インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十二話 その後の呼び名

一連の騒ぎが終わったあとまた日常が戻ってきた。

寮の部屋割りも新たに直され、その結果一夏からすると待望の男同士の部屋になった。

まぁ俺も待ち望んでいた事ではあるがあいつのように決まった瞬間ガッツポーズをするほどではない。

条約的に緩和されたのか?と思ったが理事長がいろいろと口を利いてくれたらしい。

シャルロットの入学理由を聞きにいった時に話してくれた。

シャルロットの入学理由としては正式にフランス政府からの依頼となったらしい。

なおフランスが女性操縦者を男性として送り込んだ理由は表面上『フランス国内の一部勢力の暴走』としてフランス政府から公開されたらしい。

もちろんさまざまな憶測が飛び交った。

 

『フランスは既に一人の男性操縦者を手駒にしたのではないか。』

『フランスはハニートラップを仕掛けたのか。』

 

などの意見が大半であった。

そこで俺からの一言として

 

『今後どんな事があろうとも“風音奏”はフランスの代表候補生にはならないしフランス国籍にはならない。』

 

という宣言をしたという狸理事長からの台詞があり落ち着いたらしい。

実際にいざとなればそういうことを言うつもりでもあった、がこのことは狸理事長には言っていなかったんだが……まぁそれで事態が落ち着くのならそれでいいか。

結果としていわばフランスは男性操縦者獲得のレースから降りたことになる。

フランスとしては文句があるらしいが下手な事を言えば真実があかされられないため下手な事をいえないらしい。

現在男性操縦者のデータを二番目に手に入れている国でもあるため何かと必死になって俺のデータをまとめている。

 

 

そしてドイツのVTシステム開発についてはほぼ噂が広まる事はなかった。

ただ憶測としてドイツが自国のISに何か危険なものを積んでいるのでは?という噂がかなり広まってしまったらしい。

そして研究施設の摘発の前にドイツ国内で謎の襲撃事件があったと伝えられている。

恐らく亡国機業か篠ノ之束のどちらかが動いたのだろう。

ドイツ軍内の実行者が捕まえられたかどうかは解らないが恐らくしっかりと責任を取らされているのではないのだろうか。

 

 

そして現在、俺は自分の部屋で必死に勉強をしていた。

理由は簡単である、このままだと確実に補習コースなのである。

元々勉強がかなり優秀というわけではない俺の頭。

それなのに事件がすべて解決するまでの間ほとんど勉強することなく俺は事態の対策だけを考えていた。ふと気がつくとテストまでほぼ時間が無い上に授業の内容をまとめていないノート。

さらに授業中もノートをとっていたがほかのことを考えていたためほぼ何も覚えていないのだ。

必死にノートを解読しながら教科書にかじりつき要点をまとめる。

俺の必死な形相を見て隣で勉強をする一夏が話しかける。

 

「奏……なんでお前そこまでまとめてなかったんだ?」

「時間が無かったんだよ!?」

「そ、そうか……」

 

俺の答えの気迫で何も言えなくなる一夏。

現在俺はシャルロットのノートと一夏のノートを借りながらテスト範囲だけでもまとめようと必死なのだが……正直本当に間に合う気がしない。

 

「あ~ヤバイ…本当にヤバイ。」

「……少し休んだらどうだ?効率もよくなるんじゃないか…さっきからお前目が据わってるぞ?…」

「……そうするわ…はぁ…」

 

とため息をつきながら脱力をする。

せめて赤点回避を目標に今回はがんばろう。

下手に目標を高くすると本当に全科目赤点もありえる……流石にそれはないか……

一夏も休憩をしてるみたいだし適当に話して気分転換をしよう。

 

「そういや……ラウラとは最近どうなの?ラウラの嫁さんよ。」

「いや、嫁じゃないし。第一嫁っておかしいだろ。」

「んでそこら辺はどうなの?周りの反応とか。」

「いや、お前も解るだろ?」

「あ~……僕まだ嫌われちゃってるみたいでラウラに近づくと逃げられる。」

「え?本当にか?」

「多分だけどねぇ…僕が教室内で一夏に話しかけてるときは近づいてこないだろ、ラウラ。」

「あ……そういわれれば…」

「んで鈴やセシリアの反応は?」

「いや、仲直りはしてた見たいだぞ?セシリアとこの前一緒に話してたし、鈴とは一緒に訓練してた。」

 

ほぅ…俺が動くまでもなかったか…

どっちから動いたかは解らないが仲良くしているのならそれでいい。

俺がそう単純に考えていると一夏は腕を組んで考えながら俺に話す。

 

「…でも何でお前だけその扱いなんだろうな?」

「さぁ?まずしばらくはこのままにしといてそれでも変らないようなら動くさ。それよりもまず俺はテスト勉強をしないといけない。お茶入れてからもう一丁がんばるつもりだけど一夏も茶飲むか?」

「うん?……ああ、たのむ。」

 

そう言って席を立ちお茶をいれに行く。

そんな時部屋のドアを叩く音がする。

誰だ?と思い扉を開けるとそこにはシャルロットが居た。

 

「おう、シャルロット。どうした?」

「ちょっとね…ねぇ…二人で入って良い?」

「二人?」

 

と言って近くを見渡すが誰もいない…ならば気配を探ってみるかと思い感覚を研ぎ澄ますと近くの影からこちらをのぞく気配を感じる。こりゃ間違いなくラウラだな。

そういえばシャルロットはラウラと同室になったんだっけ…それに関係しているのか?

俺はそちらに向って声をかける。

 

「おーい。ボーデ…ラウラ、そんなところで何してるのさ。こっちにきなよ。」

 

と俺に言われると一度こちらに顔を見せ、少し考えた後逃げようとする。

しかし考えている間にシャルロットにつかまってしまい逃げられない。

 

「ラウラ、どこに逃げるの?」

「っ!?……シャルロット!!やはり私は!!」

「いいから、ね?」

 

と言いながらラウラを俺の部屋へと引っ張り込む。

一体なんなんだ?と思いつつも俺は再びお茶を4人分いれる。

お茶をもっておくに行くと半笑いになりながら俺を見る一夏、そしてその影に隠れながら俺を見るラウラ、それを見ながら笑っているシャルロットが居た。

 

「シャルロット、話って何?」

「ラウラのことなんだけど…」

 

といわれてラウラのほうを見るが完全に一夏の後ろに隠れている。

なんというか…印象が一気に変るなぁ…

 

「……」

「お、おいラウラ、俺の後ろでしがみついてないで前に出て来いよ。」

「そ、そんな!!わ、私のことを守ってくれるんだろ!?」

「いや、確かにそういったけどさ?何でそこまでソウを警戒してるんだ、お前。」

「そ、それは……」

 

と言って俺の方を見るラウラ。

いや…そこまで怖がられるほど俺何かしたか?

と考えているとシャルロットの方から援護が入った。

 

「ラウラはさ、まだ奏が本当は怒ってるんじゃないか…って思ってるんだって。」

「え?何でさ。」

 

そう言ってラウラを見ると一夏の影に隠れながらぼそぼそと話す。

 

「……お前は、怒った後すぐに私を許すどころか逆に謝ってきた……鈴やセシリアは私にしっかりと怒った後に条件付で許してくれた…シャルロットも私に駄目なところ言った後に許してくれた……」

「あ~……僕は何もいわないで許したから本当はどこかで怒ってるんじゃないかって思ったってこと?」

「……そうだ。」

 

そう言いながらようやくラウラは俺の顔を見ながら話してくれた。

要は何の要求や怒る事もなくラウラのことを許した俺は実際のところまだ怒っていて何か仕返しを考えているのでは?と警戒しているのか…むしろ不気味なのかもしれないな…

しかしラウラ、こいつがらっと印象が変ったな。

なんというか今まではドーベルマンみたいな印象を受けたが今は小型犬みたいに見える。

その様子がおかしくて俺は笑い出してしまう。

 

「な、何がおかしいんだ!?」

「ごめん、ごめん。じゃあさ……逆に聞くけど僕は君に何を怒ればいいの?」

「え?……私はセシリアと鈴に喧嘩を売って、徹底的に痛めつけた。」

「それは確かに悪い事だけど二人からも既に怒られてるんじゃないの?」

「で、では、教官の名前を汚した事だ!!」

「それはラウラ自身、一番後悔してるんじゃないのかい?そしてそれを怒るべきなのは千冬さんか一夏が適任だ。だったら僕が怒る必要はないさ。」

「お前のことを腰抜けや臆病者と呼んだんだぞ!?」

「それは実際そうだもん、仕方ないさ。」

 

そういうとラウラは口をパクパクさせている。

実際わかっていることを再度相手に言う必要はないし腰抜けや臆病者と言った台詞はそのとおりなのだ、怒る必要も無い。

俺はラウラに笑いかけながら話す。

 

「僕が怒ったり注意する必要がある事は既に他の人が言ってるだろ?なら別に僕がもう一度言う必要はないし許すとかそういうことは関係ないさ。」

「………」

「う~ん…信用できない?」

 

俺がそう言ってもまだラウラは警戒を解いていない。

さてどういう風に誤解を解こうか…と考えていると一夏から援護が入った。

 

「ラウラ、奏のいう事は本当だぞ。こいつ、本当にこう考えてるぞ。」

「ほ、本当か!?」

「ああ、こいつは自分が悪くない時でも謝るような奴だからな。」

「いや、僕が完全に悪くない時は謝らないよ?」

「そう言っても何かと謝るところを見つけて謝るじゃないか…」

「いや、謝るべきところは謝るのが普通だろ?」

「と、まぁ…こんな奴なんだ。本当にラウラのことを怒ってないぞ、俺が保障する。」

「嫁もこういう事は本当なんだな……でも風音奏。私はお前にいろいろ言ってしまった、本当にすまなかった…あとあの時いった言葉は本当か?」

「え~っと……どの時?」

「私がアレにとらわれている時だ。」

「聞こえてたの?」

「かすかにお前の言葉だけ記憶にある程度だ…しっかりとは覚えていないが…」

 

あの時はラウラに意識があるなら呼び覚まそうと思って声をかけたんだが…

まぁ言った事は嘘じゃないんだ。そのまま話そう、ラウラに笑顔を向けて話す。

 

「ああ、あの時いったことには嘘はないよ。本当にそう思ってるし助けて欲しいのなら助けるよ。」

「そうか……」

「ね?私の言ったとおりでしょ?」

「そうだな……」

 

話しの流れを黙ってみていたシャルロットもラウラに笑いかける。

そしてようやくラウラは俺の前で落ち着いたような表情を見せた。

シャルロットが何を言ったかは解らないが『ここしばらく俺がラウラのために動いてた事』は言わないように約束をしている。この約束は一夏と千冬さんともしている。

一夏は納得がいかないような顔をしていたがそれでも無理を言って頼み通した。

ドイツ軍としてもわざわざ自身の犯した罪をラウラに伝えるとは思えないし、学園としてもあの試合映像は削除したことになっている。まぁどっかで保存はされてるだろうがそれをラウラに伝える必要はない。

何よりそんなことでラウラの気を病ませて笑いあえなくなるくらいなら、何もしていない事にして笑いあったほうがいい。ラウラの笑顔のほうが俺の苦労と比べれば何倍も価値がある。

さて、後はこの機会を利用してもう少しラウラと仲良くなりましょうか…

 

「じゃあ、これでこの話はおしまい。改めてよろしくねラウラ。僕の事は好きに呼んでいいからさ。」

「そうか……わかった。よろしくたのむ、『お兄ちゃん』。」

「………はい?」

 

と笑顔のまま固まる俺、お茶をふきだしむせる一夏、驚いたまま俺と同じように固まるシャルロット。

ちょっと待て、いろいろおかしいぞ?

一方ラウラは笑顔のままだ。

 

「…えっと……ラウラ?今なんとおっしゃいました?」

「?だからお兄ちゃんと言ったんだ。」

「………待って!?どうしてそうなったの?何でその呼び方になったの!?」

「駄目だったか?ふむ……では『お兄様』のほうがいいか?」

「違う!?そこじゃない!!」

 

と必死に叫ぶ俺。

他の二人を見ると一夏は腹を押さえながら笑っておりシャルロットもつられるように口元を押さえてそっぽを向いている。

くそ、お前ら他人事だと思いやがって。まぁ実際他人事だけどさ。

 

「何かおかしいか?日本では自身を守ってくれたり、悪い事をしたらしかってくれたり、悩みの相談相手になってくれる頼りになる男性をお兄ちゃんというのではないのか?」

「いや!?日本にそんな文化は無かったと思うけど!?それに血とかつながってないし!?一緒に過した時間も少ないし!?」

「血のつながりや時間は関係ないと聞いたぞ?」

 

うっ、確かにそれは正論だ…

だがこの呼び名はいろいろとまずい、特に俺の社会的信用が。

教室内でそんな風に呼ばれてみろ、本当にやばい人扱いだ。

 

「でもさ、年とかの関係もあるしね?」

「お兄ちゃんは記憶が無いんだろ?だったらもしかしたら年上かもしれない。それに体の大きさから言ってもそれほど違和感は無いはずだ。」

「確かに…私も初めてソウと会ったとき年上だと思ったもん。」

「俺も俺も。」

 

と言いながら完全に笑っている一夏とシャルロット。

シャルロットは目尻に涙を浮かべながら笑っているし一夏は俺のあわてる様がおかしいのか腹を押さえて自身のベットで転げまくっている。

 

「だとしても僕はラウラのお兄ちゃんじゃないからね?普通そうは呼ばないから!?」

「好きに呼べって言ったのは奏じゃないか。」

「うるさい一夏。」

「言った事は守らないと、うそはだめだよ?ソウ。」

「おい、シャルロット本当に勘弁してくれ。」

 

この二人、完全に悪乗りしていやがる。

後で覚えておけよ?こいつら……

ラウラは不満げだが一応俺の話を聞いてくれたらしい。

 

「ではなんと呼べばいいんだ?」

「普通に名前か苗字でお願いします。」

「カザネ…ソウ……奏…」

 

とラウラは繰り返すがしっくりこないらしく俺の名前をつぶやきながら悩んでいる。

まさか単なる呼び方でここまで焦る事になるとは……本気でつかれきっている俺。

一夏とシャルロットも笑いが収まったようでヒーヒー言っている。

 

「あ~面白かった。私もソウのことお兄ちゃんって呼ぼうか?」

「勘弁しろよ……本当に。」

「なぁ奏。この話、千冬姉や鈴たちに伝えてもいい?あ、弾にもメールしとくわ。」

「やめろ。」

 

と話していると一夏声が聞こえた瞬間ラウラがハッとした表情で話す。

嫌な予感しかしない……

 

「そうだ。奏兄(ソーニィ)でいいのではないか!?これならしっかりと名前を呼んでいるしお兄ちゃん扱いもしている。」

「………」

 

といいことをひらめいたといったように満面の笑みで言ってくるラウラ。

呆然とするように固まる俺と、それを見て再び笑い出す一夏。

シャルロットは顔を真っ赤にしてふきだすのを我慢してじたばたしている。

もう…なんと説明すればいいんだろうか……

ラウラに間違った知識を教えた奴に本気で説教をしたくなった。

ラウラは確認を取るように目を輝かせながら俺に話しかける。

 

「奏兄。これでいいだろうか?」

「………」

「呼ばれてるぞ?奏兄。」

「返事はしなくちゃね、ソーニィ。」

「もう……好きにシテクダサイ……」

 

と言ってがっくりとした感じにうなずく俺。

とたんにうれしそうにするラウラ、大笑いをしだす一夏とシャルロット。

俺にはこの輝くラウラの無垢な瞳に抗うすべはなかった……

結果的にラウラは俺のことを奏兄(ソーニィ)と呼ぶようになった。

そしてしばらくの間、一緒に聞いていた一夏やシャルロット。恐らく三人の内の誰かが伝えたのだろう、鈴やセシリア、箒や簪。

さらになぜかOsa.楯無や狸理事長、極めつけにはクラスメイトや千冬さんにまでそう呼ばれることになるのであった。

もう一度言おう『どうしてこうなった…』

 

 

 

 

悲しみが来るときは、単騎ではやってこない。かならず軍団で押し寄せる。

                                  ~シェイクスピア~




ということで妹ができました(笑)
呼び方もFeigling(腰抜け)からおにいちゃんですwww
これもすべてクラリッサって奴が原因なんだ……

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