僕とキリトとSAO   作:MUUK

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ところで、前回のあとがきですが、お前何様だよ的ツッコミを期待していた筆者でした。どうでもいいですね!


第四十八話「ユニークスキル」

それは、二人きりのレベリングを始めて、三日目の事だった。

 

「あ、体術スキルがカンストした」

 

あまりに軽いライトの言葉。

それを聞いただけでは、『カンスト』という言葉はまるで日常の一コマであるかのように錯覚してしまう。

だがしかし、それは紛れも無く大事件だった。

何故ならば、何かのスキルの熟練度が千に達したという事柄は、アインクラッド全域を見ても未確認の事象だからだ。

つまりは、もしカンストしたというセリフが真実なら、ライトはアインクラッド初の快挙を成し遂げた事になる。

 

「ええっ!?ホント?ちょ、ステ画面見せなさいよ!」

 

思わす取り乱し、本来タブーである筈の他人のステータス画面を覗き見るという行為を犯してしまう。

だが、そんな事に構っていられるほど今のアタシは悠長でない。

そこには、スキル熟練度を示す紅いバーが、ゲージの右端まで達している光景があった。

つまりこの瞬間、ライトはアインクラッド史上初にして唯一の、スキルマスターとなったのである。

なのに……

 

「なんでアンタそんなに冷静なのよ?」

 

当のライトは、涼しい顔で自らのステータスを閲覧している。

 

「え、いや、だって、僕はステータス画面を見れるから、もうそろそろマスターするなっていうのも分かってたし」

「あ!そういえばそうじゃない!じゃあ、もうちょっとでマスターするってアナウンスしときなさいよ!めちゃくちゃ驚いちゃったじゃない!」

 

考えてみれば当然だ。事前に把握しているならば、凡ゆる事は驚嘆に値しない。

 

「というか、これ言いふらしたら、一躍有名人になるわよね?それはそれで面白そう」

「そんな事する気は無いよ……って、ええ!?何だこれ?」

 

突如としてライトの口から、明らかな驚愕が洩れた。

 

「なになに?どうしたの?」

 

あまり期待せずに聞き返す。

スキル熟練度のマスターを超える事件など、なかなかどうして起ころう筈も無いからだ。

だがしかし、ライトが発した次なる言葉は、予想の遥か斜め上を飛んでいた。

 

「スキル欄に、エクストラスキルが出てる……」

「えええっ!?」

 

正に青天の霹靂だった。

現在、アインクラッドで発見されているエクストラスキルは、片手で数えられるほどしかない。

ライトのメインアームである体術スキルもその一つだ。

そして、そのどれもがクエストクリア時の報酬という条件なのだ。

スキル熟練度の達成具合で新スキルが出現するなど、アタシどころかムッツリーニやアルゴすらも知り得ない情報の筈だ。

強烈に関心誘うその現象に、喉から手を出すが如く詰問する。

 

「で、どんなスキルなのよ?」

「えーっと……名前は『拳術』スキル、だってさ」

「ふうん、やっぱり体術の派生っぽい名前なのね」

 

平凡な感想を口にして、更なる情報をじっと待つ。

だが、程なくして与えられたモノに、アタシには拍子抜けの一言しかなかった。

 

「使える技は、今のところ一つだけだね。『封炎』。技の動きは、ただの正拳突きかな」

「え?それだけ?」

「うん。それだけ」

 

何と言った物か。返す言葉が見当たらなかった。

はっきり言おう。ショボイ。

ここまで期待させておいて、普通のパンチでは、ちょっと情けない。

恐らくこれから、熟練度が上がるにつれ技も増えていくのだろうが、その第一歩がこれでは心もとないにもほどがある。

そんなアタシの思考を遮るように、ライトは新たな発見を提示した。

 

「モーション時間は……0.2秒か。早いな。威力は……120!?」

「120か……体術にしては高いわね」

 

120と言えば、片手直剣の初期単発技ほどの威力だ。体術だけで叩き出す数値としては、相当に高い数値なのだろう。

まあ、そのぐらいの特典はあってしかるべきだと思う。そうじゃないと、スキルマスターになった意味がなさすぎる。

だが、当のライトの熱感は、傍観するアタシよりも劇的に高い物だった。

 

「高いなんてもんじゃないよ!体術スキルの最上級技と同程度だ。それに、予備動作に要する時間が極端に短い。たぶん、舟撃や閃打と交互に使えば、無限コンボも可能なくらいにね」

「でも、攻撃中に相手から反撃を受ければコンボは途切れるんでしょ?」

「うっ……まあ、それはそうなんだけど……」

 

図星だったらしく、ライトはむぅ、という唸り声を発した後、消沈したように俯いた。

そんな姿に、庇護欲と嗜虐心と罪悪感が同時に擽られる。

が、そんな感情を蹴り飛ばし、好奇心に従った提案を示す。

 

「何はともあれ、一回使ってみたらどうかしら?『封炎』なんて、厳めしい名前してるんだし、もしかしたら炎のエフェクトとか出るかもしれないわよ?」

 

冗談交じりのアタシの言葉を、ライトは真に受けたようで、

 

「炎か。出るかもしれないね」

 

なんて同意を返した。

いや。SAO内には魔法が無いのだから、エフェクトでもなんでも炎なんて出る筈が無いのだけど……。これまで、攻撃エフェクトで炎や雷が出た話なんて、聞いたことが無いし。

少々純真過ぎるきらいがあるライトのセリフに胸を和ませながら、『封炎』スキルが発動するのをじっと待つ。

その期待が伝播したのか、ライトは一層、メニューを操作する指の動きを鋭くさせる。

スキルのセットが完了したライトは、虚空をひしと睥睨した。

腕を腰上まで上げる。拳を万力が如く絞め上げる。

刹那。

光速と紛うほどの打突が、ライトの洗練された拳より放たれた。

炎のエフェクトこそ発生しなかったものの、烈火を想起させる一撃であったことは間違いない。

気がつくと、アタシはライトに賞賛の拍手を送っていた。

 

「うん。何か、カッコ良かったわよ。ホントに」

「…………うん」

 

返答は、そんなつまらない物だった。

そう言ったっきり、ライトは自らの右腕を一心に見つめている。

そんな反応を怪訝に思い、視線を落とすライトへと、覗き込むように近づいた。

するとライトは、肩を震わせ、数歩後ずさりながら言った。

 

「……え、あ、そうだ。狩りを再開しなくちゃね!行こう、優子」

「……ああ……うん」

 

結局アタシは、この時感じた疑問を、これ以上追求しようとはしなかった。

 

 

ある日の昼食後、僕の淹れたコーヒーを、キリトと二人で啜っている時だった。

僕は、無性に甘いものが欲しくなり、何か作ろうか、とキリトへ提案しようとした。

その直前。

開かれたのは、キリトの口だった。

 

「……あのさ、ライト」

 

その声音は硬く、何かに怯えているようにも聞こえた。

 

「うん?何?」

 

出来るだけ柔和に応えた。

キリトはほんの少し表情を緩め、再度、言を紡ぐ。

 

「俺が最近、何をしてるか知ってるか?」

 

キリトの真意を計りかね、不必要に押し黙ってしまう。

掛け時計の針音が、台所を支配する。

沈黙に響く機械音は、キリトの緊張を殊更煽っているように感じた。

それがまずく思い、焦るように応答する。

 

「ううん。知らないよ。それがどうかしたの?」

 

無自覚にも早口になってしまう。

キリトは眉根を顰め、唾を嚥下する。

ごくり、という音が普段の数倍よく聞こえた。

 

「実は、さ。俺は今、他のギルドと一緒に行動してるんだ」

「……え、それってどういう……」

「違うぞ!このサーヴァンツを抜けるとか、そういう事じゃなくて、言いたい事はむしろ逆というか……」

 

繕うようなキリトの言葉。

だが、そんなもので安心出来る筈もなく、語勢を強くし問いただす。

 

「じゃあ、なんで違うギルドに所属してるんだよ?」

「いや、違う!所属してるんじゃなくて、一緒に行動してるだけだ!」

 

焦燥に駆られた強い否定が、キリトの口から放たれる。

その迫力のダムに、次なる言葉は堰き止められた。

たじろぐ僕を見て吐息を漏らし、キリトは説明を開始した。

 

「事の発端をかいつまんで説明すると、レベリング中にそのギルドと遭遇したんだ」

「うん。それで?」

「で、まあ流れで一緒にレベル上げをする事になったって感じかな」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」

 

サッパリに、とはいかないが一先ず納得する。そのギルドとは、行きずりに近い関係な訳だ。

だが、そうなると次なる疑問が湧くのが道理だ。それは即ち、何故そんな話題を出したのか、という事だ。

 

「で、それがどうしたの?」

 

僕の簡素な問いに、キリトは待ってましたと言わんばかりの容貌をみせた。

 

「ああ。こっからが本題なんだが……」

 

しかし、そこまで言って歯切れが途端に悪くなる。

急激に曇るキリトの表情を見て、やっと最初の反応に合点がいった。

つまり、今から話されるであろう話題が、キリトにとっては言い難いことなのだ。

キリトは視線を泳がせる。

そんな状態で続きをせぐほどせっかちでもないので、コーヒーを啜りながら気長に待つ。

ぼんやり気を緩ませていると、出し抜けにキリトから本題の内容が語られた。

 

「そいつらをさ、このギルドに入れてやれないかな……?そりゃあ、俺達に比べればまだまだレベルは低いし……けど、そこらへんは俺がなんとかする!だから────」

「うん。いいよ」

 

賛同の意で、いきり立つキリトを遮った。

そんな反応が意外だったのか、キリトは目を見開き、眉を浮かせる。

 

「僕は賛成する。キリトがそこまで言う人達なんだ。きっと、いい人達に違いないよ」

 

キリトの面が、驚嘆から笑顔へと変移した。

 

「やっぱり、ライトは優しいな」

 

ポツリ、と染み入るように呟くキリト。

 

「そうかな?僕としては、本心をそのまま言ってるだけなんだけど……」

「ああ、わかってる。だから優しいんだよ、お前は」

 

キリトの心中を読み切れず、僕は首を捻った。

そんな僕を見て、キリトはふふ、と笑みを零す。それがバカにされてるようで、少々憮然としてしまった。

 

「んじゃ、頼むぜ相棒。まあ、色々とな」

「うん。それはいいんだけど、その人達って、なんて名前なの?」

 

これから仲間になるのだ。名前くらいは知っておきたい。

 

「ああ、それは言っておかなくちゃな。そいつらの今のギルド名は────」

 

 

真夜中のレベリングが始まって、ちょうど一週間が経った。

辺りには翡翠色の無機質なブロックが所狭しと並んでいる。

荘厳な景色に見惚れるアタシを尻目に、ライトはシステムウィンドウと睨めっこ中だ。

突如、甲高い警告音と真紅のマーカーが、そのメニューから発せられる。

 

「この部屋はダメだね。他をあたろう」

 

それが索敵スキルの結果、ライトが下した決断だった。

そうしてアタシ達は、最前線から三つも下の迷宮区を練り歩く。

この層は、時間対コルの効率が良く、踏破率も低いので未開封の宝箱が眠っている可能性が高いのだ。

何故ここまでアタシ達が利益に固執しているかと言うと、それはキリトの誕生日プレゼントを買う為なのである。

来たる十月七日。

サプライズバースデーパーティーを開催する為に欲しい予算は、あと十万コルといったところだ。

最も手っ取り早いのは宝箱の発見なのだが、ここに一つ問題がある。この層、モンスタートラップが異常に多いのだ。

まあ、そんな訳でアタシ達は、索敵しながら宝の探索を続けているのである。

ちらりとライトを盗み見る。スキル画面を見つめる眼差しは真剣そのものだ。

ぐっと引き締められた厳めしい顔。普段の穏健さとのギャップもあいまって、口元が綻ぶほど愛らしく感じてしまう。

そんなおり、視界の端に珍しい物が映った。夜中の狩り中には初めての、プレイヤーの姿である。

数人のグループが、楽しげに談笑しながらアタシ達が来た道を逍遥している。

珍しい事もあるものだ、と思っていると、その集団に動きが見られた。

何かを見つけたのか、ライトが先程索敵した小部屋へと入って────

 

「あっ!!」

「へ?なに?どうしたの?」

「ライト!あれ見て!」

「な!?マズい!」

 

瞬間。

ライトは疾風となって走り出した。

同時に大声を上げる。

 

「おーい!!そこの人達、その部屋に入っちゃダメだ!」

 

チームの一人の男がこちらに振り返った。ライトの警告に気づいたのだと安堵しかけた────その時。

その男の、やにさがる様子が目に入った。

マズい!本当にマズい!

きっとあの人、アタシ達が宝を横取りしようとしてるんだと勘違いしてるんだ!

 

「待つんだ!その部屋にはトラップが……」

 

健闘虚しく、重い石扉がライトの忠告をつきはねた。




お察しの通り、あの方々です。
出番を楽しみにしていた方も多いのではないでしょうか?

てな訳で、次回に続きます。

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