インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十七話 ブルーサマー

俺は究極の選択を選ばされていた…

ここで間違ったら一発アウト…だがこれを切り抜ければ…

俺の隣にいる一夏も息を呑む。

俺がこれ(・・)に成功したら被害にあうのはお前だからな。息を呑むのも当たり前だ…

周りの奴らも俺の選択をじっと待っているな。

ガタガタとゆれる俺の体…知らないうちに震えているのか?

だが俺は覚悟を決め行動に移す。

選択したそれをすばやく口の中に入れる。

 

 

 

 

 

 

「………すっぱ~!?」

 

俺は口をすぼめながら悲鳴を上げる。

現在俺たちは臨海学校に向かうバスの中でロシアンルーレットのような事をやっていた。

いくつかあるお菓子の中で一つだけとてもすっぱいお菓子が一つだけあるのだ。

体が揺れていたのは単にバスが振動していただけだ。

さっきまで袋の中にあったお菓子は2つ。そして次に引くのは一夏だったためこれを何とかすれば一夏が被害にあったんだが……

俺が顔をすっぱさでしかめていると周りで笑いが起きる。

 

「あはは。バツゲームはソウで決定。」

「っしゃ!!3回連続回避ぃ!!」

「では次のバツゲームはどうしますか?」

「そうだねぇ……モノマネにしてみる?」

「それはさっき織斑君がやって失敗したじゃない。」

 

とわいわいと騒ぎ出すバス内。

千冬さんも一緒に乗っているが今ぐらい騒ぐ事は許してくれるだろう。

山田先生は俺たちと一緒になって騒いでるし。

俺が口の中に残ったすっぱさをお茶で飲み流すと丁度バスはトンネルを抜ける。

そのまま外を見ると浜辺と水平線が目の前に広がる。

 

「見てみて!!海!!」

「って事はもう少しかぁ!!」

「天気もいいし今日は最高の海日和だね!!」

 

先ほどまでのバツゲームの話は一気に吹き飛びみんなわいわいと海について話しだした。

まぁ…今日は十分楽しめるだろう。だが確か明日…ここに向かって『銀の福音』がやってくるのだ…一応警告は理事長を通して出してもらったがあの『天災』相手にどこまで抵抗できるのだろうか…

そして俺がここにいるせいでどういう結果に終わるかも解らない…

頼りの専用ISは現在未完成か……最悪無理をしてでも出るくらいの気持ちで行こう。

俺が周りを見ながら黙って考えていると後ろの席からシャルロットが顔を出す。

 

「?ソウどうしたの。」

「いや、僕何だかんだで海に触るの初めてだから興奮してきただけ。」

「……そうなんだ。」

 

顔を見ずに返事を返すとシャルロットが納得したように声を出す。

しかしクラスメイトたちは驚いたようでこちらに反応している。

 

「え!?風音くん海に入ったこと無いの!?」

「うん。記憶にあるうちでは触った記憶すらないね。」

「あ~…そういえば風音君って外国育ちで記憶が無いんだったね。」

「あ、そっか。でもなんていうか…風音君が外国育ちだって完全に忘れてた…」

「日本語うまいし顔も日本人だしね…」

「まぁ本人がまったく気にしてないからね、気にしないで頂戴。取り合えず初体験を楽しませてもらうよ。」

 

と俺が笑いながら話す。

シャルロットの反応が薄いのが気にかかったがまぁ…特に問題は無いだろう。

周りがさらにさわぎだすと千冬さんが声を上げる。

 

「そろそろ目的地に到着する。各自荷物の準備をしすぐに降りれるようにしろ。」

「「「「「はい!!」」」」」

 

こうして俺たちIS学園一年部の二泊三日、臨海学校が幕を開けたのだ。

ちなみにバツゲームの事が完全に流れてくれて少しホッとしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

目的地は風情のある海辺の旅館だった。

いやぁ…多分元の世界の方でもこんな旅館に泊まった事は無かったなぁ…

ある意味これは両方の意味で初体験なのか。

バスから降りて一年部の全員で旅館の前で点呼を取る。

その後千冬さんの説明を受け俺たちは各自の部屋に向かうことになった。

前のほうに張り出された紙を見ると俺と一夏の名前は無い。

………俺と一夏の部屋はどうなるんだろう…。

俺は野宿でも平気だが一夏は大丈夫なのか?

そんなことを考えていると一夏がこっちによってくる。

 

「お、おい。奏、お前の名前も無いよな?」

「うん?ああ、僕はあっちの山の方でキャンプする事になってるから。」

「うぇ!?……それ絶対嘘だろ!!」

「うん、嘘だよ。早いとこ織斑先生に聞きに行こう。」

「おう、解った。」

 

といい千冬さんを探そうとしていると千冬さんがこちらに向かってくる。

そのままそちらに向かうと千冬さんが話しかける。

 

「織斑、風音。貴様らの部屋に案内する。」

「よかったな一夏。山にもぐって薪集めをする必要はなさそうだ。」

「お前…半分本気で言ってたのか?」

「風音、何ならお前だけでもそれができるよう手配してやってもいいんだぞ?」

「いえ、遠慮しておきます。」

 

そう言って千冬さんに頭を下げると千冬さんは鼻を鳴らしながら歩いていった。

アレは笑ってるな…一夏もそれに気がついたようで二人で笑いながら千冬さんの後を付いていった。

千冬さんの後をついていくと着いた部屋は

 

『教員室』

 

という張り紙がふすまに貼られた部屋であった。

まぁ……こうなるよな。一夏はともかく俺のことを考えれば。

しかし一夏はなぜ?と言った顔をしている。

 

「さっさと入れ。」

「いや…千冬姉…なんで俺と奏の部屋が千冬姉と一緒なんだ?」

「……お前は仮に奏と一緒の部屋になったとしたら、どれだけの女子がお前の部屋に押しかけると思っているんだ。」

「え?……どういうことだ。」

 

千冬さん!!お宅の弟さん、思った以上にポンコツですぜ!!

多分生まれてきた時に恋愛感情を母親の腹の中に忘れて来てますわ、これ。

千冬さんは頭を抑えため息をつく。

 

「この馬鹿者が。」

「うぇ!?何でそうなるんだよ。」

「あ~一夏。とりあえず俺のせいだとおもっとけ。」

「?何で奏のせいなんだ。」

「今、俺の専用機開発のせいで『風音奏はハニートラップで釣れる』って言う噂が世界中で流れてるんだわ。その噂を本気にしたところが何かしてくるかわからないからな。千冬さんの部屋が一番安全なんだよ。」

「……そうだったのか…でも俺のことについては?」

「………そこは自分で考えろポンコツ。」

「え!?何で!?」

 

と本気で訳がわからないといった顔をしている一夏を見て、俺と千冬さんは顔を見合わせてため息をつくのだった。

 

「さて、今日は一日自由時間だ。荷物も置いたし、好きにしろ。」

「了解しました。どうする一夏、海に行く?」

「えっと……千冬姉はどうするんだ?」

「私は教員としての仕事がある、気にせずに行って来い。」

 

多分一夏としてはある意味家族水入らずでいられる時間だと思ったんだろう。

どうせなら三日間の内の一日くらい千冬さんと一緒に過そうと考えているんだろう。

千冬さんと別れた後、俺と一夏は部屋を出て話しながら更衣室へと向かう。

 

「残念だったな、一夏。せっかく家族水入らずでいけるかと思ったんだろうが、まぁ3日間もあるんだし夜は……俺邪魔なようなら本当に野宿しようか?」

「何を言ってるんだ?奏。半年近く一緒に暮してたんだしいまさら気にすんなよ。」

「了解。とりあえずさっさと着替えますか。」

「だな、多分皆海に行ってるだろうし。」

 

そう言って俺たちは急ぐことなくゆっくりと更衣室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

海に着くと一夏は速攻で鈴や他の女子たちに拉致された。

唖然ととしながら連れ去られる一夏を俺はそのまま笑顔で手を振って見送った。

さて、海に着いたのはいいけどいきなり手持ち無沙汰になってしまった。

周りを見渡してみるが思ったよりまだ人は集まっていない。

セシリアや箒や簪、シャルロットやラウラも見当たらないなぁ…

しかし…本当に今日はいい天気だなぁ…このままどっかで昼寝をしたくなってくる。

俺はある程度海を眺めた後、横を見ると海の家らしきものを見つけた。

何か飲み物でも買おうか…と考え中にはいるが店員が居ない。

もしかしてやってないのかな?と思っていると奥から声がする。

 

「~~~~長!!いいから休んでください!!」

「馬鹿野郎!!この程度で~~~」

「いや!?完全に熱中症ですから!?」

「稼ぎ時にねてられるか!!」

「いや!!本当に危ないですから!!」

「そうッスよ!!店長死んじゃいますよ!?」

 

なるほど聞く限り店長が倒れて人手が足りないのか……

俺はそう考え彼らの方に近づいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、浜辺ではシャルロットが奏を探していた。

一夏とさっき会った時は奏も浜辺に来ていると言われたのだが…まったく姿が見えない。

 

(どこに行ったんだろ…水着の感想を聞こうと思っていたのに…)

 

すると遠くの方で何かにぎわっている。

見るとたくさんの人が海の家で何かを買っていた。

もしかしたらソウもあそこで何か食べているのでは!?

と思い近づいてみると……

 

捻り鉢巻にパーカーと水着の上から『海の家』とかかれたエプロンを着たソウが店先で焼きそばを焼いていた。先ほどから来る女子生徒の目的はそれなんだろう。

唖然としながら近くに駆け寄る。

 

「ソウ!?」

「あ!?お客さん!!ちゃんとならん…なんだシャルロットか!?悪い!!今忙しいんだ!!」

「え!?本当に何やってるの?」

「お店の店長さんが熱中症で倒れちゃってさ!!復活するまで代わりに店先で焼き物やってるんだ!!ごめん!!後ろの方から麺取ってくれない!?」

「え!?う、うん。」

「サンキュ!!」

 

そう言ってまたも鉄板の上で焼きそばを焼いていく……

店の中のほうを見るとこれまた大賑わいで他の二人の店員も必死になって働いている。

これは確かに二人で回すのは無理だろう…今でさえ注文を聞いて飲み物を渡すので必死だ。

 

「………何か手伝う事ある?」

「え!?いいよ!!遊んで来いよ。」

「私はソウと遊ぶつもりだったんだけど?」

「……悪い。でもほっとけなくてさ。」

「はぁ…だからその店長さんが治るまで私も手伝うよ。その後に遊ぼう?」

「了解しました。じゃあ悪い、焼き上げた焼きそばを―――」

 

こうやって結局シャルロットを加えた四人体制で店を回していくのだった。

ある程度の目的は俺の焼きそばだったからいいがそれども大賑わいだ。

多めに焼いている焼きそばは物のみごとになくなっていく。

途中からシャルロットを店の中に入れさせほぼ一人で汗をかきながら焼きそばを焼く。

一時間後店長(ボス)が復活し、俺もシャルロットと一緒に店内に入り、中のお客さんの相手をしていた。ある程度客足も落ち着き、たまっていたオーダーもすべて終わらせると店長がこちらにやってきた。

 

「いや~、少年にお嬢ちゃん、本当に助かった。恩に着るよ。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。本当に体の方は大丈夫なんですか?」

「ああ、ゆっくり休んで水分取ったら元通りよ。むしろ騒ぎすぎなんだよ。」

「あはは。まぁじゃあ僕たちはこれで。」

「おう、後たいしたもんじゃないがこれ持ってけ。バイト料としちゃ少ないかもしれないがせめてもの御礼だ。」

 

そう言って大盛りの焼きそば二つに飲み物2本。さらにかき氷までもらった。

しかし食べるとしたら先にかき氷か…まぁあまり気にしても仕方ないか。

俺はありがたくそれらをもらうと海の家から離れていった。

 

 

 

 

 

 

ある程度浜辺から離れた所にベンチが会ったのでそこに座る。

ここは海も見渡せるし余り人も来ないからゆっくりできそうだな…

そんなことを思い、ため息をつきながら座る。

 

「フゥ…シャルロット悪かったな。助かったわ。」

「後でしっかりお礼してもらうからね?」

「解りましたよ。」

「冗談だよ。早くかき氷食べよ?融けちゃうよ?」

「それもそうだな…食べるか。」

 

俺とシャルロットはそのままそこで遅めの昼食をとるのだった。

互いにはじめにかき氷を食べた後に焼きそばというなんとも順番がちがうだろ!?と言いたくなるような順番で食べ進んでいった。

食べている途中でふと思いついたことを聞く。

 

「そういやラウラたちは?シャルロットのことだからラウラと一緒に出てくると思ったんだが。」

「うん?ラウラは一夏と一緒に遊んでたよ。はじめは水着を恥ずかしがってたけどね。」

「はは、ラウラらしいな。」

「ねー、あんなにかわいいのにどうしてあそこまで恥ずかしがるんだろ。」

「どうしてだろうな。」

 

そこはラウラの産まれと今までの生き方のせいだろう。

今まで一つの兵器として育てられたのに突然人間として生きれるといわれても困惑しかできないだろう。この事はラウラ自身が話すまで俺は回りに言うつもりは無い。

しかしシャルロットはじっと俺の顔を見つけて何か考えている。

 

「……どうしたシャルロット。」

「…ソウ、何が隠してるでしょ…」

「何のことだ?」

「また何か変な雰囲気感じたんだけど。」

 

おいおい、本当にこれはなんなんだ?

俺別に口に出したわけでも雰囲気の方を変えたつもりも無いぞ?

だが現にシャルロットは何か感じ取っている…とりあえず話を変えよう。

それも俺が何も気にせず話せるような奴を。

 

「気のせいじゃないか?」

「う~ん…そうなのかな?」

「いや……隠すったって今お前に黙ってるのは右頬の辺りに焼きそばのソースが付いていることくらいだぞ?」

「嘘!?……もう!!早く教えてよ!!」

「いや…一夏たちにも見せてやろうと思ってたんだが…」

「何でよ!?」

「悪い悪い。」

 

と顔を真っ赤にして怒るシャルロットと笑いながら軽く謝る俺。

そしてとりあえずゴミを持ってベンチから立ち上がる。

 

「さてそろそろ一夏たちと合流するか。」

「そうだね。……ねぇソウ…私の水着にあってる?」

「うん?…ネタで返した方が良い?」

「もう!!」

「冗談。うん、すごい似合ってるよ。シャルロットってなんていうか黄色とかオレンジが似合うよな。うん、俺のイメージにぴったりって感じ。」

「そっか…ありがとうソウ。」

 

とさっきまで怒っていたシャルロットは機嫌が良くなり浜辺に向かって歩いていった。

まぁ…チラッと見えたあんな緩みきった顔を見られたくないんだろうな。

俺はシャルロットの後を付いていくようにしてゆっくりと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

人生で一番楽しい瞬間は、誰にも分からない二人だけの言葉で、誰にも分からない二人だけの秘密や楽しみを、ともに語り合っている時である。

                                       ~ゲーテ~




熱中症は危ない!!という話でしたwww
実際作者も熱中症で知り合いが倒れた時にピンチヒッターをやった事があります。関係ないですねwww


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