきか……。
中には、荘厳な雰囲気を醸し出すムキムキのおじさん、そして、僕が今日一日かけてずっと探していた人物、キリトが居た。
何故か顔に奇怪なペイントをして。
「……よお、ライトじゃないか……」
虚ろな声と瞳でキリトが言った。
何故だろう。とても嫌な予感がする。
劇的に逃げ出したい気持ちを当初の目的で抑えつけ、僕はキリトに話しかけた。
「やあ、キリト。君に話したいことがあるんだ」
とりあえず、ペイントについては触れないでおこう。
「その前に、お前もこのクエストを受けたらどうだ?」
そう言ってキリトが指し示したのは、おじさんの上に輝く金のエクスクラメーションマークだった。
このマークが出ているNPCに話し掛けるとクエストが受注出来るのだ。
「これってどういうクエストなの?」
僕の質問に言葉を選ぶように思案しながらキリトが答えた。
「これはな、エクストラスキル『体術』を教えてくれるクエストなんだ」
「それってもしかして、素手で戦えたりするの?」
「ん……ああ、そうだな」
これはもしかするとチャンスかもしれない。散々足手まといと言われた借りを返すことの。
しかも、エクストラスキルと言うぐらいだ。きっと強いに決まってる。
そう確信した僕は座禅を組んでいるおじさんに近づいた。
するとNPCであるおじさんはしわがれた、だけども威厳のある声で僕に話し掛けてきた。
「入門希望者か?」
「あっ!はい、そうです!」
「修行の道は長く険しいぞ?」
「がっ、頑張ります!」
会話の後、おじさんの頭上の『!』マークが『?』マークに変わる。クエスト開始の合図だ。
すると、おじさんが小屋の外へと出て行った。
慌ててそれを追いかけると、二メートル程の、確実に堅牢であろう岩の前に立って言った。
「汝の修行はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。成し遂げれば、汝に我が技の全てを授けよう」
「………………え?」
ちょっと岩に触ってみる。カッチカチである。
うん!無理だな!どうやらこのおじさんにも伝家の宝刀『逃げる』を使わねばならないらしい。
そんな思考をおじさんの次の挙動がぶち壊した。
「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝には、その証を立ててもらうぞ」
そう言って、おじさんは道着の中からどうやって収納していたのかは不明だが、壺と大きな筆を取り出した。
きっと書道でもするんだろうな!そんな都合のいい妄想で頭を塗りつぶそうとしたが、キリトの顔のペイントがどうしても浮かんでしまう。
流石に僕にももう察しがついていた。
おじさんは筆を壺に突っ込み、墨を吸った筆を僕にふるう。
「ぶひゃあぁっ!」
変な声を出してしまった。
「その証は、汝がこの岩を割り、修行を終えるまで消えることはない。信じているぞ、我が弟子よ」
そして我が師匠は、その大きな背中を僕に見せつけるように小屋へと戻っていった。
そんな一幕の間に、僕の隣に来ていたキリトが話し掛けてきた。
「これで晴れて俺達は仲間だな!」
「なんて嫌な括りで仲間にされるんだ!」
囚人みたいなもんじゃないか!
「まあまあ、落ち着けって。一緒に体術スキルをマスターしようぜ!」
この野郎。すごいいい笑顔で言いやがった。
よほど僕を道連れに出来たことが嬉しかったらしい。
「ところで、今僕の顔ってどうなってるの?」
もし格好良かったら、別にこのまま山を下りてもいいかもしれない。
「うーん。例えるなら、マサイ族って感じかな……」
よーし!体術の修行頑張るぞ!
というか、頑張るしかなくなってしまった。
結局、僕が岩を割るのにかかった時間は三日だった。
キリトは、僕より一日早く割り終わり、僕の話し相手になってくれた。
今迄したゲームの話や、オススメの漫画の話。そして、リアルの生活の話も少しだけした。
この時にはもう、僕の中のモヤモヤは完全に消え去っていた。