僕とキリトとSAO   作:MUUK

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今回はちょっと難産でした。
そしてちょっと短目です。
いや、こういうのって色々難しいですね。



第五十五話「ごめんなさい」

『あーテステス。これで撮れてる?OK?

よし、じゃあ行こう。

やあやあ、ご機嫌麗しゅうサーヴァンツの少年少女達。

アンタらの周りは、ゲロ吐いたみてぇな腐った空気感になってると思うが、如何お過ごしかな?

それはそうと、オレの名前は知ってるかい?

おおっと、解らないか。

じゃあクイズだ。オレの名前はどれでしょう?

①プー

②PoH

③ぷう

さあ、①から③の中で一つ選んでくれたまえ。

え?全部プーじゃないかって?

おいおい、手厳しいツッコミだな。大正解だ。

オレの名はPoH。新進気鋭のベンチャー社長だ。

まあ、そんなクソみたいに笑えねぇ冗談は、キミ達の口の中にでも突っ込んでおくとして。

またまたクイズです。これは誰の声でしょう?

「あ──ぁ──かぁ────っ!!」

wow!お前ら容赦無えな。ユウ!私を助けて!的なこと喋らせろつったろ。なに腹パンで喘がせてんだ。

まあ、そういう訳だから、愛しのユウ君は精々頑張ってprincess『Tear』を助けてくれたまえ。

ティアは人質に取られ、ボルトは寝返り、キリトは帰ってきていない。

大変だなあ。実に大変だ。心中お察しするってヤツだな、うん。

ああ、ちなみに、これはボルトからの報告なんだが

────キリトは始末したんだと。

ボルトも容赦ねえよな、全く。昨日まで同じ釜の飯食ってた仲間をそんな簡単に()っちまうなんてよ。ギルドマスターとして涙が出るぜ、いやホント。

まあ、そんなことはどうでもいいか。

人食祭(カーニバル)の開催地は三十五層、西の洞窟だ。

神への◼︎◼︎◼︎◼︎を済ませてから、至急来られたし。

そんなら、Bye bye、adios、また会う日まで!』

 

そこで、記録された音声は途切れた。

そして僕は────窓を蹴り破り、全力で駆け出していた。

 

「おい、ちょっと待てライト!まだ再生が終わってない!」

 

ユウの制止は、風切り音に紛れて消えた。

いや、そもそもだ。

ここでティアを助けに走らない意味が解らない。

最も激昂すべきはユウの筈だろう。

最もティアが望んでいるのは、ユウの助けだろう?

ならなぜ、アイツはあんなにも冷静なのか。

ふざけるな、バカ野郎。

記録された音声なんかチンタラ聞いてる暇があったら、一刻も早くティアを助けに行けよ!

それにキリトだって、ボルトに殺されたかも────

いや、そんな筈ない!

キリトに限って、ボルトに負けるなんて、そんなことって……。

僕はキリトを信じてる。

キリトの強さを、しぶとさを心の底から信じてる!

だから、キリトが死んだなんて、そんなことある筈ない!

ないんだけど────心中の不安は拭えない。

幾ら否定しても、可能性だけは消え去らない。

きっとこれは、キリトが目の前に現れてくれないと消えない類のモヤモヤだ。

だから今は、ティアに全力を尽くす。今ならまだ助けられるティアに、僕は本気で食らいつく。

一心不乱に走っていると、ものの数分で転移門が見えてきた。

あそこに飛び込み、三十五層を選択する。そこから西の洞窟まで走り抜け、ティアを攫って逃げ帰る。

これが最善にして最速の策だろう。

手段なんて選んでられない。

全身全霊、全力を賭して殺人鬼共からティアを奪い返してみせる!

 

「転移、ハルニヤ!」

 

瞬間、僕の身体は三十三層へと飛ばされた。

 

そして目の前に──────

 

「アレックス……何でここに?」

 

アレックスが居た。

 

「転移結晶です」

 

アレックスは淡白に言った。

漠然とした不気味が過る。

手段でなく理由を問うたのだが、アレックスにはそれが伝わらなかったらしい。

だが、状況から然るにティアを助けに来たのだろう。

そうと決まれば善は急げだ。

ああ、頼もしい助力を得られた。

 

「よし、じゃあ行こうか、アレックス」

 

そう言って歩き出した僕の腕を、アレックスはきつく握った。

実際には振りほどくのも容易いソレが、僕には鮫牙が如き鋭利さに幻視()えた。

 

「何してるの、アレックス。離してよ」

「ねえ、ライトさん。私は助力に来たんじゃなくて、貴方を止めに来たんです」

 

意味が、解らない。

 

「冗談は止してよ。ほら、早くティアを助けに行かなきゃ……」

「冗談は貴方です。このまま行ったら犬死にですよ。そんな損得勘定も出来ない人ではないでしょう、貴方は」

 

意味が、解らない。

 

「じゃあ、何?アレックスはティアを助けに行かないの?このままだと、ティアは死んじゃうかもしれないんだよ?」

「ユウさんが今、作戦を練っています。せめてそれを待ちましょう、ね?」

 

意味ガ、解ラナイ。

 

「そんなのを待ってて、もしティアが殺されたらどうするんだよ!ふざけんな!

僕の能力ならティアを連れて逃げられる。だから僕一人で行く。

だから、アレックスは帰ってろ!

邪魔すんな、バカ野郎!」

 

アレックスは怯えたように瞳を伏せた。

罪悪感は少し芽生えた。だけど、それは怒りで塗りつぶされた。

アレックスは、唇をわななかせながらも言葉を発した。

 

「お、落ち着いて下さい、ライトさん」

「黙れ────ッ!!

何で落ち着かなきゃならないんだ!

そもそも、何で君は落ち着いてられるんだ!

ティアが命の危険に晒されているんだぞ!?

現在進行形で体力が減ってるかもしれないんだぞ!

それでも君は、僕を止めるって云うのかよ!?」

 

ああ、頭が割れルように痛イ。

自分ガ何を言っていルノか、解ラナイ。

 

「私だって、ティアさんの事が心配です……。けど……」

「けど、何?ホントに心配なら、けど、何て言葉は出ない筈だろ?

じゃあ、あれか。アレックスには、仲間より大切な物が有るって事?」

 

アレックスは息を飲んだ。

そして、オレの目を見た。

強い、眼差しだった。

 

「ええ、あります。私には、ティアさんの命より大切な物が、絶対に譲れない物が、たった一つだけ、あります」

 

ア───ゥア──────。

 

「そうか。分かった。そういう事か。

なら、もういい。

ああ、そうだよな。命を賭けるなんて間違ってる。だって、ゲームのフレンドでしかないんだもんな。

これはただのゲームで、僕らは遊び仲間でしかなかったんだね。

つまりは、僕らはその程度の間柄だったって事だ。

君にそんな事、期待するのが間違ってたんだ。

つまりは────アレックスにとって、僕らは仲間でも何でも無いってことなんだろ!!」

 

アレックスは、手を振り上げた。

言ってから気づく。この言葉は、アレックスに対する最大の暴言だったのだと。

何故、僕はこんな言葉を口走ったんだ。アレックスは、僕らの大切な仲間に決まってる。なのに、何で……。

切られた火蓋は燃え盛るだけ。覆水は盆に返らない。

アレックスの掌は、刻一刻と僕の頬に近接する。

何のスキルもかかっていない通常攻撃。こんな拳なら、回避も反撃も容易い。

だけど、しない。するべきじゃない。

甘んじて受けよう。

それが僕の贖罪だ。

例えそれが、幾らの足しにもならなくたって、アレックスには僕をぶつ権利がある。

そして謝ろう。また同じ時を笑いあえる、気の置けない『仲間』に戻ろう。

 

──────手が、止まった。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。私、ライトさんに手を上げようとして……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

嗚咽を咬み殺し、右手を震わせながら、アレックスは謝罪をし続ける。

訪れるべき衝撃は当惑へと変容する。

懺悔の時など訪れない。

あるのは、己が罪科への拭えぬ後悔と、それを募らせるアレックスの謝罪だけ。

 

そして、唐突に何かが切れた────

 

女ハ謝ル。

タダタダ謝ル。

謝ルベキハ此方ノ筈。

ハテ。本当ニソウカ?

女ハ此レ程謝ッテ居ルノダ。

ナラバ謝ルベキハ女ノ方ニ成ルベキダ。

ソウダ。ソウニ違イ無イ。

ソウイエバ、何カ目的ガ有ッタヨウナ。

思イ出セナイ。キット、瑣末事ダロウ。

ソンナ事ハドウデモ良イ。

壊シタイ。

何デモ良イ。早ク何カヲ壊シタイ。

ナラバ手始メニ、コノ女ヲ壊ソウカ。

此レ程オレニ謝ル女ダ。ナラバ、壊サレド文句モ云エヌダロウ。

アゝ、コノ女ハ死ノ暇ニ、ドンナ輝キヲ散ラスダロウ。

コノ女ガ罪悪ノ果テニ滴ル蜜ハ、至極ノ甘露ニ違イ無イ。

ソウシテオレハ、ソット────

 

駄目だ────ッッ!!

 

ドウヤラ、コノ女ヲ壊シテハ駄目ラシイ。

オレノ裡ニ響ク声ガ云ウノダ。キット、ソノ通リナノダロウ。

ナラバ何ヲ壊ソウ。

アゝ、ソウダ。

西ノ洞窟ニ向エバ、幾ラデモ壊シテ良イノデハナカッタカ?

ナラバ行コウ。身体ガ滾ッテ止マヌノダ。

脚ガ動カヌ。

見ルト、女ガ脚ニシガミツイテ居ルデハナイカ。

邪魔ダト思イ蹴リ飛バス。

女ノ華奢ナ身体ハ綿ノヨウニ、コロコロト転ガッタ。

ソシテ、オレハ走リ出ス。

背後ニハ、耳馴染ミノアル女ノ声。

狂オシイ慟哭。

 

嘆きの音色(なみだ)は、後ろ髪を引くようで──────

 

 

「おおっと、コイツは予想外!最初のゲストは、まさかまさかのライト君だったか!

まあ、取り敢えずはcongratulationだ。良く来たな、バカ野郎」

 

軽薄な声が岩窟を響かせる。

殺人鬼達の顔役は、たった今、岩屋に達した一人の拳士に賛辞と興味を内包した笑みを傾ける。

 

「しっかし、その姿はつまりそういう事なんだよな?

いや、この声すらもう届いていないのか?」

 

ライトは何も語らない。

 

「はは!楽しいねぇ!

Hey,beast!すっかりシンイにキマっちまったかい?」

 

PoHは、姿と云ったがそれは些か不適当だろう。

何故ならば、ライトの姿は平生と何ら変わりないのだ。

ただ、彼の身からドス黒い瘴気が混混と湧出しているだけなのだから。

 

「グルガアアァァオオォ────ッッ!!」

 

破滅的な叫びが、空を、人を、岩を、その一ドットに至るまでを震わせる。

そして、PoHの顔が狂喜に歪んだ。




恐怖!野獣と化したライ……ゲフンゲフン。

冗談は置いておいて、PoHの喋り方って、こんなんで良いんですかね?
原作だと、もうちょいテンション低いかなって感じがするんですが、僕が殺人鬼のイってるキャラを描いたらこんなんになっちゃったんです。

PoHのキャラはこんなんじゃねえ!
というご指摘が有れば書き直す所存ですので遠慮無くどうぞ。

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