インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
大会の当日俺は一夏、シャルロットと共にアリーナ内でISを展開していた。
一応試合開始前にある程度作戦は話しなおしたし問題は無いだろう。
周りを見渡すと主賓席らしき場所に何人か座っているように見える。
観客席も満杯で興奮気味か…一方相手側のほうはなんと言うか雰囲気が悪かった。
まぁ原因はラウラだろう。
簪は萎縮しているように見えるが箒はまったく気にしていなさそうだ。
そう考えているとラウラがこちらに声をかける。
「一戦目で当たるとは…待つ手間が省けたというものだ…」
「それは何よりだ……こっちも同じ気持ちだぜ。」
と返事をする一夏。
おお、開始前からヒートアップしてるな…
と思うと試合のカウントが始める。
5……4……3……
フィールドにいる全員が気合を入れる。
2…1…
ラウラとどちらが言うわけでもなく同時に叫ぶ。
「「叩き潰す!!」」
…0
試合が開始した。
同時に一夏が瞬間加速を使用しながらラウラに突っ込む。
一夏の雪片弐型がラウラに当たる前にラウラのISの能力『AIC(慣性停止結界)』が発動する。
AIC、後にセシリアから説明を受けたあの相手を停止させる能力。
あれはISの浮遊・加減速などを行う装置PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の発展系らしく相手のISすら自身の管理下において停止させてしまう装置らしい。
だが欠点として多量の集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いというところが上げられるらしい。
ラウラが片手を前に突き出すと一夏の雪片弐型による突きは当たる寸前のところで止まる。
「開幕と同時の先制攻撃か……わかりやすい奴だな。」
と言いラウラはレールガンの銃口を一夏に向ける……
がその後ろから俺が雄叫びを上げながらブースト全開でラウラの方に突っ込む。
「うぉぉぉぉぉおおおおお、一夏ぁぁぁ!!!」
「!!邪魔を…」
と言い俺の方に銃口をずらすが、俺は二人に何もせずに一夏とラウラを飛び越え箒たちのほうへ向う。
一瞬ラウラは『は?』と言ったような顔でこちらを見る。
「いいのかい?注意が僕にそれてるぞ。」
「なに?っ!?」
俺の方に完全に目を向けている間にシャルロットがライフル状の武器で弾を撃ち込む。
ラウラはたまらず距離を取る。
シャルロットも追い討ちをかけようとさらに武器を展開する。
先ほどまで単発式のライフルを持っていたはずなのに既に両手の武器は入れ替わっており、片手にはサブマシンガンのような形状の武器、もう片方にはアサルトカノンを構えていた。
これがシャルロットの得意技の高速切替(ラピッド・スイッチ)らしい。
……これはかなり高度な技らしく普通のIS操縦者にはできないことらしい。それこそよほど自身を追い詰めて訓練しなければ2年という期間でできる
…今は試合中だからあまり深く考えないでおこう。
シャルロットの武器から銃弾が撃ちだされる。
ラウラは何とかかわしているが数発被弾している。
このまま追い込めるかと思うとシャルロットの射線上に箒が入る。
シャルロットがそのまま箒に攻撃をしようとするのと同時にシャルロットめがけて数発の閃光が走る。
俺が瞬時に反応して銃弾で撃ち落そうとするが当たらない。
シャルロットは一発のみくらい後は何とかかわす。
見ると簪が春雷をこちらに向けている。
なるほど…箒と簪は一応コンビネーションはある程度できていると…
しかも春雷を止めるとしたら撃ちだす前で無いと無理か……
「私を忘れてもらっては困る!!」
「箒ちゃん、援護します!!」
箒はそう言いながら俺に突撃しブレードを振るう。
そして簪はそのままシャルロットと俺を狙うようにして春雷を撃つ。
なるほど…二人の狙いは始めから俺か。
ある意味無茶をさせれば勝手にそのまま落ちるもんな…俺。
恐らくこの二人の戦い方は箒がどちらかの足止めをしている最中に簪がラウラの援護をして一対一の戦いができるようにする。一対一なら圧倒的な強さを誇るラウラの強さをメインのおいた作戦という感じかな?
だが俺は箒の攻撃を紙一重でかわしながら簪の春雷を狙い撃ち射線をずらし続ける。
春雷から放たれる砲撃はどれも当たることなくあさっての方向へと飛んでいく。
この状態でラウラが俺を時々でも攻めればかなりいい展開になるんだろうが…残念ながらあいつの目には一夏しかうつっていない。
ラウラは一夏相手に両手から展開しているビームブレードで斬り結びながらワイヤーブレードでシャルロットを襲っている。
だがそんな状況で多大な集中力を使うAICが使えるわけが無いし近接戦なら一夏は今結構
鈴戦ほどではないがそれなりに相手の攻撃を見切っている。
現状を見る限り一夏の方が近接戦なら一歩前に出ている感じだな…
そしてそこにシャルロットの援護も入って数発ずつだがラウラに被弾していく。
ラウラが落ちるのは時間の問題だろう。
それがわかるため状況を変えるために懸命に春雷でラウラを援護する簪、だが俺の邪魔のせいでまったく当たらない。
このままじゃいけないと考えたのだろう簪も俺の方に近づき超振動薙刀、夢現(ゆめうつつ)で箒と二人がかりで俺を攻める。
少し厳しいがこの程度ならまだ何とかなる。相手の攻撃を難なくかわす。
ただ余裕ではいけないので時々掠る程度はさせたし常に苦しそうな顔はしていた。
騙されたのかは知らないが二人は俺に集中攻撃を仕掛けてきてくれた。
その事を確認した一夏たちも作戦を開始する。
「それじゃあ…俺はこれできめさせてもらう!!」
そう一夏が言った瞬間一夏の全身から金色のエネルギーが漏れ出す。
白式の単一仕様能力『零落白夜(れいらくびゃくや)』を発動させたのだ。
ラウラだってその能力と危険性は十分知っている。
一夏はシャルロットの援護を受けながらラウラに猛攻を仕掛ける。
何とか一夏の攻撃だけはかわすが被弾する弾丸によりさらに機体にダメージが入る。
「っ!!図に乗るな!!」
「っ!?」
叫ぶと同時に一夏がまたもAICにより拘束されている。
だがこのタイミングでそれは悪手だ。
AICを発動させる、それはすなわち『自分は停止させているものに集中している』といっているようなものなのだ。その事さえ解れば隙だらけである。
「その隙もらうよ!!」
「な!?」
拘束した一夏の後ろから現れるシャルロット。
またもや集中砲火である。距離をとってもその距離にあった武器で攻められるのだ、やられる方としてはたまったものでは無いだろう。仮にシャルロットの銃弾を停止させても一夏が突っ込み続ける現状ではAICも使えない。現状ほぼ詰みの状況であった。
その後も俺は二人の攻撃をかわしながら時間を稼ぐがラウラは二人がかりの攻撃をかわしきれず少しずつダメージが蓄積していく。
そして5分ほどその動きを続けるとラウラは膝をつく様にして動きを止める。
……まさかもうシールドエネルギー切れにより撃破判定になったのか?
これが俺が作戦で仕込んだVTシステム対策だ。と言っても作戦と呼べないほど単純な話である。
『シュヴァルツェア・レーゲンの破損状況レベルDにしない。』
その事を利用した、ただそれだけである。
一夏とシャルロットには簪と箒に接近戦を警戒させないためにという名目でシャルロットのパイルバンカーは使わないで銃火器のみでダメージを与えるようにいっていた。
途中何回かパイルバンカーを使えそうなタイミングはあったが、シャルロットは何か察してくれていたのか一切使う事はなかった。よってラウラが受けたのはほぼシールドエネルギーの消費で、今までの戦闘を見るがぎり機体のほうには一切大きなダメージは無かったのであった。
再度ラウラの機体の破損状況を確認するが損害がレベルDに達していないだろう。
これならVTシステムが作動する事は無いはず。
よし、これで…いや油断はしない方が良いな。
俺は目の前の箒と簪の二人に話しかける。
「ラウラが落ちたけどどうする?僕疲れたからどちらか一人一夏たちの方に行かない?」
「今すぐお前を落とした後に戦ってやる!!奏!!」
「仕方ない、じゃあ僕あっちに合流させてもらうわ。」
そう言って全力で攻撃する二人の間をするりと抜けて一夏たちと合流する。
二人と合流すると箒と簪は追ってこなかった。
二人とラウラから注意をそらさず二人と話す。
「シャル、一夏。お疲れ~。」
「おう、って言っても俺じゃなくてほぜんぶシャルの攻撃だったけどな。」
「そんなこと無いよ一夏。ソウ、機体のほうは大丈夫?」
「機体は大丈夫だけど疲れたから休んでて良い?」
「あはは、ダーメ。」
と笑うシャルロット。
結構余裕あるな…しかしラウラの表情が見えない…落ち込んでいるのか?
しかし……作戦がうまくいったといっても、いくらなんでも落ちるのが早すぎないか?
確かにラウラはかなりの数の弾丸をくらっている。
だがラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』は第三世代IS、それも軍が開発したものだ。
いくら集中砲火を受けたとはいえあれでは……まさか!?
俺はラウラの方を向きISでモニタリングしてみる。
高エネルギー反応。次の瞬間ラウラの悲鳴のような咆哮がアリーナ内に響く。
「うわああああああああああああ!!!!!!」
悲鳴を上げながら機体から稲妻を発するラウラ。
クソ!!機体の破損状況レベルはどうみてもDじゃない。
VTシステムの発動条件は、機体の損害がレベルDに達した状態でのラウラの負の感情のはず…
記載ミス、もしくは設定をかえられていたか!?俺は焦りながら千冬さんに連絡を入れる。
「千冬さん!!警戒態勢を!!とりあえず主賓の方々をアリーナ内から避難をさせてください!!」
「…解った。警戒態勢をレベルDに。」
そういうと観客席に防御用のシャッターが下りながら放送が響く。
『非常事態発令。トーナメントの全試合は中止。状況をレベルDと認定。鎮圧のため教師部隊を送り込む。来賓、生徒はすぐに非難すること。』
アリーナ内に生徒たちの悲鳴が響く。
まだラウラのISは形を保っているができればあの形は見せない方がいい。
そのまま通信をアリーナ内にいる全員に伝える。
「全員ラウラから離れろ!!」
「解った。」
「ああ。」
「箒!!簪!!試合は中断だ!!協力を頼む。」
「了解した。」
「は、はい!」
これでとりあえず準備は終わったな。
次第にISの形が黒いドロのように崩れ変形していく。
そしてラウラの体はだんだん黒いドロのようなものに飲み込まれていく。
手を出したいが変形の途中で手を出したらラウラにどんな被害が出るか解らない。
「くそっ!!」
「ねぇ…あれ何?」
「…わからねぇ…」
という間にもだんだんとラウラのISは形を作っていく。
一夏はハッとしたように話し始める。
「あれは…雪片…千冬姉と同じじゃないか…」
「一夏!!落ち着け!!」
声をかけるが聞こえているのかどうか判断ができない。
いや…下を俯く様にして呼吸がはげしくなっている。
一夏の方を気にしている間にもVTシステムはその姿をあらわにし始める。
姿が落ち着いたとき完全にその姿は千冬さんのIS『暮桜(くれざくら)』そのものであった。
ただ大きさは本物よりはるかに大きく通常のISの二倍の大きさはあるのではないかというほどの巨体だ。
「……俺がやる。」
「おい、一夏、早まるな。」
「あいつ…ふざけやがって…千冬姉のまねして…」
駄目だ。一夏には全然声が届いていない。
俺は一夏の目の前に移動し真剣な顔で一夏にたずねる。
「一夏、何をする気だ。」
「あいつを倒すって言ってるんだよ!!」
「あれの中に居るラウラをどうするか聞いてるんだよ!!お前はその武器でラウラごとあいつを斬る気か!!」
「っ!!」
「あいつを今攻撃すれば中のラウラがどうなるかもわからないんだぞ!!それともお前は…ラウラを殺すかもしれない事をしてまであいつを斬りたいのか!!答えろ一夏!!」
俺は全力で叫ぶ。
あのVTシステムはこちらから敵意を向けない限り反撃はしてこないはず。
ならばドイツの方の対策や教師陣の判断を待ってからでも遅く無いだろう。
俺の声を聞いて一夏は一応落ち着いたようだ。だがまだあの機体に対しての怒りも見える。
一応あれに攻撃しても中のラウラへの直接の被害が無いという事はスコールからの資料でわかっているが、この状況を見るにどこまで本当かわからない。
「俺にもお前が怒る理由はわかる。だが冷静になれ。人の命がかかってるんだ、失敗はできない。」
「……ああ解った…」
「…あと怒鳴り声を上げてすまなかった。許せ一夏。」
「解ってる…」
一夏との会話を終え周りを見ると今の光景に驚いたのか三人とも目を丸くしている。
かまうことなく俺は千冬さんの方に連絡を入れる。
『千冬さん、ドイツの方から連絡は?』
「……先ほど入った。」
『内容を聞いてもいいでしょうか。』
「……」
「……
『…どこでそれを聞いた。』
「後で話します。それ以外には何の連絡を。」
『………操縦者の人命は重視せずにISの破壊を依頼された。』
「っ!!……」
『渡された情報を元に現在教師陣営で対策を検討しているが…』
「……対策は見つかりそうですか?」
『………』
「了解しました一旦通信をきります。」
なるほど……このまま教師陣のほうで対策が見つからない場合、ラウラを切り捨てる方向で二陣営は動いているのか……
言いたい事はわからないでもない、現在こいつはほとんど動いてないがいつ標的を観客に変えるかもわからない、仮に要人のほうに怪我でもさせたらIS学園とドイツはとんでもない打撃を受けることになるだろう……
だが気に食わないものは気に食わない。
すべての責任をラウラに押し付けその命を絶つつもりか?
そんなこと認めるわけにはいかない。
ぼそっと口から言葉が漏れる。
「ふざけるなよ……」
「ソウどうしたの。」
このままじゃ確実にラウラの命など関係なくこの事件を止めようと回りは動くだろう。
「ここにいる全員に頼みがある。」
「……そういうことだ?」
そしてそれは俺がここの世界に来たことが、試合前に止める事ができなかった責任だ。
「特に一夏。お前には絶対に協力してもらいたい。」
「ああ、解った。」
「何をするつもりなんですか…」
ならば何をしてでもラウラを救出してみせる。
「ラウラを俺たちだけで助け出す。」
絶対に死なせない…絶対に。
今そこで人が死のうとしている。僕にはその方が重い。
~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~
ということで実質主人公によるAIC潰しはつかわれませんでした。
あとでかく機会を予定していますのでそのときまで。