インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十三話 専用機開発

テストに向けた勉強を必死に続ける際に邪魔になるものが一つだけあった。

それは俺の専用ISのテストである。

まぁ…自分で言い出したことだから仕方ないとは思うのだが…それでも今はテスト勉強の方が大事なのである。それにまだ開発が始まってから2週間くらいしか経っていないのに最低限の形は出来たとはどういうことだろうか?

俺がアリーナの格納庫に向う。

できるだけ早く終わって欲しいが……と考えていると後ろから俺を呼ぶ声がする。

 

「ソウ!!まってよ。」

「うん?どうしたシャルロット。」

 

と後ろを振り向くとシャルロットがこちらに走ってきていた。

シャルロットが追いつくまで立ち止まって待っていると近くまで走って来た。

 

「焦ると転ぶしいいこと無いぞ?」

「もう、転んだ事なんてないでしょ?」

 

シャルロットが追いついたので一緒に話しながらアリーナに向う。

 

「はいはい。で、どうした。」

「デュノア社のほうから連絡があって私も最新機のテストパイロットになるんだって。」

「はぁ?いや、今開発してるのは一機じゃないのか?」

「そこら辺は着いたら説明を受けるって言われてたけど、ソウの方は何か言われた?」

「いや、一切連絡は受けてないよ。ただ『一回乗ってみてみたい?』って言われたから『のるのる』って感じ?開発もほとんどって言うかほぼすべて一任してる。」

「なんというか……すごいフランクな関係っていうか信頼しあってるんだね…」

「まぁ…そうなんだとは思うよ?」

 

と言ってアリーナ内の格納庫に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

「おせぇぞ、奏。」

「僕だけ?シャルロットはどうなのさ。」

「男はデートの十分前が基本じゃないのか?」

「相手がおっさんじゃねぇ……」

「バカ言え。相手はお前の相棒になる機体だぞ?」

 

といきなり軽口を叩き始める。

シャルロットは予想以上のフランクな関係で驚いているようだ。

周りを見ると何回か見たことがある人物のほかに別の作業服を着て作業している人たちが居る。

恐らくデュノア社の社員だろう。俺はある程度周りに気を配りながらおっさんと話す。

 

「それでその相棒はどこにいるのさ。」

「今組立作業中だ。まずお前とそっちの嬢ちゃんに機体の説明をしておかないといけないと思ってな。」

 

というとシャルロットがすっと手を上げる。

何をしているんだ?おっさんもきょとんとしてるし。

 

「発言してもいいでしょうか?」

「……どうぞ。」

「私が呼ばれた理由はなんなんでしょうか?今回のプロジェクトはソウ…いえ、失礼しました。カザネソウの専用の第三世代機の開発と記憶していましたが……」

 

と真面目な口調で話すシャルロット。

それを見て俺はあきれたような顔で話しかける。

 

「……シャルロット、一体どうした?突然真面目になって。」

「ソウはともかく私はそういう風に口を利いていい立場じゃないんだよ?」

「いや……おっさん、そうなの?」

「まぁ…お前ほど口が悪い相手は珍しいがここまで…真面目なのも珍しいと思うぞ?」

「じゃあ普通にしゃべってもいい?」

「いい、いい。むしろお前はもっと敬意を持ってだな――」

「ということでシャルロット、普通に話していいってよ。」

「最後まで聞け。まぁ嬢ちゃん、俺もそこまで『礼儀ただしく』ができる人間じゃ無いんだ。嬢ちゃんのほうも普通に話しかけてくれるとこっちも助かる。」

「はぁ……」

 

と飲み込まれているシャルロット。

…おっさんの反応を見るにシャルロットの対応は普通ではないのだろう。

デュノア社でどういう扱いを受けていたのかが少しわかった気もするな…

まぁ今それを気にしても仕方が無い。

おっさんの話を聞く。

 

「まず今開発している機体の特殊兵器に関してだが…ほとんど完成している。」

「はぁ!?いや、おっさん、いくらなんでも早すぎじゃないか!?」

「いや…この特殊兵器はもともと倉持技研がある程度の開発を進めていたんだが完全に挫折したものでな…それをデュノア社に見せたところ完成にこぎつけたといった感じだな…」

「どんな兵装なんでしょうか?」

「短期間の未来予知。正確に言うと行動予測だな。」

 

おっさんは一息置いた後に話を続ける。

未来予知…本当にできるのなら強力だなぁ……まぁ共同開発に出されるほどだからそれほどでもないんだろうけど。

 

「簡単に言うとだな、発動時、銃弾を撃たれた時の射線を正確に予測して目視化もできるようになる、これはどんなに弾数が多くてもおこなえるな、ハイパーセンサーと組み合わせる事により全方位攻撃や多数の相手からの攻撃も予測できる。あとは相手を観察して、ある程度の癖や動きを記憶ができたら能力発動時に相手の動きを予測して動けるみたいな感じだな。」

 

なんというか……これはほとんど使う機会はなさそうだな…

俺も見るだけで大体解るし。

相手の動きに関しては大体解るし見てからでも反応できる。

 

「う~ん……強いんだけど…他のと比べれば一歩劣るって感じ?」

「まぁ…そのとおりだな。まず相手の観察なんてほとんどおこなう前に落とされたら射線予測しか使えない。射線予測も上位のIS操縦者は基本できる。だがそこの問題をある程度解決できるのが次の能力だ。」

 

……次の能力?

俺が驚くと同じようにシャルロットも驚いているようだった。

 

「え?これだけじゃないんですか?」

「うん?ああ、この能力だけじゃあまりにも弱すぎたんでな。デュノア社の方のをもう一つ、能力を突っ込んだ。」

「……むちゃくちゃだな。」

「お前ほどじゃない。そこでテストパイロットが最低限二人必要になった。」

 

二人必要って事は…同時に使用する能力か何かか?

いやこの場合…と俺が考える前にシャルロットがおっさんに聞く。

 

「どういうことでしょうか?」

「簡単に言うと情報の共有化だな。今現在もコア・ネットワークである程度の情報はどんな機体同士でも共有化している。そこを今回作った機体同士の共有レベルをさらに上げたって感じだな。」

「具体的に言うと?」

「例えば……奏、お前がある敵と戦って行動予測ができるまで観察できるようになったとしよう。その後相手は逃げて今度は嬢ちゃんと戦う。その時このシステムで共有していたなら始めからお前の行動予測を利用して戦えるって言った感じだな。」

 

これは…先ほどの能力と合わさって考えるとそれなりに強力だ。

要は共有化する情報の中に相手の癖や戦い方、さらには行動パターン等も組み込むことで、結果的に戦い方が丸解りになった状態で相手は戦わないといけないのだ、よほど強力な戦力相手じゃない限りこれは強みになるだろう…

 

「それは…集団で戦うとなるとかなり強いな…」

「さらに機体の特徴を説明すると。操縦性の強化のおかげで最低でもワンランク上のIS適性と同じように動く事ができる。そして機体性能も今までの第三世代機と比べ一段階は上のものになっている。プログラム面の方もデュノア社の協力のおかげで拡張領域のほうも両機共にかなり高い。」

 

おいおい、いくらなんでもてんこ盛り過ぎないか?

しかし、これではある意味第三世代ではなく第二世代だ。

拡張領域を残しつつ特殊兵器の装備……もしかして…

 

「………おっさん、あんたの話を聞いてて思い当たる事があるんだが…」

「まぁ……後期量産型第三世代の雛形を作った感じだな。ぶっちゃけた話、この機体の特殊兵器はそれほど容量をくわない。もう一つ特殊兵器を積む予定があったほどだからな。」

「第三世代の後期量産の雛形ですか!?」

「おう、そうだ。一応嬢ちゃんのほうの機体説明を終えた後もう一度説明しよう。」

 

そう言っておっさんは二つの機体の前まで俺たちを連れて行く。

おいおい…本当にこれがそのまま後期量産型第三世代として世界に受け入れてもらえたらかなりの利権を手に入れられるんじゃないか?それこそ確実に現在ある量産型第二世代は無くなりかねない。

まぁいろいろと問題は起きるだろうが、現存する量産型第二世代を軽く凌駕する量産型第三世代を使わない理由はほとんど無いだろう。

機体の前について量産型第三世代の雛形(それ)を見るとカラーはまだ試作機の段階だからだろうか?

色は塗られておらずただのグレー一色だ。

おっさんは片方の機体の前に立って話し始める。

 

「まずは嬢ちゃんの機体になる予定の方だ。デュノア社がメインになって作っている。機体性能は奏の方に劣るが拡張領域にいたっては奏の機体の倍、現在の嬢ちゃんのリヴァイヴの1.5倍はあるらしい。さらに特殊な大型兵装をいくつか特殊展開できるらしい。まぁ…そこは現在急ピッチで開発しているらしいな。」

「見た目はこれで完成なんでしょうか?」

「いや、現在背部スラスターを製作中だ、こっちの方は開発が遅れててな、正直完成も奏の機体のほうが早いだろう。」

 

と言って説明した機体はなんというかラファール・リヴァイヴから背部スラスターを取ったみたいな

印象を受けた。特徴的なのはリヴァイヴに無い腰の辺りの装甲と…脚部パーツはどちらかと言えば打鉄弐式に近い印象を受けるな…

おっさんはもう片方の機体の前に向かう。

なんというか……完全に新しい機体という印象を受ける。

まず俺の知る限りの機体のどれとも似ていない上に頭部以外はフルアーマーだ。

さらに下半身部分には赤銅と同じようにスカート状にブースターらしきものがついている……

脚部の方は弐式の脚部をスマートにした印象をかろうじて受けることができる。

機体全体の印象として赤銅が装甲が増えてスマート化、そして流線型になったような印象を受ける。

 

「そして次はカザネ。お前の機体だ。」

「先生!!全力で動けますか!?」

「誰がお前の先生だ、そこは現在調整中。まずは機体性能は現存する第三世代の中でもトップクラスの機動性を持っている上に他の数値も平均して標準以上だ。ただお前に合わせて調整しているから、どうしても拡張領域が狭くてな。だが平均として今現在お前が装備している以上の銃とさらに強力な兵装の二つは積める様になる予定だ。」

「武装の方は?」

「一つは大型ライフル状の荷電粒子砲。もう一つは実弾兵装を予定しているんだが…いまひとつ決まってない感じだな。お前の戦い方にあわせた弾幕をはるような武器にするべきか…それとも強力な一撃を出せるようにするべきかと言った感じだな。」

 

そう言われた瞬間あの兵装を思い出した。

弾幕だろうが破壊力だろうが両方満たすすばらしい武器だ。

開発できるかどうかはわからないが後で無理かもしれないが言うだけ言っておこう。

 

「っていうかいくら何でも完成はやすぎじゃない?欠陥とかないよね。」

「当たり前だ。元々はお前の機体はうちの方でほとんど出来上がっていた。ソフト面以外ならぶっちゃけ共同開発の3日後には出来上がってたわ。」

「……マジで?」

「おう、現在ソフト面は2社合同で製作中。ハードに関してはほぼ倉持技研(うち)のデータを使ってデュノア社の方が機体開発してる感じだな。」

 

なるほど……

この機体は元々欠陥機どころか未完成機だったけどデュノア社の協力で完成したって感じなのか…恐らくだが倉持技研が俺から秘密裏に取られたデータも流用してるんだろうな~…

まぁそこら辺も公開されるんだ。気にしてもしょうがないだろう。

 

「それで今日頼みたいのは基本的な動作確認と飛行テストだな。結構根本的なところまでいろいろと新しくされていてな、動作テストが必要なんだわ。」

「了解。どれくらいかかりそう?」

「最低限1時間ほど付き合ってもらうぞ。」

「……僕テスト近いんだけど……」

「普段から勉強していないお前が悪い。」

 

そういわれてがっくり落ち込む。

本当に俺の学業は大丈夫なんだろうか?

そう考えながら俺の機体のテストが始まった。

 

 

 

 

 

 

現在テスト飛行中、俺はとりあえず適当に飛び回れといわれて飛んでいた。

一度地上で全力で動いた結果3分ほど動いた後強制的に止められた。

それでも3分は全力で戦えるのだ。ウルトラマンだったら怪獣を倒して帰ることができる時間だ。

それにこれはまだ完成した機体ではない、そう考えるとこの先もしかしたらISでの全力戦闘ができるかもしれん…変な話だがそれはある意味うれしい事でもあるがちょっと悔しくもある。

やはり今の今まで自身の力のほうが上だったんだ、追いつかれれば少しは悔しい。

だがそれは同時に自身の戦闘能力が上がるという事でもある。

そうすれば今後来るであろう敵対者から仲間を守ることができる。

そうだ、戦い方なんて重要ではない。大切なのはヴァッシュ(あの人)のようにしっかりと守り抜いて最後に笑いあえるようにする事なのだ……

だが、そのための力が手に入るのならそれは喜ぶべきなんだろうか…

やはりどこか力を手に入れることを喜ぶ事に違和感を感じながら俺は適当に飛んでいた。

すると近くにシャルロットが来た。

さっきまで地上でいろいろやっていたのだが今度は俺と同じように空中での検査だろうか?

背部スラスターなしでも飛べるんだ……

 

「ソウ、そっちの方はどんな感じ?」

「う~ん……3分間だけフルパワーって感じかな。」

「これだけ動きやすくてもまだ駄目なんだ…」

 

と言いながら驚くシャルロット。

これだけって言う事は彼女の方はかなり調子がいいんだろう。

 

「そっちはどうさ。」

「うん、動きやすいし何より機体の性能が前までのリヴァイヴとは全然違うからね。でもなんというか…癖は一緒な感じかな?」

「そっか……って事は仮に俺の機体が失敗してもシャルロットの方が成功したら一応計画は成功になるのか…じゃあ俺の機体はこのままでもいいかなぁ…」

「どういうこと?」

「いや、戦う力を求めるのがちょっと嫌でさ。普通に生活する分なら今までも赤銅でもじゅうぶんだったし。なら今の状況でも問題ない……いやいざという時は…問題はあるんだよな…」

「どうしてそんなに悩んでるの?」

「なんというか…目標の人物から離れて行ってる気がしてね…」

「……前から聞きたかったんだけどソウの目標って誰なの?」

「うーん…記憶の中に唯一残ってる人物かな?実在するかどうかもわからないような人で名前は……解らない。」

「どんな人なの?」

 

どんな人か……なんというか言われてみると難しい人だな…

優しいけど…我侭。かっこいいけど…どこまでもかっこ悪くなれる。

意思は強いが…臆病者。銃の名手で逃げ足の達人。

……そこまで詳しく説明しなくてもいいか。

 

「俺以上に銃の名手で俺以上に優しい人。戦いが何よりも嫌いで、誰かを救うために全力になれて……笑顔が特徴的な人って感じかな?それ以外は説明するのが難しい。」

「……今のソウもその人に近いと思うよ?」

「……なんていうかな…違うんだよな…。どこがって言うか…感覚的にすぐさま違うって思ってしまうんだ。まぁ…だからこそ目指してるんだけどね。」

「……ソウは…今のままでいいんじゃないかな。」

 

?どういうことだろうか。

少し疑問に思い聞き返してみる。

 

「どういうこと?」

「あ、別に目指すのが駄目って訳じゃないんだよ?ただね…今のままのソウでもいろんな人を助けてるし、違うって言ってもしっかりと助ける事ができれば同じじゃなくてもいいんじゃないかな…って思っただけなんだ。」

「……今のままでも…いいか…」

 

と言いながらあわてて説明された言葉を聞きながら俺は考えていた。

今のままでいい…確かにこのまま何も無ければそのとおりだろう。

だがこの先も確実にアクシデントは起きるのだ。

そしてこの先現れる銀の福音……このことを考えると今の俺では駄目なのだ。

もっと強く、さらに強くならなければ、それこそヴァッシュのように。

しかし今シャルロットにそれを説明することはできないし変る事はできない…彼女の言いたい事はわかってもだ。

俺は笑いながらシャルロットに返事を返す。

 

「まぁ、それもそうか。焦っても仕方ないしね。」

「……うん…」

「それに今の僕の一番の問題はテストの方だね…このまま行けば赤点回避すら難しい…」

「そんなに危ないの?」

「……ここ最近、真面目に勉強した記憶が無いからね…まぁみんなのノートのおかげである程度は何とかなると思う。……きっと。」

「…今日、この後勉強見てあげようか?」

「……お願いします。」

 

そういって勉強を見てもらう約束をしながら俺はこの試作機のテストを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

いちばん騙しやすい人間は、すなわち自分自身である。

                              ~パルワー・リットン~

 




どこか歪みが出てきた主人公でした。
ヴァッシュを目標にしているのに力を求め、さらに自身の力じゃないところで手に入れた力をどこか嫌っているようにも見えます……
あと主人公の機体ですが現在のイメージとしてはガンダムUCのシナンジュ・スタインの腰の辺りに8つほどスラスターをつけて背部スラスターをとり、肩アーマーを丸くした感じですね。
頭部に関しては現在何もついていません。
あと『あの兵器』についてはトライガンを知っている人物なら何も説明は要らないでしょう(断言)

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