インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
セシリアの暴走を止め鍋を見る……
なんというか見た目は普通のカレー、匂いも異臭を放っているわけでもなのだが……体が……俺の第六感が危険信号を送り続けている。
一体どうすればここまでの危険物を……
リビングの方で座っている一夏たちに声をかける。
「……どうすればこんなものが出来るの?途中レーザーとか言う物騒な単語も聞こえたんだけど……」
「…セシリア、何をやったんだ?」
「わたくしはただ隠し味を…」
「いや……ぜんぜん隠れてないよ。ものすごい自己主張はげしいから。っていうか…箒と鈴が一緒に居ながらなぜこうなったんだよ…」
「私たちが目を離した一瞬だったのよ…」
「正直前のサンドイッチがあったからあまり警戒してなかったんだ……」
で、気がついたらこうなりましたってことか…
二人の顔を見る限り本当に一瞬なんだろう……一瞬でここまでやばくなるとは…
「まぁ…今度は普通に作ろう。材料は買ってきたし。」
「今度こそはわたくしの――」
「「「「「お願い座ってて!!」」」」」
「そんな!!奏さんからも何か言ってください」
どうしてそこで俺に振るの?
セシリア以外の目線は頼むから止めてくれ…といった感じだ。
とりあえず話をそらそう。
「あ~……簪ちゃん居ないけどどうしたの?」
「簪は用事があると言っていた。何でも弐式の山嵐のほうが完成しそうなのだ。」
「おお!!それは朗報。」
「ああ、ようやくらしいからな……」
と箒と話しながら笑いあう。
箒も結構簪の弐式のこと気にしてたからな。
だがあまりにも露骨に話題を変えすぎたな…セシリアがじーっとこちらを見てくる。
一夏…お前の相手だろ?自分で何とかしろよ……あ、そうだ。
「セシリアのことだけど、一夏。お前一緒について作り方教えてやれよ。」
「え!?俺が?」
「へ?……ちょっと奏!!どうしてそうなるのよ!!」
「いや、君たちはお前たちでキッチンで何か作れば良いさ。ただ一夏はセシリアの指導をしろって言う話し。君たちも途中一夏に味見でも頼めば良いだろ?」
「じゃ、じゃあ、奏。お前が間に入れば良いじゃないか!!」
「いや…僕料理を人に教えるの苦手だし。それに僕は既に買い物してきた分一夏より働いてる。別にそれで良いだろ?一夏。」
「ああ、別に俺はかまわないぞ……それより腹が減った…」
そう言ってがっくりする一夏。
そういや俺もシャルロットも何も食ってないんだったな…
ちゃっちゃとパスタを作るか……
「シャルロット何か食べるか。」
「えっと…お願いしても良い?」
「奏、俺の分は?」
「お前は味見担当だから腹をすかせておけ。それで良いだろ?皆。」
そう言うと四人ともうなずく。
……ラウラ、お前も何か作るつもりなのか?
だとしたらあのキッチンに6人……流石に入らないだろう。
「先に僕が作っていい?」
「ああ、かまわない。」
「セシリア、その間に何を作るか考えようぜ?」
「は、はい!!わかりましたわ!!」
そう言って一夏とセシリアは料理本を開き始めた。
他の3人も一緒になって読んでるな…さて、さっさと作るか。
パスタの麺を茹でてる間に多めのオリーブオイルでキノコを炒め、その後ツナ缶を入れて軽くほぐしながらしょうゆと胡椒、軽く出汁の元をふる。
麺が湯で上がったらあまり水は切らずにそのまま炒めた具に加え油と茹で汁を乳化させる。
後は味見をして皿にもって海苔を散らす、よし完成だ。
皿を三つ持って行く。
「ほらできたぞ、シャルロット、一夏。」
「サンキュウ。」
「え?さっき一夏は無しとか言ってなかった?」
「まぁ…流石に飯抜きはきついだろうからとりあえず少しだよ。」
「……何だかんだであんた一夏に甘いわよね…」
鈴にため息をつかれやれやれといった感じに首を振られる。
いや…別に特別甘いわけでは無いと思うのだが…
「いや…むしろ一夏にはきつい方だと思うけどなぁ…」
「まぁ別にいいけどね。じゃあ作るわよ!!」
「私もつくろうか。」
「ラウラ、何作るの?」
「秘密だ。まぁ…食べられるものだ。」
そう言ってキッチンに向かう二人。
あれ?何で箒は向かわないんだ?
「箒は?」
「私は後にする。」
そう言ってちらっと一夏の方を見る。
ああ、出来るだけ一夏と一緒にいたいのね。
一方その一夏の方はセシリアと何を作るかを話している。
たのしそうだし放置で良いか。
「ねぇソウ。」
「うん?」
「あれって…」
シャルロットがそう言って指差す方には写真立て。
あれは千冬さんと一夏の写真だな、基本ツーショットになっている。
「ああ、千冬さんの写真だよ。」
「へー…織斑先生こんな感じだったんだ…」
「そういや俺も落ち着いてみたこと無かったな…」
そう言って一緒に写真立てを眺める。
これが一番昔の…中学生時代の千冬さんか…何と言うか雰囲気は柔らかいな…
こっちが一番新しい千冬さんの写真…写真からもきりっとした感じが伝わってくるな。
しかしこの姉弟…本当によく似てるな…なんというか写真で見るとなおの事それがわかる。
普段千冬さんは仏頂面で一夏は気の抜けた顔をしてるからあまり感じないがこうして同じ風にカメラに微笑んでる時にはすごい似てるな。
シャルロットもそれを感じたのかボソっと口をこぼす。
「すごい似てるね…」
「ああ、俺もそう思うよ。」
「……そういえばソウの写真とかないの?」
「えっと…卒業アルバムとか?」
「?何それ。」
「中学校卒業時の写真集みたいなもんだよ…ただ俺あまり映って無いんだよなぁ…」
「そうなんだ…」
と少し落ち込むシャルロット。
そんなことを話していると後ろの方にいる一夏から声がかかる。
「いや、あるぞ。」
「え?何が。」
「奏の写真、それも結構な量。ただ他にもいろいろと混じってるけどそれでよければ見るか?シャル。」
「う、うん!!見る!!」
そう言うと一夏は上からカメラのメモリーを持って来る。
あ~そういやこいつ何かとよく写真撮ってたな。
それを見てキッチンにいる二人も興味があるようだ。
って言っても大半俺と一夏と弾、あと最近会わないが御手洗 数馬(みたらい かずま)というもう一人が居るのだが……こいつは今弾と一緒にバンド活動みたいなことをやっているらしい。
まあ、そんな四人で馬鹿をやってる写真が大半だ。
一夏も時々弾や俺にカメラを奪われ一緒に映っているはずだ。
データを見ていると突然前面に俺の寝顔が映っていた。
「?これってソウの寝顔?」
「……おい、一夏、何撮ってる。」
「い、いや…記憶に無いぞ!?」
そう言って次の写真を見ると今度は一夏の寝顔が写っている。
日にちも一緒……なんだ、これ?
一夏も不思議そうな顔をしている。
「多分…弾か数馬じゃないか?」
「…多分だろうな…今度聞いておくか。」
そう話してる間にもシャルロットは他の写真を見る。
箒もチラッと見るようにして一緒になってみている。
セシリアは…料理本に夢中か…
「ソウ、一夏。この人は?」
「ああ、そいつが五反田 弾、で隣にいるのは御手洗 数馬。どっちも俺と奏の友達。」
「確か…『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』だったけ?そんな名前のバンドみたいなの今やってるんだっけ?」
「何アイツらバンドやってるの。」
キッチンの方から鈴の声が聞こえる。
笑いながら返事を返す。
「ほんとさ。確かバンド名が決まらなくてこんな名前になったらしいよ。」
「ふ~ん……後でちょっかい出してやろうかしら。」
「そういえば蘭も鈴に会いたがってたぞ?」
「へぇ……まぁ良いでしょう…」
そう言って悪い顔をする鈴。
多分煽る気満々なんだろうなぁ…
弾いわく『蘭と鈴は犬猿の仲っていうか、ハブとマングース?…トムとジェリーっていうのが一番しっくり来るな。』というような仲らしい。
一夏から見たらすごく仲がいいということなのだが…まぁ間違ってないんだろう。
「ソウ、ここは?」
「ああ、それ俺のアパート。」
そう言って映し出されていたのは結構ぼろくさいアパートだ。
俺は一応ここに部屋を借りてるんだが……まったく帰らなかったなぁ…
多分一夏の家にいる時間のほうが多いし。
「へぇ…あ、これはどこ?」
「あ~それはな――」
そんな風にして結局俺は四人の料理が出来るまで永遠と写真の説明をシャルロットにすることになった。途中料理を作り終えた鈴たちも混ざってきたが…とりあえず俺の主観の話を続けた。
「ご馳走様っと。」
「本気で全部食べきったわ…こいつ…」
「本当にどこに入ってるんでしょうか…あの量…」
全員で夕食を食べ終える。
セシリアは結局おにぎりを一夏と一緒に作っていた、途中一緒に手をとって握っているのを見て4人が嫉妬していたのは言うまでもないだろう。…ラウラの料理は『アイントプフ』だったな…味付けもどこか懐かしい…これはもしかして、と思いラウラに声をかける。
「食い終わった後だけど、これ婆さんから教えてもらったのか?」
「!!奏兄わかったのか!?」
「まぁ…婆さんのアイントプフは材料を結構細かく切るからな。」
「へぇ…奏のおばあさんの味だったのか…」
そう言って一夏がしみじみとした表情で何か考えている。
俺が何か言う前に箒と鈴がツッコミを入れる。
「一夏、何かくだらないこと考えてないだろうな。」
「え?べ、別に…」
「図星ね。」
そういわれた瞬間玄関の方で音がする。
恐らく千冬さんかな。
「なんだお前ら全員ここにいたのか…」
「お帰り千冬姉。」
「千冬さん、ども、お邪魔してます。」
「「「「「お邪魔してます。」」」」」
そう言ってあたりを見渡す。
恐らくビフォーアフターに驚いているのだろうか…
一夏が何か余計な事を言う前に話題を変えよう。
「そういえば千冬さん何か食べますか?」
「いや、この後すぐに出る。あと…学生として自覚して行動しろよ?」
「了解しました。」
「あ、千冬姉の部屋から布団引っ張ってきてもいいか?」
「ああ、好きにしろ。」
そう言って千冬さんは自分の部屋へともどって行った。
そういえばシャルロットはともかく他の四人はどうするつもりなんだろうか。
「そういえばシャルロットはともかく君らは今日どうする気なの?」
「?シャルロットはってどういうこと。」
「いや、泊まるらしいからさ。」
「「「「へぇ~~~~」」」」
そう言って四人からニヤニヤされながら見られる。
シャルロットは顔を赤くしている。
こいつらここぞとばかりに俺をからかうつもりだな…俺は大して顔に出さないようにする。
「うん?どうした皆。」
「いえ~別におアツいことなんて思っておりませんよ~」
「そうそう。別にカップルが何をしてもねぇ?」
と言って俺をからかおうとするセシリアと鈴。
俺は苦笑いしながら返事を返す。
「君らが期待してることなんて一切無いよ。」
「口ではなんとでも言えるな。」
「箒。君の中の僕はそんなに向こう見ずなのかい?」
「男は皆狼だろう、特に日本では――」
「クラリッサの間違いだから、それ。シャルロットからもなんか言ってくれよ。」
「……え?わ、私!?」
「お前以外に誰が居るっていうんだよ。」
ぼーとしていたシャルロットを、話しに引っ張り込む目的で話を急にふる。
予想外だったらしく四人にニヤニヤした顔で見られて、あわてるようにしながらシャルロットが話し始める。
「え!?えっと、ソウはそんなことしないと思うよ!?」
「思うねぇ…本当に?」
「えっと…あ、相手はソウだよ?」
「男女の間に『まさか』は無いんだろ、シャルロット。」
「で、でも!?」
ああ、完全にいじられてテンパッてるな。
俺も苦笑しながらそれを眺める。
鈴がいたずらをするようにしてニヤニヤ笑いながら話す。
「そういえばあんたたち告白した時の状況聞いてなかったわね、どういう風に言ったのよ。白状しなさい!!」
「え!?そ、それは……あ、ひ、秘密だよ!!」
「そんな事言わずに説明してくださいな。」
「え!?だ、駄目だよ!そんなの!!」
「奏、シャルロットはどういう風に告白したんだ?」
「箒!?」
「シャルロット、観念しろ。」
「ラウラまで!?……ソウ!?」
そんな目を赤くして泣きそうな顔で俺を見るな。
こっちは笑いそうなのを我慢しているんだ。
それにしても告白した時か……あ、これシャルロットが風呂場に侵入したこと話す必要がある…いやそこだけ省いて話すことも出来るが…ばれたときが怖いな。
「それは僕とシャルロットだけの秘密かな。」
「「「「え~…」」」」
そう言うとシャルロットはほっとしたような顔をしている。
こういうことになるから今度からは考えて行動してくれよ……
そういうことを考えていると箒がふと思いついたように聞いてくる。
「そういえば……二人はで、デートはしたのか?」
「……そういえば学園内ではよく一緒に居るけど…外に一緒に出て行く事は無いわよね…」
「私の部下からの情報では中の良い友達のようだったと伝えられてるな。」
「?そういえば何でデートしないんだ奏。」
「あ~……いろいろと問題あって付き合ったらまずいんだ、僕とシャルロット。」
俺がこう言うと全員、へ?と言った顔をする。
苦笑したままの表情で話を続ける。
「あ~…セシリア、鈴、ラウラ。僕が外国でどんな評価受けてるか教えてもらって良い?」
「えっと…『有能だが飼いならすのには苦労する』とかあとは…」
「わが国では『ヒーロー』と…」
「私の国ではあまり…その…」
と全員どこか話しづらそうにしている。
まぁ…あまり良い噂は流れてないだろうな。
「『ハニートラップに弱い』とか『女の使い方がわかってる悪漢』とかになってるんじゃないか?全部が全部そうとは言わないけど。」
「…知ってたんですか…」
「むしろわざとそういう噂を広めてもらった。」
「何でそんなことしたんだ、奏兄。」
「あ~……まぁ事情があったって感じ?」
「どういう事情なんだ?恐らくシャルロットのことだろうと思うが…そういえば今まで一切聞くことが無かったな。」
「えっと~…」
俺が言葉を濁すように話を切る。
実際面白い話じゃないし軽く話すことでもない…それに現在もシャルロットは悩んでるんだ。
あまり話したくないんだが…
俺が悩んでいるとシャルロットが話し始める。
「……私を守るためなんだ。ほら…私、入学当初男として入学してきたでしょ?」
「あ、ああ。だがそれは書類上のミスでそれを利用した人物を摘発するまでの期間だけだったのでは?」
ラウラがフランス政府が発表した内容を話す。
まぁ…それだけだったら何の問題も無いんだがな…
シャルロットは作ったような笑顔で話を続ける。
「あれは…あってるけど全部が本当じゃ無いんだ…」
「シャルロット、どういうことだ?」
「私ね…はじめはIS学園にスパイとして送り込まれたんだ…男性操縦者のデータと…第三世代の機体データを集めるためのス--」
「おい、シャルロット…」
「ソウ大丈夫…みんなにはわかってもらったほうがいいと思う…」
そう言ってシャルロットは再び笑顔を作る。
その笑顔がどうしようもなく気に入らなかった。
何よりもそんな笑顔をさせなければいけない現状がどうしようもなくイライラさせた。
顔には出さないようにしたが声が少し低くなったな…
「話を戻すけど私はスパイとしてIS学園に送り込まれたんだ。」
「……では…デュノア社長の娘ということも嘘なのか?」
「ううん。それは本当。ただし…愛人の子だけどね…」
「な!?…すまない…」
「気にしないで。私はじめはフランスの田舎の山の方で、お母さんと一緒に暮してたんだけど…お母さんが死んだ後にデュノア社に見つかって……デュノア社に連れてかれたんだ。」
完全に雰囲気は静かになっていた。
4人とも真剣な顔で話を聞いていた。
一夏もさっきから黙って話を聞いていたし、扉の向こうには千冬さんの気配もする。
ただ俺だけはどうしようもなくむしゃくしゃしていた。
いまさら憤ったって仕方ないのに…頭で理解しても感情の方がなんとも出来なかった。
「その後2年間ほど軟禁されながらデュノア社のテストパイロットをやらされてたんだ。」
「それが…どうしてスパイなんてやらされたんですの?」
「……デュノア社の乗っ取りのための駒にされたらしいんだ…ばれたら責任を全部わた…デュノア社長と私に押し付けてデュノア社を乗っ取るつもりだったらしいんだ…」
「…じゃあどうやってそれを防いで…IS学園に残れたの?普通最低でも刑務所送り、下手したら一生出てこれないようなことよ…」
鈴が真剣な顔で言うと一夏が反応する。
「え?そんなに重罪なのか?」
「IS学園は他の国家からかなりの代表候補生と…各国の最新のIS技術が集まる場所ですわ。もちろんスパイが大量に発生しかねない上に、他の国家は手が出せない環境になっていますわ…」
「だからその分他国の重要データを奪う、または盗む行為はばれた瞬間即刻問答無用でつかまるのが普通だ。そうしなければIS学園の独立性は保てない。」
「そうなのか…」
一夏が納得したようにうなずく。
他国が介入できないところでスパイ活動がし放題だったら誰も最新データの塊をもってIS学園には来ないだろう。だが、『ソレ』が出来ているという事は何らかの厳しい罰則と発見するための組織があるはずである。
恐らくその組織が『更織家』なんだろう…
シャルロットはその説明が終わった後に話を続ける。
「本当はすぐにつかまるはずだったんだ…私ももちろんわかってた。それでもせめて最後にソウに会いたかったんだ…」
「奏兄にか?」
「うん、私のことをしっかりと知っている人で…約束もしてたからね。そのためにIS学園にきたんだ…ソウに最後に会って自首するつもりだったんだ…」
そう言ったあとシャルロットは本当におかしいようにクスクスと笑い始めた。
「それをソウの部屋に言って言った後に…ソウなんていったと思う。当たり前のような顔で『助ける。』って言ってもう既に行動してたんだよ。再会してから一日も経ってないのに。」
「奏さんは何をやったんですか?」
「単に楯無さんと交渉しただけだよ。元々貸しがあったからそれを使ってね。」
「……楯無って誰だ?簪では無いだろう?」
一夏が首を傾げた考える。
そういえば……こいつまだあった事が無かったな。
説明は皆に任せよう。セシリアが口を開く。
「IS学園の生徒会長で現役の『ロシア代表操縦者』ですわ。…一夏さん、IS学園での生徒会長の意味はご存知ですか?」
「えっと…単に投票で選ばれたとかじゃ無いのか?」
「いいえ、基本的にそのようにして選ばれる事はありませんわ…『学園最強』これが生徒会長に必要な資質ですわ。」
「え?…つまりIS学園で一番強い奴ってことか!?」
「名前は更織楯無、つまり簪の姉さんだ。そこで元々つながりがあってな。それで俺が交渉して一ヶ月のタイムリミットを貰ったんだ。」
俺がそう言うと一夏たちがへぇ~といった顔をしている。
話は再びシャルロットに移る。
「その後はソウが一人でいろいろと掛け合ってね…最終的に新型機によるデュノア社の再建させることとソウから得れる男性操縦者のデータを条件にフランス政府の方で私のことを助けたんだ…」
「そのときに結構無茶してね、国際的な条約をいくつか屁理屈で捻じ曲げたあげくフランスにかなり譲歩した感じに僕が動いたせいで、いろいろと国際的に問題になりそうでね。そしてその時期に弱みを探されたら…シャルロットのことがばれかねない。だからしかたなくいろいろブラフとして嘘の情報をばら撒いてもらったんだ。僕がこれ以上フランスに干渉することは無いって公言することで釘を打ったあとにね。」
「それで…」
「そう。シャルロットはスパイじゃないってことにするために嘘をいろいろとばら撒いたのさ。まぁそういうこともありましたって感じで思ってくれれば良いよ。」
そう言って俺は話を打ち切る。
結構内情を話したな…こいつらが回りに話すような奴ではないことは重々承知しているがそれでも知っている人物が少ないほうがいいことには変わりない。
さて、あとはこいつらがどんな反応をするかだな…鈴がぼっそと言葉を話す。
「一つ聞いていい?」
「答えられることなら。」
「シャルロットの父親はシャルロットをどうするつもりだったの?」
「一応助けるつもりだった。詳しくは話せないが罪は全部自分でかぶってな。」
「……そう…」
「今はどんな感じなんだ?」
「私のほうも…おとうさんの方も連絡をとってないんだ…」
「そうか……すまないことを聞いてしまったな。」
そう言って鈴と箒は考え込む。
セシリアとラウラはどこか納得がいかない顔をしている。
多分デュノア社長についてだろう…
まぁ…納得できる話じゃないだろうよ。
俺だって納得してないしな。
だがこの中で一人だけ違うことを考えている奴が居た。
「…奏、俺も一つ聞いていいか?」
「なんだ一夏。」
「それがどうしてシャルロットとデートできないって事になるんだ?」
「いや、だからな、フランス政府にこれ以上ひいきしないように――」
「え?でも今の話しだとフランスとは互いにもう干渉出来ないからシャルロットの事は問題と関係ないんじゃないか。お前と付き合ってることがばれてもフランスには行けないから止める必要も無いし。」
「「「「「……あ。」」」」」
っち、と舌をならしそうになるのを我慢する。
こいつはどうしてそう気がつかなくてもいいところに気がつくんだ……
確かに一夏の言うとおり『俺は何があろうとフランスには所属しない』事になっている…
つまり今シャルロットと付き合ってもフランスにプラスになる事はゼロ。
さらに俺はフランスの犯した罪をすべて知っている…無理やりシャルロットを利用しよう使用とする馬鹿はいないだろう…下手をしたらフランスがIS学園への侵入禁止にもなりかねない事だ。
恐らく他国からいろいろ言われるとは思うが、俺を縛り付けるようなものにはならないだろう。
俺はともかくシャルロットのことを言われるのはなぁ…
そんなことを知ってか知らずか周りはヒートアップしていく。
「そうよ!!あんたがどう動いても国際的な場でフランスには行かないって言ったんでしょ!?だったらシャルロットと付き合ってるって言っても問題ないじゃない!!」
「そうですわ!!シャルロットさんと付き合おうと奏さんはフランスには行けないんですもの!!」
「あ~…でもさ、結構いろいろ言われそうでさ…」
俺が鈴とセシリアにそう反論すると箒が声を上げる。
「お前はそんなの気にするタマじゃないだろう!!」
「いや、僕のことじゃなくてさ、シャルロットが色々言われ―――」
「ソウ!!私、気にしないよ!!」
「…いやね、僕が気にするん――」
「私が大丈夫って言ってるんだから大丈夫!!そんなことよりしっかりと付き合おう!?」
「そ、そんなことって…」
そう言って詰め寄るように顔を近づけるシャルロット。
なんかお前…ドイツから帰ってきてから押し強くない?
うん?そういえばラウラがこそこそ何かしてるな…
「ラウラ、何してるの?」
「いや、奏兄がわがままを言うからおばあちゃんに電話しようかと…」
「おい!?マジで止めろ!!」
急いで携帯を取り上げる。冗談抜きでこいつが一番危ない。
一夏は完全に言うだけ言ってあとは笑いながら見に回っている。
いつの間にか千冬さんの気配もしないし…
俺がこの五人の相手をしないといけないのか?
五人を落ち着かせながら織斑家での一日は過ぎていった。
少しのきまじめさは恋愛においては結構だ。
しかしあまり真面目すぎては困る。それは重荷であり、快楽でなくなる。
~ロマン・ロラン~