僕とキリトとSAO   作:MUUK

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皆さん、二日とちょいぶりです!
リアルが忙しくて、投稿が少し遅れたことをお詫び申し上げます!

それと、通算UAが二万を突破しました!ご愛読感謝です!

おもえば最近、毎回のように謝辞を述べるというおても有難い状況が発生しております!

皆様、本当に、ほんっとうにありがとうございます!


第二十五話「歪められた運命」

第三層に入って、二度目の朝。今日は生憎、厚い雲が太陽を隠している。何故か僕には、その雲が、楽しかった昨日の宴さえも霞ませているように見えた。

ジトジトと降る雨が、心に陰鬱な影を差す。

だからと言って、それがギルド結成クエストを中断する理由になろうはずもない。

鬱屈な感情を、無理矢理に明るく転換し、僕は皆と落ち合った。

例によって、村唯一の食事処(朝は惣菜のバイキング形式になっていた)で朝食を済ませ、僕ら三人は、草原へと歩き出した。

 

歩くこと数分。僕らの目の前に黄金色の牧草地が現れた。

草原に生える植物群は、一様に背が高く、どれも一メートルはありそうだ。

 

「今からするのは、トラウト・ラビットの捕獲です!ちなみに、生け捕りじゃないといけないので、投刀スキルは使えません」

「「おおーっ!」」

「それと、私はベータのとき、トラウト・ラビットを捕まえていないので、当てになりません!」

「「おおーっ?」」

「というわけで、トラウト・ラビットがどんな姿をしているのかすら知りません!」

「「oh……」」

 

そのとき、ガサゴソという細かい、小動物めいた音が僕の耳朶に触れた。

すかさず、音源の方向へ振り向くと、そこに生える幹の太い草に、ネズミ程の大きさの哺乳類が留まっていた。

ああ、これだな、と僕のリアルラックに感謝しつつ、じりじりと距離を詰める。

小ウサギまで、あと五メートルというところまで迫ったとき、不意に、大粒の雨が止まり草を叩き、その拍子にウサギは草の海原へと飛び込んでしまった。

 

「い、いまのだよね!?」

「た、多分そうだと思いますっ!」

「追いかけて、速攻で捕まえるわよ!」

 

息巻く優子は、草原の中央部へと駆け出して行く。その後を追い、僕とアレックスも、ウサギ捕獲へと出動した。

 

一時間後

 

「もうアタシ、探知スキル取ろうかしら……」

「早まらないで、優子!」

 

二時間後

 

「フフフ……ウサギさぁーん、出てきなさぁーい。痛いのは一瞬ですからぁー、すぐに唯の肉片になれますよぉー」

「いやいや!殺しちゃダメだって!」

 

三時間後

 

「今度という今度は逃がさないわよ、このウサっころ!」

「さあ、観念して、このやっさすぃーアレックスお姉さんの懐に飛び込んできなさい!」

 

僕らは今、優子命名ウサっころを三人で囲んでいる状況下にある。

そして、トラウト・ラビットは、にこやかな笑みを浮かべる女性二人に対して、少しづつ後ずさっている。

そうなると、必然的に僕の方へと歩み寄っているわけで……

 

「はい、捕まえた」

「またですか!またなんですか、ライトさんっ!」

「いや僕、今回はちゃんと働いたよ?」

「まあ、確かにそうね。よし、お昼にしましょ」

 

そう言われて、メニューウィンドウのデジタル時計を見てみると、現在の日本標準時は、十一時五十七分となっていた。あれ?なんか、この数字どっかで見たような……いや、時間なんだから毎日見てるか。

お昼ご飯は、あの定食屋でテイクアウトした緑色の米のおにぎりだ。何故か米自体から塩味がするという不思議な食べ物だったが、唯の塩むすびと思っても差し支えないだろう。調整をミスったのか、それとも元からこういう仕様なのか。まあ、どっちでもいいっちゃどっちでもいいんだけど。

左手に握り飯を持ちながら、右手でメニューウィンドウを操作する。理由は簡単。他の班のクエスト進行状況を確認するためだ。そういう意図のメールに返ってきた返事は、僕ら以外の全班が、まだ今日の一つ目を取っている最中だというものだった。

 

「進みは、僕らが一番みたいだね」

「なら、アタシ達は、午後に残り一つを取りに行く感じね」

「残ってるのは、石だったよね」

 

何と無く心配になったので、微妙な疑問形で確認した。

どちらが答えてくれるのかな、と思っていたが、先に答えてくれたのは優子だった。

 

「正確には鉱石ね。オリエンテの輝石。オリエンテっていうのは、たぶん東って意味だったと思うわ」

 

なるほど、だから今回の洞窟は村から東に位置しているのか。いや、むしろ東の洞窟で取れる鉱石だからオリエンテの輝石って名前なのだろう。

となると、オリエンテの輝石って名前を付けたのは、歴代の村人の誰かなんだろうな。

そんな思考を巡らせているとき、急にアレックスが上体を起こし、優子の口元へと手を伸ばした。

 

「優子さん、ほっぺにご飯粒が付いてますよ」

 

アレックスはそう言って、人差し指に付けた米粒をペロリと舐めた。

何故か、見てはいけないもの見た気がして反射的に顔を背けてしまう。

 

「え、あ、うん……ありがとう……」

 

照れと戸惑いが含まれた優子の言葉。

 

「いえいえ、どういたしましてっ!」

「ちょっ!どさくさに紛れてどこ触って……」

「偶然触れちゃったんですよ。他意はありませんっ!」

「それにしては手つきが、あっんんっ……」

「どうしたんですか、優子さん。何時もの強気はどこ行っちゃったんですか」

「そんなこと言ったって、この状況でひゃうぅっ!」

「この状況で、なんですか?ちゃんと言ってくれないとわかりませんよっ!」

 

あれ?ちょっと待って?この二人、僕の後ろで何してるの?

 

「や、やめ、そこはまだ心の準備が……あひっ!?いや、ぁんっ!」

「繰り返しますが、故意ではありません。偶然です」

「……ん……あっ……あぁっ!」

 

あーあー、聞こえなーい。

 

「まだまだ行きますよっ!」

「あっ、あ、もっとゆっくりぃ……」

「だぁーめっ!」

「あっ、うぅん、ぁあ」

「よし、輝石が取れる洞窟へ行こう!うん、そうしよう!よーし、いっくぞーっ!」

 

目尻に涙を浮かべ、僕は走り出した。

 

走り続けること一分。怪物の口のような洞窟の入り口が見えた。近くにあった岩に座り、気持ちを落ち着かせる。岩がひんやりと冷たく、僕の心をクールダウンさせてくれる。きっと、洞窟の側だからだろうな。

よし、これで大丈夫。もうきっと、二人に面と向かって真顔で話せる。

そこで早くも、二人が僕に追いつき、洞窟に到着した。

 

「ああ……早かったね、二人とも……。もうちょっとゆっくりしてても良かったのに……」

「いや、違うわよ!?あのね、さっきのはちょっと、ライトを驚かせようと思って……」

「いやいや、別に嘘なんてつかなくていいよ。それで、僕は、君達への接し方が変わったりなんてしないから……」

「変わらないなら変わらないで問題ありな気もしますけど……。ていうか、嘘じゃないですからね!いつライトさんが振り向くのかとこっちはワクワクしてたのに、何か、泣きながら走って行っちゃうんですから、焦りましたよっ!」

「ほ、本当に?」

「本当よ!女の子同士でそんなことするはずないでしょ!(男の子同士はともかくとして)」

 

語尾に不穏な言葉が付けたされた気がするが、触れない方が無難だろう。

 

「良かった……ほんっとうに良かった……」

「どんだけ嫌だったんですか……」

「嫌っていうより、気まずいっていう方が正しいかな」

「まあ、何て言うか、やり過ぎちゃったわね。ごめんなさい」

「大丈夫だよ。嘘だと解れば」

 

女子二人は微妙な表情をしていたが、キッと顔を上げたアレックスが、力強く拳を作って言った。

 

「じゃあ、気を取り直して。石は、結構すぐ取れますからね!さっさと終わらしちゃいましょうっ!」

「「おーっ!」」

 

優子と二人で、鬨の声、と言えるほどのものでもないが、慎ましやかな声を上げる。

すぐ終わるんなら、他の班が一つ目を取り終わるより早く取っちゃうかもな。そんな思索をしながら、僕らは、怪物の口へと飲み込まれていった。

 

洞窟内は、深い闇に閉ざされていた。シンと鎮まりかえる岩屋の中では、コツンという小さな足音さえも、何処までも反響していった。

岩窟特有の、じっとりと湿った空気が頬に貼りつく。

時折聞こえるギィギィという蝙蝠の鳴き声は、どんどんと不安感を膨張させていく。

 

「な、何か不気味ね……」

 

身体を縮こませながら、迫る静寂を押し返すように優子が呟いた。

 

「すぐ取って、出ちゃいましょうっ!」

 

いつも明るいアレックスの言葉だが、今日は少し焦りの色が見えた。

何の予感なのかは解らないが、『何か』が、洞窟の奥に居る気がするのだ。その気配を、優子とアレックスも感じているのかは定かではないが、僕には、濃密な形となって、そこに存在しているとさえ思えた。システムとデータだけで構成されるこの世界で、気配などというものが存在するのかすら怪しいが、ならば、この感覚は何と表現すべきなのだろう。

早くこの不気味な巌窟から出たいという気持ちと、前に進まなきゃいけないという気持ちが、挟み撃ちのジレンマになって、僕の心に襲いかかる。

それでも僕らは、使命を果たすべく、洞窟の奥へと歩を進めて行った。

 

それは、突然現れた。

それ自体は、少しくすんだ銀に光沢しているのであろう鎧。それを闘気が、いや、瘴気の方が正しいだろうか。影というには、尚も暗く、漆黒というにはあまりに罪深い、言うなれば、暗黒の瘴気。それが、クロムシルバーに輝く装甲を覆っている。

いや違う。覆っているのでは無い。そのフルプレートの無骨な戦闘鎧自体が闇を、相反する性質である光のように放射状に解き放っているのだ。

装備者の背丈は小さく、ミニマム・ゴブリン程度しかない。だが、それの放つ威圧感は、モンスターのそれとは一線を画していた。本能的な恐怖を呼び起こす、純粋な殺意と憎悪。

最初、僕らに向けられているのだと思った。しかし、その認識は絶対的に間違っていた。こいつの殺意は、憎悪は、この世界に存在するもの全てに……いや、この世界自体に向けられているのだ。そう理解したとき、それだけでこいつの持つ負の感情が、数万倍、数十万倍に膨張したように感じられた。

このアインクラッドを壊し、殺し、意味を無に帰さんとする絶望的な闇。

ここでやっと気がついた。僕はこいつに恐怖しているのだと。

奴の、血の色に爛々と輝く目線は、まず手始めにとでも言うかのように、じっと僕らを見つめている。

 

「グルウゥゥッ!」

 

獣のような叫びと共に、ついにそいつが動き出した。そいつの剣の切っ先がまず歯牙にかけようとしたのは、棒立ちとなっている優子だった。その猛チャージを、僕とアレックスが防御する。

反応はアレックスが刹那だけ早かったが、先に防御に回ったのは、俊敏の差で僕だった。

体術スキル『閃打』で、鎬を叩く。片手剣の狙いが外れ、虚空を貫く。そこにすかさず、優子とそいつの間に入れ込んだメイスの先で、思いっきりそいつの腹を殴り飛ばすアレックス。そいつは、三メートルほど後方に下がった後、優子と同じ『クロムライト・ソード』を上段に構えた。刀身が闇色の光を紡ぎ出す。ソードスキルだ。この構えは、恐らくスラント、もしくはバーチカル。

そこでやっと正気に戻った優子が、頭上で剣を横に構え、防御体制を取る。それを見た僕は、一秒後の相手の位置を予測して、体術スキル『エンブレイザー』を放つべく、右腕を脇腹に構える。アレックスも、同じようにソードスキルを発動させるためにメイスを構える。

ギャリィィンという甲高い金属音。そいつが発動したスラントが起こした、優子の剣との剣戟の音だ。同じ剣同士でも、そいつの持つ武器は、何か異質な質量を持っているとさえ思えた。

優子が、苦しげに唇を噛む。それを見て取った鎧が、更に剣を押し出す。

そこで、エンブレイザーの発動モーションが終了し、思いっきり突っ込む。同じくアレックスも、その得物に光を湛えながら、上段から振り下ろした。

さすがに、ミニマム・ゴブリンのように身体を貫けはしなかったが、それでも充分なダメージは、与えられただろう。

二人のプレイヤーから一気に強攻撃をうけた鎧のHPゲージが……HPゲージがないっ!?では、Mobじゃないのか?HPゲージが基本不可視の何か。NPCもしくは……。

もう一度チャージを決行するそいつを視界の端にとらえ、それかけていた意識を集中させる。

考えることなら、戦闘後にいくらでも出来る。そう自分に言い聞かせ、そいつの剣先がどこに向いているのかを見極めるため、じっと観察する。

っと……ここだ!鎧が放った刀身を真横から弾く。よくよく観察すると、こいつは、ステップやフェイントなどの戦闘技術を一切使っていない。全ての攻撃が、己の力に任せ、愚直に突っ込んでいるだけだ。それでは、折角の攻撃力も全て空回りだ。それを認識したとき、やっと僕の中に、思考を巡らせる余裕が生まれた。

まず、あいつのHPゲージが表示されない理由。考えられる理由は、現時点で三つだ。一つ目は、特殊なモンスターである。二つ目は、NPCである。三つ目は……プレイヤーである。

カーソルの色を判断するため、僕はちらりとそいつの頭上を見た。そいつを指し示すカーソルは、濃い橙に輝いている。

これで、ほぼ確定だ。こいつはモンスターだろう。

このSAOにおいて、モンスターを指すカーソルの色は、段階的に、白から赤へと変わり、黒へと変化していく。

僕から見て白だった場合、そのモンスターは、相当に弱いと判断出来る。同様に、赤なら、僕と同程度、黒なら、僕一人では絶対に勝てないぐらいの強さだということを意味している。その過程で、オレンジは白と赤の間、つまり……僕より少し弱い?こんなめちゃくちゃな奴が僕より少し弱いだって?そんな筈が無い!

つまりこれはどういうことだ?プレイヤーもNPCも、カーソルの色は、常にグリーンだ。だからこいつは、絶対にモンスターの筈……いや、待てよ……。もう一つ、カーソルがオレンジになる可能性があったはずだ。ということは、つまりこいつは……

そこまで思考が及んだとき、アレックスによってノックバックさせられたそいつに、優子が片手剣の初期技、バーチカルを発動させた。

そこで僕は、反射的に叫んでしまう。

 

「待って、優子!それは!そいつは……」

 

優子の放った剣先が、これまでの戦闘で磨耗した超硬の鎧を貫き、血のように赤いライトエフェクトをほどばしらせる。

もう遅い。そんなことは解っている。だけど、僕の口から、出かかった言葉を、食い止めることは出来なかった。

 

「プレイヤーだ!」


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