僕とキリトとSAO   作:MUUK

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なんだかんだで、読んでもらえてるなあと一番実感出来るのは感想なんですよね!めちゃくちゃありがたいです!




第三十七話「イチャイチャ……?」

見渡す限り、色々デカイ。

草原は二メートルを超える長草で生い茂り、木は軒並み晴天の空を貫きそうなほど、高々と聳え立っている。

フィールドには、三メートルはあろうかという巨人形モンスターが、雑魚Mobとして闊歩し、プレイヤーの命を、虎視眈々と狙っている。この階層を一言で表すならば、アインクラッド二十五層は、巨人の森、だろうか。

そこに、一人の少女の悲鳴が響く。後ろで一括りに束ねられた、引き込まれてしまいそうなほど綺麗な漆黒の髪を揺らしながら、彼女はひた走る。とある追手から逃げるために。

 

「うぎゃああぁぁああッ!キモイキモイキモイキモイキモイッ!何なんですか、あのムカデッ!全長五メートルて!巨大化にも程がありますよッ!そして、粘液みたいなのを吐き散らしながら追いかけてくるところもバッドポイントッ!あらゆる点でキモ過ぎます!というか、もう死んでくださいッ!」

 

というわけで、彼女のお望み通り、僕はムカデの側面に回り込み、体術スキル『エンブレイザー』を発動させた。

そして、真紅に染まった僕の腕が、根元までズッポリと巨大ムカデに突き刺さり、ガラスの砕けるような心地よいサウンドエフェクトと共に、全長五メートルの大ムカデは爆散した。

すると少女は、良い笑顔で、右手をサムズアップさせて言った。

 

「ナイスですっ!ライトさんっ!」

「あのさぁ……アレックス……。君も、虫型モンスターに、ちょっとは攻撃しようよ……」

「さてっ!お昼にしましょうかっ!いやあホント、お腹空きましたっ!MAJIでGASIする五秒前っ!」

「あれ?無視!?虫だけに!?」

 

そして、二千二十年代で活用するにはあまりに古過ぎるボケである。

 

「面白くないですよ。ライトさん。貴方のツッコミはその程度ですか?貴方なら、もっとエスプリの効いたツッコミができる筈じゃないんですか?」

「素でダメ出ししないでよ!普通に傷つくから!」

 

そんな僕の糾弾すら無視して、アレックスは徐に、アイテムストレージから藁で編まれたバケットを取り出した。

 

「では、目を閉じて口を開けて下さいっ!」

 

クリッとした綺麗な瞳でそう言われてしまえば、言われた通りにしない理由も無いだろう。

しかし、アレックスがわざわざこんな事を僕にさせるとは、一体全体、どういう了見なんだろう。まさか、完全に無防備な僕の口に毒を盛り、フィールドの真ん中に置き去りにするつもりじゃないだろうか。

いや、待てよ。よく考えれば、この流れは確実にあーん!完全なるラッキーイベントじゃないか!さあ、何かは知らないが、アレックスの手作り料理よ!僕の口に飛び込んでおいで!

予想通り、固形物が口の中へと放り込まれる感覚があった。

まずは舌の上で転がす。細長く引き伸ばされた何かが、口中でコロコロを駆ける。

味は、完全に生姜焼きのそれだった。ここまで高い再現度を出すには、なかなか解析の手間がかかる筈だ。僕の為にそれをしてくれたかと思うと、少し、いや、結構嬉しくなってしまう。

とりあえず、その細長い生姜焼きを、前歯でかんでみる。すると、プチっという音と共に、何故が異様な苦さが、口全体に広がった。

 

「あの、アレックス?これ、何の生姜焼きなの?」

「糸ミミズです」

 

吐き捨てた。

 

「何でミミズを食材に使うのさ!ていうか、さっき巨大ムカデを怖がってた人から、ミミズを食材にするっていう発想が出る事が驚きだよ!」

「いやいや、世界では虫を食材にする国なんて幾らでもありますよ」

「ここは日本だよ!」

「ここはアインクラッドなんですが?」

 

正論だった。

 

「わかりましたか?なら、ミミズの生姜焼きを食べて下さいっ!」

「うーん……。何か、食べなきゃいけないような気がしてきた……」

「じゃあ、目を閉じて下さいっ!はい、あーん!」

「あーん」

 

良く考えれば、食べる理由はない気がするが、取り敢えず、口に入れる。まあ、さっき食べたときは、食感と苦味意外は普通に生姜焼きだったしね。

だいたいこれは、食材がヤバイことを除けば、完全なるご褒美イベントなのだ。楽しまなければ損だろう。

あれ?さっきより大分、ちゃんとした歯ごたえだ。いや、というか、これはもう……

 

「普通に豚じゃないの?」

「ええ、そうですよ?ホワイトピギーですっ!」

「良かった。ちゃんとしたのも作ってたんだね。うん、凄く美味しい!わざわざ三層まで取りにいったの?」

「そうですよ。ライトさんに食べてもらうためなんですから、当然じゃないですかっ!」

 

アレックスは、こういう事を、恥ずかしげもなく言ってくる。

きっと、仲間としてという意味なんだろうけど、こんなに可愛い子に、ライトさんに食べてもらうため、と言われて意識するなという方が無茶だ。

きっと、無意識に言ってるんだろうな。こういう無意識の発言で、アレックスは一体、何人もの異性をドギマギさせてきたのだろうか。

 

「ハックション!」

 

何故かくしゃみが出た。誰か僕の噂でもしてるんだろうか。

 

「だ、大丈夫ですか、ライトさんっ!?え、えっと、お薬?回復薬?それとも私?」

 

それとも私?には敢えて触れないことにしよう。

 

「あ、ありがとうアレックス。でも、SAOの中で、風邪なんて引かないよ?」

「まあ、よく考えればそうですよねー。アレックスちゃん、早とちりしちゃいましたっ!ところで、何でそれとも私、を無視したんですか?」

 

おっと。痛いところを突かれた。いや、そもそも意味がわからないんだけどね。

それってつまり、そういうコトだと理解して良いのだろうか。そりゃ、僕だって健全な男子高校生だし、三大欲求の内一つが欠けているなんて歪な精神構造の持ち主でもないし、おまけに未経験だし、そういうコトに興味が無いなんて事は全然全くこれっぽっちもないんだけれど、ここで、そういうコトだと断ずるのは全く持って早計という物だろう。

なら結局、僕はこれからどういう行動を執るべきなのだろうか。軽く脳内でシュミレーションしてみよう。

 

僕「いっただっきまーす!」

アレックス「うぎゃあっ!変態っ!」(ボコッ!)

僕「ぐはあっ!」

DEAD

 

危ない危ない。もしシュミレーションをしていなければ、今頃アレックスのメイスで脳天をカチ割られていたことだろう。

うーん。どうやって、この選択肢を間違えれば即デッドエンドのデスゲームを切り抜けようか。もしかするとSAO攻略よりも難しいかもしれない。アレックス攻略。

いつからこのゲームは、ギャルゲになったんだろう……。

そんな益体の無さ過ぎる思考の長さを訝しく思ったのか、アレックスは俯く僕の顔を覗き込んで来た。

まずい。兎も角話題を変えなければ!でも、何と言えば良いんだ?女の子が食い付きそうな話題なんて、検討が付きそうな予感すらしない。

あ、そうだ。朝からずっと気になっていた事があったんだ。単純にそれを聞いてみよう。

 

「ところで、何で三つ編みを辞めてポニーテールに髪型を変えたのかな?」

「そりゃ、ライトさんがポニーテールを好きだって言ったからじゃないですかっ!」

 

元気よく宣言したにも関わらず、アレックスは頬を赤らめて俯いている。

しかし、僕の好みがポニーテールなのと、アレックスがポニーテールに髪型を変えた事に一体どんな因果が働いているのだろうか。僕には、どうしようもなく理解出来ない事柄だ。まあそれ以前に、生まれてこのかた女心を理解出来た試しなんて、ただの一度だって無かったんだけれど。

アレックスは、思い出したかのように箸を手に取り、豚肉を一つ摘み上げて言った。

 

「はい、あーんっ!」

 

何だろう。その気持ちは嬉しいし、あーんも嬉しい事ではあるのだが、何故か、アレックスの眼に殺意が宿っているように思えた。

それも、ただの殺意ではなく、獲物を狩るハンターの殺意だ。

まあ、それによってさっきまでの会話を忘れてくれたのならば良しとしよう。

そう思ってアレックスが差し出す箸を、拒まず受け容れる。瞬間、その選択は失策にして愚策なのだと、心の底から思い知らされる事になった。

今度の豚肉は、味付けを変えているようで、とても刺激的な御味に仕上がっていた。本当に、とっても刺激的に。

 

「口の中が爆発するように辛いいぃぃいいっっ!!」

「アレックスちゃん特製、ハバネロ数十個分の辛さを濃縮したソースは如何でしたか?」

「唯の危険物じゃないか!体力が削れていないことが不思議なくらいだよ!」

「いやあ。やっぱり良いリアクションですねっ!私も作った甲斐がありますっ!」

「出来れば、美味しいと言われることに、作り甲斐を感じて欲しいんだけど……」

 

というかコレは、料理であっても食べ物じゃない気がする……。一体、何をどう調合すれば、こんなハイデスソースが出来上がるのだろうか。怖いもの見たさに……いや、むしろ一生知りたくない。

と、取り敢えず水!

 

「はい、どうぞっ!」

 

アレックスが渡してくれた水を一気に呷る。ふう。生き返った。

あれ?何か、体全体が重いような。そして、HPゲージの横に、雷マークが点滅しているような。

うん。百パーセントの純度でデバフアイコンだな。

 

「都内有数の進学校に通う僕の審美眼による予想では、ナーヴギアの量子演算により脳内に直接アウトプットされたこの仮想世界において、プログラミングされたポリゴンデータの流動形オブジェクトであるこの水は、ズバリ、麻痺毒だね!」

「ギ、ギクッ!」

 

茶番劇を終えたのち、アレックスはすくりと立ち上がった。

それにしても、僕を麻痺状態にさせて、どうするつもりなのだろうか。まさか本当に、僕をフィールドのど真ん中に置き去りにするとか?それとも、アレックス自らの手で僕の命を摘むつもりなのだろうか?

想像すればするほど恐ろしくなってきたので、慈悲を乞う目つきで、アレックスをじっと見つめてみる。これでどうにか気が変わってくれればいいけど。

 

「そ、そんなに熱っぽく見つめられたら、恥ずかしいですよ……」

 

紅潮させた頬に手を当て、完全に破顔した顔で、少しだけ俯くアレックス。可愛い。いや、そうじゃない!

ま、まさか、襲うこともバッドエンドなら、話を逸らすのもバッドエンドだったとか!?じゃあ、何を選べばグッドエンドだったんだ……。

とにかく!どうにかこの場を切り抜けなきゃ、アレックスに殴打される事待ったなしだ!

だが、今から何をして何を話せばいいのかわからない事もまた事実だ。

どうしよう!どうしよう!どうしよう!

 

『無い頭を幾ら捻ったところで無駄だと思うけどなあ』

 

突然、僕の前に僕をそのままミニチュアにしたような、天使と悪魔の二人組が現れた。その内、天使の方が、本体である僕に、無駄に失礼な事を言い出した。

ねえ、僕の中の悪魔。この、羽の生えた虫けらみたいな奴の息の根をとめてくれないかな?

 

『あいよ』

『酷いよ悪魔!もう絶交だ!』

『そもそも、交流を持った覚えがねえんだけど……』

『どうしよう!明久は悪の心が強いから、僕が負けちゃう!』

 

なるほど。僕は正義の心が強いから、天使と悪魔が競り合うと、悪魔が勝つのか。

天使と悪魔が殴り合いを始めたが、確かに悪魔が優勢のようだ。むしろ、一方的と言っても過言ではないくらいには。

 

『チッ!こうなったら、僕の最終奥義を見せてあげるよ!』

 

お?天使が何か言い出したぞ。流石の悪魔も、その天使の言葉に動揺を隠しきれないようだった。

 

『超必殺技……だと?』

『喰らえ!目潰し!』

 

そう言って、天使は地面にあった砂を手に取り、悪魔の目に向かって投げつけた。当然目潰しが直撃した悪魔は、両目を押さえて、悶えながら糾弾した。

 

『ぐあぁっ!目がっ!テメェ天使!卑怯だぞ!』

『フンッ!正義の為の犠牲さ!』

 

確信した。僕の良心は悪魔だ。間違いない。

しかしながら、やはり筋力差は圧倒的だった。再三繰り返される天使の卑怯な手にもめげずに愚直に戦い続け、ついに悪魔は天使にとどめを刺した。

 

『ふふふ……ふはははははッ!例え僕を倒しても、いずれ第二第三の天使がお前達を殺しに来るだろう!それまで首を洗って待っているがいい!はははは────』

 

不吉な言葉を残して、天使は僕の視界から姿を消した。というか、どう考えても魔王の言である。

死闘を終えた悪魔は、急に倒れ込んで盛大に血を吐き出した。

 

『グハッ!……俺はもう此処までのようだ…………。達者で居ろよ。明……ひ…………』

 

そして悪魔は静かに息を引き取った。

 

「あ、悪魔────ッ!」

「だ、誰が悪魔ですかっ!」

 

おっと。意外な人の逆鱗に触れてしまった。随分と長い間、悪魔と天使の激闘を見ていた気がするが、アレックスの反応からして、どうやら一瞬の出来事だったらしい。

 

「い、いや。違うよ?僕はアレックスに悪魔って言ったんじゃなくて……」

「分かってます。そりゃそうですよね……。いきなり麻痺毒なんて仕掛けられれば、悪魔と罵りたくもなりますよね……」

 

まあ、それは確かにそうなので、敢えて否定はしない。

 

「だがしかし!これも全て、とある事柄への布石だったのですよ!」

「な、何だってー!」

 

何か良く分からないが、大仰な動作で驚いておく。

そんな僕の反応が気に入ったのか、アレックスは見事なドヤ顔で鼻を鳴らした。

そしてアレックスは三百メートルほど先にある洞窟を指差し、得意気な笑みを浮かべて言った。

 

「天よ驚け、地よ動け!これぞアレックスちゃんの最終目標!ライトさんっ!あそこの安全地帯で既成事実を作りましょうっ!」

 

頭がこれまでの人生で最も真っ白になった。




先ずは一つ謝罪を。前回の後書きで言及したアノ人ですが、見事に登場致しませんでした!ごめんなさい!
アノ人を出そう出そうと思いながら書いていると、いつの間にか七千文字を突破しておりまして、泣く泣く登場させることを断念した次第でございます!
次回には出る!多分!

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