インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
「まったく……貴様らは夜中に何をしているんだ!!」
「「「「「スイマセンでした……」」」」」
千冬さんの怒鳴り声が響く。
現在一夏、箒、セシリア、鈴、ラウラは千冬さんの説教を喰らっている。
俺とシャルロットはそれを苦笑しながら見ている。
あの後こいつらは俺とシャルロットが見守る中、空中決戦を開始したのだ。
と言ってもお遊びレベルのものだったが……かなり目立つ。
そうすればすぐに千冬さんも気がつき怒りの声が夜空に響いていた。
まぁそんなこんなで現在千冬さんに怒られながら5人は正座中だ。
セシリアがすごいきつそうな顔してるが……流石に助けられん、こっちもこっちでこれから大変なんだ。
さてどうやって千冬さんとコンタクトを取ろうかと考えていると千冬さんがこちらをちらりと見る。
「まったく……貴様らはしばらくそこでそうやって反省していろ。……風音話がある少しいいか?」
「ハイ、大丈夫ですよ。織斑先生。」
「……ソウ、がんばってね。」
「何を?…冗談だからそんなにむくれるな、ありがとう。」
むすっとしたシャルロットに手を振りながら千冬さんの後を追う。
さっきちらりとこちらを見たとき以外一切目を合わせてくれない…何を考えているかは顔からは読みきれなかったが…最悪の事態にはならないと信じてはしているが…
さて蛇が出るか鬼が出るか…できれば何も出ないでほしいんだが…
そう考えていると千冬さんは自身の部屋に戻った。
確かにそこは一番誰も入ってこない部屋だな…
部屋に入ると明かりはついていない。こちらに背を向けた状態で暗い部屋の中で立ったまま千冬さんは俺に声をかける。
「……何か私にいいたい事はあるか…」
「え~っと…質問してもいいですか?」
「…ああ。」
「あの後篠ノ之博士は?」
「……私の話すら聞かずに去って行ったよ。」
「俺を狙うと思いますか。あと約束は守るかどうかですねぇ……」
「…約束は…最低限は守るだろう。そしてお前の事は……必ず殺しに来る。」
「そいつはよかった。」
俺がそう軽い口調で言う。
まぁこれで無視されたら何のためにあんなことしたんだって話になるよな。
周りを巻き込むなと言ってあるから最低限、俺の手の届く範囲ぐらいに攻めてくるだろう。
しかし…できることなら休学でも何でもしてできるだけ人が居ないところに行きたいくらいだ。
一夏と箒を攻める事はなくなったが…やはり周りの被害は出てしまいそうだな…
「奏…他には何かあるか?」
「あ~……千冬さんが交渉失敗した理由とか?」
「………すまないがそれは言えない。」
「…今後どれくらい彼女の手綱を握れると思いますか?」
「……最低限私に被害がないようには動くだろうが…」
「今までもそう動いてたんですか?」
「……私に関してはな……」
なるほど……
え?なんなのいったい?
今まで俺の頭の中では束が大切な人は千冬さん、一夏、箒の三人で優先順位は無いように思えた。
だが実際被害が無いように動くのは千冬さんに対してだけ……
今回の事件だってある意味一夏か箒、どちらかが被害を受ける事が前提の作戦だ…
本当に訳がわからん。
「あ~……スイマセンが千冬さん。千冬さんからみた篠ノ之束を教えてください。」
「……天災科学者で基本的に自身が認めた人間以外はどうでもいい。」
「…では彼女との約束について。」
「……すまんがこれも言えない…」
「……問題は一夏ですか?」
「っ!?」
「ああ、何も言わなくて結構です。多分そういう約束なんでしょう。」
頭が痛くなる。
話をまとめよう。
交渉を失敗したと聞いたときにそれを否定しなかった…
という事は千冬さんは束に『一度やめるように説得はした』。
だが【何か】かしらの理由で『それはうまくいかなかった』。
さらに作戦が失敗した後『千冬さんはすぐさま束と連絡をとらなかった』。
という事は……『失敗しても【何か】の理由があって束をとめられなかった』?
【何か】は恐らく『一夏』関連。
第一、一夏関連以外でこの人がここまでのわがままを許す理由がわからない。
そして……さっきの束の言う作戦も一夏のためになるんだろう、そうでなければ千冬さんが許すはずが無い。
さらに俺を落とす事に関しては……どちらなんだろうか…
それだけは聞いておこう。
「千冬さん。俺を落とすのも作戦の内だったんですか?」
「違う!?…信じてもらえないかもしれんが…アレは束の独断だ。」
「そうなんですか…」
なるほど…千冬さんの言う事を信じるなら『俺を落とそうとしたのは束の独断』。
さらに言うなら今のいいかた『千冬さんは計画をすべて知っていて』それでなおかつ『終わった後もそれの内容を話せない』ってことか…それも恐らく一夏を守るためなんだろうが……
やはり情報が足りなさ過ぎる、今結論を出すのはやめておこう。
ただ覚えておかなければいけない事は
・束は完全に俺に敵対している。
・千冬さんは何かかしらの理由で束に逆らえない。束に関しての情報も手に入らない。
ってことか?
うわぁ……なんかゆがんだ友情に見えるな……
これは情報が足りないせいだろう…だがそろそろ俺の質問は終わらせよう
「まぁ聞きたい事はこれくらいでいいです。流石にこれ以上は頭パンクします。」
「……そうか…」
「で、本題は?千冬さんもここで俺に敵対しますか?」
と軽口で言ってみたもののそうなればほぼ詰みだ。
別に今すぐ俺を殺しにくるわけではないだろうが学園内で束がせめてきたときに向こうに付かれたらいろいろと面倒な事になる……
「違う…私は…お前に謝らなければならない…」
「僕が落ちた事に関しては別に気にしていません。知らなかったんでしょう?」
「気を使わなくてもいい…知らない事とはいえ私のせいで……お前は死に掛けたんだ…お前に軽蔑されても、殺されても仕方ない事を私はしたんだ。」
「やめてください。別に一夏のためならどうとも思いませんよ。…仕方ないんじゃないですか?誰だって肉親の方が大切ですし。」
「っ!!私の行ないを認めるな!!私は……そのようなことをしてはいけない立場なんだ…」
ああ、千冬さん完全に余裕がないな…
普段のこの人ならここまで俺の言葉でうろたえたりしない…
頭をかきながら俺は言葉を続ける。
「あ~……って言われても僕も同じような事しましたし…」
「…何を言っているんだ?」
「僕は…いえ、俺は一度ラウラの事よりシャルロットを優先して…ラウラに危ない橋を渡らせました。俺自身の我侭のためにです。」
「……どういう意味だ?」
「千冬さんもわかるでしょう?…俺は『発動したら死ぬ』ってかいてある情報まで手に入れてたのに……ラウラの事を大会にそのまま参加させました。VTシステムが発動しかねないの事を知っていたのに……」
俺がラウラに甘く、何を言われても許して気にかけている理由がこれだ。
本当に、平等に助けるつもりなら、なりふり構わず千冬さんやさまざまなところにVTシステムの事を話すべきだった。そうすれば俺はドイツに狙われる事になってもラウラに危ない橋を渡らせる事は無かったのだ。
ラウラにあそこまで苦しそうな叫び声をあげさせ、おびえさせる事も無かった。
だが俺はそこでシャルロットの方を優先した。
アイツをおびえさせないため、専用機開発の邪魔をドイツにされる可能性を下げるために……
ラウラではなくドイツのために動いたのだ。
そして救える確証も無く救出作戦を行なった…
「……俺があらかじめVTシステムの危険性も、ラウラのISに積まれている事も、あいつの精神が不安定な事も大会前にすべて知っていました。本当ならここで危険だって千冬さんにでも伝えるべきだったんですよ。」
「……だがドイツから口止めを――」
「それはラウラの人命より優先するべき事ですか?俺にはそう思えませんよ…でも俺は…それに従って
はっきりと千冬さんに向かってそう口に出す。
そこでようやく千冬さんはこちらを振り向いた。
暗くて互いに顔は見えない…丁度いい。
俺自身今自分がどんな顔をしているかわからない…
「千冬さん…今回の篠ノ之博士の作戦、うまくいけば死人もけが人も無しだったんじゃないですか?」
「……そのとおりだ…計画上はな…」
「俺はそんな作戦すら立てずにラウラを死地に送り込んだんですよ…俺、本当は篠ノ之博士にあんな事を言う資格もありませんし…千冬さんを責めることも出来ません……」
「だがお前にそんな責任は初めから無いはずだ…」
「それは見捨てていい理由にはなりませんよ……まぁこの話はおしまいにしましょう。」
と話すと話がかなりそれていた事に気がつく。
いけないと思い無理やり話をそらす。
これは俺の罪だ、誰かに許してもらう事も助けてもらう事もするべきではない。
ずっと抱え続けていかなければいけない物だ。
これを今さらラウラに言ってどうなる?
アイツは俺を責める選択をしたとしてもそれはアイツを追い込み俺が少し楽になる程度だ。
許す選択でも……俺は俺を許す事は絶対にできない。
その結果どちらにしてもラウラを追い込む事になる…これも言い訳がましいな……
「それにそんな事関係無しに千冬さんの事を責める気は自分にはないですよ。スイマセン、この話はこれで終わらせてもいいでしょうか…」
「そうか……だがお前が束に狙われる事になったのは…それにあんな行動、お前が最も嫌っていた事ではないか!?そんな事をやらせてしまったのは私の――」
「もう過ぎた事を言うのはやめましょう。それにそれは俺が望んだ事です。どこにも千冬さんの責任はありませよ。」
「っだが………」
千冬さんは納得のいく顔はしていない…
しかし……やはり千冬さんは俺が矢面に立つことを納得してくれないか……それに説得できたかといえば微妙なところだ…俺もラウラの事で混乱していたしな…
まぁ納得してもらえないのは承知の上だ。
「まぁ……話は以上でしょうか?」
「ああ……」
「一夏に関しては…多分千冬さんが何か対策を?」
「ああ…一応対策は考えてある…」
「…じゃあ任せます。あと…そろそろ一夏以外は許してあげましょう。結構正座してますしセシリアなんて死んでるんじゃないですか?」
「ああ、そうだな……」
と俺が笑顔で話しかけるが千冬さんの反応は薄い。
まぁいきなり自分が俺に許されているって言っても俺を含め他の人物に嘘をついていることには変わりないからな…まぁ仕方ないだろう。
千冬さんが部屋を出て行ったあと翌日の準備をし置き手紙を書いて部屋を出る。
なんというか…部屋に居づらかったのもあるが無性に体を動かしたかったのだ。
次の日の朝朝食の頃に旅館に戻る。
結局朝まで銃の練習をしていた。
なんというか全力で動いていると感情が落ち着いていくのだ。
……まるで脳筋だ……さて飯を食ったら荷物を取ってバスに行こうかと考え食事を行なう部屋でゆっくり休むことにした。
飯を食うことになっている大広間に入ると珍しい事に一夏が先にきていた。
「よう、一夏。」
「ああ、奏か……なぁ…お前千冬姉となんかあったのか?」
「具体的に言えば?」
「………喧嘩したとか…」
「ああ、そういうのじゃないよ。ただの意見の食い違いだ。それで僕だけ熱くなっちゃってな、頭を冷やす目的で外で運動してたんだよ。夢中になって結局朝まで動いてたけどね。」
「……本当か?」
「ああ。本当だ。」
「そうか……」
と言いつつも納得していないようだった。
一応昨日の千冬さんについて聞いてみるか…
「千冬さんどうしたんだ?」
「いや……普段と変らないようだったんだけど…」
「お前には変に見えたって感じか?」
「……ああ。なんていうか見たことない感じだった…」
「そうか……僕のほうでも気にしてみる」
「ああ、頼む。もしかしたら俺の気のせいかもしれないけど…」
といいながら考え込む一夏。
そして……なんとわざとらしい言い方だろうか…
千冬さんがおかしくなっている原因は確実に俺との会話だ…
だが千冬さんがそれを隠している以上それを一夏に言うわけにもいかないな……
とりあえずもう一度千冬さんと会って話をしよう。
そう考えて飯の時間まで適当に一夏と話す。
話を聞いた結果、昨日は寝るまで千冬さんに説教をされてさらに学園に戻ってからも説教、反省文、奉仕活動とやらないといけない事は山のようにあるらしい。
さらに自身は暴走時のことをほとんど覚えていない。
ただ一心に福音を落とさなければと言う考えだったということだけは正確に覚えているとだけ言っていた。千冬さんはどうやってこいつの暴走を止める気なんだ?
話を聞きながら千冬さんを待つ、だが食事の場に千冬さんが現れる事は無かった……
そして帰りのバス。
最前列に俺と一夏は座る。窓際の席で千冬さんを探してみるが…見つからない。
もうそろそろ発車時間だと言うのに千冬さんの姿は無い。
もしかして俺が昨日しっかり説得しなかったせいか?と顔には出さないように不安になってくると後ろからシャルロットの声がする。
見てみるとこちらを見て心配そうな顔をしている。
「ソウ、さっきからどうしたの?」
「あ~まぁ…ち、織斑先生が今朝から見えないからどこいったのかなってね。」
「…そうなんだ。」
こいつだんだん勘が鋭くなってきてるな……
まぁ今の発言も嘘を言っているわけじゃない。
多分ばれてるとは思わないが……
と思うとバスの中に誰か入ってくる。
見たことも無い女性…って訳じゃない。恐らく彼女がナターシャ・ファイルス。
「えっとここ一年一組のバスであってる?」
「あ、はい……あのどなたでしょう?」
と山田先生が対応する。
突然現れたんだこういう対応になるに決まってるな。
見た目は……なんと言うか凜とした雰囲気に色気を足した感じだな。
なんだろう…箒とスコールを足して2で割った感じか?
いやそれにさらにいろいろ加わってるな…とりあえず美人なことは間違いない…
「ああ、昨日皆さんに助けてもらった者ですよ。」
「っ、なんの御用でしょうか?」
「あ、ちょ、ちょっと身構えないで。本当にお礼を言いに来ただけだから。」
と山田先生が軽く身構えるとあわてるように説明をする彼女。
今の言葉で確定だな。ユーモアの方もわかるようだし礼儀もあるって感じかな?
バスの中を見渡すと俺と一夏を見つけ接近してくる。
「あなたが織斑一夏?」
「あ、はい。」
「やっぱり。千冬に似てるもんね。じゃあこっちがあのでたらめ君か。」
「はい?なんですかその名前。」
「ああ、ごめんなさい。えっと風音奏君でよかったっけ?」
「いえ多分別人だと思いますよ?本物はもう今頃研究所に行っているかと、僕は影武者です。」
と俺がとぼけるように言う。
ヤバイ、今この人が行なう事に巻き込まれてたまるか。
記憶によみがえってきた出来事これは……俺も巻き込まれたらただじゃすまない。
特に後ろにいる奴とか本当に危ない。
とぼけるようにして両手を振る。
だがそれは後ろと横からの声でかき消される。
「ちょっとソウ、流石に失礼だよ?」
「そうだぞ奏。なんか用があって来たんだろうし。」
「ジョークだよジョーク。はじめまして僕がでたらめ君こと風音奏ですよ。」
と笑顔で対応する。
シャルロット…知らないとはいえお前って奴は…
クソ!!だが逃げ切る事はまだ出来る…
俺がそういうとナターシャはクスクス笑い出す。
「千冬のいったとおり愉快な人ね。」
「いやぁ…福音のパイロットにほめてもらえるとは光栄ですよ。」
「あらばれてたの?」
「さっき昨日助けた人って言ってたのはあなたじゃないですか。」
「そういえばそうだったわね、はじめまして。遅くなったけど自己紹介するわ。ナターシャ・ファイルスよ。」
と言ってはじめに一夏に手を差し出す。
そのまま一夏は警戒しがちに手を握り返す。
「あなたが私とあの子を最後に止めてくれたのよね…それに私のせいで大怪我もさせてしまったみたいだし…ごめんなさい、あと本当にありがとう。」
「いえ怪我は治りましたし…そちらこそ結構攻撃され続けてたし…大丈夫でしたか?」
「へっちゃらよ。私これでも鍛えてるんだから。」
と言ってウインクを一夏にする。
この人結構食わせ者だな、一気に一夏の自身への印象をプラスに変えたな…
まぁ初めからこいつは彼女の事は悪く思ってないから関係ないだろうし。
その後手を話した後……
一夏との握手を止め、今度は俺に手を差し出してきたので握手をする。
タイミングとしては今一夏にキスをするかと思ったんだが…気は張っておこう。
「あなたも私が一回落としてしまったわね……怪我は?」
「頑丈なだけがとりえでして。」
「あれだけ私とあの子と戦えてねぇ……ねぇ、アメリカに来ない?歓迎するわよ。」
「あはは、僕英語話せないんですよ。」
「あら?それくらい私が何とかするわよ?」
「いえまだ僕記憶を取り戻すために日本全土を歩くつもりなんでその後にもう一回誘ってくださいよ。もしかしたらチャンスがあるかもしれませんよ?」
と俺も笑顔で返す。
ヤバイ、この状況確実に嫌な方向に向かっている。
そして話は終わっただろうと思ったのだが…彼女は手を離してくれない。
「あともう一つ。」
「なんでしょう?」
「あなたが学園に渡してくれた情報のおかげで
このときの彼女は本当に真面目な顔で俺に話かけていた。こっちが素の顔だろう。
そうか…俺の情報はまったくの無駄にはなってなかったのか…
という事は今回の事件は亡国機業のアメリカへのサイバーテロになるのだろうか…
まぁそこら辺は今後次第か…
本心からでた満面の笑みで答えを返す。
「…いえ、役に立ったならよかったですよ。それにあの情報は俺も偶然手に入れただけですしね。それで救われた人がいるなら本望ですよ。」
「……」
「どうしました?」
「あなたって二面性あるって言われない?」
「いえ?はじめていわれましっ――!!」
不意打ち気味に手を引かれキスをされそうになる。
しかも唇を狙ってだ。
かろうじてかわすが頬にキスをされる。
後ろから殺気を感じる…しかもすげぇ音した、今。
何かを握りつぶすような…ベコって鳴った!!ベコって!?
「……………………」
「「「「「「「き、キャァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」
「な、何するとですか!?」
「あら?あなた私に脈があるかどうか聞いたじゃない。答えを返しただけよ?」
「いや、あれは冗談で!?」
「あら!?私遊ばれてたの!?」
とわざとらしく口に手をあて驚いた顔をする。
畜生、絶対隠した口元笑ってるだろ……
バスの中は大混乱だ。
「ちょっと!!風音君が美女を口説いたらしいわよ!!それも任務中に!!」
「ちょっと待って…そういえば…おとといから昨日の朝まで風音君は……」
「え!?何!!奏君だけ侵入ミッションか何かだったの!?」
「そこで美女を口説いて……」
「「「きゃぁぁぁぁあああああ!!!!嘘!!」」」
「しかもあの女性、今遊ばれてたとかいったわよね……」
「カザネ君がそんな……きゃぁぁぁぁあああ!!」
うわぁ…なんか大変な事になってきたぞ…
特に俺の後ろの席…すごい殺気がする…
ナターシャはその風景を見て満足げに笑う。
「あら、大変な事になったわね。」
「………日本にはキス文化は無いもので…」
「あら?私の国でも唇にするキスは特別よ?」
というと後ろの方から俺の椅子を蹴る奴が居る。
落ち着くように説得する三人の声も聞こえる。
「…………」
「しゃ、シャルロット落ち着け。奏兄はそんな奴じゃないだろう!?」
「そ、そうですわ!!気を確かに!!」
「落ち着くんだシャルロット。」
「………」
うわぁ後ろが怖い…
特に今のシャルロットの顔とか見たくねぇ…
ナターシャはそれを見て『あらあら』と言った感じで心底楽しそうにしている。
「おーい、ナターシャさん。この状況で帰る気?」
「そうねぇ…流石にかわいそうに思えてきたわ。」
そう言ってぼけーとしている一夏をちらりと見る。
おい、まさか。
「……いや、それはやめましょう?それは悲しみしか産まれない…」
と俺が言うとにやっと笑うナターシャ。
あ、これは危ない笑顔だ。
そして俺が一夏に何か言う前にナターシャは一夏の頬のちょうど俺と同じところにキスをした。
「「「へ?」」」
「あっちゃー…」
「…はぁ!?」
と唖然とする俺と一夏。そして後ろの一夏が好きな三人。
それに気がついたバスの全員もぴたりと止まる。
それを気にもせずにナターシャは笑いながらバスを降りていく。
「織斑一夏くん、あなたにもお礼ね。あとカゼネ、あなたのそれは別よ。バァイ。」
「「「「「「「き、キャァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」
あ、アイツ最後に特大級の爆弾落としていきやがった。
恨めしそうな顔でバスから離れていく彼女を見ると…千冬さんが近くにいた。
そしてもう一度こちらに気が付きウィンクをしている。
そしてキスをされた一夏の方は……
「一夏ぁ!!き、貴様何を喜んでいる!!」
「そうですわ!!一夏さん!!不潔ですわ!!」
「嫁は!!浮気しちゃ!!!駄目だろう!!!!」
「ちょ、ちょっと待て!!やめて!!物を投げるのは本当に!!」
と一夏は物を投げられさらに三人に捕まりそうになっている…
という事は……先ほどまで三人に抑えられていたはずのシャルロットは…
「ねぇ……ソウ?」
「……当方は無罪を主張します。」
「ふぅーん…口説いておいて…そんな事いうんだ…」
うわぁ…椅子の後ろから怨念が聞こえる…
後ろ向きたくねぇ……
一夏は…完全に三人+αに引っ張られて袋叩き状態だ。
あれに助けを求めるのは酷だろう…何より多分一夏は同じように俺に助けを求めているはずだ…すまん一夏…こっちはこっちで大変なんだ…許せ。
「いや?僕としてはそんなつもりは一切―――」
「でも原因はソウだよね?」
「いや、だからさ、僕の戦闘スタイルっていうか、しゃべってないと死ぬって言うか――」
「で…今こうなっちゃったんだよね?」
あ、駄目だこれ。逃げられそうに無いわ。
むしろ泥沼にはまってる。
かくなるうえは……
俺は覚悟を決めてシャルロットの方に立って向く。
うわぁ…すげぇこえぇ…
「よし、シャルロットわかった。」
「へー……何が?」
「………あまり痛くしないでください。」
「ソウの……バカァァァァァアアアアアアアアアアア!!」
と言って俺に中身入りのペットボトルが投げつけられるのだった。
これって原作だと一夏が喰らうんだよなぁ…
まぁこのぐらいは受け止めよう。
しかしその後千冬さんが戻ってくるまで俺はシャルロットに説教をされていた。
こうして本当に臨海学校は幕を閉じた。
時は万物を運び去る。心までも。
~ウェルギリウス~
ナターシャさんちょっと軽くしました。
なんというかキャラかぶりが起きてしまいそうだったんでww
ということで次からオリジナル展開の後…4巻のようなものが始まります