インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第五十一話 歓迎

次の日の朝、先生方の命令でシャルロットは俺の部屋を出ていった。

荷物をまとめ軽く手を振りながら笑顔で俺たちは分かれた・

そして俺が教室に行った後もあいつの姿は無かった。

だがまぁ…心配は無いだろう。

仮に何かあったなら最悪全力で大暴れしてやろう。

そんなことを考えながら自身の席に座っていると一夏が俺に話しかける。

 

「なぁ、奏…」

「おはよう一夏……どうしたそんな顔して?」

 

見ると一夏はなんというか不安そうな顔をしている。

 

「い、いやさ……今朝からシャルの顔見ないし…」

「安心しろ、仮にもしお前の思うような事態になってたとしよう。」

「?なったとしたら。」

「今頃俺がこうしてここに座ってるわけが無いだろ?そうなったら俺が今頃全力で暴れてる。」

「……それもそうか。」

 

そういうと一夏も少し安心したようだ。

するとセシリアと箒が近くに来る。

 

「奏さん。昨日は一切会えずに話せませんでしたがあれは一体なんだったんですの!?」

「おお、おはようセシリア、今日も元気だねぇ…」

「そんなこと今は良いですから早く教えてください!!」

「あ~ごめん、あれについては話せないんだ。多分一夏や箒たちも口止めされてるだろ?」

「ああ、一切話すなといわれている。」

 

と答える箒。

しかしセシリアとしてはのけ者にされているような気がしてならないのだろう。

不満そうな顔をしている。まぁ……こればっかりは絶対に説明できないんだ、諦めてもらうほか無いだろう。

その一方で箒も聞きたいことがあるのかさっきからこちらを見ている。

 

「どうしたの?箒。」

「いや……前に織斑先生が言っていた一番強いのがお前だということが昨日すごく納得できてな…今まではただ適正の低さと関係なく実力を発揮できるから強いと言われていると思ったんだが…」

「ああ、確かに…出鱈目だとは今までも思っていたが……もはやそんなレベルじゃないよな…アレは……」

 

と昨日の事を思い出したように話す二人。

まぁ……普通じゃない事の自覚はあるから何もいえない。

ただ笑って場を濁そうと思ったがこれ以上話についていけないのが嫌と感じたのか、かなりの勢いでセシリアが二人に聞く。

 

「奏さんが一体何をしましたの!?」

「……ISを相手にして生身で押さえつけていた。」

「…箒さん、今なんとおっしゃいましたか?」

「だからほぼ生身で全力で刀を振るうIS相手に銃ひとつで押しとどめていたんだ、こいつは。」

「………一夏さん、本当ですの?」

「……残念ながら本当だ、しかも俺たちと会話する余裕まであった。」

「いや、余裕は無かったよ?必要だったからやっただけで。」

 

と俺が言うとセシリアはさっきまでの勢いは完全に無くなっていた。

俺の方を向き話し始める。

 

「……奏さん。」

「はい、なんでしょう。」

「なぜISで戦わなかったのですか?」

「動きづらくって全力で動けないからです。」

「……ISを使わなければ全力で動けると?」

「いや…それでも無茶すると最低でも腕部も壊れちゃうんだけどね。」

「………」

 

完全に頭を押さえるセシリアと言っている意味が理解できないように固まる箒。

一夏に至っては遠くを見ながら微笑を浮かべている。

めちゃくちゃな事を言っている自覚はあるが俺としては嘘は言ってないのだ、もはや笑うしかない。

 

「お願いだから、あまり広めないでね?」

「……だとしてもどう説明すればいいんですの?」

「……さぁ?」

 

というと丁度よく山田先生が入ってくる。

セシリアと箒は納得できない顔をしながら自分の席に戻る。

一夏は隣の席なのでそのまま席に座るが…山田先生の顔もなんというか複雑な顔してるな。

教壇の前に立つとそのまま話し始める。

 

「えーっと……今日は皆さんに転校生を紹介します。」

 

というとざわめく教室。

一夏の方を見ると俺の方を見ながらびっくりしている。

……あ、そういや今日シャルロットがそのままの姿で来る事言ってなかったな。さっきの話しの流れで完全に忘れてたわ。

一夏が俺に何か言う前に教室内にあいつが入ってくる。

いつも着ている男子の制服ではなく完全に女子の制服を着ているあいつにクラス中が固まる。

教室中がシーンとなりシャルロットの発言を聞く。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします。」

「ええと…デュノア君はデュノアさんということでした。」

「「「「「……」」」」」

「……はっ?」

 

という山田先生の言葉を聞いた箒の声のあと、教室内が一気にざわめく。

 

「つまりデュノア君って女?」

「おかしいと思った。美少年じゃなくて美少女だったわけね。」

「って言うか織斑君!!同室だったって事は……」

「絶対解らないはずがないわよね!?」

「え!?え~っと…」

 

と一夏はしどろもどろになっている。

周りをみるかぎり、彼女たちにはそっちの方が重要らしくシャルロットのことをを責める人間はいなかった。

だがさらなるクラスメイトの発言により事態は急変する。

 

「ちょっと待って!?昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

「でも私、昨日ソーがデュッチーと一緒にお風呂から歩いてきたとこ見たよ?」

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」

 

え?……のほほんさん…君何言ってるの?

いや、大浴場から出たとき人の気配は感じなかった…だが一体なぜ!?

まさかの発言に俺は固まる。一夏も俺を見ながら固まっていた。

シャルロットにいたっては顔を赤くしてうつむいている。おい、ばれたらやばいんだから隠せ。

俺が何か言う前にクラスはさらにヒートアップしていく。

さらに教室のドアが勢いよく開く。見ると鈴が一組のクラスに乱入しようとしていた。

 

「箒、セシリア!?どうなってるの!?」

「鈴さん!!シャルルさんは実は女で、奏さんと一夏さんが一緒になってそれを隠してたんです!!」

「しかもデュノアは昨日大浴場で一緒に風呂に入っていたらしい。」

「はぁぁぁぁああああああああああ!?」

 

お前ら…こういう時だけ何でこう連携が良いんだよ!?

目撃者ののほほんさんはさらに自身が見ていた光景を話す。

 

「昨日私がかんちゃんの部屋からかえっているときにねぇ、二人が一緒に大浴場の方から歩いてるのみたんだぁ。」

「ちょっと!!本音!!それ本当!?」

「うん、髪がぬれたまま二人で笑いながらソーの部屋に入っていってたよ?」

「え?……デュノア君って織斑君と同室じゃなかったっけ……え?何で!?」

「織斑君!!どういうこと!?」

「……え~っと…」

 

と言いながら俺を見る一夏……良い、今回は俺に押し付けろ。

そう思いうなずくとあいつが話し始める。

 

「…理由があってシャルは奏の部屋に住むことになってたんだ。あと俺と奏はシャルが女だって事は知ってた。」

「え!?風音君本当?」

「ああ、一応ちゃんと理由があってね。そうしないといけなかったんだ。もちろんちゃんと織斑先生たちには連絡してたよ。むしろ理事長は知ってたし。」

「え…先生も知ってたんですか!?」

「え~っと……はい。しかし理由があって説明はできませんでした。」

「理由って?」

「えぇっと…」

 

と言ってこっちを見る山田先生。

仕方ないか、俺はバトンタッチする形で説明を引き継ぐ。

 

「ごめん、それをみんなに話すわけにはいかないんだ……でも悪い事をしてたわけじゃないんだ。だからシャルロットのことをクラスに受け入れて欲しい。皆お願いだ。」

「今まで嘘をついていてごめんなさい…でもできれば私をクラスメイトとして受け入れてください!!お願いします。」

 

そう言って俺とシャルロットはクラスの全員に頭を下げる。

俺の真面目な雰囲気を感じ取ってくれたのか問い詰める人はいなかった。

まぁ本当の事を言うと、俺もどういう理由でシャルロットとして入学の許可を下したのか解らないから説明できないだけなんだけどな。後でたぬきに聞いておこう。

俺が反応を見て頭を上げると鈴が納得いかないように俺に声をかける。

 

「いや、それはいいんだけど……奏、あんた昨日シャルルと一緒に風呂に入ったの?」

「そんなはず無いだろ?鈴、僕がそんな奴に見えるか?」

「じゃあ何で一緒に風呂上りで歩いてたのよ。」

「一夏が上がったあとシャルロットも風呂に入りたいって言ってったから入らせたんだよ。僕はその間、誰も入ってこないように入り口の方で見張りしてたの。」

「……ふ~ん……変なことしてないでしょうね。」

「神に誓って。なぁシャルロット。」

「え!?あ、うん。奏にはなにも。」

 

おいシャルロット、それだと一夏が何かしたみたいだぞ?

……まさか一夏あんな短期間の間にラッキースケベかましてたのか?

もちろんそれを指摘するつもりは無かったが箒、セシリア、鈴が気が今の発現に気がつかないわけが無かった。

逃げ場がなくなるように一夏を囲む。箒が鬼のような形相で一夏に問い詰める。

 

「『奏は』……って事は…一夏ぁ!!貴様何をした!!」

「うぇ!?何もしてな……あ…」

 

そう言って顔を青くする一夏。

うん、一夏の反応を見る限り何かしたんだろう。

俺はとりあえず何をしたか聞いてみた。

 

「一夏お前何したの?」

「いや…事故だったんだ…」

「奏さんは何をしたか聴いてるんですよ?一夏さん。」

「いやそこまでしてきい――」

「奏、あんたは黙ってなさい。」

「はい。」

 

鈴の気迫に黙る俺。

なんかすごいオーラを発する箒、セシリア、鈴の三人。

シャルロットの方を見ると顔を赤くしてうつむいている。

一体何がったんだ?俺も少し興味がある。

 

「一夏、今白状したら殺しはしないわ。」

「え!?もう一夏がそこまで重罪なのは決定してるの!?」

「奏さんうるさいですわよ。少し静かにしてくださいな。」

「あ、はい。スイマセン。」

 

俺が場の雰囲気を変えるように茶化すがまったく通用しなかった。

いや、本当に怖い。

なんというか下手な事を言えば一気にこっちが標的にされかねない感じがする。

いつの間にか一夏は箒、セシリア、鈴を最前線にして女子生徒に囲まれてていた。

……山田先生何あなたも混ざってるんですか?

箒は一夏を見下すようにして話しかける。

 

「さて一夏、白状しろ。」

「いや……俺がまだシャルと一緒の部屋にいた時の話しなんだけどさ……」

「続けろ。」

「悪気があったわけじゃ無いんだ…ただちょっとタイミングが――」

「言い訳は良いから早くいいなさいな。一夏さん?」

 

怒りに満ち溢れた顔で見下す箒と笑顔で話すセシリア。

しかしセシリアの方は雰囲気は俺と戦った時と勝らぬとも劣らないほどの気迫があふれているし、箒の方はまるで汚らしいものを見るような顔で一夏を見下している。

俺が一方後ろに引くと他の生徒は一歩前に踏み出す。

味方はいないかと思っているとシャルロットがポカーンと自己紹介をしたところに立っている。

恐らくこの雰囲気についていけないのだろう。俺もそちら側に少しずつ移動する。

そんなとき一夏が観念したようにぼそぼそと白状をする。

 

「……俺は…シャルロットが着替えてる最中に部屋に入ってしまいました……でも気づいた瞬間目をそらして部屋から急いで出たんだ!!本当だ!!」

「解ってるわ一夏…」

 

と何をしたかを話す一夏。笑顔でそれに答える鈴。

あ~……まぁ仕方ないっていえば仕方ないのかな?

一夏が入ってくることを考えなかったシャルロットも悪いし、もしかしたら着替えてる最中かもと言った風に、そこら辺を考えなかった一夏も悪い。

鈴は満面の笑みで一夏を見返す……が目が笑っていない。

ああ、猛烈に嫌な予感がする。

 

「鈴……信じてくれるのか?…」

「…一夏ぁっ!!シネェ!!」

「待って!?シャルも許してくれたし、本当に俺死ぬ!?死んじゃう!!」

 

鈴はISの腕部のみ展開している。

そのまま一夏を殴るのか!?……いや、あの力の入り具合だと振りぬくつもりは無いな…

恐らく一夏を脅して終わりだろう。そのため俺は間に入らないでいると代わりにそこに入り込む黒い影があった。独特の能力発動時の音をさせながらISを起動させる黒い影。

鈴と一夏の間に入り込んだ影はラウラだった。

AICを発動させ鈴の拳を止めている。

まぁあのままいっても拳は一夏に届く前に止まっただろうが一応止めた方がいいとラウラは判断したのだろう。

一夏も恐怖から開放されラウラにお礼を言う。

 

「ラウラ!?助かったぜ、サンキュ――むぐっ!?」

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

 

や、やった!!ラウラの奴一夏にキスしやがった!!

……え?一夏、お前何時の間にラウラにフラグ立ててたの?

昨日戦ってる最中は結構険悪なムードだったけど…

だがそんなことは関係なく周りの反応はすごいものだった。

 

「はぁぁぁぁぁ!?あんた突然なにしてるの!?」

「うん?好意を相手に示すのはこれが一番だと聞いたが?」

「それは…そうですけど手順というものがですね!?」

「一夏ぁっ!!お前何ニヤニヤしている!!」

「え!?箒!!俺そんな顔してない!!」

「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああ!?」」」」」」」」

 

なんという阿鼻叫喚。

最早クラス中とんでもない事になっていた。ラウラはISを解除して一夏の右腕に抱きついているし、セシリアと鈴は一夏にすごい勢いで噛み付いてる。箒は一夏の左手をちゃっかり握りながらラウラに威嚇している。

一夏は噛み付いてくる二人に反応しながらも混乱してるな…

クラスメイトたちは完全に今、目の前で起こった現実に一夏と同じように混乱して騒いでいる……山田先生あなたまで混乱して一緒に騒いでどうするんですか!?

こりゃ千冬さん以外どうしようもないな…そう思ってシャルロットの方を見ると完全に雰囲気に呑まれてポカーンとして口を開けている。

その顔がどうしようもなく面白く俺は笑いながらシャルロットに話しかける。

 

「なんつう顔してるんだお前。」

「え…ソウ、どうしてこんな事に?」

「さぁ?こうなったからには千冬さんが来るまでしばらくこのままだろ。」

「え?…ソウは何とかする気はないの?」

「俺?無理無理。千冬さんにまかせるさ。」

 

そう言ってシャルロットに笑いかける。

この雰囲気を俺が楽しんでいる事を察したのか、つられるようにしてシャルロットもふきだす。

それを見て俺は笑顔で話しかける。

 

「まぁとりあえず一言言っておくか。」

「なに?」

「ようこそシャルロット・デュノア。一年一組へ。僕たちは君を歓迎する。……ちょっと臭かったかな?」

「………もう。言うなら最後まで決めてよ。」

 

そう言って笑いながら二人で教室中を眺めていた。

現在一夏は、教室内を4人から逃げ回りクラスメイトたちは山田先生と一緒になってさまざまな妄想をいって混乱している。まさにお祭り騒ぎだ。

これじゃあ一時間目も大騒ぎで全員千冬さんに怒られるだろうがこの際受け入れよう。

 

 

 

 

生きるということは刺激的なことであり、それは楽しみである。

                               ~アインシュタイン~

 




ということで二巻終了ですw
こっから先はちょっと別の話を挟んだ後3巻のほうに入ります。

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