僕とキリトとSAO   作:MUUK

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ちなみに、前回のナッツを喉に詰めた話は筆者の実体験だったりします。皆!食べ物で遊ばないようにね!




第十三話「儚き剣のロンドーⅥ」

窓の外は、広大な森も、切り立つ山も、このアインクラッドという遊戯盤の外側に浮かぶ雲も、全てが闇に包まれている。その中に、煌々と輝く光の群が擬似的な銀河を形成していた。

屋台の灯りや、宿の電灯など、それらは、確かにこの世界にプレイヤーが生きているという証だ。それはつまり、その無数の星の一つとなる僕らもまた、生きているということだ。

その光景は、僕にここが、仮想世界の内部だということを感じさせない。もはや、僕らにとってこの場所は、一ヶ月、戦闘し、食事し、睡眠し、駆け抜けたもう一つの現実だ。

だからこそ、僕は『強化詐欺』という明確な『罪』の発芽に狼狽した。

そして僕には、今からキリトが語る言葉を聞く権利があると思うし、これ以上の犯罪行為を止める義務があると思う。

 

 

「この件で問題なのは、このSAOが、世界初のVRMMOだってことだ。ここじゃあ、剣は渡してからも俺たちの視界に存在し続ける。すり替えると言っても簡単じゃない……というか、むちゃくちゃ難しいはずなんだ」

 

そう、それこそがこの事件の一番の謎なのだ。それが解ければこの事件を解いたことと同義だし、むしろ、この事件の根幹は、そのトリックが形作っているといっても過言ではない。

 

「ええ……。わたし、剣を預けてからもずっと眼を離さなかったつもりよ。あの鍛冶屋さんは、わたしの剣を左手に持ったまま、右手だけで炉やハンマーを操作してた。あの状況でウィンドウを開いてストレージにわたしの剣を入れて、代わりに偽物を取り出すなんて不可能よ」

 

僕は祈って、眼を瞑っていたけど、アスナは、じっと見ていたようだ。僕も見ていた方が良かったんだろうか……。

 

「ああ、それは俺も確信してる。露店の商品棚には既製品のレイピアも並んでたけど、いいとこ『アイアンレイピア』止まりで、『ウインドフルーレ』は一本もなかったから、そこですり替えるのも不可能だしな……。ただ……」

「「ただ………?」」

「ただ、ほんの短い間だけど……俺の眼が剣から離れたタイミングがある。ネズハが、アスナから受け取った強化素材を炉にくべて、炉が青く光り始めるまでの……長くても三秒くらいなんだけどな」

「確かに、僕も炉を……青い光が綺麗だなあって思って……」

「わ、わたしもその時ずっと炉を見てたかも……」

 

これで、あの数秒の間にネズハが剣を入れ替えたことは確定だろう。だがやはり、まだ疑問は残る。だから僕は、その疑問を言葉として形作った。

 

「でも、そのたった三秒くらいで剣をすり替えられるかな?」

 

その僕の疑問に、当然とばかりに大きく頷き、キリトは口を開いた。

 

「今度こそ左手に注目して、仕掛けを見破ってやる……と、俺も思うよ。でも、難しいだろうな……」

「どうして?」

 

アスナがきょとんとした目で呟いた。

 

「今頃ネズハは、騙し取ったはずのウインドフルーレ+4が消えてるのに気付いてるはずだ。それはつまり、騙されたプレイヤー……この場合はアスナが『完全オブジェクト化』コマンドを使ったってことで、てことは詐欺行為の存在もバレた可能性が高い、と彼は判断するだろう。しばらくは警戒して店を出さないか、だしても強化詐欺は絶対やらないと思うよ」

「…………そうね。あんまりイケイケな感じの人でもなかったしね……っていうか、そもそも……」

 

そこでアスナは、口を噤んだ。それを引き継ぎ、僕は呟いた。

 

「うん。僕にもネズハは、詐欺をするような人には見えなかった」

「ああ……俺も、同感だ」

 

ほんの少しだけ、アスナの表情に微笑みの色が見えた。

そして、キリトは空気を変えるように、声を変えて言った。

 

「しばらく、情報を集めてみる。すり替えのトリックもだけど……ネズハ本人についても」

「集めてみるっていうより、アルゴに頼むって感じでしょ?」

「ご名答!」

 

僕ら二人は顔を見合わせ、苦笑した。僕は、そしておそらくキリトも、彼女に半分騙されたように、あの地獄の体術スキル修行をしたことを思い出しているはずだ。

そんな僕らを怪訝な眼で見ながら、アスナはいつものソプラノをアルトにして言った。

「どちらにせよ、明日は前線に出なきゃだめでしょ?今日のお昼にマロメで聞いた話じゃ、明日の午前中に最後のフィールドボス戦があって、午後からは迷宮区に入れるだろうって」

フィールドボスというのは、迷宮区の外に設置されている中ボスのことだ。

この情報から分かることは、第一層で、二十日かかった迷宮区までの道程を、第二層では、なんと一週間で踏破してしまったということだ。これは、『始まりの街』で待っている人達の、ボスに勝利したことで灯った希望の灯りをさらに大きく焚き付ける結果となるだろう。

キリトの顔にも少し笑みがこぼれていた。そして、そのままの顔でキリトはアスナに尋ねた。

 

「へえ、早いな……。攻略部隊のリーダーは誰なんだ?」

「キバオウさんと、あと一人……リンドさんていう人」

 

毎度おなじみの僕の苦手なキバオウさんがノミネートされていた。苦手の原因を作ったのが僕の気がするけど。

しかし僕には、もう一人のリンドさんという名前には、聞き覚えがなかった。

それはキリトも同じようで、僕らは二人して、アスナの説明を待った。

 

「リンドさんは……一層のボス戦の時に、ディアベルさんのパーティにいた、シミター使いの人よ」

 

僕の喉が急速に渇いた。息が詰まり、呼吸も覚束なかった。

僕の脳裏に浮かぶあの日の情景。キリトを糾弾し、絶叫し、紛糾し、慟哭する一人の男の光景。

彼がこの、キリトの状況を作った張本人だというのは解る。だが、頭に血が上っていたあのときとは違い、冷静になった今なら、彼の行為は非難できるものではないと思える。

彼はボスが倒されたことで失った怒りの矛先を、彼の推論で、ディアベルを救えたはずだと思ったキリトに向けたのだ。

褒められたことでないにせよ、間違ったことでもない。

いや、彼を焦点に当てることがおかしいか。そもそもあのとき、僕が彼を止めることができたならこんなことにはならなかったのだ。

こんな僕の思考を自嘲する。僕みたいなバカは理論よりも行動のはずだ。やはり、僕自身のエスプリにも、このデスゲームに囚われ、変化が生じているのだろうか。

その時、キリトは僕と同じくしていた長い沈黙から脱した。

 

「キバオウはともかく……あのシミター使いがリーダーなら、フィールドボス戦に俺のワクはなさそうだな。二人はどうするんだ?」

 

レイピア使いは栗色の髪を揺らしながら、かぶりをふった。

 

「フィールドボスの偵察隊には参加したんだけど、ラストアタックボーナスの扱いとかでちょっと頭ごなしな言い方されて、『なら本戦には参加しない』って言っちゃった」

 

なんと言うか、アスナらしい言葉すぎて、僕の頭に、リアルなその場の光景が浮かんできた。

 

「うーん、じゃあ僕もやめとこうかな」

 

その僕の答えは、有る程度予期していたようで、剣士は小さく、上下に頭を振った。

 

「まあ、フィールドボスはそう手こずる相手でもないんだけど、フロアボスが問題でさ、ちょっと特殊なスキルを使うんだよ。迷宮区の時間湧きMobで対処法を練習できるから、それさえやっとけばいいんだけど……」

 

ベーダテスター節を思いっきり炸裂させたキリトの言葉を聞くと、アスナは即断即決で言った。

 

「なら、鍛冶屋さんの件はひとまず置いて、明日はその練習に当てましょう」

 

何かを考えているらしいキリトは、よく考えずにその意見に頷いていた。

 

「ああ、そうだな……」

「集合は朝七時にウルバスの南門でいいわね」

「うん、そうだな……」

「今夜は夜更かししないでちゃんと寝るのよ。遅刻したら今度こそ加速度百Gですから」

「おう、そうだな……って、え、は、はい?」

 

今頃我に返ったのか、このバカは。というか、僕の意見は全く聞かれなかったな……。

まあ、そんなことより、遅刻だけで百Gとはこれ如何に?




どうしよう……。説明だけで終わってしまった……。僕自身、話が進まなさすぎて、びっくりしてます。
というか、地の文長すぎんじゃねって話ですよね〜。

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