インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
一夏に医務室へと引っ張られるとベッドで鈴とセシリアが寝そべっていた。
意識はあるようでシャルロットと何か話している。
俺たちが医務室に入ったことに気がつくとシャルロットはかけよって来た。
「ソウ、一夏……ねぇ何でソウそんな風になってるの?」
「い、いや…俺にも良く解らん…」
完全に魂の抜けたような感じになっている俺を心配そうな顔で見ている二人。
俺はそこは一切気にせずにベッドに横になる二人に話し始める。
「僕の事はいいよ…それより二人とも大丈夫?」
「……むしろあんたの方が大丈夫?」
と怪訝な顔でこちらを見る鈴。
セシリアも何があったのか解らず心配している。
「だいじょーぶ。怪我は無いから…怪我は…ただ無性に死にたくなっているだけだから…」
「一夏さん…奏さんに何があったんですか?」
「いや…こいつアリーナでラウラに対して本気で怒ったんだよ。その後はこの調子。」
一夏…言うなよ…
って言っても黙っててもいずればれるか…
「怒ったって何に対してよ。」
「ラウラがお前たちのことを馬鹿にした発言をしたからだと……あ、あと知り合いのドイツ軍人の人と千冬姉も馬鹿にしてるって怒ってたな、恥とか軍人失格とか……口調が変るだけ怒ってた。こいつがあそこまで怒ったの見たの俺も初めて。」
「……一夏…せめて僕のいないところでしゃべってよ…情けなくて死にたくなる。」
そう言って盛大にため息をつく。
一夏も俺が本気で落ち込んでいる事に気がついたのだろうあわてて話すのをやめる。
セシリアもシャルロットも、なんとなく俺の落ち込んでいる理由がわかっているようだった。
だが鈴だけは納得がいかないようで俺に話しかける。
「何?あんたその程度の事でそんな風になってるの?それにどんな人間でも普通怒るじゃない。」
「いやぁ…僕も怒る事くらいあるよ。ただその後の対応がさ…相手に喧嘩を売って力で解決しようとしちゃったから…それだけは絶対にやらないって思ってたのに怒りに身を任せちゃってさ…うわぁ、自分で言っててまた落ち込んできた…」
そういってさらにネガティブになる。
鈴は少し悩んだ後また話を続ける。
「じゃあ、あんたはどうしようもないほどの悪党相手でもそうするの?」
「いや、流石にそれは力ずくでも止めるよ。」
「じゃあラウラがそうだったと思いなさい。それなら問題ないでしょ。」
「無理やりだなぁ…」
そう名案を言ったように威張る鈴。
俺は苦笑いするしかなくあはは…っと言った感じだ。
まぁ鈴の言いたい事がわからないでも無い。
確かに今のラウラはどうしようもない奴かもしれん。
だが頭でわかっていても感情ではどうしようもなく情けないと思えて仕方ないのだ。
俺は一度深くため息をついた後に気持ちを入れ替える。
やってしまった事はどうあがいても変えられないのだ。
だったら今は別のことを考えたほうがまだ建設的だ。
俺は笑顔を作りながら話を変える。
「まぁ考えててもしょうがないか。二人とも怪我の方は大丈夫なの?」
「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」
と痛そうにする二人。
まぁ…一夏に心配されたくないんだろうなこいつらは。
「機体の方はどうだったのさ。」
「……完全にオーバーホールが必要だって…」
「あらかじめ相手のデータさえあればあそこまでやられることはありませんでしたのに…」
悔しそうに話す二人…
そしてハッと重大な事を思い出したような顔をして二人は一夏に話す。
「一夏!!あんた大会に出るんだったら絶対優勝しなさいよ!!」
「そうですわ!!負けたら承知しませんわよ!!」
突然一夏の応援なんか始めて一体どうしたんだ?
……ああ、この二人もあの噂は知っていたのか。そりゃ負けられたら困るよな。
一方一夏はそんなこと知らないから単純に敵をとってくれといわれたと思っているだろうな……
「ああ、かならずラウラには負けない……」
二人が言いたい事はそういうことじゃないんだろうが……
しかしこのままの流れじゃVTシステムが作動してしまうだろう。
そしたら大会どころじゃなくなるからなぁ…気にしなくてもいいだろう。
問題は仮にVTシステムが作動したときに俺がどうやってアリーナ内に乱入するかだ。
原作では一夏&シャルロットVS箒&ラウラだったはず。
そうなるとこの中に俺が乱入するためには……と考えていると
<―ドドドドドド―>
という音と共に校舎が揺れる。
なんだ!?この振動は…と思うと医務室に大量の女子生徒が流れ込んでくる。
俺を含め始めから医務室にいた全員は驚いている。
「ちょっと、君たち。医務室では静かにね。それにみんなで一体どうしたの?」
「「「「「「「「「「これ!!」」」」」」」」」」
と俺が笑顔で言葉をかけるが彼女たちは興奮しながら紙を俺たちに押し付けてくる。
一夏がそのうちの一枚を受け取る。
「え~っと…今月行われる学年別トーナメントはより実戦的な模擬戦闘を行うためスリーマンセルで行なう。あらかじめチームを組む事は可能だが人数が集められない場合、ランダムで選ばれた生徒同士で組むものとする。あらかじめチームを組む場合用紙にクラスと名前を記載し――」
「ということで私たちと組んで!!織斑君!!」
「私たちと戦いましょ!!デュノアくん。」
「お願いします!!組んでください風音くん!!」
と最早祭りの会場以上に大賑わいだ。
しかしスリーマンセルでの戦闘か……これは渡りに舟だな。
「ごめん皆!!もう男三人で組む事になってるんだ!!」
「「「「「「「「「「え~~~~~~~~~~!!!!」」」」」」」」」」
「本当にごめん!!もう織斑先生に提出しちゃったからどうしようもないんだ。」
俺がそういうと皆諦め、しぶしぶと医務室から出て行った。
全員いなくなってからふぅ…っとため息をつくと一夏が話しかけてきた。
「お、おい、奏。何時の間に申し込みなんてしたんだよ。」
「いや、して無いよ?」
「はぁ?いやでもさっき。」
「こうでも言わないとあの場は収まらないだろ?」
「まぁ…それもそうか。」
と納得する一夏。
次の瞬間セシリアと鈴が一夏の両脇を抱えた。
「「一夏(さん)!!組む(組みます)わよ!!」」
「ちょ!?おい、お前ら!!」
とあわてる一夏。
この二人は今がチャンスと思って必死だが…
シャルロットが苦笑しながら二人に聞く。
「体は大丈夫なの?」
「このくらいなんてこと無いわ!!」
このくらいって…今も痛そうに顔しかめてるじゃないか…
俺も一応聞いてみる・
「機体はどうするの?」
「いざとなれば学園から借りてでも参加しますわ!!」
んな無茶苦茶な…
と思っていると両腕を何とか離してもらった一夏が二人を向く。
「いや、お前たち本当に大丈夫なのか?」
「無論大丈夫ですわ!!」
「本当に?」
「当たり前よ!!」
「……じゃあその場で思いっきりジャンプしてみてくれ。」
「「………」」
と言われて黙る二人。お前らジャンプをためらうほど体が痛いのかよ……
俺も二人のそばに行き諭すように話しかける。
「二人とも、今回は休みなよ。」
「試合までには治せます!!」
「そうよ!!だから大丈夫よ!!」
正攻法じゃ言う事聞かないか、じゃあちょっとずるさせてもらいましょう。
俺は二人の耳元で話し始める。
「(もし怪我や機体のせいで試合に負けたりしたら一夏がどうなるか考えてみな?)」
「「っ!!」」
二人とも自身の怪我のことや機体のせいで全力で戦えない事をイメージしたのだろう。
おそらく今頭の中では、一夏に勝った相手が一夏告白していているシーンでも思い浮かべているのではないだろうか。
さらに追い討ちをかける。
「(さらに言わせてもらうと今大会で一番の強敵は間違いなくラウラだ。だが僕はラウラへの対応策も既に思いついている…ラウラとチームを組んだ相手に一夏をとられたくなければ……)」
「一夏さん!!シャルルさんと奏さんと一緒に優勝してください!!」
「シャルル、奏!!あんたら絶対勝ちなさいよ!!」
「う、うん。」
「なんだ?奏、何を言ったんだ?」
突然の二人の変りように驚く一夏。
俺はなんでもないように話す。
「いや?普通に男だけでチームを作りたいって話しただけだよ?」
「そ、そうか……じゃあ奏、早いとこ用紙を提出しに行こうぜ。」
「了解。シャルもそれでいい?」
「うん、僕の方も問題ないよ。一緒にがんばろう?奏、一夏。」
そう言ってシャルロットはこちらに笑いかける。
とりあえずラウラに関しては大会中に何とかするしかないだろう…
さてじゃあそろそろシャルロットの事について動き出そう。
このまま足踏みしてラウラのことのようになってはいけない、そう動き出す覚悟を決めたのだった。
次の日俺は倉持技研からおっさんを学園に呼び寄せた。
名目上は『俺の機体の修理』だ。
だが実際のところおっさんと話す方が目的である。
放課後になり整備室に行くとおっさんは俺の打鉄をいじっている。
周りには誰もおらず気配もしない。
俺は機体をいじっているおっさんに話しかける。
「おっさん、赤銅はどうよ?」
「まぁ……正直いろいろなパーツに疲労がたまってるな。大会が終わったら一旦ばらして整備しないとイカンな…」
「いろいろ無茶させてるからなぁ……」
とこの『打鉄改―赤銅―』を見る。
俺にとっては使いにくいものではあるが同時に愛着もある機体なのだ。
出来る事ならこれで戦い抜きたいが残念ながらそうも言ってられないのだ。
今回俺のミスでラウラに危険な橋を渡らせてしまっている。
さらに俺一人の力で救えればいいのだが残念ながら俺の力だけでは無理なのだ。
ならば今後どのような事態になっても俺自身で解決させられるような強い力が必要だ。
守るための力が……
「そっか…前におっさんが言った仮の専用機のプランはどうなってる?」
「……紙に書いた限りでは恐らくお前が全力で動かせるレベルの物が作れる…だが動かすだけで限界で兵器がつめるほどの拡張領域を確保できないな…いわばガワだけ作ることが出来るって訳だな。それですらかなり費用がかかる。」
「……弐式の開発再開は?」
「絶望的だ…上層部は完全に白式の解析以外やる気が無い。」
なるほど、現在日本は既に第三世代『白式』を手に入れているからそれほど開発を急いでいるわけではないと言う事か……俺が頭の中で考えをまとめている間もおっさんは機体をいじりながら話し続ける。
「……この間、楯無からも同じことを聞かれてな、『いざとなったら私の名前を使ってもいい』と言っていたよ。」
「会長がねぇ……」
「本当に情けない話だよ。俺の力じゃ何もできん。仮に無理やりつっくたとしても後が続かないときている……」
と声に出すおっさん……
口調からは感じられないが子供が必死にがんばっているところに何も出来ない大人の自身が本当に情けないのだろう…よし、じゃあ俺の賭けにおっさんを巻き込むとしよう。
「おっさん。俺の専用機問題も開発費用も打鉄弐式の完成も一気にいける作戦があるとしたら乗るか?」
「どういう意味だ?」
「簡単な話、俺とおっさんがある程度無茶をすればすべて解決できるって言う話がある。」
「リスクはどのぐらいのものになるんだ?」
「そうさな…おっさんはこの先冷遇されて僕は全世界のモルモット化ぐらいかな?だが賭けに勝てば本当に総取りが出来る」
「…だがその作戦に乗りようがない、俺はいわば一社員で別に経営陣じゃない。仮に俺がその作戦に乗ったとしても簪に関わる事ができなくなる。」
おっさんは一瞬乗りそうな顔をしたがふと簪の事を思い浮かべたのだろう。
慎重な意見を出す。
俺は笑顔のまま作戦の一部を話す。
「……おっさん、一つだけ聞いて…いや確認してもいいか?」
「なんだ?」
「国からの援助金、今のところ倉持技研は満額もらってるんだよな?」
「減らされたと言う話は聞かないな。」
「じゃあデータ取りにそれほど金がかかるのか?」
「………どっかに流れてるってことか?だが俺には解らんぞ?」
「そこは楯無に探ってもらいましょう。お国のためにね。」
恐らく既に楯無はこの情報を握っているだろう。
だがこの情報を使って簪を助ければ嫌われ、倉持技研を摘発しても嫌われるため見逃していたのでは無いだろうか…
だったらその情報を俺のため計画で使わせてもらおうさらにそれを利用して簪の開発も進める。
「……上層部を脅すのか?」
「イエイエ、取引をするだけですよ。」
「だが脅すだけでは会社は動かないぞ?」
「安心してよ、おっさん。しっかりとあまーい飴も用意してあるからさ。」
「………仮に俺が乗らないと言ったらどうする。」
「そうだねぇ……打鉄弐式以外では俺は絶対に倉持技研に協力もしないしデータも一切渡さない。こんなのでどうよ?俺のご機嫌伺ってた方がいいんじゃない、栗城さん?」
「は、確かにそれが俺の仕事だしな。仕方ない。よし、プランを話せ。」
おっさんは最初に俺に悪巧みを言ったような顔で笑いかける。
俺も同様の顔をしておっさんにプランを説明する。
途中からおっさんの顔はだんだんゆがんでいき最後には完全に頭を押さえていた。
一方俺は最初から最後まで笑顔をつらぬき通した。
頭を抱えた状態でおっさんが話す。
「…………おい、前にお前俺のことを頭おかしいと言ったな…」
「あ~そんなことも言ったね。」
「俺自身大概だと思っていたが………お前に比べればまだまだだった……だがいけるのか?」
「そこは今日の交渉次第だね。」
「どういう意味だ?」
「………今夜、デュノア社長と直接会話して落とすって言ってるのさ。」
俺はそう言って顔を引き締める。
なんとしてでもデュノア社長をこちら側に引き込んで見せなければ…
その前に一度一夏に話しておかないといけないこともあるな…
あと一応腹黒理事長とOSAに話をとおしておこう。
準備しなければいけないことと覚悟を決めて今晩の交渉に挑むのだった。
「私は~しなければならない」と私たちが言う時はいつも、
実際にそれをやる場合より、すっと多くのエネルギーを消耗しているのだ。
~ギタ・ベリン~
ということで事態は一気に動き出します。
なぜシャルロットは男装して送り込まれたのか?
フランス政府側の意図は?
なぜ幼少期シャルロットはデュノアを名乗っていたのか?
そして奏の出鱈目な作戦とは!?
次の話から作者なりのデュノア社についての話が始まります。
では読んでいただきありがとうございましたwww