インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第七十四話 故郷

しばらく婆さんと話した後に………俺は家をおいだされた。

いや、正確に言えば婆さんに頼まれて買い物に行くんだが…ラウラとシャルロットは婆さんの俺の昔話を聞くのに夢中でついてこない。婆さんの方も孫自慢が出来るようで喜んでるようだから止めようにも止めることができない。

ということで現在俺は買い物の帰りである。

……普通に行けば30分位で終わるはずが、途中子供たちと遊びって言うか遊び道具になり、爺さんたちとポーカーをし身ぐるみをはがれそうになり、街の人と会うたびに話していたら……結局2時間もかかった。

この町の奴らは暇人しか居ないのか?いや…多分時間帯的にはそれほど暇な時間じゃないと思うんだが……

それに……3人?いや5人か?それくらいの人数に常に監視されている…

まぁ敵意はないし害もないからほおっておくか……

と家の前に来るとクラリッサが立っていた。その顔は結構真面目な顔をしている。

 

「?どうしましたか。」

「少し…話をしてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。ただ……この監視の中で話すのは…」

 

と言って俺が苦笑するとクラリッサが片手で何か合図をする。

すると監視がとたんに無くなる。おお、すげぇ…

 

「……空港での話ですが…なぜあそこまで拒絶したのですか?」

「ラウラとシャルロットにばれたくなかったからですよ。」

「…失礼ですが…カザネさん。あなたはお礼を言われる事自体拒絶しているように感じました。」

 

適当にごまかそうかとも思ったが確信してるな、この顔は。

あ~…伊達に部隊の副隊長じゃないって事だろうか…

恐らくだがこの部隊を実質的にまとめているのはこの人なんだろう…

 

「まぁ…ちなみにあなたはどこまで知っていますか?」

「わが軍の一部の暴走、それの情報提供者について、さらにあなたが隊長を救うためにかなり無茶をした。大まかに言えばこれくらいでしょうか…」

「……じゃあその提供したデータの中身を僕が知ってるとしたら?」

「?どういう意味でしょう。それがわからなければデータを渡せないのでは?」

「……あれは起動したらどうなりますか?さらに学園に来た時のラウラの状況……さらに言うなら……僕はラウラのISのあれの発動条件をすべて知っていた。」

「………あなたの言いたい事がわかりかねます。」

 

そう言って首をかしげるクラリッサ。

流石にこの程度の説明じゃ理解してくれないか…

俺は苦虫を噛み潰したような顔をして話始める。

 

「ラウラには……このことは?」

「いえ…情報提供者のことまでは…」

「僕はですね……ラウラのことを一旦見捨ててるんですよ…」

 

そういうとクラリッサの目の色が変る。

……彼女を納得させるためにはすべて言うしかないだろう。

俺はラウラを助けただけじゃない…むしろ死地に追いやったんだと…

 

「僕は…あることを遂行するために動いている最中に偶然この情報を手に入れました。」

「………」

「そこで情報を見て……ラウラが大会中にVTシステム(あれ)を発動させる可能性がある事は十二分にわかりました。だからドイツ軍にこの情報を渡し、そして軍を使ってラウラを助けようとし……失敗しました。」

「……」

 

クラリッサは未だにわかりかねるといった顔をしている。

だが先ほどまでのように俺の話を聞き返すことはせずしっかりと話を聞いている。

 

「そこで僕には二つ選択肢があった。大会の最中に発動しない事を祈りながら機体に損害をあたえないように戦う、もう一つは…ドイツを気にせずにVTシステム(あれ)の事を教師陣に伝えるといった事です。」

「あの…それのどこが隊長を見捨てた事に?」

「ラウラを救うって言うなら…すぐさま後者を選ぶべきだったんですよ。そうじゃなきゃ彼女は死んでたかもしれない。でも僕はもう一つの作戦…まぁ言ってしまえば自身の専用機開発のためにラウラに危ない橋を渡らせたんですよ。」

「………それが?」

 

……あれ?反応が予想と違う…

ここで『外道!!』とか『私たちすら騙していたのか…』とか『隊長を…よくも!!』とかがくると思っていたんだが……

流石に平然とした顔で『……それが?』と来るとは予測していなかった。

少し動揺しながらも話を続ける。

 

「い、いや…俺、助け出せる確証もなしにラウラを死地に追いやったんですよ?」

「それを言ったらドイツはあれが発動した瞬間、すぐさま隊長を見捨てましたよ?…まぁ私は一人でもIS学園に突っ込むつもりでしたが…」

「は、はぁ…」

 

目が笑ってねぇ…この人本気だ…

その後クラリッサは何でも無いように話続ける。

 

「それにあなたがこの情報を渡さなかったらドイツは今頃国際的にひどい目に遭っていました。そしてそれの原因となってしまった隊長は…たとえ生き残ったとしても自身のことを追い込んだと思います。」

「……ええ…そうでしょうね。」

「それと比べれば今の状況はどうですか!?隊長は笑顔、わが国は国際的にも非難されず、隊長は部隊員からも慕われるようになる……何より私を慕ってくれる!!あの隊長が!!」

「お~い、クラリッサさ~ん、かえってきて~」

 

なんか明後日の方向を向いてヘブン状態なんですけどこの人。

あれ?俺結構真面目な話してたつもりだったんだけどどこで間違えたんだ?

いや、間違ったことは言ってなかったと思うんだが……

そう考えているとクラリッサはこちらに笑いかけながら話かける。

 

「それもこれも…すべてあなたのおかげなんですよ、カザネソウさん。」

「っ…それでも…」

「ええ、確かにあなたが自分を許せるかどうかは別ですよ?でも救われたものから目を背けるのは止めてください。」

「……」

 

目を背けるな…か…

確かに俺は…必要以上に自身を追い込んでいたのかもしれない…

俺自身がどう思ってようと…救われた側からすればどうでもいいことだ…

ハァ…結局これも過ぎた事を考えた結果か…本当に俺は何かを振り返るとろくな事にならないみたいだな……まだ納得できたわけではないが、彼女は俺の助けになろうとしてくれているんだろう…礼だけは言っておこう。

 

「はぁ…確かに喜んでる人の前で助けた側が落ち込んでたら素直に喜べませんね…」

「そうですよ。それにあなたは隊長のお兄ちゃんなんですよ!!」

「…………はい?」

 

そう言って目を輝かせるクラリッサ…

おい。さっきまでお前に抱いていた尊敬の念を返せ。

クラリッサはそのまま目を輝かせて話す。

 

「日本にある文化の中でも特に有名な尊敬の意を表す『お兄ちゃん』!!本来あなたのような勇敢な行動をした相手なら『アニキ』の方がいいと私は思っていましたが…ですが!!あなたと隊長の関係を見た後はそんな考えは消し飛びましたよ!!まさかの名前+兄でニックネームのような親密性まで持たせるとは!!さすが隊長!!」

 

ああ、この人本気でそうかんがえていやがる……

今わかった。この人『善意で』ラウラに教えこんでいやがる…

現在一切悪意なんて感じない…ただラウラが俺たちと仲良くなるためにといろいろな日本の知識を教えてるんだ……まぁそれ自体間違っているんだがな

指摘するべきか……と思うとクラリッサがこちらを向く。

 

「カザネさん!!」

「はい!?」

「これからも隊長のお兄ちゃんとしてよろしくお願いします!!」

「……」

 

と言って俺の手を握るクラリッサ……

頼むからそんな期待に満ちた目で俺を見ないでくれ…これからあんたに正しい知識を…知識を……ちしき…

ああ駄目だ…どうあがいても逃げられる気がしねぇ…押しに弱いんだろうか…俺…

 

「はい…任せてください…」

「はい!!よろしくお願いします!!」

 

嗚呼…なぜか泣きそうになる俺…感動の涙という事にしておこう…

そう言って涙をこらえながらクラリッサと話すのだった。

 

 

 

 

 

 

その後教会に戻る。

まぁラウラとシャルロットには今までどこにいたのか聞かれたが婆さんは俺が遅くなるのは予測済みだったんだろう。『お使いご苦労様、町のみんなはどうだった?』のとだけ言っていた。

婆さんこうなるのがわかって俺だけ行かせたな…

さらに俺の居ない間にいろいろと話してるんだろう……

シャルロットは先ほどと比べかなり落ち着いている。ラウラにいたってはすごい楽しそうにしている。まぁ…何話されててもこれだけ楽しそうなら良いか。

それを見ながらふと思う。そういや…今日はどこに泊まるんだろうか…

 

「ラウラ、どこに泊まることになるんだ俺たち。」

「うん?ああ、どこでも大丈夫だ。」

「え?普通こういう時ってビップ待遇のホテルとかに――」

「そっちの方はデコイになっている。今頃この国のホテルには世界各国の記者が来てるだろうよ。」

「ふーん、じゃあ普通に自分の家に泊まっていいのか…」

 

これはある意味助かった。

自分の家に帰ってきたのに自分の家に泊まれないとか…

まぁ結果的に泊まれるから良しとするか。

さてそろそろ晩飯を作らないと。

 

「『婆さん台所借りるぞ』」

「『あら?何か作るのかい?』」

「『晩飯、久しぶりに俺が作るよ。』」

「『ああ、任せましたよ。』」

 

そう言って俺が台所に向かおうとするとそれまで婆さんと話していたシャルロットが声をかけてくる。ちなみにラウラはわからないところは通訳しながら一緒に話している。

婆さんの話方癖があるからなぁ…

 

「どうしたの?ソウ。」

「あ~……飯を作ろうかと思ってな。」

「手伝うよ?」

「大丈夫だ、婆さんの話を聞いてやっててくれ。ラウラ、お前の部隊員って現在来てるのはクラリッサも入れて7~8人で合ってるか?」

「うん?8人のはずだが…奏兄はどうやって気がついたんだ?」

「勘。」

 

そう言って怪訝な顔をしたラウラを無視して台所に向かう。

あと料理を作る人数は俺、婆さん、ラウラ、シャルロットと…12人か…

久しぶりにこの家の一番の大鍋で料理を作ることを決め動き始めた。

 

 

 

 

ふむ…何を作ろうか…

この人数であまり形式ばった物でなく尚且つうまいもの……

カレー?いや…ここでカレーは…まぁ俺は好きだけど…

まぁ適当に作るか。と考え気の向くままに材料を使う。

結局かぼちゃのポタージュに適当なパン、さらにタンドリーチキンに適当なサラダ。

後は今茹で上がるパスタで適当に作ろう。

時間もいいくらいだしそろそろラウラに声をかけよう。

 

「おーいラウラ。」

「うん?奏兄、なんだ。」

「部隊の子達とクラリッサさん呼んでくれ、飯にしよう。」

「え?……もしかして全員分作ったのか?」

「ああ、早く食べよう。」

「し、しかし…」

 

ラウラがうろたえる。

なんだ?俺の飯が食えないっていうのか!?

って事ではないんだろうが…婆さん俺に質問する。

 

「『?どうかしたのかいソウ。』」

「『ああ、ちょっとね。ほら、俺軍人さんに護衛されてるだろ。』」

「『ええ、さっきそう言ってたわね。』」

「『飯出来たから呼んでって言ってるだけ。』」

「『ああ、そうだったの。冷めないうちに食べましょう?』」

 

そう言って婆さんはラウラの顔をにっこり微笑んで見つめる。

焦るラウラ。多分軍人としての葛藤があるんだろう。

 

「『し、しかし…』」

「『みんなで一緒に食べる方がおいしいのよ?それにソウは料理上手だからね。きっと気に入るわ。』」

「しゃ、シャルロット!?」

「え~っと……私じゃ助けられないかな?」

「奏兄!?」

「いいから呼べ。飯が冷める。」

「……」

「『?どうしたのラウラ。』」 

 

笑顔の婆さんの顔を見てため息をつくラウラ。

残念だったな、婆さんの笑顔押しは俺でも逃げられん。勘弁して早く呼ぶんだな。

笑いながら再び台所に引き込む。

 

 

 

 

 

そして晩飯、落ち着かないのが9人、苦笑いが1人、満面の笑みが2人で夕食が始まった。

こんなボロ屋――失敬ボロ教会でも一応長テーブルと椅子ぐらいある。

12人くらいなら余裕で座れるだろう。

 

「『あらあら、こんな大人数で食べるなんて久しぶりね。』」

「『そうだな…前までは事あるごとに適当に騒いでたけどな…』」

「『なんてことを…まぁ結局あなたの言うとおりになったんだけどね。』」

 

そう言って俺は婆さんと笑って話している。

シャルロットはラウラを気にかけラウラは未だに唸っている。

そしてシュヴァルツェ・ハーゼの面々、なぜこうなったのか解らずポカーンとしている。

 

「?クラリッサさんどうしましたか。」

「いえ…なぜ私たちまで一緒の食卓に――」

「ああ!?そういえば宗教上食べれないとかアレルギーとかありますか?」

「い、いえ…全員無いはずです。」

「そうよかった。『まぁせっかくの飯なんですしみんなで楽しく食べましょうよ。』」

 

そういうとシュヴァルツェ・ハーゼの面々はきょろきょろし始める。

いたずらが成功したようなちょっと面白い気分になる。

 

「『まぁ…軍人としてはこういうのは駄目なのかもしれないけど…僕からのお願いってことでどうか頼みますよ。』」

「『えっと…お姉様…どうしましょう…』」

「『……とりあえず全員いただこう。ここで断る方が失礼だ。』」

「『では食べましょう。祈りは……ここは見逃してもらいましょう。』」

「『まったくソウ!!あなたは…まぁいいでしょう。冷めてしまってはもったいないですしね。』」

 

そう言って全員で食べ始める。

ある程度食べ続けると全員落ち着いてきたようだ。

シャルロットと婆さんは俺の作った料理を食べると反応してくる。

 

「うん、おいしい。これはなんて料理なの?ソウ。」

「タンドリーチキン、まぁ…骨無しだからチキンティッカのほうが正しいかな?インドの料理さ。」

「『うん、おいしい。久しぶりにソウの料理を食べたわね。』」

「『おお、そりゃよかった。』」

「『え!?カザネさん…料理作れるんですか!?』」

 

とシュヴァルツェ・ハーゼの一人が声をあげる。

その後しまった!?と言った顔をしている。

 

「『ええ、そうよ。ソウは料理がすきなのよ。』」

「『えっと…他にいろいろ聞いても大丈夫ですか?』」

「『そんなかしこまらなくてもいいよ。そんなに年も変らないんだし…呼び捨てでもいいよ?』」

「『い、いえ!?そんな!!』」

「『えっと…銃の凄まじい使い手だって聞いたんですけど…』」

 

と縮こまりながら恐る恐る質問してくる部隊員。

別に俺に無礼を働いたからってどうなるわけじゃないのに…

しかし俺の銃の腕か……

正直比べる対象がヴァッシュ(最強)だからな…正直今自分がどれほどのものなのかはっきりと言えない…と、横を見ると未だにうんうん唸っているラウラ…丁度いい。

 

「……ラウラ。ちょっと悩んでないで元に戻ってくれ。」

「なんだ奏兄…私は今自身の意志の弱さについて――」

「いや…今君の部隊の一人から僕の銃について聞かれたんだけどさ…」

「?それがどうしたんだ。」

「いや、自分から見たときだとどれほどのものか解らないから説明してあげてもらっていい?」

 

俺がこういうとラウラはきょとんとした後部隊員のほうを見て話しかける。

 

「……いいだろう『この質問をしたのは誰だ?』」

「『は!!隊長、私です。』」

「『かしこまらなくてもいい。奏兄の銃の腕は……正直なところ底が見えない…お前らはレールカノンをそれよりはるかに威力の低い弾丸で撃ち落せるか?』」

「『え?レールカノンをですか!?そんなの……』」

「『出来ないだろう、普通どう考えてもな。それを奏兄は出来る。それもISが反応できないほどの速さで狙ってだ。これだけじゃない、いいか――』」

 

ざわざわと騒ぎ出す彼女たちを見てさらにラウラは話を続ける。

……これで隊長さんとの間がもっと狭まってくれるといいんだが…

クラリッサもその光景を見ながら微笑んでいる。

シャルロットが話しかけてくる。

 

「ねぇ奏、わざとラウラに説明させたでしょう?」

「うん?何のこと?僕は自分主体だと判断できないから説明を頼んだだけだよ?」

「……そういうことにしておきましょう。」

 

そう言って笑いながら飯を食べ続けた。

作戦通り部隊員との間は狭まったが……俺の予想以上に彼女たちが俺に質問をしてくるのだけは予想外だった。

『料理は好きなのか』『昔はどう生活してたのか』『ラウラとの関係』『お兄様と呼んでもいいか』などなど、後半になればなるほど質問が遠慮しなくなってくる。

焦る俺を見ながら笑うシャルロットと婆さん。

そうやって楽しい食事は続くのだった。

 

 

 

 

 

もっとも平安な、そして純粋な喜びの一つは、労働をした後の休息である。

                                     ~カント~




はい、ということでクラリッサに一刀両断されました。
ぶっちゃけ救われた側からすれば救った方法で悩まれたり、ああすればもっとよかったのにって気にされても困りますしね。
作者はどちらかと言えばクラリッサのタイプですね。
悩んだってしょうがないじゃんって感じです。

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