僕とキリトとSAO   作:MUUK

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さあ、ラフィンコフィン編も中盤にさしかかってまいりました。
毎度毎度、ノリノリで書いております。いや、めちゃくちゃ楽しいです、ホント。

さあ、ガッツリ戦闘、第五十六話、開幕です!


第五十六話「血戦」

昏い洞窟に、鬱屈とした感情が伝播する。陰惨とも言える死の香りが、暗闇を暗黒に染めていく。

やにさがるPoH。その後ろには血色の薄いティアが、顔を苦悶に歪ませて寝息をたてる。

彼女に一瞥もくれず、獣は上体を落す。

踏み込みは、あまりに強烈かつ鮮烈だった。

ライトとPoH。彼我の差およそ二十メートル。

それを獣は、たったの一歩で凌駕した。

巧緻に洗練された最速の一手。

撃鉄の拳が、死神の腹に肉薄する────ッ!!

人肉を抉るゾブリという音。その代わりに響いたのは、耳を刺す金属音だった。

 

「グルアァッ!」

 

切り払うように拳を薙いで、獣は後ろに飛び退った。

雷速の打突を受け止めたのは、PoHの愛刀『友切包丁(メイトチョッパー)』だった。

魔剣クラスに該当するそれが持つ、高レアリティ故の耐久値。短刀の利点たる軽さ。使い手の技倆。それらの要因が事実上の鉄壁を成していた。

だが、友切包丁がアイアスならば、ライトの拳はロンギヌスだ。

今や、ライトのSTRは普段の数十倍にまで膨れ上がっている。獣の力が、ライトの筋力をシステム的上限にまで引き上げているのだ。

故に、現在のライトは筋力、俊敏共にアインクラッド最高のプレイヤーなのである。

その力を持って殴り続ければ、幾ら魔剣と言えど一溜まりもない。一分と持たずに粉砕するのは自明の理だ。

だが、忘れてはならない。この戦闘は決闘ではなく多対一なのだと。

PoHの取り巻きは五十人にも登る。

ライトが全方に殺気を振りまいているからこそこの安寧は成り立っているのだ。

だがしかし、PoHへの一点突破を敢行すればどうなるか。包丁を破壊する前に後ろを刺されるに決まってる。

然るにライトには、親玉への直接攻撃は叶わない。

ならば────

 

「ぐぁ───は────っ!」

 

────雑魚から狩れば良い。

偶々ライトの右側に居た、小柄なオレンジプレイヤー。塵を払うような雑な一撃で、彼の命は絶たれた。

 

「wow……コイツは予想外。一撃とは恐れ入ったぜ。チートが過ぎるな」

 

PoHの眼光が、楽しみから愉しみへとすり替わった。

狂った意識は刃物の如く。

殺人狂は、獲物が心を穿つのみを嗜好し思考する。

 

「テメェら、全員特攻(ブッコミ)やがれ!」

 

結果、それしか無いと判断した。

最も原始的かつ有効な作戦。人海戦術だ。

ただし、自分は突っ込まない。

自分が切りかかったところで返り討ちに逢うのは目に見えている。

ならば最後の最後。とどめだけをかっ攫おう。

幕下の戦闘には傍観を決め込むだけ。

正気は無くとも理性は保持する。それが、PoHという男の在り方だった。

殺人鬼達の肉の壁が出来上がる。

群がる有象無象は、津波にも似て凶悪だ。

その壁に、砲弾が撃ち込まれた。

ライトより放たれた計六発の打突。

それにより、三人分のポリゴン塊が形成される。

だが、圧倒的な人数差の前では、三人程度の死亡など意味を成さない。

 

「うぉらあっ!」

 

背後からハンマーの一撃が、ライトの背骨を打ち付ける。

完璧なクリーンヒット。

獣の体力は三割の損失を許した。

だが玄翁を握るその男も、振り向きざまの鉤爪でこの世を去った。

 

「オイオイ……もう五人だぜ。流石に笑えねぇわ。オレの部下をけちょんけちょんにしてくれちゃってよぉ」

 

そう言いながらもPoHは笑みを絶やさない。

その笑いは、野生の獣というよりも、むしろ清濁併せ持つ人間のモノだ。

まるで、難易度を最大にしてゲームを嗜むゲーマーのような。

 

「なぁヘッド〜。コイツ相当ヤベェって。下手すりゃ、オレたち全滅させられちまうんじゃねぇの?」

 

薄汚れた頭陀袋を目深に被った男が、全滅という言葉にそぐわぬ声調を発した。

顔にはベタついた笑みを浮かべ、この状況を愉しんでいるようにさえ見える。

それに応えたのはPoHではなく、全身を朱く染めたフードマントの男だ。

 

「心配、するな。五十対、一だ。いずれガタ、がくる」

「つってもザザっちよぉ。もう全体の一割だぜ?ちょっと紙耐久過ぎんよ〜、ザコ共」

「バカが。よく、見ろ。奴らの防御力、が低いんじゃなく、ライト、の攻撃力が、高い、んだ」

「いや、分かってるわ、ンなコト。ジョークよジョーク。お前、そーゆートコ堅えよなぁ」

「無駄話はそこらへんにしとけ、Xaxa、Johnny 。今のうちにアイツの動きを良く見とくんだ」

「あーなるほね。そういう腹だった訳か。ヘッドってば策士ぃ〜」

「まあ尤も、観察するだけでアレの動きに対応出来るかは分かんねえけどな」

「そうだ、な。あの男は、規格外すぎ、る」

「なあ、どうだ。アレの対処法、オレ達にご教授いただけねぇもんかなぁ、ボルト?」

 

PoHに呼びかけられ、石壁に凭れていたボルトは、ビクリと身体を震わせた。

 

「知らねえよ……。あんなの見たことも聞いたことも無え。なあ、PoH。アンタ、何か知ってんだろ?教えてくれよ……」

「さあ、何なんだろうな、ありゃ。まあ少なくとも、アレが産まれる過程くらいは知ってるぜ?

ただ、何故ボルトがああなってるのかは知らねぇ」

 

明確な答えの得られなかったボルトは顔を伏せ、歯をギリリと鳴らした。

 

「グルルルゥウ──ッ!」

 

低く喉を鳴らし、獣は再度疾駆する。

大きく両腕を広げる様子は、鰐の顎にも似ている。

その腕で抱擁するように、二人の男を捉えた。禍々しく唸る指先が、両側の男の胸に抉り込む。

だが、一撃で体力が全損したのは一人だけだ。もう一人の重装兵(タンク)は、大きな図体に似合わず即座に攻撃へと転じた。

 

「ハアァッ!」

 

メイスが風を切って揮われる。

カウンターは、吸い込まれるように急所へと至る。

果たして────後頭部への痛打は、カァンという()()()を響かせた。

 

「な────っ!?」

 

大男から驚愕が漏れた。

それは誰を持ってしても順当な反応だろう。

何故ならば、先程まで存在しなかった筈のヘルメットが、ライトの頭全体を覆っているのだから。

それだけではない。

腕が、脚が、胴体が、身体の部位という部位が暗黒の鎧で包まれているのだ。

 

「グルウゥオオォォオォ──────ッ!」

 

一際高い凶音。

聴く者須くに地獄を幻想させる断首の呪音。

 

「ははは!これが、『鎧』か────ッ!!」

 

殺人鬼のボスは高らかに、謳うように笑いつける。

彼の云う『鎧』の存在が、あまりに可笑しいとでも言いたげに。

この結末を、知っていたとでも言うように────

 

「It show time!」

 

傍観者だった男は、一足飛びに走り出した。

人混みを掻き分け、一瞬で鎧の腹中へと入り込む。

短刀スキル『煉獄』。

友愛すらも切り裂く断裁の刃は、だがしかし、鎧の前には玩具(ガラクタ)と大差無い。

研ぎ澄まされた刃は、暗黒の鎧にいとも容易く跳ね返された。

 

「チッ!」

 

不利と見て判断をバックステップに切り替える。

隙とも言えない一瞬の間。

その時間を鎧の獣は見逃さなかった。

 

「グルウゥッ!」

 

追撃するように腕を伸ばす。

最速の身体は、アインクラッドの狂気の元凶に手をかけた────!

刹那。

PoHの容貌が、グニャリと歪んだ。

 

「ハッ!」

 

揮われたのは友切包丁。

だがしかし、その相手はライトではなかった。

凶刃が捉えたのは、側にいた彼の仲間である筈の小柄な殺人者だった。

 

「え────?」

 

その男には、状況が理解出来なかったのだろう。

彼の腹には、深々と漆黒の腕が突き刺さっている。

確かに、ボスと鎧の戦闘場所に近いところに彼は立っていた。

だが、近いだけだ。決して、攻撃を受ける間合いに立ち入ってなどいなかった。

なのに、何故彼は腹部を穿たれているのか。

違和感を感じて肩を見る。

そこには、下着の布に引っ掛けられた鋭利な肉切り包丁があった。

そう。とどのつまり、彼は魔剣たる包丁に引っ張られ、無理矢理ライトの攻撃軌道上に立たされたのである。

 

「あ───ぁ──!?」

 

減り続ける自分の体力に目もくれず、彼は己がボスを見た。

そこに在ったPoHの表情は、労うような笑顔に覆われていた。

ああ、そうか。自分は、あの人の役に立てたんだ。

そんな想いを死の暇に遺し、彼の身体は硝子のように砕け散った。

 

────そのポリゴン片ごと、PoHは鎧の合間を的確に突き刺した。

 

「ハッハァ───ッ!」

 

『鎧』との殺し合い(たたかい)そのものが至福であるかのように、殺人鬼は愉しげな嬌声を上げる。

間隙を縫って放たれた一撃は、ライトの鳩尾を易易と貫く。

あまりに的確な急所への刃。

それは、今のライトを持ってしても体力を五割を喪失させるほどの威力を保持していた。

 

「グルゥアァアアァァァ────ッ!!」

 

咆哮。

掠れた声で放たれたそれは、断末魔の悲鳴にも聴こえた。

 

「よし、奴の体力もあと二割だ!テメェら、殺す気でぶっ殺せ!」

 

殺人集団に鬨の声が谺する。

命を奪う快楽を。

絶望が鳴らす福音を。

殺害を独占する享楽を。

我先にと求め欲する亡者の群は、己が得物を鎧に向ける。

四方八方からの一斉攻撃。

もう逃場など何処にも無い。

二割しか残りの無い体力では、鎧の上から削り殺されるのが目に見える。

終結か。

誰もがそう思った、次の瞬間────

ライトの姿は陽炎のように消え去った。

 

「────っ!?」

 

ラフィンコフィンの団員達は、何が起こったのか理解することも叶わなかった。

ただ分かるのは、ライトの身体が一瞬にして消失したこと。

 

「グルルゥゥ……」

 

唸りが響いたのは背後から。

それは正に、瞬間移動。

拳術スキル『神耀』。次元を超越した最速の妙技。

そうして、暗黒の鎧は一気に反撃へと転ずる────

 

「ニシシッ!」

 

その直前、ライトの耳元で死神の笑声が響いた。

ガスッ────スカッ──。

首に冷たいナニカが徹る。

弾け飛んだのは血潮か理性か。

当てがわれた毒ナイフは鎧を潜り抜け、ライトの首筋を引っ掻いた。

 

「どーよ、俺っちの暗殺術!

ほーら、グングンHP減ってってるぜ!

怖い?怖い?あ、いや、怖くは無いか。だって獣だもんね、アンタ」

 

屈託の無い声音で、ジョニー・ブラックは煽り立てる。

体力ゲージの横には、見慣れた雷マーク。麻痺のバットエフェクトだ。

 

「やっぱヘッドの言った通りだったな!

『奴は体力回復の為に、必ず後ろに下がる』って。ホント、間抜けだぜ。オレの忍び足(スニーキング)にも気づかないなんてさ!」

「よくやった、ジョニー。お前の暗殺能力は世界一だぜ」

 

コツリコツリ。

岩窟に響くブーツの跫音。

近づく足音は死神の吐息。

魔剣が、至福に悶えるように光沢した。

振り下ろされた肉切り包丁が、ライトの腹部を引き裂く。

ダメ押しとばかりに、ぐっぐっと押し込まれる。

迸る真紅のライトエフェクト。

鮮血の色をした命の残量は、駆け抜けるような勢いで減少し、そして────零に成った。

瞬間。

ライトの肢体は、朧げな反響音と共に千々に散った。




Bad End…………?

さて、続きが気になるところかと思いますが、ここで一つお知らせがあります。

期 末 テ ス トです!

という訳で、三週間ほど携帯&パソコンを封印致します。
こんどホントのホントに封印します。ホントだってば!


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