インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

77 / 120
第六十話 野分

次の日の朝、なんとも疲れた状態で眼を覚ました。

昨日は部屋に入った瞬間なぜか俺の魔女裁判が始まった。

全力で四人をなだめて部屋に送り返す様を笑いながら見ていた千冬さんと、我関せぬというか最早触らぬ神に祟り無しの状態の一夏の顔は絶対に忘れない…

結局シャルロットが引っ張ってつれて帰ってくれたが、やっとの思いで終わらせたときには千冬さんは寝てたし一夏も

 

『うん?終わったのか?』

 

と言った感じだった。

俺はそのままツッコミを入れる気力もなく眠りに付いたのだ。

今朝になってからいつもの癖で早めに眼が覚め現在浜辺でランニング中だ。

あいつらのやり方ももう少し控えめにしてほしいのだが…自分でも最低な事をしている自覚はあるため強く言い返せない。

何も考えずに答えを返せるのなら迷うことなく答えを返すんだが……

今ほど自分の立場が面倒だと思った事はないな。

この調子ではしっかりと特訓をするのは無理だろう、俺はランニングのみで運動をやめて自身の部屋に戻る。それにあまり動きすぎて、体力を使っても仕方がないだろう……今日はあの福音が来るのだから…

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終え今日の日程に入る。

一般生徒には関係ないが専用機持ちや開発協力者等はそのISや開発している装備の試験運用等をしなければいけないのだ。

まぁ一応臨海学校の目的はこれがメインなのだ。

俺はISスーツに着替え浜辺から離れた岩場でシャルロット、簪と一緒におっさんの元に向かう。

今のところ問題はなぜか箒がここにいる事くらいだろう、気にする必要はない。

おっさんの元に向かうともう既に2機のISがそこにあった。

一機はおそらくシャルロット用のISだろう。

前回に見たリヴァイヴ系列の雰囲気はそのままだがシャルロットのカスタムの様な4枚のスラスターが背中ではなく腰の辺りについている。

なんというか上半身が寂しい。さらに機体の色は塗られておらずグレーのままだ。

一方俺の専用機になるらしい機体。

こいつは前回見たときと比べまったく形状は変っていない。

変ったところといえば機体の色が赤銅色、いやこれはどちらかといったらもっと深みのかかった赤というべきだろう。ヴァッシュのコートの色を思い出した。

 

「おう、久しぶり。」

「おっさんも元気そうじゃん。」

「お久しぶりです栗城博士。」

「栗城さんお久しぶりです。」

「奏以外は礼儀正しくていいな。お前も見習え。」

「失礼な!!礼儀正しく接するべき相手には………接する事もあるんじゃないかなぁ…」

「お前…社会にでてから苦労するぞ?」

「胸にとどめておいて善処します。まぁ冗談はここまでにして機体できたの?」

「ああ、一応な。機体名は『颶風(グフウ)』、デュノア社(向こう側)の風をモチーフにした機体名と倉持技研(ウチ)の漢字を使った機体名の中間を取ってこうなった。」

「颶風………台風ですか…」

 

ボソっと口に出す簪。

へぇ…颶風って台風って意味なのか…かなり気にいった。

俺の顔を見て文句がないようだと思ったおっさんは話を続ける。

 

「はじめは嬢ちゃんのほうの烈風(レップウ)を基にして、それぞれ『甲』と『乙』にするつもりだったんだけどな…あまりにも出鱈目な機能つけちまってこれじゃ別物だろうという事になってな。」

「おい、おっさん何つけた。」

「お前ならギリギリコントロールできるんじゃないかっていう反応速度。デュノア社の技術者いわく『これを乗りこなせたなら台風の中で飛ぶ事も可能だろう』だとよ。」

「………期待してもいい?」

「時間制限付だがその間なら絶対に壊れない自信はある。」

 

おっさんの強気の発言を聞いて俺はさらに笑みを深くする。

今まで最高で3分しか持たなかった機体がどれほど持つのだろう…俺は少し楽しみになった。

おっさんはシャルロットの方を向き説明を始める。

 

「続いて嬢ちゃんの機体だが……肝心のメインとなる最後の特殊武装部分がまだ仕上がってない。」

「どうなる予定なんでしょうか?」

「この機体上半身が寂しいだろ?一応メインとして両肩に切り替え可能の武装展開ができる。あ~…簡単に言えば打鉄のシールドみたいに中に浮いた状態でさまざまな武器を切り替えながら使える。稼動範囲はほぼすべての方向に向ける事はできる上にある程度の距離内でのコントロールは可能になるらしい。と言ってもビットというほど自在に距離をとれるわけではないらしい。どちらかと言えば2本の長いアームが付いた感じだな。」

「実際のとこ完成までどれくらいかかるの?」

「……早くて一ヶ月…最低でも三ヶ月はかかるだろう。だが元になるシステムは技術的にはそれほど難しくはない。距離を離す事はできなくても両肩に特殊兵装の展開はできるだろう。」

「特殊兵装ってなにさ。」

「現在想定されてるのはミサイルポッド、シールドユニット、大型グレネードランチャー、75口径カノン、高速機動ユニット。後はお前の案で出来たあのバカ兵器だよ。」

 

馬鹿兵器……あれ本当に造ったのか!?

しかも両肩に展開できる……バッカじゃないの!?

 

「……それ全部つめるの?」

「いや流石にこの中から一つはおろす事になるだろうよ。ああ通常兵器を下ろせば余裕でつめるな。」

「……拠点防衛用?」

「いや、機動性能もそれなりに高い。高速機動ユニットをつければそれ専用の相手とも技術次第で戦える。」

「……僕もそっちが良いなぁ…」

「馬鹿野郎。お前が乗ったらすぐ壊して終わりだろうが。」

「そんな!?人のことを化け物みたいに。」

「うるせぇ、ランク(デストロイヤー)。ウチらの間じゃそれがお前の呼び名だ。」

 

そういわれると何も言えない。

実際にめちゃくちゃ壊してるんだし…一応今まで被弾無しだぞ、俺。

それなのに何回も壊してるって…まぁ控えめに言っておかしいな。

話をそらすように俺は言葉を発する。

 

「真面目な話、僕らは何やればいいのさ。」

「お前は機体の全体的な調整とお前発案の兵器の面倒を見ろ。簪のほうは一応こっちで組んでみた山嵐のデータがある、これを使ってみてくれ。最後にデュノアの嬢ちゃんはあんたの機体用にいろいろと兵器があるから試してみてくれ。接続がうまくいかないようならすぐに教えてくれ。」

「「解りました。」」

「りょ~かい。」

 

そう言ってそれぞれ自分のやるべき事を始めるのだった。

簪は何かデータを貰ったあと自身の弐式を展開しデータを打ち込み始めている。

シャルロットは恐らくデュノア社の研究員がメインなのだろう、おっさん以外の研究員と何か話している。

という事は俺の相手は……

 

「おっさんか…」

「あからさまにがっくりしてるんじゃねぇよ…気持ちはわからないでもないけどよ。」

「さっさと終わらせよう。何すれば良い?」

「まずISとの接続だな、一応前にお前が使っていた打鉄のコアを使ってるがデータは一回消えている。まずはなれるところからだ。」

 

そう言ってISの装着をおこなう。

今のところ問題は無いな…正直前回と何が変っているかも解らん。

こんな状態で本当に全力で戦えるのだろうか……

十数分ほどセッティングをしていると一夏の方からいろいろと叫び声が上がる。

恐らくあの篠ノ之束(天災)が襲来したんだろう。

正直今は顔を覚えられたくないから徹底的に放置だ。

俺はあの人の行なうことはある程度知っているが、俺と会う事でどう動くかはまったくと言っていいほどわからない。出来る事ならこの場からいなくなりたいんだが……

 

<―ドォォォン!!―>

 

という大きな音と振動と共に岩場に何か出現したな……

流石におっさんや周りの技術者も気が付き始めたらしい。

作業する手が止まっている……おっさん以外。

 

「おっさん、なんかあったみたいだよ?」

「あん?気になるのか。」

「いや、全然。問題が起きたんだったら千冬さんがなんか言うと思うし。」

「お前先生は名前で呼ぶなよ……だったらほっとけ、今大切なのはお前の機体の方だ。それ以外は終わってから驚けば良い。」

「りょ~かい。」

 

まったくこちらを向かず画面に向かっているおっさん。

それを見て周りの技術者も作業を再開する。

伊達に一つのチーム任せられてるわけじゃ無いんだな……

しばらく作業をしているとおっさんの声がかかる。

 

「よし動いてみろ、多分問題は無いはずだ。」

「何やればいいのさ。」

「好きに動け、ただ武器はまだ使うなよ。」

 

そういわれて離れていくおっさん。

さて好きに動けといわれても……とりあえず歩くか。

俺はそのまま足を動かして体を好き勝手動かしながら岩場を歩く。

反応は赤銅と比べかなり早い、普通に動くどころか全力じゃなければ壊すことなく戦い続けれそうだ。ただ全力を出した時どこまで動けるかが問題だな。

そう考えおっさんに通信を入れる。

 

「飛ぶけど大丈夫?」

『ああ、許可はとった。好きにしろ。』

「OK、あとスラスターは使っても?」

『ああ、むしろそれのデータも取りたい。』

「了解。」

 

俺はそのまま宙に浮かぶ。

おお!!飛び上がるタイミングも早くなってるなぁ…

今のところでこの機体『颶風(グフウ)』について解る事は、

 

・最低全力で3分動ける

・反応速度の向上

・はじめから付いている武器は無し

・機体性能も高いし通信機能が強い

 

これくらいか……

いや、これ第三世代じゃないだろ。

強いて言うなら第二世代の……改修版?

まぁ多分何か機能があるんだろうが…

俺は適当に飛んだ後にスラスターに火を入れて最高速度を出してみる。

とたんにバカみたいな距離を一気に進む。

クソ!!おっさん先に言っておけよ!!

赤銅のブースターなんてめじゃないだけ早い、特に瞬間的に一気に最高速まで加速しやがる。

何とか制御しながら飛ぶ、かれこれ5分ほどこのスラスターに慣れようと飛んでいるとおっさんから通信が入る。

 

『おい、奏。どんな感じだ?』

「アホみたいに早いな、これアリーナ内で使えるの?」

『そこら辺の調整も今後やってくんだよ、今のところそこを考えないで無調整だからかなりきついだろ?』

「……そういわれるとこのまま使いこなしたくなるな…」

『馬鹿なこと考えてるんじゃねぇよ。それとすまんが一旦テストは終了だ。お前とこの先生からそう連絡が来た。』

「りょーかい。今から降りるわ。」

 

一旦終了という事は……あのモンスターユニットの準備が終わったのか。

そのまま地上に向かって降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後の紅椿の演習…確かにすごい機体なんだろう。

即時万能対応機、それも装備を入れ替えるのではなく自己進化で随時強化されていく…

まぁ…控えめに言ってめちゃくちゃだな。

ただし勝ち目がないかといわれればそうではない。

機体は強力な上に両手に近接ブレード、さらにそのブレードから放たれるエネルギー放出による遠距離攻撃、さらにビットらしきものによる支援攻撃とあるが穴はある。

それにパイロットの箒は近接系の使い手で未熟だ。

近接戦闘におけるこの機体はどれほどのものかはわからないが今のところ怖さは感じないな。

まぁ…はじめっから戦うつもりはないけどね。

俺は自身の機体を地上で動かしながら考えていた。

このスラスター緊急回避とかでも使えそうだな…下手したらそのまま地上に突っ込む事になりそうだけど。

そんな事を考えているとシャルロットからプライベート通信が入る。

 

『ソウ…あの機体…』

「うん?ああ、箒の機体がどうかしたの?」

『どうかしたのって…なんとも思わないの!?』

「……技術革新ってすごいんだぁ…ってくらい?」

『あの機体完全に私たちの開発している機体より上で、さらに第四世代なんだって!!このままじゃ…』

「いや、関係ないでしょ。今やるべき事は自分の機体を仕上げる事だし、あんな機体も卓上の空論じゃなくて作れる事もわかったんだ。それだけで十分じゃない?」

『………ハァ…なんか本気で心配してるのがバカらしくなってきた。』

「心配しても事態は変らないよ。そんな事より自分の機体。シャルロットの方はどうなのさ。」

『うん、武装の切り替えが独特だけど問題なく使えそう。………ちなみにソウはあの紅椿相手に勝てると思う?』

「僕は逃げる。」

『だと思った。』

 

と恐らく通信先で笑っているのだろう。

そこで通信をきり再び自分の機体を動かす。

さてそろそろおっさんに言われた第三世代としての颶風の目玉を使わせてもらおうか…

と思うと俺にまた通信が入る。誰だ一体…

 

『風音……こっちに来い話がある…』

「織斑先生どうしましたか?」

『……いや…やはり来なくても――』

『ちーちゃんいいから早くこっちに来させなよ』

 

この声……すげぇ嫌な予感がする…

通信不調ってことにしたい…って言ったもこっちに来られるのか…

 

「……千冬さん…もしかして個人的なお願いの部類ですか?」

『……そうだ。』

「……了解しました…ISは装着したままで?」

『…すまんがそのままで来い…』

 

うわぁ…千冬さんがここまで申し訳なさげに話すのはじめて聞いた…

さぁて…面倒ごとはごめんなんだが…俺はそのまま宙を飛び千冬さんたちの所に向かう。

宙に浮きながら情報を確認すると…うわぁ…なんというか…お通夜の雰囲気組みと良い空気吸ってる組に分かれてる…

セシリアはなんかすごい落ち込んでるし鈴はセシリアに気を使いながら篠ノ之博士に敵意を向けてる…一夏もセシリアを慰めながらなんかおろおろしてる…

ラウラはなんというか固まったままで何か考えてるな…

箒は何か緊張した顔つきで俺の事を睨んでる、いや…違うな睨んでるんじゃなくてさまざまな感情が入り混じった状態で俺を必死に見てるだけだな。

問題の篠ノ之博士。

彼女は一切こっちを見ないな。まぁ正直そっちの方がありがたい。

千冬さんは……うわぁ…すごい不機嫌そう、正直近寄りたくない…

地面に着地して千冬さんに声をかける。

 

「織斑先生、どうしましたか?」

「……奏、すまないが箒と戦ってもらっていいか?」

「……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

完全に何かあったなこれ。

まず何の予定もなくいきなり演習を行なうこと事態おかしい。

さらに俺の機体はまだ未完成だ、そんな事千冬さんも解っているはずだ。

最後にあの千冬さんが生徒がいる前で俺の事を『奏』と呼んだ。

これは先生としての千冬さんではなく個人としてのお願いという事か……

 

「……この演習で得れるデータはすべてIS学園がもらえる。新型の第四世代の性能の記録のためだ。」

「自分が選ばれた理由は?」

「そこは篠ノ之博士の推薦だ。」

「……はぁ?なぜ自分のことを篠ノ之博士が?」

「…束、説明しろ。」

「え~めんどくさいなぁ……箒ちゃんがすごいって言った相手だからね、そんな強さなんて関係無しに吹き飛ばせるほど紅椿は強いって事を箒ちゃんに解らせてあげないと。それにいろいろと話にも聞いてるし。」

「とても解りやすい説明ありがとうございます。」

 

なるほどね……箒が俺をほめたのが気に食わなかったのね…

逃げ出したいけど、注目されすぎてるし何よりわざわざ千冬さんが俺に頼んだんだ、それも教師としてではなく個人としてだ。

何かかしら裏があると見たほうがいいな。

それにいろいろと話しに聞いてるって……何か俺の情報を集めているのか?

それはまったく想定してなかったな…

 

「織斑先生試合開始は?」

「……すまんがこの後の時間も押していてな…今すぐで頼む。」

「そんな!!織斑先生!!待ってください!!」

 

と声がしてそちらを見るとシャルロットと簪がこちらに走ってくる。

息を切らせながら再び千冬さんに反論する。

 

「先生!!ソウの機体はまだ未完成でそれに搭乗時間も長くありません!!そんな状態で試合なんて―――」

「シャルロット、ストップ。」

「っでも、ソウ!!」

「大丈夫だから僕に任せて。ね?」

「……わかった…」

「先生今シャルロットが言ったように僕の機体は未完成です。なので長時間の戦闘ではどんなアクシデントが発生するかわかりません。」

 

俺がこう答えると篠ノ之博士が反応する。

 

「何?断るの?だったら――」

「ご安心を。ただ時間制限をつけて欲しいってだけです。箒もそれくらいはかまわないでしょ?」

「………ああ。」

「でも箒ちゃんはまだ長く機体に乗ってないし――」

「それは風音も一緒だ。それに両者それで良いなら10分間のみの試合を行なおう。両者それでいいな?」

「こちらとしては文句はありません。」

「……はい…」

 

と互いに返事をするが箒の方が何か落ち込み気味だな…

後で通信かけるか…シャルロットと簪は納得できていないようだし一夏はめちゃくちゃ不安そうな顔してるな…千冬さんも申し訳なさげにしてるし……

セシリアは一体何があったんだ?鈴が何か慰めてるが…これ全部ここにいる篠ノ之博士のせいなのか……こりゃ確かに天災だな。

そう考えながら俺は海の上空に向けて飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

幸福と不幸は、ともに心にあり。

                          ~デモクリトス「倫理学」より~




ということで専用機の名前は『颶風(グフウ)』いわば台風ですね。
はじめは題名に使っている野分(のわき)にしようかとも思ったのですが…
結局グフウのほうを使うことにしました。
やはりヴァッシュといったらこれですよね、(ヒューマノイド)(タイフーン)!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。