インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十四話 近くで

授業の終了を告げる鐘がなり、六月末のテストは終わった。

同時に俺は机に死んだように倒れこんだ。

結果はまだ分からないが、まぁ…

可も無く不可もなくといった感じか……いわば運がよけれがそれなりの点数で悪ければ赤点と言った感じだ。

俺が死んでるのを見ると一夏たちが俺の机の近くに集まってきた。

 

「ソウ……結果はどうだった?」

「…………」

 

俺は起き上がることなく、そのままの姿勢で親指でグットと言った感じにサムズアップをした後それの上下の向きを変える。

それを見てセシリアが苦笑しながら話す。

 

「まぁ…それほど難しいわけでもありませんしそれほど問題は無いでしょう。」

「……一夏ぁ…僕天才になりたい。」

「がんばって勉強すればいいんじゃないか?」

 

余裕そうなセシリアを見て俺は泣きそうな声でそうつぶやく。

それに対し一夏はそっけなくそう返してくる。

そして一夏の机の近くにラウラが近づいてきた気配を感じる。

 

「奏兄、そんなに難しかったのか?」

「いやぁ…もう少し勉強時間が欲しかったかなぁ…って感じ…呼び方はそれで固定なのね…」

「?何かおかしいことを言っているか。」

「……ハァ…」

 

とため息をつく。

この呼び方、クラスメイトも未だにそう呼んでくるときもある。

痛々しい人物とは思われなかったが生暖かい視線で見て来る人もいる。

現にセシリアは俺のことを生暖かい視線で見てくるし、シャルロットと一夏はニヤニヤしている。箒にいたっては…あれ?そういやさっきから箒が見当たらない。

俺は起き上がって辺りを見渡すがその姿は一切見えなかった。

 

「おい、シャルロット。箒見なかった?」

「え?そういえば見てない…どこいったんだろ?セシリア、ラウラは見た?」

「いいえ?見てないですわ。」

「私も見てないな。」

 

と一通り聞くと一夏が『え?』と言ったように話す。

 

「……なんで誰も俺に聞かないの?」

「だって…一夏だし…ねぇ。」

「……ひどくないか?それ。」

 

とがっくりする一夏。

間違った事は言っていない。

第一お前が気がついてたら、いの一番に動いてるだろうが。

さて突然いなくなったって事は……

俺は辺りを見渡し、現在箒と同室になっている鷹月静寐を見つけ声をかける。

 

「ねぇ鷹月さん、ちょっと聞いていい?」

「うん?何、風音くん。」

「今朝の箒、様子おかしくなかった?」

「え?あ~そういわれれば元気なかったかも…」

「そう、ありがと。」

 

そういわれればという事はそれほど大きなショックを受けているわけではないんだろう。

鷹月との話しを終えて一夏に話しかける。

 

「ということだけど一夏、気がついてた?」

「え?………全然…」

「なるほど…」

 

他の人物は気がついて一夏が気が着いてないと言う事は一夏関連のことで悩んでるな。

一方回りは俺の対応が何かわからないらしく怪訝な顔をしている。

そんな時教室に一人平然と入ってくる奴が居た。

回りもなれたせいか誰も気にも留めない。

最近はほとんど気にならなくなる頻度で一組に入って来るから、なんというか一組内にいる違和感がなくなってきたな…鈴。

 

「皆どうしたの、そんなとこに集まって。」

「おお、鈴。箒見なかった?」

「うん?さっき廊下歩いてるの見たわよ。」

「どこに向かったか解る?」

「そこまでは知らないわよ。」

 

そりゃそうか…ただちょっと探してみるか…

俺は席から立ち上がり回りに声をかける。

 

「悪いけど僕ちょっと簪の所にいってくるや。」

「?箒のことか。」

「あ~……それもあるけど本題は別かな。じゃ。」

 

そう言って俺は集団から離れていくが…後ろからシャルロットがついてくる。

 

「……なんでついてきてるの?」

「この後ソウから勉強を教えたお礼をもらおうかと思ってね。」

「別の日じゃ駄目?」

「う~ん……増えるよ?」

「何がだよ。……別に面白い話ししに行くわけじゃないからね。」

「大丈夫、それに本当は私も簪に用事があるだけだから。」

 

そう言った後にシャルロットを気にせずに簪の元に向かう。

恐らくそこには箒が居るはずだ。

 

 

 

 

簪を探して数十分歩いていると剣道場に数人の人の気配を感じる。

中を覗いて見ると案の定二人が居た。

箒は袴と剣道着を着て木刀をふっており簪はそれを見ている。

とりあえず声をかけてみるか。

 

「二人して何してるの?」

「っ…なんだ奏とシャルロットか…いや、ただ無性に剣を振るいたくなっただけだ…」

「簪ちゃんは?」

「私は箒ちゃんの付き添いです。それにちょっと見てみたかったのもありますね。」

 

と言っている簪。恐らくこっちはそのままだろう。

だが箒の顔は優れない。剣を振りたかったのは本当だろうが何か理由があっての事だろう。

確かにこれはあからさまに暗いわけではないがなんというか…焦りのようなものを感じる。

箒は俺に声をかける。

 

「奏…きいてもいいか?」

「何を?」

「なぜお前はそこまで力を…いや、自分を強くあろうとする努力するんだ?」

「う~ん…それが僕の目標だからかな?僕は僕の目標の人物に近づきたいんだ。ただそれは僕自身の力でありたい。強いISに乗ったから強くなったとかはカウントしない感じかな?」

「どうしてだ?強くなりたいんじゃないのか?」

「『力がある』のと『強い』のは僕の中じゃ全然違う意味なんだよ。力があるだけじゃ何にもならないしね。箒もそうじゃないの?強くなりたい理由は。」

「……私は強くなって一夏の助けに…支えになりたかった…」

「…なってないって言いたいの?」

「………」

 

というと黙って下をうつむく箒。

恐らく今箒の頭の中では自身が役に立っているとは思えないのだろう。

なんというか理想が高いんだよな…箒は。

後一夏の役に立つって言うのが戦闘の役に立つって事以外頭にないんだろうな…

セシリアは何だかんだで俺たちの中で一番頭が良い。学業で一番一夏の役に立つ。

鈴はその明るさで一夏にとって一番気楽な相手だろう。

ラウラはストレートに自身の気持ちを一夏に伝えている。

自分を低く見る癖のある箒が、焦る理由が解らないでもない。

 

「…あ~僕が言ったって事は絶対に言わないでよ?一夏にばれたら本気で怒られる。」

「……」

「まずアイツ、異常にモチベーションが高いまま練習してる理由。俺たちの中である意味一番モチベーションを高いまま維持してると思わない?アイツ。」

「そういわれれば…そうだね…」

「…確かにそうだが…それは一夏がすごいからだろう。」

 

シャルロットと箒は一応納得したようだ。

俺はそのまま話を続ける。

 

「そのすごい奴が言っていたことだけど『俺ががんばりつづけてる理由の一つは箒かな…』だとよ。」

「え!?ど、どういうことだ!!」

「箒のがんばりを見て自分も負けてられない、剣道で小学校の頃は自分の方が強かったのに今では手も足も出ない、多分ひたすらに今までずっとがんばってきた差なんだろうって言ってたぞ。」

 

そういうと箒は顔を真っ赤にしている。

これは一度一夏のモチベーションの保ち方に興味を持って聞いたときの話しだ。

恐らく嘘は言ってないだろう。

 

「剣術では引き離されたけどそっちでもいつか絶対追いつくために。そしてISの方では箒の目標に、そして自分の大切な人を守れるくらいに強くなりたいからなんだと。こっから先は自分で聞け…って聞いたら駄目だな。すまんが聞くな。」

「……本当か?」

「ああ、箒がある意味一夏の目標なんだって。自身と別れた後も剣道を続けてきたお前を尊敬してるんだと。…あ、今のは言わなかった事でお願い。だからさ、お前がある意味一夏の一番の助けになってるよ。それは俺が保障する。」

「そうか…ありがとう。」

「さて次の話しだけど―――」

「あ、ソウ。その前に私が先に箒と簪と話したいんだけど良い?」

 

と一夏のことについて話そうとする前にシャルロットが口を挟む。

ここからがある意味本題だったんだが……

まぁ連続して話すのもアレだと思うしシャルロットに譲ろう。

 

「どうぞ。」

「じゃあ…ソウは出て行ってね。」

「え!?何で?俺仲間はずれ?」

「ガールズトークをするからさ。さぁいったいった。」

「なんなんだよ一体…」

 

シャルロットに背中を押され部屋から追い出される

まぁ適当に距離をとって話を聞くか…

そう考えていると笑顔のままシャルロットが俺に言う。

 

「後、ソウ。もし聞き耳立てたりして聞いてたりしたらクラスのみんなにいろいろと話すからね?」

「シャルロット、俺一旦離れるから終わったら携帯にでも連絡くれよ。」

「うん解った。じゃあね。」

 

俺は笑いながら剣道場を離れる……

こいつ手段を選ばなくなってきたな…一体誰のせいだ…

そう考えながら仕方なく話を聞くことを諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

奏が出て行った後道場の中では三人しかいない。

シャルロットは扉を閉めた後二人の方を向きながら簪に話しかける。

 

「ねぇ簪。突然だけど君ってソウのことが好き?」

「…………え!?」

 

いきなりのシャルロットの言葉に簪は固まり次の瞬間一気に混乱した。

箒もシャルロットの言葉に固まったあと簪を見てハッとしたようにしてシャルロットに話す。

 

「お、おい。シャルロット?突然どうした?」

「う~ん…本題を話す前の確認かな?でどうなのか聞いていい?」

「え!?ええっと…私は好き…なんでしょうか!?でもそんなこと今までまったく!?」

「落ち着け簪!!どういうことか落ち着いて話せ?」

 

と箒に言われてようやく落ち着いた簪。

少し悪い事をしてしまったかな…とシャルロットは内心思い、苦笑していた。

簪は自身の言葉を少しずつ吐き出す。

 

「はじめは……よくわからない人でした…でも私を安心させるためにおどけてみたり…助けてくれたり…でも注意するときはしっかりしかってくれて…しっかりと私を私としてみてくれる人だったんです…」

「そうなんだ…」

「でも、好きって言われると…何か違う気が……でも…」

 

と考え込む簪。

本当に自分でもわかっていないようだった。

それを見てシャルロットは話を続ける。

 

「突然へんなこと聞いてごめんね。でも私から言っておきたいこともあったしね…」

「な、なんですか?」

「私はソウのことが大好き。だから簪もソウのことが好きならしっかりと伝えておいた方が良いかなって思ったんだ…」

「そうなんですか…」

「そうか…シャルロットは奏のことが好きだったのか…」

 

と顔を赤くしながら二人はうなずく。

シャルロットは笑いながら話を続ける。

 

「私の気持ちは一応ソウには伝えてあるからさ、簪もソウのことが好きならしっかりと伝えたほうがいいよ?」

「「………え?…えええええええ!?」」

 

二人は予想以上に驚いていた。

好きなことについてはそれほど驚いてはいなかったがシャルロットが思いを伝えていることについては予測していなかったのだろう、完全に真っ赤になっていた。

簪は口元を両手で押さえ真っ赤になってるし箒はシャルロットのことを見て目を丸くし、握っていた木刀を床に落とした。

 

「ほ、本当に伝えたんですか!?」

「うん…たぶん伝わってると思う。」

「そ、奏は!?奏はなんて答えたんだ!!」

「『そんなに焦るな』だって。まぁ私が言いたい事はわかってたんだけど茶化されてしっかりといえなかったって感じかな。」

「アイツ!!なんてことを!!」

「奏さん本当にそんなあいまいな返事したんですか!?」

 

一気にシャルロット以上に憤る二人。

それを見て苦笑しながらシャルロットは話を続けた。

 

「まぁ私の言うタイミングも悪かったかもしれないんだけどね。でも想いは解ってもらえたし、しっかりと伝えられたと思う。」

「そうなんですか…それを言いに?」

「それもあるけど箒に聞きたいこともあったんだ。」

「な、なんだ?」

「箒、試合のあと一夏に何か言った?」

「っ…何も言ってない。」

「一夏のためにがんばって練習したんじゃないの?」

「でも…私は一夏に勝ってない…」

 

箒が行動できない理由はそれだった。

試合で負けたのならその時は諦めがついて別の行動に出れただろう。

勝ったとしたらそのまま一夏の元に良きしっかりともう一度告白をするつもりだった。

だが試合の結果は無効試合だった。

あの状況から自身の実力で試合に勝つとは箒自身思っていない。

だがせめて、せめて一夏と全力で戦えれば他の二人のように積極的に、同じポジションにいけるのではないかと思えて仕方なかったのだ。

そして試合前の自身が決めた約束もしっかりと守りたい箒は行動をためらっていた。

流石にそこまでシャルロットはわかってはいなかったが箒が悩んでいる事は十分わかったのだろう。笑顔でアドバイスを送る。

 

「そっか…じゃあせめて箒が言いたい事をしっかりと一夏にいってあげたほうがいいと思うよ。一夏もほっとかれたら困ると思うしね。」

「……解った。…あと…シャルロット、お前はそういうところを気にする性質だったのか?」

「う~ん…どちらかと言ったらソウのためかな?」

「奏さんのですか。」

「うん。ソウはさ、そういうのも全部一人で背負い込んじゃうじゃない。ここに来た理由も箒が落ち込んでるって聞いて頭を悩ませながら探してたんだ。だったら私はそれを少しでも減らしてあげたいんだ。箒はさ、一夏のために強くなりたいんでしょ?」

「ああ、一夏の隣でアイツを支えてやりたい。」

「私はねソウの隣には立てないと思うんだ…ソウの目指すところはあまりにも遠すぎて私には見えそうになかった。だから私はソウが背負ったものや背負いそうなものを少しでも減らしてあげるようになりたいんだ…」

「シャルロットさん…私やっぱり奏さんのこと好きだと思います。」

「っ…そっか…じゃあライバルだね。」

 

とシャルロットの表情が一瞬曇ったが笑顔に戻り簪に言葉をかえす。

ここで争って喧嘩をするような人はソウの隣にいていい人ではない、シャルロットはそう考えていたため本気で簪とライバルになるつもりで笑顔を返す。

だが簪は首を振った後話しだす。

 

「いいえ。多分私の好きは友人や、仲間としての好きなんだと思います。今シャルロットさんの話を聞いたとき、私シャルロットさんのことを応援したくなりました。」

「…私に遠慮しなくても良いんだよ?ソウの事好きならそれは仕方がないことだと思うし…」

「いいえ。遠慮してませんよ。奏さんは多分私にとってのヒーローなんだと思います。」

 

どんな時でも笑顔で、そして誰かのために行動でき、そして助けるためなら自身のことも厭わない。誰かを助けるときに全力で突き進む。

確かに自身はあの人のことが好きなんだろう。

だがその好きは憧れや友情の入り混じった好きなのだ。簪はこう考えたのだった。

 

「そっか……でももし違ったって思ったらすぐにソウに言ってね?」

「……シャルロットさんって優しいんですね。」

「ううん、ソウに嫌われるのが怖いんだけだよ。だから箒もさ…一緒にがんばろ?このままじゃ他の三人に負けちゃうよ?」

「そうだな…いつまでも悩んでいても仕方ないな…」

 

そう言って箒はある程度明るくなった。

シャルロットは数回うなずいた後顔を赤くして話し始める。

 

「……後最後に…この話しはソウには絶対に秘密にしておいてね?」

 

そう言うと3人は顔を見合わせた後笑い出した。

その後三人に呼ばれた奏は箒を慰める言葉を言うがすべて箒は言う前に吹っ切れていたようで、ただ三人に笑われる事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

愛する――

それはお互いに見つめ合うことではなく、

いっしょに同じ方向を見つめることである。

                                ~サン・テグジュペリ~




ということで箒へのアシスト編でした。
奏のシャルロットへの対応については。
「ある意味最低の断り方だよなぁ…焦るなとか…どう言い返せと?」
という友人からの言葉でそういわれればそうだな。と思いましたww

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