僕とキリトとSAO   作:MUUK

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おひさです。MUUKです。
暑い日が続く今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
僕?僕はですね、明々後日に期末テストを控えております。なんなんでしょうね、テストって。
一体、この世にテストは必要なのでしょうか。テストの為に詰めた知識に、幾ばくの意味があるのでしょう。
取り敢えず、言いたい事を簡潔に述べるとするならば、やっべぇ、だりぃ。


第四十話「同盟」

全員が、沈黙していた。

深い井戸に放り込まれたような静寂が、ギルドホームのリビングを包んでいる。

二人だけが驚愕し、他七人が状況を飲み込めずにいた。

そりゃそうだろう。キリトとクラインの二人が驚愕の声を上げて、それっきり両者向かい合って黙り込んだままなのだ。

二人がどういう関係なのかを知らない僕やアレックス、そして恐らく風林火山のメンバーにとっては、この状況を理解出来よう筈もない。

クラインとキリト。赤と黒。剣士と武士。

向かい合った視線の間に、幾つもの感情が去来し、交錯し、錯綜し、消えていく。

見つめあい、そしてキリトは、そっと、目を伏せた。

ダークブラウンの虹彩に翳りが差す。

クラインは、少し目を見開き、今までに見た中で──今まで、と言っても数時間程度の間柄だが──最も険しい顔をした。ぐっと、眉間に皺を寄せていた。

だがクラインが睨んでいるものは、キリトではなかった。

厳しい目をしているものの、その目が射抜いているのは、何か別のモノだ。言うなれば唯の勘だが、確信的にそう思えた。

無音が空間を支配する。

アインクラッド第二十五層の気候設定は春の筈なのに、粘ついた空気が、僕の手に汗を握らせる。

プラプラと頭上で揺れる、安っぽい電灯の愚鈍な光が、いまこの場に在する唯一の動的オブジェクトだ。

いや、もう一つ存在している。きっかりと時を刻む、掛け時計という名のアイテムが。

十数回、秒針が音を立てたところで、遂に口を開いたのはクラインだった。

 

「ああ、そうか、おめぇもサーヴァンツのメンバーだったって訳か」

 

キリトは、何も言わない。

僕達は、口を出さない。そのくらい、弁えている。

 

「うん。なんつーか──嬉しいもんだな。良かったよ。おめぇに、きちんと仲間が居て」

 

クラインの笑みは柔らかく、心の底から悦ばしく感じていることが伺える。

安堵が見て取れる表情に先程までの険しさは、微塵たりとも感じられなかった。

僕の主観だが、その笑みは友達に向けてというより、保護者として、みたいな感じがした。それでも、だからこそ、その言葉はキリトにとって『優しい言葉』である筈だ。それなのに──

なのに、キリトは苦悩の色を濃くしていく。まるで、そのクラインの思いすらも、自分に科せられた鎖であるかのように。

 

「でも、俺は……」

 

まず否定。逆説。

それだけで、キリトの想いの証左は、十二分だろう。

だけどクラインは、敢えて悟った風を見せない。きっちりとキリトの気持ちを理解しているだろうに、わざと、道化を演じてみせようとする。

 

「あんだよ、煮え切らねぇな。言いたい事が有るんなら、このクラインお兄さんにどーんと相談してみやがれ!」

 

大仰に腕を広げて、クラインは、茶化したように言った。

改めて、良いやつだなあと思う。

この行動は、全てクラインなりの配慮なのだ。

僕には、過去にクラインとキリトの間で何があったのかなど、知る由もない。だが二人の会話から、キリトがクラインに対し、罪悪感を持って接していることは、否が応にも見て取れる。

それでもクラインは、拒絶するキリトに歩み寄ろうとしている。普通は立場が逆だろうと思わなくもないが。

 

「俺は……はじまりの街でお前を見捨てたじゃないか!それなのに、俺はギルドに入ってのうのうと……」

「見捨てただぁ!?バカ言うな。おりゃおめぇに見捨てられた憶えなんて、これっぽっちも持ち合わせちゃいねぇよ。おめぇみてぇなガキンチョに見捨てられた日にゃあ、それこそ男が廃るってモンだぜ」

 

そして、はにかみながらクラインは言った。

 

「大体なあ。おめぇはあんとき、選択肢を与えてくれてたじゃねぇか。それを蹴ったのは、おれ自身の意思だ。恨まれこそすれ、おめぇを恨む筋合いなんざねぇんだよ」

 

クラインがキリトに向けた屈託のない笑顔は、その言葉が嘘偽りの無い本心なのだと語っていた。

キリトの伏せられていた目が、しっかりとクラインを見据えた。そして仄かに微笑み、瞼を閉じた。

その顔は、つきものが落ちたかのように澄んでいた。

 

「お前はホント、良い奴だよ。たった数時間、ソードスキルをレクチャーしただけの俺に、こんなにも真摯になってくれてさ」

「ったりめぇよ。おれたちゃ、ダチじゃねぇか」

「はは……臭いセリフだな」

 

キリトが小さく、自嘲的とも思える笑みを浮かべた。

 

「おめぇのニヒル臭さにゃ、到底及ばねぇけどな」

 

クラインの軽口に、キリトがふふ、と忍び笑いを漏らす。

それが反響したかのように、クラインもはは、と笑った。

二人の密かな笑い声が、僕らの小さなギルドホームに谺する。

僕の語彙では言葉に出来ないけれど、それは、とても大切な意味を持っている気がした。

二人は共鳴しながら、どんどんとボルテージを上げていく。

そして、黙していた空間はいつしか、クラインとキリトの、腹の底からの大笑いで満たされていた。

 

「あははははは!!」

「くははははは!!」

 

そんな二人を見ながら、僕は左隣のアレックスに話しかけた。

 

「これにて一件落着……で、良いのかな?」

「ですね」

 

そう言いながら、アレックスは柔和な瞳で、大声を出して笑う二人を見つめている。

 

「それにしたって、何がそんなに面白いんだろうね」

 

僕の言葉に、アレックスはふわりととした笑顔で応えた。

 

「ですね。でも、良いんじゃないですか。だって、お二人とも、本当に、楽しそうですもん」

 

言い終わり、アレックスは僕へと向き直った。

期せずして目があってしまい、どきっとなる。

そんな僕の気を知ってか知らずか、アレックスは僕の肩に、ちょこんと凭れかかってきた。心底、幸せそうな笑顔で。

ああ、可愛いいなあ。いつものはっちゃけた性格が直れば、もっと可愛いくなるだろうに。

 

「むっ!何故だか今、ライトさんに失礼な事を思われた気がしますっ!」

 

それと、コンスタントに読心術を発揮するのも辞めて欲しいな。ビビるから。

 

「な、何でそんな風に思うのさ?」

「勘ですよ。具体的に言うと、私の性格を矯正した方が良いと思われたんじゃないかと」

「はは!いや、まさかそんな……ねぇ?」

 

もうこれ、エクストラスキル『第六感』とか、そういうのじゃないかな?

そして僕は、故意にアレックスから目を逸らした。

にも関わらず、ウサギのような仕草で、アレックスは僕の肩に頬ずりしている。僕の肩は、そんなに心地よいのだろうか。無理は承知だが、ちょっぴり体験したくなってしまう。

キリトは、さすがに笑い疲れたようで、まだほんのりとした笑みを残しながら、口調だけは真剣に言った。

 

「なあ、クライン。もしよかったらなんだけどさ……」

 

少し、間が空いた。

微塵の笑みが失せた漆黒の剣士は、ぐるりと回りを見渡した後、赤髪の武士の瞳をしっかりと見据え、言った。

 

「俺たちと──ザ・サーヴァンツと風林火山で、同盟を組まないか?」

 

 

ギルド同士の同盟システムについて、僕は頭の中で知っていることを反復していた。

同盟を組むメリットは、まず、フレンドの欄により詳しく情報が載る事が挙げられるだろう。

通常のフレンドウィンドウには、フレンドの現在地、そして、フレンドのHP残量が表示される。だが、同盟ギルドのメンバーであれば、加えてリアルタイムでのパーティ構成、装備品、そして交戦中のモンスター名までも分かるようになる。

また、通常のフレンドへのメッセージ機能には百文字の字数制限が存在するのだが、同盟ギルドのメンバー相手の場合、その制限が解除される。

同盟を組む事で発生する変化は、だいたいそんなとこだろう。

これらをメリットと取るかデメリットと取るかは意見が別れるだろう。だが、僕の個人的意見としては、特に危惧するほどの事でも無いと思う。

それと、同盟システム自体にも相当な利便性が有る。それは、同盟締結の手軽さだ。

何とこのシステム。ギルドマスター二人の合意だけで発動可能なのである。

まあ、普通はマナーとしてギルドメンバーに確認を取るものだが、それでも、ギルドマスターの独断で同盟を結べることには変わりない。

そんなところで思考を中断し、知覚を仮装の現実へと戻す。

場は、僕らサーヴァンツのギルドホーム。サーヴァンツと風林火山、その総員が一同に会している。いつもならあり得ない人数が十畳ほどのリビングに密集しており、暑苦しい事この上無い。だが、この暑苦しさには理由がある。

まさに今、僕の眼前には二人のギルドマスター、ユウとクラインが相対し、議論している。議題は勿論、先程までの僕の思考内容である同盟についてだ。

結論から言ってしまえば、この赤髪にしてブサイクな二人のディベートが行き着く先は、九割方決まっている。何故なら、同盟に賛成こそすれ、反対する意義が存在しないからだ。

なのに中々決着がつかないのは、ひとえにユウが心配性だからである。

 

「だーかーら、こっちの手の内を晒すっていうのに、何の交換条件も無しじゃ、おいそれとOKなんざ出せるわきゃないだろうが」

「それこそ言ってんじゃねえかよ。こっちも情報開示するんだ。なら、どっこいどっこいだろ?」

「前提が間違ってるだろうが。アンタは俺らにお願いしている立場なんだ。だからこそ、こっちにメリットがなきゃ、わりにあわねぇんだよ」

 

ユウに言われて、クラインは首を横へ回し、キリトと目を合わせた。そのクラインの目線に、キリトは小さく頷く。

それを確認すると、クラインは頭を前に向けてながら言った。

 

「おめぇこそ間違えてるじゃねえか。この話は、そもそもおたくのキリトが言い出したんだぜ」

「じゃあ、アンタがそれに従う義理はねぇだろ。それでも同盟を組みたいんなら、そりゃアンタの我だぜ」

 

そう言われると、クラインは反論をピタリと止めた。恐らくは、反論しないのではなく、反論する材料が見当たらないのだろう。

もしキリトの後押しがなければ、とっくにユウの口車に言いくるめられているに違いない。

そんなクラインを睥睨しながら、ユウは目の前に置かれたグラスを煽った。ユウが嚥下している赤黒い液体は、血とも思えるような毒々しさを放っている。

実際は、十二層特産のカチの実ジュースなのだが、ユウが飲むと非合法的な何かにしか見えないから不思議だ。

ふてぶてしく足を組みながらそれを飲む姿は、さながら悪の帝王である。

その光景に、中腰で机に両手をつけながら睨みを利かせるクライン。こちらは、悪事を告発する正義の味方と言ったところだろうか。

そこで、ふと気がついた。この二人、一見すると鏡のような合同性を醸しているものの、実のところ全く似ていない。

容姿は奇跡的にマッチしているし、両者ともリーダーシップが強い。しかし、ラジカルな部分で性情に差異があるのだ。

簡単に言うと、あくどさとか、アタマの良さとか。

飲み干された空虚なグラスがコルク製のコースターへと、まるで槌を揮うように置かれた。

正面を直視したユウの表情は、そこはかとない獰猛さに満ちていた。八重歯をちらつかせながら、楽しげにクラインを見据えている。

その面差しに、何度となく救われ、嵌められた僕には解る。これは確実に、悪巧みを思いついた顔だ。

 

「なあ、クラインさんよ。このまんまじゃ、幾ら話し合っても決着なんざ付きそうにねぇし、どうだ。折衷案として、ゲームでもして決着をつけるか?」

 

そう言ったユウの口角は、どこまでも邪悪につり上がっていた。




気がつけばもう四十話です。はやいですね。
なのに、アインクラッドは未だ二十五層という事実。びっくりだよ畜生!
単純計算なら、終わるのに百二十話必要というね。もうちょっと、早く話を展開しようと思います。

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