インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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雨上がり

「うおおおおおおおおおお!!」

 

ここで織斑一夏が乱入する前まで一旦時間を戻してみよう。

 

(クソ!!誰も居ない!!)

 

彼は自転車を走らせながら人を探した。

はじめは警察署に向かおうと考えていたのだが、自身が警察署の場所を知らないということに気が付いたのは自転車をこぎ始めて1分も経たないうちの事であった。

そこで自身の電話で助けを求めようにも連れ去られる時に男たちに奪われたままでありどうしようもなかった。

そうなると誰かに助けを求めようと自転車を走らせていたのだが、町の郊外であることが原因なのか、それともモンド・グロッソ開催中だからなのか不幸にも人とすれ違う事はなかった。

彼はそれでもあきらめることなく自転車を走らせた。

そうしていると目の前にモバイルを持った外国人の男性が現れた。丁度話が終わったのかモバイルをいじった後ポケットに入れようとしていた。彼はそれを見つけると大急ぎでその男性に駆け寄った。

 

 

 

 

汗だくになり息を切らしながら駆け寄る俺を見て、男性のほうも驚いたのか目を丸くしている。

 

「スイマセン!!あの!!」

「What gives!?」

「………」

 

英語だった……自慢じゃないが俺は英語はまったくわからない。話すどころか授業中は聞いてるだけで頭が痛くなる。

だが今はそんな事を言っている場合じゃない。早くしないと今俺を助けるためにわざわざ危険を冒した彼の身が危ない。

何とかしてそれを借りないと。

 

「ソーリー!!え~っと…・・・プリーズ!!カシテ!!」

 

最早最後は英語ですらないが必死な形相でそのモバイルを指差して頭を下げているのを見て、何か察してくれたのかモバイルと俺を交互に見た後に恐る恐る俺にモバイルを差し出した。

 

「サンキュウ!!」

 

大急ぎでそのモバイルを受け取り警察に電話する。

確かドイツの警察は日本の警察と同じ110番だったとドイツに来る前に調べていた。

急いで1.1.0と数字を押し電話をかける。ワンコール、ツーコール、つながった!!

 

「もしもし!!警察ですか!?」

「ザァッ……ザザァ……ッザザザザザザ………」

 

しかしテレビ電話として設定されているのだろうが浮かび上がったスクリ-ンに映し出されたのは、まるで砂嵐のような映像と音声だった。

試しにもう一度電話するがまたしてもつながったのは砂嵐であった。

男性もおかしいと思ったのか電話を一度返してもらい別の場所に連絡すると今度は普通につながった。

 

(なんで警察につながらない!?クソ!!どうする!?このままこの男性に説明しても、それこそ話が通じるまでどれくらい時間がかかるかわからない。それにここでこの人と話しているうちにあいつら(誘拐犯)に見つかったら今度はこの人を巻き込んでしまう……)

 

俺がそう考えていると遠くから連続して何発かの銃声が響いた。

 

(!?奏!!)

 

何も関係が無いのに街中で見かけた俺を助けるために追いかけてきた男。

俺を逃がすためにわざわざ危険を冒して逃がしてくれた男。

何も関係が無いことに俺が巻き込んでしまった男。

もう自分の感情なんて関係なかった。今はあの男を助ける事だけを考えなければ。俺は再び目の前の男性から電話を借りある番号へと電話をかけた。

 

 

 

 

そして時間を少し進めよう。

何とか無事に連絡を終えそれでも続く銃声に彼は奏のことが心配になり駆けつけずにはいられなかった。

そして自転車を走らせ元の場所に戻り建物の影から覗くととんでもないものを目にする。

 

(クソ!!なんでISがこんな所に居るんだよ!!)

 

状況は最悪だった。

おそらく誘拐犯たちにボスと呼ばれていた女性だろう。ISを身に纏い、奏めがけて手を伸ばし飛びかかっている。

対する奏は全身ボロボロでそれでも何とかかわしているようだった。

しかしIS相手に生身の人間が攻撃をかわせるはずが無い。(・・・・・・・・・)

おそらく今まで少しずつダメージを与えるようにして弄ばれていたのだろう。その証拠に奏を傷つけている女性の顔は満面の笑みだった。

沸々と一夏は怒りがこみ上げてきた。なぜ彼がこんな目にあわなければいけない。もしかしたら自分がああされるはずだったのかもしれない事を奏が代わりに受けている、そういう風にも思えてしまった。

そう考えると目の前で笑いながら攻撃をする女性が許せなかった、何もできない自分に対しても怒りがこみ上げてきた。

 

「ッッッツ!!」

 

奏のかみ殺すような叫びが聞こえた。見ると足にダメージを食らったのか腰が落ちそうになっているのを何とか踏みとどまっているように見えた。

 

(もう限界だ!!何とかしてあいつを助けないと。)

 

周りを見わたしてみるが鉄パイプと短めの木の棒。その程度しか武器になりそうなものはなかった。

他に何か武器になりそうなものは無いか探そうにも、今にもとどめ(・・・)をさそうとするように女性が奏へ向かって近づく。

 

「っ!!うおおおおおおおおおお!!」

 

とどめをささせるものか!!相手に向かって木の棒を投げ覚悟を決める。こうして一夏は奏を救うために鉄パイプを手に持ち駆け出したのだ。

 

 

 

 

(……………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?)

 

奏は見てはいけないような物を見たような顔をしながら驚いた。

 

(なんで!?どうして!?君がここに来るんだよぉぉぉ!?君、さっき警察署かどこかに逃げたはずでしょ!?第一ここで君が現れたら何のために俺はここで戦ってたんだよ!?ちょっと勘弁してよ!?)

 

言葉に出そうとするが疲労と怪我からか、なかなか口から言葉が出ない。

 

「なん…で?……どうして……っ!?君が・・・」

「どうしてもあるか!!警察に電話は通じないし銃声がするから駆けつけてみたらお前今にも殺されそうになってるじゃないか!!俺だってお前に助けてもらったのにお前のこんなピンチに隠れていられるはず無いだろ!!」

「……え?」

「安心しろ別の助けは呼んである!!後は何とか時間を稼ぐだけだ!!」

 

………ああうん。そういやそうだね。

普通『IS相手に男が生身で張り合ってました。』なんていったら真っ先に黄色い救急車呼ばれるだろうね。

それに理由がわからずにこの状況見たら勝負してたとは思わないね。

どちらかといったら『男一人がIS乗りの女性に嬲られて殺されそうになってる』って言ったほうが説得力あるわ。うん。

彼女のほうを見ると唖然としながらも一夏の発言が面白くなかったのか不満そうな顔をしている。

 

「ちょっと…誰が誰を殺そうとしてるですって?」

「しらばっくれるな!!さっきから俺は見ていたんだ!!お前が満面の笑みで奏を弄んでいたところをな!!」

「弄ぶって!?……私はカザネと勝負していただけよ!!」

「ISと生身で勝負になるはず無いだろう!!何を言ってやがる!!」

 

鉄パイプを構えながら一夏は叫ぶ。

そして二人の間に沈黙が漂う。

スコールも何か言い返そうとするがどう考えても分が悪かった。

一夏の言う事に何も間違いは無い。間違いは無いのだ。

しかし先ほどまで奏と勝負をしていたスコールは言いたい事がたくさんある。

だがどう話そうにもあの勝負を見ていない者には説明しても信じてもらえるはずが無い。自分だって自分の事でなければ出来の悪い、笑えもしない冗談だと思うだろう。

彼女は顔を赤くしながら俺の顔を見るが俺は俺で目を逸らす。どうせならこのまま口で負けてしまえ。

 

「あぁん、もう!!いいわ、それでも!!でもカザネは連れいかせてもらうわ!!」

「させるか!!お前らの目的は俺だろ!!」

「織斑一夏はもういいの!!私がほしいのはそっち!!」

「はぁ?」

 

一夏は一夏でおそらく再び連れ攫われるのを覚悟の上で身代わりに出て来たのだろう。

しかし相手には『もういい』と言われ何がなんだかわからないのだろう、気の抜けた声が出てしまっている。

 

「もういいから行くわよ!!カザネ!!」

「ハァ…ハァ…、っく、また連れて行って…俺を弄ぶのか……っ!?」

「!?やっぱりお前!!」

「違うって言ってるでしょ!!このガキ共!!」

 

わざとらしく吐き出す息切れと少しおびえたような声。我ながらいい仕事をした。

一夏は完全に相手に警戒をしているし。スコールにいたっては怒りからか顔を真っ赤にしている。

すべての状況で負けていた展開から今は時間と口がこちらの味方になっていた。

何とかこのまま時間を稼げば一夏の言う別の助け、おそらくあの人(・・・)が助けに来てくれるだろう。

その時顔を真っ赤にしたスコールが突然声を上げた。おそらく無線か何かだろう

 

「何!?今こっちはいそがしい………なんですって?」

 

声を荒げながらはしていたのに向こう側からの連絡で突然冷静になる。

黙って話を聞いた後小さな声で「了解」と言った後、苦虫を噛み潰したような顔で一夏を睨む。

 

「織斑一夏……あんたなんて奴に助けを求めてるのよ……」

「……俺だって頼みたくなかったさ…」

 

そう言って一夏も一夏で情けない顔をする。

スコールは俺を恨めしそうな顔で見ながら浮かび上がる。

 

「次は絶対連れて行くからね……覚悟してなさいよ!?カザネ!!」

「お断りします。」

 

俺が言葉を言うか言わないかのところで既に彼女は空高くへと浮かび遠くへ去っていった。

おそらく捨てセリフのつもりなのだろう。まるで小悪党である。

俺は彼女が居なくなった後に一夏と目を合わせた

 

「「…………ふぅ…」」

 

お互い同時にため息を吐きドサッと地面に座った。

俺にいたっては座るのも煩わしく地面に大の字で寝転がり一夏に声をかける。

 

「君……助けに来てくれたのは良いけど…鉄パイプって…」

「仕方ないだろ!?あの時近くにこんな物しか無かったし、お前はとどめをさされそうだったし。」

「とどめねぇ……」

 

確かにあのまま行けば遅かれ早かれ俺は連れ攫われていただろう。意味は違うがお礼を言っておこう。

 

「確かにそうか。ありがとう、助かったよ。」

「それはこっちのセリフだって。あの時町で見かけた奴だろお前。」

「気が付いてたの?」

「そりゃ外国で日本人を見つけたら目がいくだろ?それにモンド・グロッソの開催場も教えてもらおうと思ってたし。それより傷は大丈夫なのか?」

「うん、…それほど深い傷はないと思う。ただ疲れて足が動かない。」

「ああ、そりゃあれだけやられればなぁ……気が付いてたか?」

「何が?」

「あの女、お前を攻撃する時満面の笑みだったの。」

「ああ、気が付いてた。あれは『真性のドS』だよ。きっと。」

「だよなぁ。正直かなり怖かった……」

「僕も僕も……」

「「女ってこえぇ……」」

 

と顔を合わせもせずマヌケなことを二人で話していると突然突風が吹いて近くに一人の人影が現れた。

 

「一夏!!無事か!?」

「千冬姉!!」

 

そこに現れたのは世界最強の女(ブリュンヒルデ)でありさっきのスコールとは別の意味で『怖い女性』。そして一夏の姉『織斑 千冬』の姿であった。

 

 

 

 

だれが女心を読むことができよう?

                   ~シェークスピア~




ということでスコールさんはいなくなりもっと恐ろしい……失礼。
一夏の姉の千冬さんの登場です。
一応この後掲載するつもりの番外編でスコールさんについて少し書くつもりなのでそちらも見ていただければ幸いです。
では今回も読んでいただきありがとうございました。

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