インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第七十七話 織斑家

日本に帰ってきた後、俺はまずお土産を配って歩いた。

まぁ…夏休みのせいで学校に居ない方が多いがまぁ、運が悪かったと思ってもらおう。

その後数日は普通にIS学園内で生活を送っていたのだが……一夏が爆発した。

 

「奏!!俺の家に帰ろう!!」

「おい、落ち着け。第一、帰るなら一人で帰れ。」

「いやな…俺も結構我慢したと思うんだ…」

「何を?」

「風呂だよ!!俺かれこれ2週間以上風呂に入ってない!!」

「……シャワー浴びてるじゃん。」

「湯船につかりたいんだよ!!俺は!!」

「左様か。」

 

苦笑しながら一夏の話を聞く。

こいつはかなり風呂好きだからな…

この暑い時期にシャワーだけで済ましたくないんだろう。

去年の夏なんて朝に一度夜に一度、時間が有ればさらに入るといった姿から、弾からは『お前は女か!!』と突っ込まれてたな。

 

「お前はなんともないのか!?汗まみれの後に風呂に入りたいとか!!」

「いや…僕いつも基本シャワーだけだし…」

「お前それでも日本人か!!」

「育ちは外国だよ?」

 

とからかう風に言うと一夏はげっそりとする。

こいつも…それほど嫌だったら一人でも行けばいいものを…

ため息をついて話しかける。

 

「んで何時帰るんだ?流石にお前の鍛錬がある日の前日に泊まるのは不味いだろう。」

「え?…着いてきてくれるのか!?」

「いや…別に予定もないし、俺の荷物も整理しておきたいしね。」

 

そう言ってドイツから持ってきた荷物を指差す。

ある意味タイミングはよかったのだ。

ドイツから帰った後何時か織斑家の俺の部屋にでも荷物を置きに行こうと決めていたのだ。

……まぁそこで一応俺の家となっているアパートに荷物を置きに行く選択肢が出てこない。

いや、一応俺の家もまだあるのだ。

だが…正直なところ生活していた時間も私物の量もすべて織斑家のほうが多い。

しかも織斑家のほうが落ち着くのだから仕方ない。

 

「そうか!!明日…いや、明後日にしよう!!」

「おう、じゃあ宿泊届けは出しとくぞ?一日で良いか?」

「いや…先生の方は5日後に来るから…」

「フルで2泊かな?」

「……明日からにしないか?」

「…OK3泊の外出届だしとくよ。」

「ああ、頼む。」

 

周りの奴らには…まぁ俺はシャルロットに伝えるだけで良いか。

一夏の方は…一応一言回りに言っておくだけにしておこう。

こうして俺と一夏で久しぶりに家に帰ることが決まったのだ。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、いつもどおりに鍛錬を終え自身の部屋に戻ると一夏は居ない。

恐らく今頃、柳韻さんにしごかれているのだろう。

まぁ俺は先に織斑家に向かおう。

そう考えシャルロットと一夏にメールを送りIS学園を出た。

荷物を持った状態で織斑家に向かう。

そういえば一夏は最近家に帰ってないと言っていた。

一応千冬さんは数回帰っているらしいが……ごみ屋敷になってなければいいが…

そう考えながら歩くと織斑家に到着する。

そのまま俺が持っている鍵を使い家に入る。

玄関は少し埃まみれだがそれほどでもないな…問題はリビングと…台所だ。

恐る恐る部屋を開けると……腐海が広がっていた…

テーブルの上のビール缶、散らかった床、さらに台所の方からは何か異臭がする…

なんというか…良くぞまぁここまで散かせたな、と言った具合だ。

仕方ない掃除をしよう、そうでなければここは人の暮す空間にはならない。

少し学校の方にある千冬さんの部屋が心配になりながらも俺は掃除を始めた。

1時間ほど掃除をしていると玄関の方で音がする。

 

「うわ!?埃っぽいな……」

「一夏、ようやく来たか……そこであわててるようでは、こっちは見ないほうがいいぞ?」

 

俺が声を上げる、舞い散る埃。

一応現在上の方から掃除をしているが……終わりが見えない。

一夏が中に入って中を見て唖然とする…

 

「奏…何があった?」

「僕が来た時にはこれよりひどかった。一応謎のキノコと流しにあった異臭を放つ暗黒物質(ダークマター)の処理は終わった。」

「……よし、俺は上の方をやる。」

「千冬さんの部屋は任せた。流石に触れないからな。後…風呂場はお前が掃除しろ。」

「了解、とりあえずちゃっちゃと終わらせよう。」

 

そう言って二人で苦笑いをしながら掃除は続いていった。

 

 

 

 

 

かれこれ三時間ほど掃除を続けようやく家の中が綺麗になった。

途中あった千冬さんの脱ぎ捨てられた服等は彼女の名誉のために俺は見なかったことにしておこう。

さて…時間は…1時か…どうしたものか…

そう考えていると一夏の方から声がかかる。

 

「奏、先風呂入っちまえよ。」

「あ~?お前先入らないの?」

「俺はゆっくり入るつもりだからさ、お前すぐ上がってくるだろ?」

「了解、じゃあ先に入らせてもらうわ。」

 

そう言ってシャワーを浴びる。

掃除したのも一夏だしさっさと上がらせてもらおう。

手早く体を洗い髪を洗う、そういえばまた伸びてきたな…

まぁまだ気にならない程度だからいいけどさ。

ふとボディソープの量が少なくなっていることに気がつく。

丁度そのとき脱衣所に人の気配がし扉をあけて話す。

 

「おい、一夏。ぼでぃ…」

「……」

 

そこに居たのはシャルロットだった、あれ?これ…

ヤバイ!!急いでドアを閉める。

 

「すまん!!だが叫ぶな!!」

「……」

 

恐らく今頃顔を赤くして叫ぶのをこらえているのだろう。

って言うか何時の間に、むしろなぜ居る。

 

「まず質問良いか?なぜここに居る?」

「…い、一夏には言ってあったんだよ?」

 

アイツが原因か…

多分くるだろうと思っていたが…さてとりあえず風呂は上がろう。

 

「シャルロット、そろそろ上がるから出てってくれ。」

「あ、うん…わかった。」

 

そう言ってシャルロットが出て行ったのを確認して浴室から出る。

本当に勘弁してくれ…とりあえず一夏にいくつか文句を言ってやろう。

とりあえず体だけ拭き着替え、髪も濡れたままタオルを首にかけ脱衣所から出る。

横を見るとシャルロットが伸びている。下手に騒がれるよりは良かったが…

 

「お~い、大丈夫か?」

「え?あ……うん…」

「なんというか…気にするなとしか言えません。」

「わ、わかった。忘れるようにする…」

 

まだ顔の赤いシャルロットにそう言って苦笑しながら話す。

さてリビングに向かうと一夏がソファーの上で伸びている。暑さにやられたんだろう、そのまま熔けてしまえ。

 

「おい、一夏。」

「あ~、奏上がったのか?」

「せめて一言シャルロットが来ることぐらい言えよ。」

「………あ、伝えてなかった…」

「あほ。」

 

そう言って一夏の顔にタオルを投げる。

こいつの事だ、掃除の事で頭がいっぱいになっていたに違いない。

タオルをそのまま顔面で受け止めた一夏は言葉を発する。

 

「ふええほうこほ――」

「普通に話せ。」

 

一夏のタオルを取って話しかける。

 

「いや、冷蔵庫の中、何もないけどどうする?」

「……冷凍物は?」

「なし、ちなみに他はビールと乾物のみ。」

「……近くのコンビニにでも行ってくるよ。」

「頼むわ…俺おにぎりでいいから。」

「適当にパスタ作るよ。それでいいだろ?」

「ああ、そういえばシャルは何か食べたのか?」

 

一夏がソファに座り直りながらシャルロットに話しかける。

 

「ううん、私みんなより先に出てきたから。」

「そういえば他のは?」

「買い物してから来るって、夕食は任せてくれって。」

「お、ラッキー。って言ってもボディソープ無いんだよなぁ…他にもいろいろと無いもの多いし…」

「うぇ、マジで…適当にスーパーで買い物してくるか?」

「じゃあ俺とシャルロットで行ってくるわ。」

「頼む、金は――」

「いつもどおりだろ?わかってるよ。」

「じゃあ頼むわ。俺風呂入ってるから。」

 

そう言って一夏は風呂場に向かって歩いていった。

さて勝手に買い物に連れて行くことになったシャルロットだが目を丸くしている。

そんなに一緒に買い物に行くことに驚いたのだろうか。

 

「シャルロット、買い物行くだろ?」

「うん、当たり前でしょ?それにしても本当に一夏と一緒に生活してたんだ…」

「え?何で。」

「今の流れすごく自然だったからさ。」

「ああ、そっちか…半年近く一緒に過してたからな。ちなみにキッチンだけなら俺のほうが何があるか知ってるぞ?」

「ひ、人の家なのに?」

「ああ、キッチンはほぼ俺の城になってるからな。」

 

まぁ…基本的に俺がいろいろ作るのが好きだったのもあるけど一応理由はある。

基本的に千冬さんが料理をしない、一夏は一人で飯を食べるのを嫌がり弾のところや鈴のところで飯を食べるようになっていたためそれほど料理には力を入れていなかったのだ。

そこに俺という料理好きが入ったことにより基本は俺が料理と一夏の補佐、その他家事全般は一夏、千冬さんは座っていてくださいといった織斑家の役割分担が出来上がったのである。

その役割分担のなかに俺が組み込まれているのもあれだが…それよりも千冬さんをキッチンに立たせないようにさせるための苦肉の策でもあった。

別に飯が不味いといったわけではない…ただ…後片付けがものすごい面倒なのだ。

それこそ一回ずつ大掃除をしなくてはいけないほどに。

そうなると正直俺か一夏が作ったほうが掃除の手間も省ける。

さらに俺のほうが料理がうまいと来ているため俺が織斑家の役割分担に組み込まれることになったのだ。

そのため極端に家に帰ることが少なくなり結果的に織斑家に俺の部屋が出来るまでになったのだ。

そんなことを考えている最中に横を見るとシャルロットが首をかしげている。

まぁそこらへんはおいおい話す機会があれば話そう。

これを話したら確実に千冬さんの弱点(?)がばれる。話を切り替えていこう。

昼飯はどうしようか…台所掃除していた時に缶詰をいくつか見つけたから…

 

「そういやシャルロット、パスタ作るつもりけど…何でも良いか?」

「え?何を作るつもりなの?」

「さっぱりめの和風パスタ。」

「多分食べられると思う。」

「了解、ちなみ今日泊まるつもり?」

「………」

 

そう聞くと顔を赤くさせるシャルロット。

何か荷物も結構持って来ているし何か考えてはいると思ったんだが…

それにしても何を考えているんだ、こいつは。

 

「泊まるので良いんだな?」

「……う、うん。」

「じゃあ、明日の朝食分も買っておくか……」

 

俺がそう言うとようやく俺の質問の意図を察したのだろう、アッと言った顔をするシャルロット。

それを見て笑いをこらえながら俺はシャルロットに話しかける。

 

「なぁに、エロい事考えてるんだ?」

「ち、違うよ!?」

「はいはい、そういうことにしておきましょうか。」

「本当に違うんだからね!?」

「信じてる、信じてる。」

「ちょっと!?ソウ!!」

 

必死に否定してる来るシャルロットを楽しみながら俺はシャルロットを連れて買い物に出かけるのだった。

スーパーマーケットに向かいシャルロットと一緒に歩く。

流石にここら辺まで来ればIS関係の人物も居ないから普通に手をつなぎながら歩けるか…

しかし口に出すのはなんともくすぐったいような気分になる。

こういう時俺の目標は…ってそういう考えしても無駄だし何よりもシャルロットに対しても失礼だ。

普通に声でもかけよう。シャルロットの方を見るとこいつもどこか落ち着かない様にしている。

 

「シャルロット。」

「っ!?な、何かな?」

「いや、そんなに驚くなよ…シャルロット。手でもつながない?」

「いいの!?」

 

とこちらに迫るように声を出すシャルロット。

苦笑いをしながら話を続ける。

 

「別に初めてでも無いだろうし…まぁいろいろと気を使わないといけないのが続いたけどさ、今は気にする必要も無いだろうし。」

「そっか…そうだよね…」

 

そう言いながら手をつなぐシャルロット。

とたんに機嫌よく笑い始める。

なんというか、逆に申し訳なくなってくるな…

そのまま俺たちは手をつなぎながら買い物を続けた。

途中道行く人から見られたりもしたが…まぁ問題ないだろう。

デートというにはあんまりな買い物を二人で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

スーパーマーケットでの買い物を終え織斑家に向かう。

結構いろいろ買ったせいで俺は両手に、さらにシャルロットにも荷物持ちをさせてしまっている。

これだったら一夏をつれてくれば良かったかもな…

しかし普段なら一緒に行くって言いそうなものを…もしかして気を使ったのか?

…………それは無いな、確実に。

 

「ソウ何考えてるの?」

「うん?晩飯の事…なぁ…セシリアも何か作る気なのか?」

「そうなんじゃない?でも多少失敗しても何とかなるよ。」

「それもそうか。」

 

そういえば…まだ誰もあのメシマズの本当の実力を知らなかったのか…

途中で俺が間に入ったからなぁ…今回も鈴や箒も居るから何とかなるだろう。

 

「まぁ…何とかなるか。」

「?それにいざとなったら一夏に全部食べてもらおう。」

「シャルロット…お前結構ひどい事いうな…」

「食べられないわけじゃないだろうし…その方がセシリアも喜ぶからね。」

 

と言いながら笑うシャルロット。

…確かに食べられないわけではないか…その後体調が著しく悪くなるだけで。

いざというときは一夏にすべてを任せることに決め俺たちはそのまま歩き続けるのだった。

織斑家に到着し家の中に入る。

そろそろ他の奴らも来てるかなぁ…と思いリビングをあけると……

 

「はなしてください箒さん!!鈴さん!!」

「セシリア!!それだけはやめて!!」

「何で!!料理に!!レーザーが必要なんだ!!」

 

無言で扉を閉める……

シャルロットの方を見ると口端をぴくぴくさせて苦笑いをしている。

見なかったことにしよう。

 

「……よし、俺の家に行くか。」

「……そっちの方が良いかもね。」

 

そうやって家から出ようとするとリビングのドアが開き一夏とラウラにつかまる。

 

「待て、逃げるなシャルロット!!」

「ラウラ!?離してくれないかな?」

「奏!!俺を置いてどこに行く気だ!!」

「いやぁ…買い物も終わったし家も綺麗になったから自分の家に帰ろうかなぁ~って。」

「奏……いまさら遠慮しなくてもいいんだぞ?」

「一夏…僕はまだ生きたい。」

 

そう言っているとキッチンの方で悲鳴のような声が上がる。

 

「一夏!奏!早く来て!!もうセシリアが!?」

「大丈夫ですわ…わたくしの本気を…」

「もう十分だ!!だから止まれ!!」

 

何があったのかは知らないがとりあえず止めに行こう。

俺は一夏と共にセシリアを止めに行った。

なんというか…これではIS学園に居るのと大差無いなぁと感じているのだった。

 

 

 

 

 

人々は悲しみを分かち合ってくれる友達さえいれば、 悲しみを和らげられる。

                          ~ウィリアム・シェイクスピア~

 


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