インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
「おいガキが逃げたってどういうことだ!?」
「俺が知るかよ!?オイ!!早くボスに伝えろ!!」
廃墟のほうから男たちの声がする。思ったより早く気がつかれてしまった。
このまま二人で逃げてもおそらく彼らが、いや彼女がアレを持っていると考えるとすぐに捕まってしまうだろう。
そして彼女らの狙いはおそらく一夏。つまり一夏さえ逃がしてしまえばいいのだ。
俺は考えをまとめると一夏に話しかける
「おい、一夏。この先をまっすぐ行ってすぐに曲がるとそこに自転車があるはずだ。君はそれに乗って逃げろ。」
「!?おい奏!?何言ってるんだよ!?」
「あいつらの狙いは多分君だ!!早くしないとあいつらが来る。行け!!」
「多分って!?」
「いいから!!俺ここら辺に詳しい!!一人だけなら隠れられる!!だから君は早く警察に!!」
「っつ……わかった…」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら一夏は走り出しすぐに見えなくなった。
さて隠れようにも本当はここら辺はそれほど詳しくないが何とか切り抜けよう。
そう覚悟を決め腰の後ろに隠すように付いている銃のホルダーをいつでも抜けるようにはずしておく。
しばらくすると男たちが廃墟から出てきて車の周りでまた何か言い争っている。
「クソ!!タイヤがやられてる!!」
「おい!?どうするんだよ!!」
「どうするも探すしかあるまい」
このまま言い争いてつづけてくれれば逃げられそうだな~と思うと後ろで気配がする。
ハッと思い振り向くとボスと呼ばれていた女性がそこにいた。
服装は女性用のビジネススーツだがいろいろと改造されているのだろう、色気が目立つ。顔もとても整っておりブロンドの長い髪をしている。
彼女はこちらに微笑みかけながら話しかけてきた。
「はぁい、坊や。こんなところで何をしているの?」
「いや~モンド・グロッソを見に来たんですけどチケットが手に入らずに、仕方なくこうして観光をしていたんです。」
「観光、ねぇ…こんな町外れに?」
「はい。僕の住んでるところはとても田舎でこういう風景もものめずらしくて。」
「ふぅ~ん……そうなの。」
「お姉さんはこんなところで何を?」
「私はお仕事でここに来ていたのよ。」
「そうなんですか。じゃあ邪魔にならないように別の場所に行かせてもらいます。」
「あら?たとえば…織斑一夏の場所とか。」
「何のことですか?」
「しらばっくれなくてもいいのよ?私はあなたがさっきまで一緒にいたのを
「……………ふぅ。バレバレでしたか。」
「ええ、バレバレ。」
彼女と話している間に、男たちは俺を囲むようにYの字で立つ。
後ろに立った男がリーダー格なのだろう的確に他の二人に指示を出している。
「あなたを殺す前に、聞きたいことがあるのだけどいい?」
「答えられることならば。」
「そう。じゃあ一つ目にあなたはどこの所属の人間?二つ目に織斑一夏はどこ?」
「二つ目は僕もわかりません。多分今頃夕日に向かって走っているのでは?一つ目はそうだなぁ……強いて言うなら教会所属の愛と言う名のカゲロウを追い続ける平和の狩人・・・みたいな感じ?」
「テメェ…なめてんのか?それとも頭がおかしいのか?」
男たちが怪訝な顔でこちらを見る中、女性の方は笑いのつぼにでもはまったのだろうか、狩人の辺りで口に手を当て声を殺して笑っている。
やった。このセリフ一回言ってみたかったんだよね。こんな風に言えるチャンスまたとないし言えるうちに言っておこう。
男たちは女性が笑っていることに驚きながらもそれぞれ自分の武器がある場所に手をやっている。
後ろと右側は腰、左側の方はおそらく胸のほうにあるのだろう、先ほどからそこを何度も見ている。
男たちの武器を確認していると彼女の笑いがようやく収まったようだ。
「…ックク…っ……ああ、可笑しい。久しぶりに笑ったわ。」
「じゃあこのまま笑顔でさよならしませんか?」
だめもとでそう口に出す。
このままだと確実に撃ち合いになるだろう。
俺も銃で人を撃つのは初めてじゃない。常に鍛錬も行なってきたし、人を撃つという覚悟もしているつもりだ。だがどんなに覚悟をしていても避けられるものなら避けたいし、逃げられるものなら逃げたい。この緊張感に慣れることは絶対に無いのだろう。
そう思いながら改めて覚悟を決める。
「だ~め。約束したでしょう?『あなたを殺す前に』って。」
「美女なら約束を破ったって大丈夫ですよ。」
「あら、ありがとう。それじゃあ………さよなら。」
彼女がそう言うと男たちはすぐに動き出し何発も銃声が響いた。
目の前にいる女性は考えていた。織斑一夏の誘拐。そのミッションは
はじめはどこかの国の諜報員か何かだと思ったが、こんなマヌケで愉快な諜報員がいるとは思えなかった。
服装は濃紺のジーズンに赤いチェック柄のワイシャツ。武器は腰についている型遅れのリボルバーのみ。顔は日系で髪は艶のかかった黒、見た目も悪くなく魅力的な笑顔だ。もう2~3年したらいい感じの青年になるのでは?と考えてしまう。
ISが世界に広まってからはこんな風に女性に話しかけれる男は本当にいなくなった。私のような人間に対しては特にだ。
そう考えていると、ここで始末をつけてしまうのが少しもったいなく感じてしまうが仕事なので仕方ない。『ケジメ』はつけさせてもらう。
『さよなら』そう周りに殺すように合図を出し、目の前の坊やを見続ける。まったく笑顔を崩さずにこちらを見ている。それならば最期までその笑顔を見ていてあげよう。そう思い目を逸らさず彼を見続けた。
「…さよなら。」
彼女がそう口にした瞬間男たちが動いた。
まずはじめに動いたのはリーダー格の俺の後ろにいる男。彼女が言い終わるや否や。すぐさま腰にある銃にすばやく手を伸ばした。
そこからツーテンポかスリーテンポ遅れて右側にいる男が動く。
そして左側にいる男に限っては完全に出遅れていた。
俺も相手が動いた瞬間に行動を開始していた。
まず手を後ろに回し腰から銃を引き抜き後ろを向かずに狙いをつける。リーダー格の彼は今まで動きが正確だった。そして誰よりも早く動いた。なら動きは予想しやすい。
周りを見渡したときのイメージを思い浮かべながら引き金を引く。一発、二発。打金によって轟音と煙を出しながら二発の弾丸がリボルバーから撃ち出される。
弾丸はまるで後ろが見えているかのように正確に飛び、男が銃を構える前に両腕を撃ち貫いた。
そしてそのまま二発撃った勢いを利用するようにして銃のみ右に向ける。
右側の男はあと少しでこちらに銃を向けられるところまで来ていた。
最期に左側に体を向けるようにして銃を構えると左側の男は驚いたような顔をしながら手を止めてしまっていた。そのまますばやく引き金を二度引きまたもや両腕を撃ち抜いた。
男たちを無力化するまで約2秒。俺はそのまま最後の一発がこめられたリボルバーを女性に向け、真面目な顔をしながら声をかける。
「動くな……」
彼女は今目の前で起こったことに驚いたような顔をしながら俺を見る。
コレが俺がこの世界に飛ばされて手に入れたおそらく最後にして最大のものである。
『
俺は男三人無力化するのに
だが現在の俺の再現でも一般人相手なら負けることは無いし、軍属が相手だったとしても一対一なら確実に勝てるであろう。『唯一の例外を除けば』であるが。そして彼女はおそらくその例外なのだろう。
先ほどから銃を向けているが一切怯むことなく今は面白そうなものを見つけた様な顔をしている。
「何が教会所属の愛の狩人よ。とんでもないカウボーイじゃない。」
「いえいえ。教会所属は本当ですよ?僕は教会に住まわせてもらってますし。」
「あらぁ。神の使途が人に銃を撃ってもいいの?」
「僕は神をあまり信じていませんしね。もし神様がいるって言うなら一発くらい殴ってやりたいですし。あ、コレ秘密でお願いします。ばれたら婆さんに説教じゃ済まされないんで。」
そういうと彼女はまた面白かったのか今度は声を出して笑い始めた。
周りにいる男たちは信じられないものを見たような顔をした後、ハッとしたような顔をして立ち上がり離れていった。
「あー面白い坊や。いいコメディアンになれるわよ。さっきから笑わせられてばかりいるしね。」
「そいつはどうも。」
「ねぇ、私と一緒に来ない?腕も確かだし優遇するわよ。」
「すみませんが将来は神父か牧師に決めてるんでお断りさせてもらいます。」
「あらどうしても?」
「すいませんね。」
「う~ん……じゃあ勝負で決めない?」
「勝負ですか?」
「
「……鬼ごっこですか?それにお姉さんはそのままじゃないんでしょ。」
「両方正解。私はドレスアップさせてもらうわ。」
「じゃあ、僕もタキシードに着替えたいんで一回家に帰ってもいいですか?」
「だめよ。シンデレラの魔法は後10分しか持たないの。」
「そいつは残念。ちなみに拒否権は?」
「レディからの誘いを断るの?」
「時と場合によりますねぇ……」
「それじゃだめよ。『相手』をつけなかったところは評価してあげるけど。」
「うわぁー、うれしいな(棒)。……はぁわかりましたよ。」
ここはどうやっても逃げられないようだ。俺はそう察するとあきらめたようにため息をつきながらリボルバーの弾丸を入れ替えながら距離をとる。
弾をこめながら考える。彼女はあと十分と言っていた。自身の今の実力であの兵器相手に3分、場合によっては10分……どう考えても分の悪い賭けだ。そう考えるとだんだん体が硬くなっていくような気がしてきた。
コレじゃあいけない、初めから悪く考えてどうする。俺は心の中で(今だけは自分があの
弾丸をすべて込め終わり十分距離をとった後彼女と向き合う。彼女は武器も一切持たずこちらを見ている。
「準備はいいかしら?」
「何とかですがね……あと始める前にひとつ聞いてもいいですか?」
「ひとつだけね。」
「お姉さんの名前。教えてもらっても。」
「女性に先に名乗らせるの?」
「こいつは失礼、やり直します。僕の名前は風音奏、あなたのお名前を聞かせてもらっても?」
そう言うと彼女は満足げに微笑み自身の顔の前に手をかざす。
すると手についていた指輪が輝き光の柱が現れた。目を細め目線を逸らさないようにしていると光が収まり、そこには体に機械の鎧が身に纏っている彼女がいた。
「専用機は整備中とはいえ…まあいいわ。じゃあ名乗るわね。私の名前はスコール、スコール・ミューゼルよ。それじゃあはじめるわよ、がんばって逃げなさい。」
彼女はそういいながら飛び掛るように身をかがめこちらに笑いかける。
「カザネ。」
「………なんでしょうか?」
楽しそうに笑いながらこちらを見る。
一方俺は額に汗を浮かべながらその一瞬に身を構えていた。
「Shall We Dance?」
「……I would like to.」
そういい終わると同時に彼女が飛び出す。
ここに今、生身対ISの結果のわかりきった戦いが始まった。
競争は速い者が勝つとは限らず、戦いは強いものが勝つとは限らない。
~イギリスのことわざ~
と言うことで亡国機関のエロいお姉さん登場です。
いまさらですがキャラクターは大分変わると思いますのでご了承ください。
あと書き溜めてたデータが消えた……
せめて本編開始までは一日二話の約束を破らないようにがんばります。