僕とキリトとSAO   作:MUUK

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皆さん!誤字脱字報告は頼みます!改めて言う事でも無いか……。

ちなみに、最近投稿スピードが落ち気味なのは、春休みに宿題があるというね……ねえ?なにぶん、量が多いんですわ……。


第三十二話「思い出の結晶ーⅥ」

考えろ!考えろ!まず、位置を特定しなければ話にならない。

フレンドの位置補足機能の画面に表示されない。ということは、恐らくリーベは、どこかの階層の迷宮区にいる筈だ。偶然か必然か、ベータのときのレムと全く同じ状況。

たが、まだだ。まだ絞り込みが足りない。何か、もっと決定打となる何かを見落としてはいないか……。

今迄得た情報を頭の中で反復し、整理し、結論を導け!

まず、ベータテスト時の状況整理。

レムがパーティから抜け、失踪したのは、パーティメンバーの三人が迷宮区に籠っていたとき。そのときに、ギルドホームに残されたレムが、いきなりパーティから離脱した。そして、ベータテストの時も、フレンドの地図上には、レムのマーカーが現れなかった。

その数日後、レムは何者かに殺された。これは、レム自身に殆ど戦闘力が無いため、モンスターの可能性もある。それ以前に、この情報は、捜索には不必要だ。今は無視して構わないだろう。

レムと同じパーティに所属していたのは、キリト、アレックス、そしてボルトという男。

次に、現在の話。

リーベとレムが一緒にギルドホームに居る状態から、何処かへ連れ去られた。恐らく、ギルドメンバーがボス戦に出払い、他に誰もいないところを見計らって。

解らないのは、その手口だ。彼女達が、自主的にギルドホームから、そして、圏内から出たとは思えない。では、回廊結晶を使って連れ出したか?いや、あれは恐ろしく高価だ。それこそ、映像記録結晶など、比にならないくらい。そんなものを買うほどのメリットが何処にあると言うんだ。

そもそも、この事件はメリットに基づくものなのか?あるとすれば、どんな……。

 

「…………あ!」

 

その瞬間、俺の脳裏に奔った電流が、全てのピースを繋ぎ合わせた。

メッセージが送られてきてから、まだ十分も経っていない。ということは……

俺は、幾つかの推測を立てながら、走り続けた。

 

 

じっとりと貼り付くような悪寒のする暗闇の中で、一人の男の声が、毒液を垂らした水音のように谺する。

 

「さてと……準備は整ったな。後は、お前がちょちょいとメインメニューを操ってくれりゃ、事は済むんだ」

「何で?何でこんな事するの!?ベータの時も君がやったの!?」

「ご明察の通りだよ!ああ!俺さ!レムをパーティから脱退させたのも、レムを誘拐したのも、そして、レムを……」

 

男は、少しだけ間を置いた。目の前の女ーーリーベの反応を見定めるために。

しかし、流し目で見たリーベの表情は、予想以上に平凡だった。眉根を寄せ、歯を食いしばり、顔全体で、不屈の意思を表している。強気な女の反応。

期待はずれとばかりに男は嘆息し、傍らに横たわる金髪碧眼の少女ーーレムに足を掛け言った。

 

「殺したのも……俺だ!」

 

途端、男はレムを強く踏み締めた。睡眠毒で眠らされているレムが、苦悶に顔を歪め、小さく呻き声を漏らした。

それを見て男は、嗜虐の笑みを浮かべ、リーベは唇を噛み締める。

 

「悔しいかあ?悔しいだろうなあ!大事な大事なレムちゃんを、目の前でいいように甚振られてよお!俺なら、ぶん殴っちゃうね!まあ、麻痺ってなきゃだけどな!あはははっ!」

 

粘つくような錯覚さえ覚える嘲笑が、暗闇を形作る洞窟に吸い込まれていく。

だが、リーベは動けない。男の言葉通り、麻痺に陥っているからだ。アイテムストレージを操作し、解毒ポーションを摂取するという手段も取れない。何故なら、彼女の両手両足は、さながら張り付けにされた聖人の如く、ピックで撃ち抜かれ、冷ややかな岩窟の床に固定されているからだ。

しかし、冷たい岩の質感も、燃え滾るようなリーベの心を冷ましはしない。殺意と憎悪の籠った眼で、レムを片足で踏みつける男を射抜く。

しかし男は、只々負け犬を嘲る視線をリーベに向けるのみだ。

 

「おいおい、そんな怖い顔で睨んでくれるなよ、お姉ちゃん?」

「許さない、許さない、許さない!君だけは、絶対に許さない!」

「絶対なんて言葉を軽々しく使うなよ?軽い女だな、全く!」

 

そう言って、男は、リーベの右手の釘を踏み込んだ。

痛みは無い。だがその分、視界右上のゲージが減少する恐怖は倍増する。

それでも、彼女が屈しないのは、大きな心の支えがあるから。『絶対』的な信頼があるから。

 

「君なんか、ムッツリーニが来てくれさえすれば、直ぐに黒鉄宮送りだよ!」

 

彼女が、十七年の人生で唯一恋をした彼が、ムッツリーニこそが、今のリーベの心の芯なのだ。

彼ならば来てくれる。彼ならば、ボク達を助けてくれる。その、揺るぎない信頼こそが、彼女の自尊心を、既の所で保っているのだ。

そんな彼女の心持ちさえも、男は道端の石ころのように踏みにじる。

 

「いい歳なんだからさあ、王子様願望も大概にしとけよ?願ったって祈ったって信じたって望んだって、来ねえもんは来ねえんだよ!俺が、この状況を完全犯罪に仕立て上げるために、どんだけの労力と金と時間を費やしたと思ってんだ!」

「そんだけやる気があるんなら、最初から、攻略組に入っておけばよかったでしょ!?」

 

その誹りを受けて、男は、芝居がかった仕草で、右手の人差し指を振りながら言った。

 

「チッチッチッ、解ってねえなあ!俺は、そこ等の奴らと同列に扱われたくねえの。ずば抜けてえの。この思考回路はゲーマーとして当然だと思うぜ?攻略組のリーベさん?」

「それでも……やって良いことと悪いことってあるでしょ!」

 

そんなリーベの糾弾に、男は自らの見解を早口でまくし立てた。

 

「無いね!そんな線引き、知ったこっちゃ無い!確かに!世間一般的観点から今俺がやってることを盤上から俯瞰すれば、悪、と断ずることが出来る、かもしれない!かもしれないだけだ!俺は飽くまで、飽くまでも可能性の話をしているに過ぎない!」

「論点のすり替え、って言うか後退はやめて!ボクは、悪と断じられた後の話をしてるんだよ!」

「じゃあ、その前提で話をしよう。でもな、一口に悪って言っても、殺人、窃盗、放火、強姦、エトセトラエトセトラだ。そんな中で、俺が今、働いている『悪』は、どんなどんな定義の、どんな分類になるんだ?なあ、ほら、言ってみろよ!」

「定義も分類もないよ。大衆的、習慣的に悪なら、それは悪だ!」

「ここはアインクラッドだぜ?ゲームの中だぜ?大衆文化も習慣性も、発展途上のこの場所で、じゃあ一体それは、何に基づいてるんだよ?」

「現実さ」

「それこそ愚問だな。此処で……現実味も現実感も何もかもあったもんじゃ無いこの場所で、お前は一体、現実の何を語ろうって言うんだ?」

「また論点がすり替わってるね。現実を語ろうって言うんじゃない。現実を基準にしようって言ってるんだ」

「なら、もう一度お前の口車に乗ってやる……ことも吝かじゃ無いんだが……」

 

実の所、リーベはこの論争に興味は無い。会話の方向を、矛盾へと導こうとしているに過ぎない。

では何故、彼女はこんな事をしているのか?それは……

瞬間、リーベは五寸釘の削りダメージも無視して立ち上がった。そう。結局、あの会話は、リーベにとっては、麻痺回復までの時間稼ぎにだったのだ。

これで、ムッツリーニ君に頼らずとも、自力で此処から抜け出せる!そんなリーベの思考は、刹那で終わりを告げた。立ち上がった途端、リーベの胸を、新たな大釘が襲ったのだ。

 

「吝かじゃ無いんだが……その前に、お前を麻痺らせんのが先決だな。バレバレなんだよ、バーカ!」

 

男の、神経を逆撫でするような、くつくつという笑い声が、岩屋を駆け回る。

男は、自分のメインメニューのデジタル時計をチラリと確認すると、満足気に言った。

 

「あーあー。もうレムが起きちまうじゃねえか。何?お前、妹ちゃんの前で、甚振られるとこ見て欲しいっていう、ドMなお姉ちゃんな訳?」

「そもそも……ボクに選択肢も選択権も与えられて無いじゃん」

「俺はそんな狭量な男じゃ無いぜ?ちゃんと選択肢は与えてるじゃねえか。まあ、選択権は与えてねえけどな!」

「それの何処が選択肢って言うのさ」

「あったま悪りいな。説明してやろうか?お前が持ってる選択肢は四つだ。まず、俺に従い、レムをパーティから脱退させる。次に、レムと一緒に逃げてみる。三つ目が、レムを見捨てて逃げる。最後に、王子様の到着を待つ。だが、俺はお前に、一番しかさせない。させる気が無い。これでOK?お解り?」

 

リーベは思慮を巡らせる。一番と三番は論外として、問題は、二番の成功率が、限り無くゼロに近いという事だ。だから消去法で四番?そんな逃げの思考を自戒する。

駄目だ。ムッツリーニ君に頼らず、脱出する術を考えなくては……。

だが、彼女の脳が告げている。優秀過ぎるが故に、彼女はもう弁えている。この思索の結論と、最適解を。

彼女はとうに理解している。自分ではどうしようもないのだと。

なればこそ、彼女は希望に縋るのだ。一人の男がこの場に現れるという、淡い希望に。

たかだか数パーセントの確立の違いだ。解っている。自らの力だけでこの場を切り抜け、レム共々、ギルドホームに生還する確率と、ムッツリーニが此処まで助けに来る確率。その両方に、差は殆ど無い。

だが、リーベはムッツリーニに賭けた。それは、自分より彼を信頼している事に他ならない。

そのとき、レムの目がパチリと見開かれた。睡眠毒の効果が切れたのだ。

 

「……んにゅ……ふわぁー……」

 

緊張感無く欠伸をした後、レムは周囲を見渡し、その顔は徐々に恐怖に引きつっていった。

そして、真っ先にレムの口をついて出たのは、リーベの心配だった。

 

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

「うん……大丈夫だよ、心配しないで……ね?」

 

ゆっくりと、優しく、諭すようなリーベの言葉。それが効果を発揮したのか、レムの表情も少しだけ和らいだように見える。

だがそこに、毒に染まった言葉が滴った。

 

「おー!起きたか、レムちゃん!でも、残念だなあ……。お姉ちゃんがな、レムちゃんを自由にしてくれないんだよ。だから、レムちゃんからも言ってやってくれねえかなあ?あんまり聞き分けが無いと……殺しちゃうぞ☆ってな!」

「ひっ!」

 

茶化したはずの男のセリフが、むしろレムの恐怖を助長させた。短い戦慄は、喉で詰まった悲鳴が溢れ出たものだ。

そんなレムの様子を見て、男は笑みを浮かべる。冷酷で残忍で、楽しそうな笑みだった。

味を占めた男は、更にレムの恐れを煽る。

 

「じゃあ、俺の剣で、リーベお姉ちゃんの首を跳ね飛ばしたら、どうなっちまうんだろうなあ?」

「やめて!やめてえぇ!」

「大丈夫!お姉ちゃんは大丈夫だから!落ち着いて、レムちゃん!」

「いや!いやぁぁあっ!」

 

レムの心の深みを、じわりじわりと黒い感情が侵食していく。

レムは、自分の命より、リーベの命を心配している。その状態が、男には、堪らなく滑稽に見えた。

こんな喜劇を魅せられては、本当に殺したくなってくる。

 

「じゃあ、三、二、一で振り下ろすぞ!せーの!三、二、一!」

 

その瞬間、一筋の銀光が、粘つく闇を切り裂いた。

カキイィィインッ!という甲高い金属音が、岩屋に反響する。男の剣の鎬に何かが当たり、その軌道をずらしたのだ。結果、剣は硬質な岩石に傷を入れるに留まった。

 

「……投剣スキル、一応取っておいて良かった……」

 

安堵と怒りを等量に含んだ声は、洞窟の入り口方向から放たれた。

その姿に、男は口角をつりあげながら言った。

 

「白馬の王子様は来なかったみたいだが、黒衣の忍者様なら来たみたいだぜ?リーベさんよ」

 

当然、リーベの耳には、男の言葉など微塵も届いていない。只々、男の言を借りるなら、黒衣の忍者を見つめるのみだ。

リーベの目から、水晶にも似た液体が頬を伝った。それが何を含んでいるのか、何を意味するのかは、彼女自身も定かでは無い。ひたすらに、涙を流すのみだった。

 

「……許さない、許さない、許さない!お前だけは絶対に許さないぞ!」

 

先ほどのリーベと全く同じセリフが、ムッツリーニの口から飛び出した。

そしてそこに、キリト、アレックスと共にベータテストを駆け抜けた戦士の名が付け加えられた。この世界では禁忌の名称に伴って。

 

「ボルト……いや、根本恭二!」




どっかに手頃な悪役いねえかなあ……。よし!根本君を出そう!
そうして、彼の出演が決定しました。

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