僕とキリトとSAO   作:MUUK

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遂に話数が二桁です!
初回から今まで見続けて下さっている読者の方々には頭が上がりません!
こんな行き当たりバッタリな駄文をこれからもダラダラと続けていきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げますm(_ _)m


第十話「儚き剣のロンドーⅢ」

「スイッチ!」

 

そのキリトの声を聞き、僕は、アスナを狙って攻撃モーションに入ろうとしている巨大蜂『ウインドワスプ』に突っ込んだ。虫にしては巨体、モンスターにしては矮小な身体の側面に、体術スキル単発突き『閃打』を当てて攻撃軌道を逸らす。

そのまま毒針を前にした突進攻撃を継続した巨大蜂がアスナの横を掠めたとき、

 

「……ハァッ!」

 

流麗な気合いと共に、レイピア使いは、渾身の細剣用ソードスキル『リニアー』を炸裂させた。

 

「四十二!」

 

アスナはキリトの方を見て、勝ち誇ったようにそう言った。この数字は今迄に倒した蜂の数だ。この二人は今、ある賭けをしている。そして現在、アスナの二ポイントリードという状況だ。

僕?零に決まってるじゃないか。

そうして、さっき倒した黒と緑の縞模様が特徴的な巨大蜂がポリゴンとなってガラスのように砕け散ったとき、アスナの眼前ににアイテム取得の通知が入る。

 

「針が出たわね。もう充分溜まったわ。『ウルバス』に戻りましょ」

「い、いや、ちょっと待ってくれ。一応予備も取っておいた方がいいんじゃないか?」

 

当たり前だが、強化素材に予備なんて必要ない。なら、なぜキリトはこんなことを言いだしたのかというと……

 

「素直に言いなさい」

「すいません。もうちょっとだけ延長してください」

 

賭けに勝ちたいのである。

 

「そうね。じゃあ百匹になったら辞めましょうか?」

「ありがとうございます!」

 

キリトは今、完全に直角に頭を下げており、それを上から眺めるアスナの顔はまさしく強者の余裕を体現している。

なんというかこの二人、はたから見ていて面白い。

 

「二人とも!新しいのがPOPしたよ!」

 

僕がそう言うと、剣士二人は痛いほどの眼光で巨大蜂を貫いた。それだけで蜂が萎縮した様に見えたのは、気のせいだと思う。多分……。

まず、僕がサマーソルトキックのような体術スキル『弧月』をウインドワスプに命中させる。

ノックバック。そして、コンマ五秒のディレイ。

その隙に、キリトが片手剣用ソードスキル『スラント』を発動させた。

 

「ウオォォォっ!」

 

しかし、当たりが浅かったらしく、蜂の体力ゲージはレッドゾーンで減少を止めた。

巨大蜂は、後方へと飛んだが、その動きを予期していたかのように、先に蜂の後方へと回りこんでいたアスナは、華麗という以外の形容が似つかわしくないほどの『リニアー』で止めを刺した。

 

「四十三!」

 

そう宣言したアスナの顔はニヤニヤと言う擬音が聞こえそうなほどの表情を浮かべ、それと対照的に、キリトの顔は苦々しく歪んでいた。

 

三十分後

結局、アスナが二匹差を保ったまま、勝利を収めた。

 

「お疲れ様、二人とも」

 

何故かアスナは元気溌剌な声で僕らに労いの言葉をかけた。いや、理由は明確だ。

 

「楽しみだなあ、あのケーキどうしても食べてみたかったの。たった二匹差でも勝ちだものね。男の子なら、約束は守らないとね」

 

素手で良かった。そもそも戦いの土俵に上がらなかったんだから。

 

 

「……美味しかったね」

 

カフェを出てまず発した僕の第一声がそれだった。

結局、僕とキリトはアスナから分けてもらったケーキを仲良く半分ずつにして食べた。キリトがコルを払ったんだから、キリトが食べていいと思ったんだけど、僕にも譲ってくれた。

やっぱ、いい奴である。

街は、金色の夕暮れを超え、夜の闇を人々の光と喧騒が打ち砕いている。

そして、意識するとどこからとも無く笑い声が聞こえてくる。これは、デスゲームにおいて重要な意味を持つだろう。つまり、恐怖と絶望、または怒りが大きなウエイトを占めていたプレイヤー達の心に笑う余裕が生まれたのだ。

しかし、その笑顔は、必ずしもプラスの意味を持つとは限らないかもしれない。この世界を受け入れてしまえば、この世界の住人になってしまえば、それはこのゲームを攻略する意思の喪失に他ならない。

それの意味するところは、僕らの、プレイヤー達の屈服だ。

そんな憂慮をアスナの同意が打ち消した。

 

「うん…………美味しかった…………」

 

この世界での始めてのデザートを堪能して、彼女も感嘆を漏らしていた。

 

「……なんか、ベータ時代より更に美味かった気がするな……。クリームの口溶けとか、くどくなく物足りなくもないギリギリの甘さとか……」

 

お前は何の評論家だ。というツッコミは心の中にとどめておいた。何故なら、キリトの言っていることは僕も感じたからだ。

それほど、あのケーキは美味しかった。

すると、アスナは僕が感じたものとは別の部分を疑問に感じたようで、キリトに問うていた。

 

「……美味しくなったって……それはさすがに気のせいじゃないの?ベータテストと正式サービスでそんな細かいチューニングをするものなの?」

 

言われてみれば確かにそうだ。茅場は甘いもの好きだったりするんだろうか?

 

「味覚エンジンが再生するデータを更新するだけなら、大した手間じゃないと思うよ。それに、味はともかく、コレだけはベータの頃には絶対なかった」

 

そう言ってキリトが指差したのは、HPバーの横で点滅している四つ葉のクローバーの形をしたアイコンだ。

その効果は『幸運判定ボーナス』のバフだ。状態異常の抵抗判定や武器落下(ファンブル)転倒(タンブル)の発生確率、そしてレアアイテムのドロップ率などに関与するという結構ありがたい代物だ。

しかし、残念ながら今回のケーキの場合、効果時間が十五分と、狩りをしようとするとあまりに短い。

 

「……残念だけど、今からフィールドに出て狩りをするには、ちょっと足りないわね」

 

どうやらアスナは、僕と全く同じことを考えていたようだ。

そして、またキリトも然りであり、唸るように言った。

 

「でもなあ……せっかくのバフがもったいないなあ……」

 

キリトは、頭の中で色々な案をぐるぐる回していたが、広場の東の方から、カーンカーンという金属音が聞こえてきたとき、ばっと顔を上げて呟いた。

 

「あっ……」

 

そこで僕も、さっきの狩りの目的をようやく思い出した。

 

 

その鍛冶屋は、よくよく見るとドワーフの様な姿形をしていた。ずんぐりとした体格に、誠実そうな丸顔はもう本当にドワーフのそれとしか言いようが無い。

難点を上げるならば、ドワーフの象徴である立派な髭がないことだろうか。

そんな益体のない思考をアスナの鈴の音のような声が遮った。

 

「こんばんは」

 

その声を聞いた鍛冶屋はさっというより、どてっと顔を上げ、深々と礼をして言った。

 

「こ、こんばんは。いらっしゃいませ」

 

ドワーフさんは、テノールよりアルトに近い声でおどおどと言った。

ネットゲーマーに女性耐久が無いのは常だが、それで商売が務まるのだろうか。まあ、僕が心配することではないだろう。

鍛冶屋が向かう鉄床の横には、口が裂ければ立派と言える程度の看板が立て掛けられでいた。看板曰く、店の名は『Nezha's Smith Shop』。

ということはつまり、この鍛冶屋の名はネズハと言うことになるのだろう。

 

「お、お買い物ですか?それともメンテですか?」

 

すると、アスナは腰にさげたウインドフルーレを待ち上げ、用件を言った。

 

「武器の強化をお願いします。ウインドフルーレ+4を+5に、種類はアキュラシー。強化素材は持ち込みで」

 

すると何故か、ウインドフルーレを見たネズハは、自虐的な困り顔をしてしまった。うーん、昼間のことをまだ引きずっているのだろうか。

しかし、鍛冶屋としての仕事はきちんと果たす意欲があるようで、アスナの言葉に質問を返した。

 

「は、はい……素材の数は、どれくらい……?」

「上限までです。鋼鉄板が四個と、ウィンドワスプの針が二十個」

 

これで、武器強化のオプション設定は終了だ。

SAOの武器強化に必要な『基材』と『添加剤』を設定したのだから。

今回の場合、鋼鉄板である『基材』は、武器強化に常に必要不可欠だ。対して、『添加剤』は何をどれだけ使うかを設定できる。それにより、強化の種類と成功率が変動する。

ウィンドワスプの針は、クリティカル発生率を上げるパラメータである『正確さ(アキュラシー)』用の添加剤だ。それを上限いっぱいまで使ったときの、強化成功確率は、脅威の九十五パーセント。これで失敗すれば、目も当てられない。

そう、絶対にとは言わないが、失敗する確率は限りなく低いのだ。なのに、ネズハは、強化自体を忌避するように表情を歪ませる。しかし、彼も鍛冶屋だ。客の依頼を断る理由もないだろう。

 

「解りました。それでは、武器と素材をお預かりします」

 

と、軽く頭を下げ、ネズハは、アスナから丁寧にウインドフルーレを受け取った。

その後、アスナは空いた手でメニューウィンドウを操作し、麻袋に纏めておいたコルと基材、そして添加剤を鍛冶屋へと手渡す。

アスナは、もう残り四分となった幸運バフを横目で見て、キリトに何か言おうとしていたが、何かが彼女を踏み止まらせたらしく、くちを噤んだ。

その時、ネズハがアンビルの奥に設置された携行炉へと向かい、そこに、四枚の金属板と、二十本の蜂の針を流し込んだ。

携行炉は、一瞬、大きく真紅に燃え上がったかと思うと、一転して、氷を思わせる蒼炎へと、徐々に灯す炎の色彩を変えた。

そこに横たえられたウインドフルーレを、スカイブルーの炎が包み込む。

そして、ネズハが炉より剣を取り出し、鉄床の上へと移動させた。

カァン!カァン!と小気味好い音色が辺りを包む。

僕は、目をきつく閉じ、両手を合わせて願う。どうか、どうか成功しますように、と。

十回目。カァン!と響く。

強化の全行程が終了し、ウインドフルーレが上げた眩い閃光が、閉じられた瞼を通過し、僕の視覚野を刺激する。

僕は、恐る恐る目を開き、そして、目を疑った。

僕が目を開けたその刹那、ウインドフルーレは、とても、とても綺麗な音を立てて、その刀身をポリゴンの破片へと変えた。




わーい!三連休です!
筆者はなんと、小説を書く為に予定を開けておりますので、書き放題です!(あくまで小説を書く為です。友達がいないとかではありません)
というわけで、明日も投稿したいと思います!

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