インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第七十六話 旅立ち

空港につく頃にはあたりは完全に暗くなっていた。

結局俺は空港につくまで気分よく、尚且つ何も考えずに居てしまった。

それだけ俺にとってあの問題は鬼門だったのだ。

シャルロットも俺の機嫌が良くなったのを察したのかこいつも機嫌が良くなるし。

ラウラはラウラで言いたいことが言えて満足しているようだった。

現在車内はかなりいい雰囲気に包まれていた……空港に着きクラリッサが言葉を発するまでの間だが…

 

「さて、そろそろ会場に向かいましょう。」

「「あ。」」

 

声をあげる俺とラウラ。

そういえばはじめそれについて話してたんだったな…完全に忘れていた。

クラリッサは既に自分のやるべきことがあるのか遠くに行ってしまった。

とりあえず何をやるかだけはきいておかなければ…

 

「おい、ラウラ。何が起きたか手短に説明してくれ!!」

「奏兄に感謝状を渡したいとドイツ軍の内部で話しが上がったんだ。だが政府としてはあの事件は話にもあげたくないためそのまま却下されたんだ。だったら軍として恩人を見送りくらいはいいかと交渉した結果、それなら許可が出せるとなってな。」

「えっと…問題になるようならいいよ?別に感謝されてることはわかってるから。」

「いや感謝状も軍の一部が個人で作成したようなもので正直ほとんど政治的な意味は無い。だがどうしても動きたいと言っている奴が多くてな…」

「何で!?何がそんなに彼らを駆り立てるの!?」

「私もわからん!!」

 

そういわれながら空港に連れて行かれる。

おいおい、どこでやるんだそんな表彰式。

 

「ちょっと?どこでやるのその…お見送り?」

「そんなの決まっているだろう。」

 

そういってラウラはさらに俺を引っ張る。

途中あまりにも引っ張られシャルロットと離れそうになったためあわててシャルロットの手も握る。

シャルロットも突然の展開に訳がわからずきょとんとして引っ張られている。

しばらく進むとどうみても整備で使うようなところに案内された。

まぁ…表立っては出来ないから格納庫でやるんだろう。案の定、広い格納庫のようなところにつく。明かりが無くあたりは見えないが…恐らく目の前にある飛行機が帰りの便だろう。

そう考えてると結構おとなしめに見送る感じなんだろうなぁ…と思っていたら突然辺りが明るくなる。突然の明かりで目がくらむがかなりの人がいるようだ。

 

「全員敬礼!!」

<<<<<<―ザァッ!!!!―>>>>>>

「はぁ!?」

 

明かりで目がくらんでいたがなれて目の前を見ると……軍人さんたちの道が出来ていた。

パッと見ただけでも40人は居るな…うわぁ…俺ここを歩くの…

横目でラウラを見るとうなづかれる。

シャルロットは……完全に情報の処理が追いついてないな、目を丸くしてパンクしてらぁ。

とりあえず一人で進むか。恐る恐る間を歩く。

うわぁ…まったく動かねぇ…しかも滅茶苦茶俺の事見てるよ…

とりあえず道なりに進むと……ランベルトが居た。

知らない誰かよりはマシだけどさ…あとその横に居る奴。あんた数年前に俺の病室で俺のこと気にかけてたおっさんじゃねぇか!?懐かしいな…って事はさっきの号令の声聞いたことあるなぁと思ったらおっさんだったのか。

とりあえず話しかけよう。

 

「……発案者はランベルトさんですか?」

「いいや?むしろ私は反対派だったんだけどねぇ…」

 

と言いながら愉快そうに笑うランベルト。

くそ、何が反対派だ。こいつ…俺の反応見て楽しんでやがる…

 

「だったらせめてこんな大掛かりにしないでくださいよ…」

「やるんだったら盛大にしたいだろうに。それに今後君はこういう式典に顔を出すかもしれないんだ、今から慣れたほうが良い。」

「心配していただきありがとうございますよ…」

 

そういうと感謝状の授与式みたいないな物が始まった。

まぁ…ここら辺ではあまりふざけたことをするわけにもいかず普通に淡々とおこなう。

思った以上に時間はかからなかったが……視線が痛い。あとラウラの部下たちの姿が見えないが…

もしかして空港の警備でもやっているのか?

そんなことを考えながら俺の授与式は終わった。

正直半分以上も頭には入っていない。

だが終わりは終わりだ、ため息をつきたくなるのを我慢する。

 

「さて授与式はこれで終了だ。」

「あ、そうですか…」

「今後の予定だが君の乗る飛行機はあと十数分もすれば動けるようになるだろう。」

「えっと…もう乗り込んでてもいいですか?」

「せめて何か一言言ってもらっても良いかね?」

 

一言!?この状況でか……

おそるそる後ろを見ると兵士の皆さんがじっと全員俺を見ている。

ラウラとシャルロットの方を見ると…シャルロットは同情するような目でこちらを見ている。

助けてくれというわけにもいかないし……よし何とかこの場を切り抜けることだけ考えよう。

マイクもない中ただ聞こえるようにと声を張り上げ自信なさげに話し続ける。

顔は恐らく困ったように笑っているのでは無いのだろうか。

そのまま思ったことをただ口に出し続ける。

 

「『あ~……皆さん、この場にわざわざ集まってくれてありがとうございます。ただ僕は皆さんが期待しているようなヒーローではありません。どこにでもいるようなただのガキが、何の間違いかIS動かしちゃっただけなんですよ。』」

 

俺がこういうと軍人さんたちはピクリと反応しただけで特に顔色が変ったようには見えない。

うわぁ…話しずれぇ…内心びくびく怯えながら話を続ける。

 

「『ラウラを救えたのだって偶然です。情報を手に入れたのも偶然。正直僕からしてみれば常に国民のために戦い続けているあなたたちの方がよっぽどヒーロだと思います。そんな貴方たちからここまで表彰していただき大変光栄です、本当にありがとうございます。』」

 

そう言って頭を下げる。

反応は無い。あまり長々と話すと鍍金がはげるから短めに話したんだが…

と頭を下げているとまばらに拍手が聞こえ最終的にはしっかりとした拍手になった。

あ~よかった。とりあえず何とかなったわ。

 

「思ったよりやるではないか。どうだい?このままドイツ軍に来ないか?」

「ははは、遠慮しときます。こんなこと続けてたらいつか絶対禿る。」

「それは残念だ。」

 

俺の顔を見て笑うランベルト。畜生、いつか絶対お返ししてやる。

そう言ってようやく俺は解放された。

こんなの二度とごめんだ。

そのまま逃げるようにして飛行機の中に乗り込む。

本気で勘弁してほしい。

どうせだったらみんなでわいわい飯でも食ったほうがまだやりやすい。

あんな式典みたいなところで話すなんて…まぁもう終わったんだ。

そう考えそのまま飛行機の椅子に座る。あ~疲れた。

しばらくするとラウラとシャルロットが飛行機に入ってきた。

 

「お疲れ…ソウ。」

「……本気で二度とごめんだ…」

 

そう言って深く椅子に腰掛けたままため息をつく。

シャルロットは苦笑しながら話を続ける。

 

「あはは、ソウ完全に固まってたもんね。」

「……ばればれだった?」

「え?本当なのか?」

「よし、ばれてない。」

 

ラウラの驚く顔を見て納得する俺。

とりあえずばれていたのはシャルロットくらいだと見てもいいだろう。

とりあえずこれで面倒ごとが無くなった…と思ったら今度はクラリッサがこちらにやってきた。

 

「カザネさん…お疲れ様でした。」

「もう二度とごめんだよ、あんなの。」

 

俺がそう言うとクラリッサは微笑みながら俺に敬礼をして話し始める、

 

「現在我が部隊員全員が警備に当たっているため、シュヴァルツェ・ハーゼを代表してお礼を述べさせてください。隊長を助けていただきありがとうございました。」

「……とりあえず受け取らせてもらいますよ。」

 

『どういたしまして』とは口から出すことは出来なかった。

だが…前向きに答えることは出来たな…

困ったように笑いながら話をする。

それを聞いてとりあえずラウラとクラリッサは満足そうだ。

 

「すまない奏兄、私は少しクラリッサと話してくる。」

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

そういうと二人は飛行機を降りて行った。

さて気になってたんだが…この話をするとき一切シャルロットが入ってこないのはなぜなんだ?

顔を見るとニコニコしている。

 

「どうした?」

「……ラウラのこと吹っ切れたんだ。」

「…なんでばれてるの?」

「ソウがどんな人間かわかってれば嫌でもわかります。一夏もソウがなにか気にしてるの気がついてたよ?」

「嘘!?…あいつ、俺のこと気にしてる暇があれば他の四人のことを気にしろよ……」

「あはは、それはそのとおりだね……もう大丈夫?」

 

そう少し不安そうに尋ねてくるシャルロット。

安心させるように笑いかけ話しかける。

 

「ああ、とりあえずはね。吹っ切れた…とはいえないけどある程度は納得できたかな?」

「そっか…うん。よかった。」

 

そう言って安心した顔をしながら…何か気にしてるな…

この場合なんだ?……カマをかけてみるか。

 

「自分は役に立たなかったとか考えてないだろうな?」

「……」

「図星かい……あの時かなり落ち込まなかったのはお前のおかげだったんだぞ?」

「え?私何も――」

「゛助けてくれてありがとう〟…ラウラを助けた後言ってくれただろ?あれのおかげである程度もってたんだぞ?俺。」

「…そうだったんだ。」

 

あの風呂場での言葉。

やり方は…あれだったが、おかげで俺は罪悪感に潰されないですんでいた。

あの言葉のおかげで止まらないで済んだのだ。

そう口にするとシャルロット、だが暗い雰囲気はなくならない。

 

「うん…なんか私…ソウの助けになれてるか解らなくってさ…ソウって誰にも頼らないよね…私、助けになりたいけど…足手まといかなぁって…」

「……」

 

婆さんが言ってたのはこれか…

確かに誰も巻き込まないようにしたせいでシャルロットはこうなってるんだよなぁ…婆さんなんで気が付いたんだ?

 

「はぁ…それだったら助けてもらいましょうか。」

「え?……なにを?」

「俺の愚痴に付き合って。」

「……え?」

「いやな、婆さんに゛人に頼る事を覚えなさい〟って言われてさ。……そうならないと毎日電話かけてくるらしい。」

「……」

「まぁ…なんか悩みが合ったら愚痴言いたいからそれに付き合って。」

 

そういうとシャルロットは目を点にした後に突然笑い出す。

あら?怒られるかなぁって思ったんだけど。

涙を流すほどに笑うシャルロットを見て疑問を持つ。

 

「どうしたの、突然。」

「あはははは、ご、ごめん。ちょっと…思い出しちゃっただけ。」

「え?何を?」

「えっとね…秘密。」

「本当になんなの!?」

「秘密なのは秘密。あははは。」

 

そう言って笑い続けるシャルロット。

一体なんなんだ?…恐らくだが婆さん関係だろう。

まぁ、元に戻って元気が出たんだったらいいが…納得がいかない。

しばらく笑っているシャルロットを納得いかない顔で見続ける。

ひーひーいいながらようやくシャルロットは落ち着いた。

 

「ご、ごめんね。でもわかった。いつでも相談して。」

「お、おう…ねぇ、本当になんなんだ?結構気になるんだが……」

「ひ、秘密。でも…うん、すごい元気になれた。」

「…まぁいいか。」

 

そういうシャルロットの顔はかなりやわらかく見えた。

まぁ、それは良いんだが…いざとなったら婆さんに聞いてみよう。たいした問題にはならないだろう、多分…そういう風に話しているとラウラが戻ってきた。

とりあえず声だけはかけておこう、と思うと先にシャルロットの方が声をかける。

 

「お、お帰りラウラ。」

「ああ、シャルロットただいま。…?なぜそんなに目を赤くしてるんだ?」

「……ソウにいじめられたからだよ。」

「ちょっと!?言いがかりじゃない?それ!?」

「……本当に仲がいいな、二人とも…まぁそろそろ飛行機が出発するが大丈夫か?」

「ああ、帰りも頼むよ。」

 

そういうとラウラが窓の外を指差す。

そちらを見てみると……先ほどとは比べ物にならない数の軍人さん方が敬礼をしている…

おい、俺にどうしろっていうんだよ…あ、シュヴァルツェ・ハーゼの皆が居る。手だけは振っておくか…おお、すごい反応があるな。

しかし……これ、俺が里帰りするたびにおきないよな…

流石に二回三回ってなると面倒だなぁ…まぁ無いだろうけど。

飛行機が飛び立って見えなくなるまで彼らは動く事は無かった。

こうして俺の短い里帰りは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

一番幸せなのは、幸福なんて特別必要でないと悟ることです。

                              ~ウィリアム・サローヤン~




ということで里帰り編終了ですww
本来最低でも9話ほどのものを要点だけ突っ込んだ形になったのでこのような感じになってしまいました。それについては作者の実力不足ですね。

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