僕とキリトとSAO   作:MUUK

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さあ、ラフコフ編も佳境に突入してまいりました。

できるだけ短く纏めようと努力しているのですが、何故か、どんどん話数が嵩んでいきます……。

プリーズギブミー文章力!


第六十一話「会議」

「…………という訳だ」

 

一頻り説明を終えたユウは、大きく息を洩らした。

それは、演説の緊張というより、長話の息切れに近かった。

ユウの眼前に悠然と構えるのは、三つのギルドのマスター達だ。

アインクラッド解放軍、シンカー、キバオウ。

聖龍連合、リンド。

そして血盟騎士団、ヒースクリフ。

催されたのは、いずれも攻略組トップギルドの団長のみが集まった会合だ。

サーヴァンツのギルドホームに用意された円卓を囲みながら、五人の長に沈鬱な空気が流れる。

厳かにユウの説明を聴いたのち、まず、紳士然とした騎士が口を開いた。

 

「状況は理解したよ。つまり君は、援軍の工面を要請している訳だね、ユウ君?」

「ああ、その通りだ」

 

目的を看破されていることに憮然となりながらも、ユウは素直に返答した。

ここでヒースクリフに応酬しても何の得もない。偏屈なプライドなど捨てて、可能な限り下手に出るのがティアのためだ。

その対応に気を良くしたのか、神聖剣は唇を薄く歪めた。

 

「いいだろう。私も出し惜しみはしない。我ら血盟騎士団の全てを君達サーヴァンツの援護に充てよう」

 

あまりにもあっさりと、ヒースクリフは全面支援の声明を出した。

それが拍子抜けに過ぎたのか、ユウは数秒の間、閉口し続けた。

咳払いをして居住まいを正し、謝辞を口にしようとした、その時。

 

「ちょお待ってんか、ヒースクリフはん」

 

橙色の髪を逆立たせた男から放たれたドスの効いた声が、増援の成立を妨げた。

 

「ちょ、ちょっと、キバオウ!」

「あんさんは黙っといてくれ、シンカーはん」

 

聡明そうな癖毛の男を、キバオウは片手で制した。

 

「ヒースクリフはん。アンタ、支援する言うけどもやな、そんな簡単こととちゃうやろ。命の取り合いやぞ?

アンタは、自分のギルドメンバーが心配とちゃうんか?」

「分かっているとも、キバオウ君。その上で私は発言しているんだ。

現在ラフィンコフィンと闘っている六人。キリト君、ライト君、ボルト君、アレックス君、ムッツリーニ君、リーベ君。

そして囚われているティア君。

これだけの人材を失えば、攻略にどれだけの支障が出るか、想像に難くないだろう。

我がギルドを危険に晒してまでも彼らを守るべきだと、そう判断したまでだ」

「ああ、それは分かっとる。けどな…………いや、すまんかった。ワイの言ったことは忘れてくれ」

 

歯切れ悪くそう言うと、キバオウは椅子から立ち上がった。

そそくさと踵を返しながら、再度、耳触りな金切声が発された。

 

「この件に関して、ワイら軍は一切関与せえへん。以上や」

 

異論を認めないと強調するかのように、キバオウはギルドホームの木製扉を乱暴に閉めた。

 

「え、ちょ、キバオウ!?

………っ! ああ、皆さんすいません! ちょっと彼を説得してきますので」

「ははは。ええ、宜しくお願いします。しかし貴方も大変ですね。ああいう手合の参謀職というのは。骨が折れるでしょう?」

 

成熟したウイスキーを思わせる声音で、ヒースクリフはシンカーへと、明朗に声を掛けた。

シンカーは起立の反動で腰掛けを軋ませながら、騎士団長の言葉に応じる。

 

「いえ、そんなことはありません。彼は彼で、明確な考えの元に行動していますから」

 

柔和な彼には珍しい断言だった。

シンカーの頬には、どこか誇らしげな笑みが朗々と浮かんでいる。

そして彼は、サーヴァンツのギルドホームを後にした。

 

「さて、アンタはどうなんだ、リンド? 協力してくれるのか?」

 

軍のリーダー二人を見送った後に、ユウは、この会議で唯一発言していない人物に確認を取った。

蒼髪の騎士は、難しい顔をしながら重い口を開ける。

 

「ああ、援助自体は構わない。だが、一つ条件がある。確認したいんだが、PK後のラフコフからのドロップ品はどういう扱いなんだ」

 

その発言に愕然とする。

ユウは、この男の強欲さに内心辟易とした。人殺しによって奪った物品で金儲けをしようなどと言い出すとは、まさか夢にも思っていなかったのだ。

だが、ここでそれを指摘してしまっては、聖龍連合の援助を得られない可能性がある。

不快感は表情には出さず、むしろ友好的な態度で応じた。

 

「サーヴァンツは必要無い。助けてさえ貰えれば十分だからな。

だからそこらへんは、血盟騎士団さんと話をつけてくれ」

「いや、私達も必要無い。汚れた金は、そちらで処理してくれたまえ」

「…………ふん、────清廉な騎士様は、宣う事が違いますね。その過剰な八方美人は是非見習わせて頂きたい」

 

二人の間に火花が奔る。

…………何はともあれ、これで援軍が出ることは決定した。

ユウは両マスターに頭を垂れながら、脳内で戦略図を描き始めた。

その瞬間。

 

「ああ、そうだ、ユウ君」

 

ヒースクリフの口が、開いた。

 

「ラフコフからのドロップ品は要らないと言ったが、決して、私は無償で動くとは言っていないよ」

 

その言葉は、予想の範疇だった。

ヒースクリフは出来た人間だが、聖人(バカ)ではない。

不当な立場には弾糾するし、取るべき利益はきっちりと取る。

そんな男だからこそ、仲間を死地へと派遣する事に、見返りを要求するのは当然だ。

感情を窺わせぬ声音で、ユウは早口に質問した。

 

「ああ、何が欲しい?」

 

神聖剣は笑顔を浮かべる。

それは、玩具で戯れる子供のように、底抜けに、愉しげに。

 

「ライト君だ」

 

 

「キバオウ!」

 

背後から自分を呼び止める声を認めて、キバオウは渋々と振り返った。そこには案の定、解放軍のリーダー、シンカーがキバオウを追う姿があった。

 

「ん、なんやシンカーはん。アンタもあの会議を抜けて来たんか」

 

そう言ったキバオウには、先ほどまでのユウ達に向けた刺々しさは感じられなかった。

シンカーは即座にかぶりを振って、単刀直入に切り出した。

 

「いや、何で急にギルドホームから出ていったのかと思ってね。キバオウの事だから、何か理由は有るんだろうけど」

 

信頼の篭ったシンカーの言葉。それに、橙髪のシミターは悲哀を見せた。

 

「……あのな、シンカーはん。こんなこと、今更言うのもどうかとは思うんやけど」

 

気の強い彼には珍しく、その後は口籠ってしまった。

 

「どうしたんだい?」

 

シンカーの、忖度するような声音。

それに覚悟を決したのか、キバオウは、シンカーをしっかりと見据えて言った。

 

「ワイは、軍の奴等をどうしても信じられへんねや」

 

唐突な告白。

シンカーは目を白黒させながら、驚嘆に裏返った声を上げる。

 

「ど、どういう事だい!?」

「あ、勘違いせんといてくれよ。あんさんは別や。シンカーはんはホンマに信頼出来ると思っとる。

けどな、ワイが言っとるのはそういう事や無いねん。

シンカーはん、ワイらの理念は何や?」

 

質問の意図が掴めず、シンカーはどもりながらも返答する。

 

「えぇーっと、そりゃ、平等と団結、だろ?」

「ああ、そうや、その通りや。

それはワイも素晴らしい考えやと思っとる。

けどな、今になって思うんや。ワイらは、来る者拒まず過ぎたんとちゃうやろか?」

「そ、それってつまり……」

 

キバオウは、どこか遠くを見つめながら、抑揚無く呟いた。

 

「ワイはな、軍にラフコフが混じってると踏んどる」

 

シンカーが浮かべた表情は、彼の衝撃をありありと示していた。

そんなこと、シンカーは一度だって考えはしなかったのだろう。

軍に入隊するからには、皆が皆、アインクラッドをクリアしたい、もしくは、それに準ずる信念をもっているのだと、シンカーは信じて疑わなかったに違いない。

だがキバオウから放たれたのは、彼の固定概念を根本から吹き飛ばす言葉だった。

そんなショックから立ち直れぬまま、シンカーは絞り出すように声を出した。

 

「そんな……じゃあさっき、援軍を送らない事にしたのって……」

「ああ、軍から援軍を送れば、逆にラフコフを援助する事になりかねんと思ったからや」

 

混濁した意識で、シンカーは必死に考えを巡らせる。

その結果得た着想は、あまりに絶望的な物だった。

 

「じゃ、じゃあ! その条件は、血盟騎士団や聖龍連合も同じじゃないのか!?」

「いや、同じでは無いやろ。アイツらは、ウチよりよっぽどギルメンを選定しとる。その点で言えば、ラフコフの介入する隙は小さい筈や」

 

シンカーは、得心いったように頷いてみせた。

なるほど、そう思えば確かに軍が出張るよりは幾らかマシに思える。

 

「……けど、その可能性が有るという点では同じじゃないのか?

なら、ヒースクリフさんやリンドさんにもその事を伝えておくべきだろ?」

「それは意味無いやろ。あの二人もバカやない。そのくらいは百も承知な筈や。

それにな、もしそんな可能性をアイツらが考慮してなかったとしよう。そしたらどうなると思う?

確実に援軍を足踏みして、今、ラフコフのアジトにおる六人はあっちゅーまに詰みや。

やからな、今は奴らを、血盟騎士団と聖龍連合を信じるしかないんねん」

 

そう言って、キバオウは転移門へと足取りを進める。

その背中には、憂いだけが残留していた。

 

 

────剣戟。

 

衝撃の余波は頬を刺し、散る火花は目を見張らせる。

静止とも加速ともつかぬ時。

剣速はあまりに疾く、凡ゆる時間を殺し征く。

 

「───セァッ!」

 

直剣が横薙ぎに揮われる。

それを刃先で軽々と受け止め、殺人鬼は反旗を翻す。

 

「ハッ────!」

 

覇気と狂気を兼ね備えた太刀筋は、あまりに尊く、あまりに悪辣。

だがしかし、決して単調とは言えぬ友切包丁(メイトチョッパー)の突きを、剣士は難無く受け流す。

そのまま勢いで背中側へと回り、キリトは刃を突き立てた。

刹那の間隙を経て、エリュシデータはPoHの背をを貫く───ッ!!

 

「うらァ────ッ!」

 

───筈だった。

響いたの金属音。

驚愕すべきはその動き。

PoHは、短刀回転技『タルナァータ』で身体を反転させ、技巧代替(スキルスイッチ)で、短刀単発技『ラピッドバイト』を発動し、必殺の一撃を防いでみせた。

スキルスイッチの発動タイミングは、スキル終了と技後硬直の間、コンマ01秒以下。

その一瞬に、PoHは、己が命を懸けたのだ。

 

「チッ──!」

 

必至を外した落胆からか、キリトは切り払いでPoHと距離をとる。

そうして、両者は拮抗を演じた。

虎視眈々と、付け入る隙を伺いながら。

そこで僕は、二人の闘いから目線を外し、辺りをキョロキョロと見回した。

それは、異常な光景だった。

この場のサーヴァンツとラフコフが一人残らず、手に汗握り観戦しているのだ。

誰もがみんな、二人の闘いに没頭し、周りが見えないでいる。

だが、このままでは何も解決しまい。戦争は、常に先手を取るべきだ。

僕は手近なラフコフメンバーに向かって、拳術スキル『封炎』を発動した。

 

「ぐはぁ───ッ!」

 

不意打ちは、いとも簡単に成功した。

僕が拳を放ったのとほぼ同時に、僕の体側から飛び出す影が有った。ボルトだ。

倒れる男に追い討ちをかけるように、ボルトがピックで、男の背中を突き刺した。

すると男は、ピクリとも動かなくなってしまった。針に麻痺毒でも仕込んでいたんだろうか。

 

「こんな感じで、ちょっとづつ頭数を減らしていくぞ」

 

そう言ったボルトの顔は、どこか満足げに見えた。

そんなボルトに、目を合わせながら深く頷く。

そうして、僕らは同時に駆け出した。

僕の突進に、いの一番に反応したのは、メイス使いの大柄な男だ。

そいつは、僕の行く手を阻むように、どっしりと構えている。

それに対し、僕は、敢えて愚直に突っ込んだ。

男の口角が上がる。

棍棒使いの殺人鬼は得物を大上段に振り上げ、メイス単発技『グラフィティ・グラビィティ』のモーションに入った。

男の武器は、一瞬間で僕の脳天を打ち砕く。

それは、回避不可能な確定事項。

身体にかかる慣性力は、生半な手では曲げられない。

それこそ、音の速さで横飛びでもしなければ、致命必至の一撃だ。

だがしかし。

音速など、僕にとっては遅過ぎる。

秒速三百四十の加速程度、三億の疾さで凌駕しよう。

この身は、光なのだから。

三寸。

たった九センチだけ、僕は身体を横にずらした。

それを可能とするのは、僕だけに許された特権(ユニークスキル)だ。

拳術スキル特殊技『神耀』。

この天空城で、他の誰もが使うことの叶わない、完全無欠の瞬間移動。

そのまま僕は、大男の顔面に全力の拳骨をブチかました───ッ!!




一人称で厨二語りってどうなんでしょう?

書いてる時は楽しいんですが、後で読み返すと恥ずかしくなってきますね!

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