インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第六十四話 反撃の狼煙

ソウの言葉を聞いた後私たちは織斑先生の指示で一度休まされることになった。

特に私に対しては一度しっかりと休むようにと念を押された。

司令室の隣で6人で休む、箒は一夏の所に行きたがっていたが現在面会すら許可されていない。

静かな部屋の中で突然箒が話し始める。

 

「………私のせいだ…」

「…箒、あんた何言ってるの…」

「……私が専用機を持ってしまったばっかりに…一夏も奏も…」

「馬鹿なことを言うな、嫁の行動は誰が一緒でも同じだったろう…」

「だが私が…もっと強ければ…」

「そんな事を言ったら私たちもですわ…奏さんにわたくしたち全員足手まといって言われたんですよ?それに実際私たちがかなわなかった福音相手に一人で……」

 

完全に全員落ち込んでいた。

無理もないことかもしれない…実際どうすればいいのだろうか…

ソウだったらどうするんだろう…教えてほしい…

ソウは最後の瞬間まであのままだった…

いつものソウだった…アレはわざとだったのだろうか…私たちを不安にさせないために…

いや、あの声は本気で言っていた。そうだソウは私に最後に『また』と言っていた。

ソウは必ず約束を守る……守ってくれるはずだ…

 

「だったら…戦って勝とうよ…」

「シャルロットさん?」

「ソウでも勝てなかった相手にさ、みんなで戦って勝てばソウに『足手まといじゃないでしょ?』っていえるよ?」

 

私がこういうと皆心配した顔で私を見る。

まぁ……さっきまでの状態を考えると仕方ないだろう。

私は苦笑いをするように笑いながら話を続ける。

 

「大丈夫、無理は……ちょっとしてるけど本当にそう考えてるから。ソウは絶対約束は守るからさ…まだ私……守ってもらってない約束ばっかりだから…絶対戻ってくる…絶対…」

「…でも…どうやって勝つの?」

「そこなんだけどさデータは多分こっちにもある……あとはみんなの意見がほしいんだ…協力して、お願い。」

 

私がそう言って頭を下げる前に鈴、セシリア、ラウラはすぐさま立ち上がるようにこちらに乗る。

 

「……私は乗ったわよ!!やられっぱなしは性に合わないしね!!」

「確かに…このまま負けっぱなしは気に食いませんね。」

「……教官には悪いが嫁の敵を討つのが妻の務めだろう。」

「……確かにこのままでは奏さんの努力まで無駄になってしまいますね…」

 

三人が立ち上がるように反応する。

その後一歩遅れて簪は自分に言い聞かせるように言う。

だが箒はうつむいたままだ。

 

「……私は…もうISには乗らない…」

「箒!!あんた何言ってるの!?」

「…私のせいで一夏がこんな目に遭ったんだ…私がISに乗ったから……」

「箒……」

 

完全に箒は塞ぎこんでしまっている。

ソウだったらどうするだろうか…違う、私はソウじゃないんだ。

私は私として箒の説得をしよう。

 

「箒……ひとつ聞いてもいい?」

「……なんだ?」

「今のままで箒は一夏の事をまっすぐ見れる?」

「っ!!そ、それは……」

「それとも一夏の事は諦めるの?」

「……」

「それはともかくそんな事で一夏の事を諦めるのはずるいよ、箒。皆しっかりと一夏のことを好きでがんばってるのに自分だけ別の理由で逃げるなんて……」

「に、逃げてなど!?」

「ううん、逃げてる。前までの箒だったら私が諦めるか聞いたらすぐに違うって言ってたはずだもん。」

「………ではどうすればいいんだ?私が一夏に関わったせいで…」

「……箒、こっち向きなさい。」

 

私が説得を終える前に鈴が箒のほうに近づく。

箒は反応してうつむきながらゆっくりと振り向く。

 

<―パァンッ!!―>

 

という音と共に鈴は両手で同時に箒の両頬を叩き、無理やり目を合わせる。

自身より背の低い鈴に顔を引っ張られ少しかがむような姿勢になっている。

 

「いい!!アレはあんたのせいでもなんでもなくて一夏自身のせいなの!!!コレが終わってアイツが目覚ましたら奏と一緒に一発殴ってやる予定なんだから!!あんまりあんたが勝手に背負うんじゃないわよ!!」

「だ、だが…」

「何!?じゃああんたあの時全力で一夏をとめてなかったて言うの!?違うでしょ!!」

「ああ…」

「じゃあそれで止まらなかった一夏が悪い。それだけの話なの!!いつまでもぐずぐずしない!!」

「……わかった。」

 

その声を聞いて鈴は両手を頬から離す。

完全に鈴に押し込まれるようにして説得される箒。

それを見てセシリアがクスクス笑う。

 

「確かに鈴さんの言うとおりですね。わたくしも一夏さんが目を覚ましたら一発はたかせてもらいましょう。」

「そうだな。では私は嫁と奏兄の両方をはたこう。」

「じゃあ私は奏さんの方をやっちゃいます。」

 

そう言ってラウラと簪は互いに笑い合っている。

前の奏に対する文句を言うといったときと同じ雰囲気が戻ってきた。

ソウもビンタをされるのか……じゃあ私も何か考えよう。

後の箒の事はみんなに任せよう…

私は福音のセカンドシフト時のデータ……もし、もしアレ(・・)を使う事ができるなら…

そう考え私はみんなと一旦別れ格納庫の方に向かう。

 

 

 

 

 

 

仮設された格納庫では現在セシリア、鈴、ラウラのISと、教員の量産型ISの修理が急ピッチでおこなわれていた。

私は辺りを見渡し栗城博士をさがす。

しばらく探しているとこちらの方に向かって歩いてくる栗城博士を見つける。

 

「栗城博士!!」

「………ああ、嬢ちゃんか……」

「スイマセン、お願いがあるんで―――」

「お前の烈風なら準備が出来てる。あと使用許可も下りてるだろうよ。」

「え?」

 

なぜ栗城博士が私がそれを聞きに来たのかわかっているのだろうか…

それにまだ未完成の上にデュノア社のほうの許可も…

栗城博士は頭をかきながら説明をする。

 

「あのクソガキが出撃する前にな烈風のイメージ・インターフェイスの二つの機能だけは開放しておいてくれって頼まれてな……おそらくセカンドシフトした後の戦闘データなら十二分に入っているだろうよ……」

「ソウが……」

「使用許可に関してはアイツがそう言っていたって社長に伝えろっていわれてな…あのクソガキ……こうなると見越して俺に頼みやがったな…」

 

と顔をしかめている。

そう言いながら栗城博士は離れていく。

 

「悪いちょっと一服してくら……後の詳しい話はデュノア社の方の社員たちと頼む。」

「え?ですが……」

「安心しろ、社長からの許可も既に下りてるらしい。好きに使えだと。」

「………ありがとうございます。」

 

そう言って手を振りながら離れていく栗城博士。

その後デュノア社のスタッフたちの所に向かうと先ほどまでの烈風に追加でシールドユニットらしきものが装着されていた。自身の機体を正面以外囲むように設置されている7枚の盾。

話に聞く限り現在肩パーツの武装切り替えは出来ないがそれ以外は通常と同じようには使える、ただし未完成品である事には変わりないため完成時ほどのスペックは出せないらしい。

だがそれでもリヴァイヴと比べるとかなり優秀な機体である。

癖も私のリヴァイヴと似たような感覚で操作の方は問題はない。

データを確認してみると……やはりソウからのデータがこちらに送られていた。

さてこのデータを元にみんなで作戦を考え……織斑先生を説得するだけだ。

と思いデータを確認しているとメッセージらしきものを見つける。

再生してみると一言のみ。

 

『シャルロット、しばらく頼んだ。』

 

とだけだった。

なんと無責任な言葉だろうか……

そう思いながらも帰ってきたら絶対にいろいろ文句を言ってやろうと決めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、私たちは作戦を考え司令室に向かう。

ここで織斑先生を説得できなければ……いや、多分説得できなくても全員勝手に戦おうとするだろう。現在皆あの福音に一矢報いてやりたいのは一緒なのだ。

そうならないようになんとしてでも織斑先生の許可を得るようにしなければ…

 

「織斑先生、デュノアです。」

「……待機の命令を出していたはずだが?」

「……ソウの残した福音のデータを発見しました、恐らくそちらのソウの目線だけのデータよりも数倍情報が入っていると思います。」

「……どういうことだ。」

「その説明もあるため入ってもいいでしょうか?」

「……よろしい、入れ。」

 

そういわれて私たちは全員で部屋に入る。

それを見た織斑先生は怪訝な顔をする。

 

「………他のものはなぜここに来た。」

「……それについては後ほど。」

「今すぐに説明しろ。」

 

織斑先生の顔がさらにきつくなる。

気圧されそうになるが……ここで引くわけには行かない。

 

「私たちで対福音用の作戦を考えてきました。」

「駄目だ、却下する。そのデータだけを置いていけ。」

「…先生、残念ですがそのデータを使う場合、最低でも私が作戦に参加しなければいけません。」

「……どういう意味だ。」

「私と…ソウの新型機は互いにデータをやり取りする機能があります。それも通常のコアネットワークと違い本来共有できないレベルでの情報もある程度共有できます。」

「それがなぜお前が作戦に参加しなければいけないことにつながる。」

「その共有するデータの中には私たちの機体の共有の機能である相手の動きを観察する事で予測するシステムも含まれています。動作予測、攻撃の機動予測、さらにある程度の癖までソウの機体のほうは見切っており、それはすべて私の機体に引き継がれています、それがソウの残したデータです。ですがそれを戦闘に役立たせるためには……直接相手の動きを見なければいけません。」

 

そう私が説明すると織斑先生は顔をしかめる。

ある意味役に立つ情報ではあるが…同時に問題もあるのだ。

恐らく織斑先生もその事は十分わかっているのだろう。

 

「そしてこちらで確認した映像データを見る限り量産機では福音の攻撃に数回しか耐えれない上に……指示があってから動くのでは反応し切れていませんでした。」

「………その予測はどれほどのものなのだ?」

「最終的には颶風の予測と実際の相手の動きはほぼ一致するまで予測精度は高まっていました。」

「……」

 

先生たちが弱いと言っているわけではないのだ。

むしろ何の強化もされていないただの量産機であの福音相手に戦い続けられる方がおかしいだろう。

実際5分程度は完全に互角の戦いを繰り広げていた……

だが一人落ちればその人の防衛までしなければいけなくなる。

そして量産機の性能では数発喰らえばまた動けなくなる……

映像の中のソウは、声をあげて指示をだし何度も盾になっていたが……守りきる事はできず最終的に先生方の避難のために被弾しながら力ずくで福音を押して距離を離していた。

 

「………」

「織斑先生、私たちの作戦の許可をください…このままじゃソウの奮闘が無駄になってしまいます!!」

「先生!!私たちからもお願いします!!」

「………駄目だ。許可できん。」

「そんな…なんでですか!!」

「教官、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

織斑先生はため息をつきながら頭を押さえる。

 

「どのような作戦かもわからないものに許可が出せるか、馬鹿者どもめ。とりあえず聞くだけ聞いてやろう、その後手直しで済むようなものなら私たち教員の方で再び検討をする。」

「先生!!」

「とりあえず作戦の首謀者は誰だ。」

「詳しい説明は私と……ラウラができると思います。」

「では他の者は再び待機だ、デュノアとボーデヴィッヒ、作戦を説明して見せろ。」

「ハイ!!」

「了解しました教官。」

 

そう言って織斑先生は他の先生方に連絡を入れている。

これから作戦会議を始めるつもりなのだろう。

その前に一旦みんなと話をしておこう。

 

「私とラウラはこれから会議に参加するけど……」

「すまない皆…私は作戦開始まで一夏の近くにいてもいいだろうか…」

「……私一緒に行くわよ。」

「箒ちゃん…私も一緒にいてもいいですか?」

「ああ…」

「すみませんが私はやる事があるので、機体のほうにいかせて貰いますわ。終わり次第箒さんたちと合流いたします。」

「わかった、じゃあ皆よろしく。」

 

そう言って皆と別れる。

司令室のスクリーンに映し出されている福音は丸い光の球体の中で小さくなっている。

ソウが帰ってくる前に倒してみせる、絶対に負けない…そう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

昨日より今日、今日より明日、明日より明後日、日々変わり続ける事が大切です。

                               ~パスカル・バルボ~

 




烈風のシールドユニットについてはペルソナ3のタナトスの周りのアレをイメージしてもらえれば。
ということで完全にシャルロットの話でした。
主人公?彼は……いい人だったよ……

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