インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
俺の正体を話した後の電話の向こうのデュノア社長からの返事は無い。
俺は口調をやわらかくしたまま話かける。
「あれ?本当に忘れちゃいました?」
『……いや……覚えているとも…あの時鞄を取り返してくれた少年だろう…』
「はい、そして同時に世界で二人目の男性のIS操縦者です。」
『っ……名前を聞き、身元不明と言われた時にはまさかとはおもっていたが…』
「まぁ、そんな偶然誰も予想できませんよ。もしかしたら僕が他に出会った人物もIS関係の仕事についていて【まさかあのホームレスが!?】って言ってるかもしれませんよ。」
俺は雰囲気をやわらかくするために冗談を言うように軽口を叩くがデュノア社長はいまだに驚いているようで返事は無い。
気にせずに話そう。今確かにシャルロットは眠っているがあまりにも長々と会話をしていては起きてしまうかもしれない。
「さて本題に入りましょう。僕のあなたへの要求は簡単です。」
『………ああ、そうだったな。言いなさい。先ほども言った様にできるだけの事はしよう。』
「『僕の計画に協力してください』、ただそれだけですね。」
『……そういわれても私にできることなどたかが知れてるぞ?』
「『シャルロットを救う』、これも計画の内だとしたら?」
『……どういう意味だ?』
俺は自身の計画の内の一部を話しかける。
なぜすぐさまシャルロットをデュノア社から離しIS学園に保護を要求しなかったかの理由である。
極端な話、理事長との話し合いでシャルロットの保護を頼めば恐らくあの人は俺の依頼をとおしただろう。
だが問題はその後なのだ。
「例えば今デュノア社長が計画しているとおりに事態が進みシャルロットはほとんど罪に問われずあなただけが捕まったとしましょう。」
『……何か問題があるのか?』
「反社長派が何をするかわかりません。あいつは反社長派の内情も社長派の内情も知りすぎている、相手がそんな危険なものを放置する理由が見つかりません。」
『だが罪は既に私が!?』
「でも
『………』
「そしてそれから守ろうにもあなたは既に檻の中、僕もいくら男性操縦者といえフランスに強制帰国されるあいつを常に手元において置けるほどの我侭が言えるわけではない。そしてフランスに一人送り返されたあいつには味方が一切いない……よくて一生飼い殺しですね。」
一度ここまでの犯罪行為をおこなった会社だ。
今後そういった犯罪行為を絶対しないなどといえるわけが無い。
それに飼い殺しに関しては本当に抵抗する手段が無いのだ。
IS学園内なら確かに守りきれるだろう、だが三年後にあいつを守るにはどうすればいい?
三年後俺があいつを守りきれる保障も無いのだ。ならばその
『……ではどうするというのだ?』
「反社長派を潰します。」
『……簡単に言ってくれるな…』
「でもあいつの安全を考えるとこれが一番なんですよ。社長、あなたがもし今すぐに第三世代ISを開発できたとしたら社内をどれだけ掌握できますか?」
『………確実にすぐにこちらに付くのは全体の6割、……そこから時間をかければ反社長派をすべて追い出すことも可能だ…だが我々では第三世代の開発ができないのが現状だ…だれも私にはついてこないよ…』
「ならば仮に『男性操縦者があなたにコンタクトを取って専用の第三世代開発を要請した』…としたらどうです?」
『だとしても時間稼ぎにしかならんよ…我々には第三世代を作るだけのノウハウはない……それに君の専用IS開発は禁止されている。』
「正確には
『!?どことやると言うのだね。』
「倉持技研、彼らも自身の力による第三世代ISの開発にはまだ成功していない、でも開発のノウハウは十分にあります。WIN‐WINの関係でいけるように話を進めています。」
『話しは通っているのか……』
「あなたがやるといえばすぐにでも通します。」
倉持技研、彼らは恐らく探れば探るほど痛いところを大量に持っているだろう。
ならばそれを黙っていてやる代わりに第三世代ISの開発に協力しろといわれればデメリットよりもはるかにメリットが多いこちれを選ぶだろう。
『……だが他の国がどういうかはわからないだろう……』
「そこは僕に関するこの研究で手に入れたすべてのデータを公開するということにすれば文句は無いでしょう。今現在公開されているもの以外の、もっと開発に必要なデータのことです。」
『それでも拒否した場合には?』
「邪魔をした場合『今後どんな事があっても現存する二人の男性操縦者は、その企業が所属する国には今後一切協力はしない』。これは現在存在する二人の男性IS操縦者の共通の認識です。さらにこの計画が終了した後、僕に関する継続して公開しているデータ提出量の緩和を約束してやればいいでしょう。ただしその情報も邪魔をしたやつらが居る国には一切渡しません。」
この話は既に一夏に話している。
いわば『邪魔をしたら今後一切、男性のISデータを手に入れられると思うな』ということと『おとなしくしていたらさらに男性操縦者のデータをくれてやる』と言った話をするわけだ。
日本、フランス両政府としても男性操縦者のデータがさらに手に入るのだ、止める可能性は低いだろう。無論邪魔をした場合、いざとなればブリュンヒルデの名前や一夏誘拐事件の情報、さらにはフランス政府のおこなった行為などを利用した
『だが……われわれが第三世代の開発に失敗したとしたら……』
「確かにその可能性はあるでしょう、ですが一応こちらには第三世代の企画の原案、さらに開発協力の話しは既に信頼できる相手に通してあり、こちらとしてできる限りの準備はできています。」
『……どれほどの人物なのだ?』
「詳しくは言えませんが既に第三世代の開発にも関わっていた人物と言わせて貰いましょうか。」
『………』
社長としてはある意味うまい話しだろう。
だがその分失敗したらそのまま終わりだ、慎重にもなるだろう。
デュノア社長を安心させるため俺はさらに言葉を話す。
「仮に開発が失敗したら僕が適当な国に身売りしてシャルロットの保護をそのときの条件にしたらいいでしょう。そうすれば最低限あいつは守れます。」
『いや、そこではないんだ。……この計画君のリスクが大きすぎる。実質開発をするキモは我々技術者なのに、失敗した時のしわ寄せがすべて君に向う事になる。』
「…いえ、失敗したら確実にあなたも会社を失うでしょう。」
『そんな事は始めから覚悟の上だ。そもそもこのまま行っても私は会社を失うんだ、躊躇する理由にはならない。だが君がそこまでのリスクを負う理由がわからない。』
なるほど社長は俺が理由なくリスクを背負う理由がわからないと…
俺は声をやわらかくし再び話す。
「……はじめてあなたと会った日の話です。いろいろあって僕はあの後山に逃げるように上っていきました。そこで僕既にシャルロットと出会ってたんですよ。」
『……なん…ほんとうか…』
「ええ、その後一週間ほど彼女の家に泊めてもらいました。その時に彼女の母親に世話になりました。」
『………』
「あんなみすぼらしい格好で、ただのホームレスとしか思えないような僕に、あの人は本当によくしてくれました。僕の記憶の中で初めてしっかりと一人の人間として扱われた瞬間でしたね……いわばあの時間のおかげで僕はこの世界で汚い獣から人間になれたんです。」
『……』
「僕、まだあの人に人間にしてもらった恩返しできて無いんですよ。でもあの人は恩返しする前に死んでしまいました……ならせめて娘のシャルロットを救うことで少しでも恩を返したいんです。これが僕がここまでリスクを背負う理由です。」
これはまったくの嘘ではない。
再会する約束を果たせなかったシャルロットの母親に対する感情でもあった。
それにいい結果を望むのならそれなりのリスクを背負う位しなくては。
「まぁとりあえず僕の理由はそんなとこですかね。後は社長、あなた次第です。」
『……一週間……いや3日くれ。それまでには確実にこの企画を倉持技研に持っていく。』
「じゃあ先に倉持技研のほうから声をかけさせるようにしておきますよ。」
『……頼んだ。では3日後に。』
「ええ、よろしくおねがいしますよ。」
俺はそのまま電話を切ろうとすると向こうから声が聞こえた。
『娘を……頼む。』
デュノア社長は俺の返事を聞かずにそのまま電話を切った。
恐らく俺に伝えるつもりはなかったんだろう。
「任されました。」
聞こえるはずの無い電話に向い俺はそう返事をするのだった。
それから三日目の朝、おっさんとデュノア社長の説得もあってか俺の専用機の開発がデュノア社と倉持技研の間でおこなわれる事が決定された。
国家間における共同開発は既にアメリカとイスラエルで現在進行でおこなわれており前例が無いわけではない。
ただし今回は軍による共同開発ではなく企業間での共同開発、それも男性操縦者用の第三世代ISを作るというものだ。
もちろん各所から
『そんな事は言い訳だ!!』
『認められるはずがない!!わが国は反対する!!』
『許されると思っているのか!!』
と言ったような反発があったらしいが大半の場所は俺のこの開発での情報をすべて公開することを伝えると黙り込んだ。
それでもなお反発するところには俺の言った『今後一切情報を渡さない』という脅し文句を使ったところ黙らざるを得なかったらしい。
おっさんの倉持技研への説得は結局、楯無がやってくれたらしい。
まぁおっさん技術者だから腹芸はできんか…いざとなれば俺がやるつもりだったがそこら辺はありがたい。
開発の細かいところはぶっちゃけほとんど関わりようが無い。おっさんたち任せだ。
強いて言えばテストパイロットくらいだろうか。
だが既におこなう事が決定している事もある。
それは打鉄弐式の『山嵐』の製作費用の捻出だ。
仮に俺の専用ISの開発が失敗してもそれだけは確実に成功させる。
ある程度の使えそうなデータも既にデュノア社から送られてきており簪に渡している。
簪には『俺の専用機開発の過程で武装だけは作る』とだけ伝えてある。
マルチロックオン・システムについては簪本人が完成させなくてはいけないだろう。
だが後弐式の完成はこの『山嵐』だけなのだ。
連射型荷電粒子砲『春雷』については後は細かい調整だけでほぼ完成していると言っても良いらしい。それにこれからはおっさんも俺の専用機用の『荷電粒子砲』の調整として表立って簪の方もいじれるらしくこれからの調整も楽になったらしい。
さてあのおっさんの作る専用機……どれほどのキワモノになるのだろうか……
まぁ基本全力で動けて銃一丁もてれば俺はそれで十分だが。
あとは俺のISがしっかりと完成できるかどうかだな。
さらに細かい問題を挙げればそれはそれでいろいろあるのだが、そこら辺は社長が『任せてくれ』といっていたのを信じよう。もちろんこちらでも対策は練ってあるが。
さてこれで一応シャルロット、簪に関する現在俺にできる限りの問題解決は終わった。
後はこの計画が終わった辺りにもう一度動く程度だ。
さて後はあのラウラについての問題か……それは試合で出すしかないな。
既に翌日におこなわれる試合に向けて俺は気合を入れなおしていた。
絶対にラウラを救うことを胸の内に誓いながら。
幸せは香水のようなもの。他人にふりかけようとすると、自分にも2、3滴ふりかかる。
~レオ・バスカリア~
ということでほとんどデュノア社については終わりましたね。
後は研究次第です。
フランス政府に関してはもう少し後で語られるでしょう、きっと。
ということでまた明日www