インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十六話 買い物②

時間を数分巻き戻そう。

奏がスコールとの交渉で問題の深刻さに頭を抱えていた時に丁度シャルロットたちは駅に着いたところだった。

一夏への説教は根本的なところを彼が理解していないためにまったく通用していない。

最終的にとりあえず奏をほったらかしにするのは駄目だろう、ということで7人でモノレールに乗り駅前の町に向かったのであった。

モノレール内でも一夏はいろいろといわれており疲れきっており箒、セシリア、鈴、ラウラの四人はまだ怒っているようだ。

私、シャルロットと簪は四人をなだめながらモノレール内から降り奏を探しながら歩いていた。

 

「まったく……一夏さんは本当に考えられない事をしますわ!!」

「ほんとよ!!これでわざとじゃないって言うんだったらある意味尊敬するわよ!!」

「……ちゃんと説明せずに申し訳ありませんでした…あと箒もそんなに睨まないでくれ。」

「まぁ…嫁がこういう奴なのは仕方ないな。」

「確かに仕方ないけどここまでとは思いませんでしたわ!!」

 

怒りのままに四人とも一夏を責める。

簪と二人で四人をなだめながら押すようにして改札口を抜けソウを探す。

しばらく辺りを見渡してソウを探すが姿は見えない。

 

「シャルロットさん、奏さん見つかりましたか?」

「ううん。多分改札口前に居ると思うんだけど…」

「まだ髪切ってるんじゃない?」

 

という鈴。

だが一夏に怒っていた時間はかなり長かったし……

と思うと箒が微妙な顔をしている。

どうしたんだろう?

 

「箒?どうしたの?」

「………」

「箒!?」

「ひゃい!?」

 

と変な声を上げ驚く箒。

私の顔を見た後またも微妙な顔をしている。

その後簪と鈴を手招きしてこそこそ話している。

 

「何があったの?」

「……ちょっとごめん。」

「……シャルロットさん、ちょっと待ってください。」

「?何を。」

 

鈴はセシリアとラウラの方に向かい何か話し始めている。

一夏は関係無しにまだソウのことを探しているようだ。

とりあえず私もソウを探そう。

その次の瞬間、一夏が声を上げる。

 

「お、あそこの喫茶店のとこに居る奴じゃないか?」

「「「「「!?」」」」」

「え?どこ一夏。」

「ほら、シャルあそこ。」

 

一夏が声を上げた瞬間なぜかかなり驚く5人。

一夏の指差した方を見ると、髪がかなり短くなったソウと………ブロンド髪の女性が一緒にお茶を飲んでいた。…………一瞬頭の中が真っ白になった後になんとも言えない感情がこみ上げてくる。

焦りながら鈴とセシリアが私に言葉をかける。

 

「い、いや、アレは違うんじゃない?」

「ううん……アレは確かにソウだよ…」

「そ、そうですわ!!もしかしたら相席をしているのかも!!」

「あんなに席が空いてるのに?」

 

私は感情が漏れ出さないように声を出す。

その様子を怖がっているのだろうか、ラウラがじりっと一歩引く。

簪が思いついたように話しだす。

 

「も、もしかして知り合いか何かかもしれませんよ?」

「……そうかもね…」

「シャルロット、一旦落ち着け、なぁ?」

 

箒も私を落ち着かせようと必死だ。

席の方を見ると女性が立ち上がって何か言っているがソウの反応は微妙だ。

アレは本当に面倒くさいと思っていそうだなぁ…

そうだ、確かに一緒にいるからといってそういう関係のはずが――

 

『愛してる…』

 

駅内に放送が響く。………

 

 ソ ウ の 声 だ 

 

セシリアと簪は唖然としているしラウラと一夏は今の音に混乱している。

箒と鈴は私のほうをおびえた目でこっち見ている…

私はまだ笑顔のままだ……

 

「え?今の声…奏の声じゃなかったか!?」

「嫁の言うとおりだ?なんなんだ?」

「二人ともちょっと黙ってください!!」

 

必死にセシリアが二人の事を止めようとするが…

そっか…私の聞き間違いではなかったんだ…

店の中を見るとブロンド髪の女性が何かを持ちながらこちらを見ている。

恐らく彼女が今の放送を流したんだろう。

なぜあそこに居る彼女が駅内に放送を流せたかなんてどうでもいい。

問題はソウがあの女性に対して『愛してる』と言っていたことだ。

私に対しては焦るな、みたいなことをいって有耶無耶にしたくせに……

絶対に真実を聞き出さなければいけない。

私はその店に向かって歩き出す。

後を付いてくるように6人が付いてくる。

 

「ちょ、ちょっと?シャルロット!?あんたどうする気?」

「ちょっとソウとお話してくる。」

「落ち着いてください、相手はあの奏さんなんですよ?何か理由が――」

「理由があったら知らない相手に愛してるって言うの?」

「だ、だが…あの相手も誰かも解らないんだぞ?奏と中が良い様にも見えない…まさか――」

「いい、箒。男女の間に『まさか』は無いんだよ?」

 

歩きながら笑顔で答える。

私のことを説得するのは諦めたのだろう、そのまま何も言わずに付いてくる。

ソウもこちらに気が付いたようだ。

こっちを見て固まっている。固まるという事は何か身に覚えがあるんだろう…

私はさらに笑みを強くする。

相手の女性はどこかに行ってしまったがそちらよりもまずはソウだ。

私はそのまま店の中に入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

現在俺、風音奏はとてつもなく追い込まれていた。

とりあえず追加のコーヒーとシャルロットは紅茶。

現在目の前には満面の笑みのシャルロット。

しかしその背後には黒いオーラが見える…目がおかしいようだから眼科に行きたいと言えば逃がして…否、行かせてもらえるだろうか…。

両隣には誰もいない。皆逃げ出した。

他の6人はシャルロットの気迫に押されたせいか一夏を筆頭に

 

『ゆっくり話してくれ、俺たちは先に行く。』

 

と言って俺の返事を聞く前に去って行った。

なんとすばらしい友情だろう。ありがたくて涙が出る…

まぁ…現在のシャルロットを見たら誰だってそうする。俺もそうしたい。

シャルロットは現在凄まじい圧力を俺に笑顔で向けている。

さてなんと説明しようか……

 

「え~っと……シャルロット…さん?何か怒ってますか?」

「…ソウからそう見えるなら何か思い当たる理由があるんじゃない?」

「……ご質問があればどうぞ。何でも答えます。」

「じゃあ…まず『愛してる…』…あれ何?まさかソウの声じゃないとは言わないよね?」

「あの放送?アレはしっかりと理由があっていったんだ。」

「へぇ……ソウは理由があれば誰にでもそんなことを言うんだ。」

 

うわぁ、やぶ蛇。

俺は笑った顔を引きつらせながら話を進める。

 

「いやぁ…しっかりとした理由があればね?でも本気で言ったわけじゃないよ?嫌々――」

「それでも言うんだ…じゃあ私が今無理やり言わせようとしたらどうする?」

「まぁ…言うな。」

 

と俺が言うとシャルロットはムッとした顔をしながら話を続ける。

 

「……別に無理やり言ってもらいたくないけどさ…あとあのさっきまで一緒にいた相手は誰?」

「あ~……黙秘権ってありですか?」

「あると思う?」

「優しいシャルロットさんならワンチャン……」

「残念ながら優しいのと甘いのは違うんだよ?」

「ですよね~……」

 

本気で怒ってるな…これ。

適当にかわしたら泣かれそうだな……

って言うかこれちゃんと説明しなくちゃ駄目なのか?

でも説明したらなぁ……まぁ下手に関係を疑われるよりは良いか。俺は一旦ため息をついた後真顔になって話し始める。

 

「一夏は俺が話している相手について何か言っていたか?」

「……何?一夏も知ってる相手なの?何も言ってなかったけど?」

「一夏を例の事件に巻き込んだ相手、説明はするから大きな声を上げるなよ。後他の人にも絶対に言うな、この話は俺がIS学園に帰ったらすぐに理事長に伝えなきゃいけない内容だから…」

「え?」

 

先ほどまでの気迫が一気に下がりきょとんとした顔をするシャルロット。

さてどこから話そうか…俺はコーヒーを口に運び少し考える。

 

「まずアレは亡国機業だかなんだかって言う犯罪組織の幹部らしい。現に一夏が事件に巻き込まれた時に俺に襲い掛かってきた奴だ。一回話しただろ?」

「え?……なんでソウがそんな人とここで話してるの!?」

「情報交換だと。既に一回アイツとはやっててな、その時にあの音声はとられた。」

 

そう言ってため息をつきながらコーヒーをすする。

せっかくの休日に俺なんでこんな事してるんだろ…

しかしシャルロットは納得できないような顔をしている。

 

「本当にそんな組織の人なの?」

「………俺がお前を助ける時に必要な情報をもらった相手だ。そのときの交渉でデュノア社についての情報を多数手に入れられたんだ。」

「どうやって連絡取ったの?」

「向こうから掛けてきたんだよ。はじめはあるものを探してデュノア社を監視してたら俺がコンタクトを取っているところを見つけて俺に電話…って感じらしい。」

「……解った。それは信じる…でも今日は何で?」

 

一応信じてもらえたらしいな…感情の方では納得できてなさそうだけど。

俺はまたもやため息を吐きながら話を続ける。

 

「向こうが俺の知ってる情報をほしがっていて、さらに交渉にのらなければISで暴れかねないような奴だからな、仕方なく交渉に乗った感じだ。だからお前たちが到着したらすぐにいなくなったんだろうよ。」

「そうだったんだ……」

 

こっちの方は納得してくれたらしい。

実際彼女はそんなこと関係無しに息抜きで来たような気がするんだが……気のせいだろう…

後は話しに何か疑問をもたれなければこのままこの話は終わらせよう。

そう考えているとシャルロットは何か聞きたそうにしている。

さっきまでの勢いはどうした、俺は苦笑しながら声をかける。

 

「何でもいいから聞け。遠慮するな。」

「……いいの?」

「アイツとの関係で聞かれて困るような事は何も無い。流石に話しの内容は言えないけどな。」

「……じゃあ何でソウはあの女性(ヒト)に好かれているの?」

「そこら辺は俺が知りたい…あいつほとんどストーカーっつうか悪霊みたいなもんなんだよ…お払い行こうかなぁ…本気で…」

「そんなに?」

「知らないうちに電話番号知られてて、気がついたら隣にいるときもあるとか…相手が一般人なら警察呼んでたよ…」

「それは…ひどいね……」

 

俺は頭を抱えるとシャルロットは本気で俺が悩んでいると解ったらしく心配している。

本気で悩んでるよ…俺のヴァッシュ・ザ・スタンピード(人生の目標)もどうすればいいか教えてくれないしさ…本当にどうしよう…

ため息をつきもう一度コーヒーを飲む…あと言ってないのは俺が好かれる理由か…アレしかないよな。

 

「狙われてる理由は、多分一夏が巻き込まれた事件の時に俺がアイツと…IS相手の遊びで、生身で勝っちゃったからだと思う。」

「……あの女性(ヒト)相手に戦った事もあるの?」

「戦ったって言うより…遊びって言うか…遊ばれてたようなものだけどね。それでもルール上は俺が試合に勝った。」

「生身で?」

「ああ、生身で3分間ISから逃げ切ってみせろって勝負。ギリギリだけど勝てたんだ。それをやってのけたせいか亡国機関からお誘いがきてるんだよ。行く気はもちろんないけどな。でも個人的に彼女が俺を気に入ったらしくてな、しつこいんだよ……」

「そうだったんだ…」

「あの俺の言葉に関してはアイツの気まぐれだ。詳しい理由は俺にはわからない。」

「うん…解った。ごめんね疑っちゃって。」

「別にいいさ。特に問題があったわけじゃないし。」

 

シャルロットの顔を見る限り完全に誤解は解けたらしい。

はじめはどうなるかどうなるかと思ったが…結構簡単に終わったな。

ただシャルロットが少し落ち込んでるな……

ちょっと罪悪感でも覚えているのだろうか?

だが、自分が好意を持っている相手が『焦るな』と言ってかわしたくせに、別のところでは『愛してる……』なんて別の相手に言ってたらどういうことだ!?ってなるよな。

そこに関しては怒っても仕方ないわな。

俺がコーヒーを飲み干すと丁度シャルロットが話かける。

 

「そういえばソウ、髪の毛短くしたんだ…」

「うっとうしくなってな…どう、似合う?」

「私は長かった時より短いこっちの方がソウには似合うと思うよ。」

「そっか…この後どうする?みんなと合流する前に二人でどっか行くか?」

「え?……いいの!?」

「じゃあやめるか?」

「う、ううん!!行く!!」

 

焦るシャルロットを見ながら苦笑して俺はシャルロットと一緒に買い物をすることにした。

これくらいはあいつらも許すだろうし、シャルロットも元気になるのなら安いものだろう。

焦るように紅茶を飲むシャルロットを落ち着かせながらどこを歩こうか考えるのだった。

 

 

 

 

 

そのあと俺とシャルロットは何をするわけでもなく一緒に町を歩いた。

適当に店先を見て歩いて適当な店に入ってみたりしていた。

話しながら道を歩いている時ふと思い出したことがあったので聞いてみる。

 

「そういや箒の件は一夏どうなったの?」

「一夏はさぁ…完全に友達と買い物に行くとしか思っていませんでした。」

「まぁ……そうだろうな。んでどこら辺で落とし前つけたの?」

「とりあえず一時間ほど箒と二人で買い物する事になったよ。」

「三人がよく許したな。」

「私と簪の援護と箒自身が抜け駆けはしないって言ってたからね。仕方ないって感じになったね。」

 

抜け駆けって行っても今の状況じゃ何をやってもあの鈍感は落とせないぞ?

箒もそこら辺がわかるから一歩引いた答えをしたのか……いや、多分アイツは始めからそういうことをする気はなかったんだろう。

 

「心配する必要は無いと思うんだがなぁ…」

「どうして?」

「だってその気になれば箒はすぐにでも告白できたんだぜ?それをやらないで二人で買い物っていったんだ。何か考えはあるとは思うが告白までは行かないだろ…」

「あはは、確かにそういわれればそうだね。でもやっぱり不安になるんだと思うよ。」

「そういうものなのか…」

「そういうものなのだ。」

 

と笑いながら話し歩いていく。

その後しばらく面白おかしく話しながら歩いていると遠くに一夏と箒の姿が見える。

……別に今顔を出さなくてもいいか…俺はシャルロットにそれを伝え方向を変た後、鉢合わせにならないようにする。

一夏と箒はこちらに気が付かず別の方向に向かっている。

ばれなかったか…と思っていたら声をかけられる。

 

「奏さん、シャルロットさんこっちです!!」

 

声のするほうを見るとセシリアと鈴、そして簪とラウラが影に隠れていた。

何をやってるんだ、お前らは…

俺とシャルロットは4人の元に向かうと即座に引っ張り込まれた。

俺はとりあえず先ほど声をかけられたセシリアに話しかける。

 

「何?どうしたのさ。」

「一夏さんたちにばれてしまいますわ!!」

「いや、ばれるも何も…一緒に来てるから僕らが居ることわかってるでしょ?」

「いいえ!!箒さんが先走った行動を取らせないために監視が必要ですわ!!」

 

監視って……ある意味そんなことをするわけが無いだろう。

箒にとっちゃ今日はただ買い物に来ただけなんだから……

俺が苦笑しているとシャルロットに袖を引っ張られる。

そっちを見てみるとシャルロットはラウラを捕まえながら何か興奮気味になっていた。

 

「どうした。」

「ちょっと簪と一緒にラウラの服買って来る!!」

「奏兄!!助けてくれ!!」

「理由聞いていい?」

 

俺は半笑いになりながら理由を聞いてみる。

箒と一夏はまだ眼の届く範囲には居るか……

鈴とセシリアはそっちの方に集中している。

簪が苦笑しながら話す。

 

「ラウラさん、なんで今日も制服着てるのかと思ったら私服一着も無いんですって。」

「そう、だから今日買いに来るつもりだったのに……」

「だ、だがシャルロット!?私が似合う服なんて…」

「いっぱいある!!」

「そうですよ?一回買いに行きましょう?」

「そ、奏兄!?早く…早く助けてくれ!!」

 

じたばたとシャルロットから逃れようと暴れるラウラ。

本当に必死になって俺に助けを求めるなぁ。力ずくでやらないって事は結構成長してるんだな。

しかしこいつは本当に面白いなぁ……俺も苦笑しながら話す。

 

「ラウラ、一夏にほめてもらいたくないか?」

「え?」

「アイツはお前が綺麗にかわいく着飾っていれば必ずお前のことをほめてくれるぞ?」

「本当か!?」

「多分今朝、鈴とセシリアのことほめてなかった?」

「え?……セシリアたちに聞かれたときはほめていたぞ?」

「お前もほめてほしくないか?あいつがお前のことをなんとほめてくれるか考えながら服を選んでみな、多分それだけで楽しいんじゃないか?」

「で、でも私に似合う服なんて…」

「そこはシャルロットと簪が手伝ってくれるさ。一回行ってみな?」

「………解った…」

 

そういうとラウラは抵抗をやめた。

シャルロットは笑いながら俺に話しかける。

 

「本当にお兄ちゃんみたいだったよ?ソウ。」

「おい、よしてくれよ。」

「私もおにいちゃんって呼んでいいですか?」

「簪ちゃんも勘弁してよ!?」

「じゃあ…奏兄。行ってくる。」

「ハイハイ、行ってらっしゃい。合流するときは俺に連絡して。俺はこの二人が暴走しないように見張ってるから。」

 

俺は未だに一夏と箒を監視する二人を見ながら別れを告げた。

三人は俺たちから別れラウラの服を買いに行った。

なんというか…ラウラが着せ替え人形みたいになってる未来が見えるな……

さてとりあえず問題はこの二人だな。

俺は一旦物陰から出ようとする。

 

「ちょっと!?奏!!何やってるのよ!!」

「何って……飲み物買いに行ってくるだけ。」

「ばれたらどうするんですか!?」

「いや……正直今の君たち二人の方が目立つよ?」

「「……」」

 

そういわれると二人はハッとしたようにしている。

この二人…素でやっていたのか……

俺は苦笑しながら話を進める。

 

「あいつらが勘付く範囲ならある程度わかるからさ、そんな物陰で目立つような事しないでとりあえず出ておいでよ。」

「……本当なんでしょうね。」

「100%とは言わないけど高確率でばれる事は無いと思うよ?」

「……あの二人の範囲はここより近いですか?」

「近くにいけるところもあるよ?」

 

二人は顔を見合わせて何かを考えている。

そして同時に振り向くと話し始める。

 

「解ったわ。お願い協力して。」

「奏さん、よろしくお願いしますわ。」

「了解しました。とりあえずそこから出よう。」

 

俺は笑いながら三人で一夏の後をつけるように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

まぁ結果的に言うと俺とセシリア、鈴の行動は無駄に終わった。

二人はただ楽しげに買い物をしただけで特に何か怪しげな行動をすることは無かった。

一方俺たちはつかず離れずの距離で適当に監視をしながら駄弁っていた。

最終的に箒からの連絡で時間終了と同時に俺たちは一夏と合流した。

 

「おう一夏、さっきはよくも見捨ててくれたな。」

「いや、アレは仕方ないだろ……奏はシャルに許してもらったのか?」

「いや許すも何もアレ誤解だからな。詳しくは後で話すわ。」

 

そう言って話を打ち切り箒の方を見てみる。

満足しているわけではないが…自身のやるべき事はやったって顔かな?

一夏が鈴とセシリアと話している間に近づいて小声で話しかける。

 

「(どう?やりたい事はやった感じ?)」

「(ああ、自分の目指すところは見えた。)」

「(そっか……がんばってね。応援してるわ。)」

「(お前はみんなのことを応援しているんだろ?)」

「(そのとおり。誰かの事を特別応援する気はないよ。それとも特別応援してほしい?)」

「(いや……必要ない。)」

「(了~解。)じゃあそろそろ全員で集合してみる?」

「アレ?そういえばラウラたちは?」

「服買いに行ってる。どうする?」

「集合しましょ。別々に行動してても仕方ないじゃない。」

 

鈴のその一言で俺はシャルロットに電話をし、現在地を聞き移動を始めた。

少し離れた場所に行くと簪とシャルロット、それに後ろに居るのは恐らくラウラだろう。

服装は先ほどまでの制服ではなくパッと見た感じかわいらしいカーディガンのような感じだった。

下は短めの……デニムだったはず…この手の服の呼び方はあまり詳しくないためなんとも言えない。ただ雰囲気的には似合ってるし、普段のラウラらしさを残しながらもかわいらしさを出している印象を受けた。

 

「シャルロット、ラウラのコーディネートは終わったの?」

「とりあえずはね。ねぇ一夏みて見て!!」

 

と言って自身の後ろに隠れているラウラを前のほうに押し出す。

恥ずかしそうにしながらラウラは一夏の言葉を待つ…頼むから蘭のときみたいな事はやるなよ?

 

「おお、ラウラ!!印象が変ったな!!」

「ほ、本当か!?」

「ああ。一瞬わからなかったくらいだしな。似合ってると俺は思うぞ。」

「そ、そうか!!」

 

と言ってうれしそうにするラウラ。

セシリアと鈴はそれを見て笑っているが箒は少し微妙そうな顔をしていた。

こいつ自分だけほめられてないから嫉妬しているのか?

仕方ないし何とかするか…と思っていると箒が先に自分の方から動き始めた。

 

「い、一夏!!そういえば私の今日の服装はどうだ?似合ってるか?」

「うん?ああ、かなり似合ってると思うぞ。いつもの箒らしさが出てると思う。」

「そ、そうか。似合っているか…」

 

おお、意外。

箒がこういうとき自分からでていくとは思わなかった。

箒も自分自身で何かかしら成長しているんだぁ…

としみじみ考えているとシャルロットが近寄ってきて小声で話し始める。

 

「(駄目だよ?ソウ。何でも手を貸してあげちゃ。)」

「(……顔に出てた?)」

「(う~ん…雰囲気かな。)」

「(一体どうすりゃいいんだろそれ。)」

「(話をそらさない。ほっとけないのがソウのいいとこでもあるけどこういう時は自分でやらなきゃ駄目なんだよ?)」

「(……女心って奴?)」

「(乙女のたしなみって方が正しいかも。)」

「(そりゃ解らんわ。まぁ…覚えておくわ。)」

 

そう言って俺は再び一夏とその周りを見てみる。

箒は先ほどほめてもらえたのがうれしいのかにやにやしているしラウラは一夏にしがみついている。

セシリアと鈴も負けじと一夏にしがみつき一夏はなぜこうなったのかがわからず俺に助けを求めている。簪は簪で箒の隣でその風景を見ながら笑っている。

平和だなぁ…そう思いながら俺は一夏をいじる準備をしていた。

 

 

 

 

分別を忘れないような恋は、そもそも恋ではない。

                                ~トーマス・ハーディ~


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