インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第四十四話 怒り

アリーナに着くと遠くで戦っている奴らがいる。

一機のISに二機のISが追い込まれている……

っ!!今になって記憶が浮かび上がってくる。

そうか、このイベントを忘れていた、セシリアと鈴がラウラと戦っていたところか。

今になって浮かびあがっても意味が無い。

間に合えと焦りながら俺は即座にISを展開しフルスピードで突っ込む。

ラウラは突っ込みながら銃を向ける俺に気が付いたのだろう。

ワイヤーのような武器と動かし拘束しているセシリアと鈴を盾にするように俺に向ける。

かまわずに俺はそこに弾丸を撃ち込む。

二人を拘束しているワイヤー状の武器と盾にされていた二人の隙間からラウラを狙い撃つ。

 

「ちっ!!」

 

舌をならしながらラウラはセシリアをこちらに投げつけさらにレールガンでこちらを狙う。

だが遅い。

既に俺は弾丸を撃ち出しておりその弾丸はセシリアと鈴には一切当たらずにラウラに被弾する。

何発かラウラのワイヤー状の武器に当たるといまだに盾にされ続けている鈴の拘束が緩んだ。

それを確認し、すかさず銃弾を雨のように撃ちこみ弾幕をつくる。

流石にラウラも動かなければと思ったのか鈴を盾にしたまま動こうとする。

俺は突撃しているスピードを殺さないようにセシリアを受け止め鈴に叫ぶ

 

「鈴!!いまだ!!」

「無駄だ!!こいつは動けん!!」

『なめんじゃ……無いわよ!!』

「何!?」

 

そう叫びながら鈴は自身を拘束していたワイヤー状の武器をはずす。

少し驚いたラウラだが、すかさず再び鈴を盾にしようとワイヤー状の武器を鈴に発射する。

だが俺がそれをすべて撃ち落とす。

そして限界で倒れそうな鈴を抱えラウラから距離をとる。

現在俺はラウラからかなりはなれた上空で二人を両脇に抱えた状態だ。

鈴はまだ意識があるがセシリアは意識が無い。

二人のISはかなり破壊されており戦闘は不可能だろう。

 

「鈴、大丈夫か!?」

「…余裕よ…」

 

と軽口を叩く鈴の顔は痛々しく全然大丈夫そうではない。

その時にラウラから通信が入る。

 

『ふ、腰抜けにしてはやるではないか……だが何のつもりだ。』

「お褒めいただきありがとうございます。そうだね…喧嘩を止めにきましたって感じかな?」

 

と笑顔をラウラに向けながら話かける。

今やらなくてはいけない事は二人を一刻も早く医務室に届けることだ。

特にセシリアは意識が無い、急がなければ。

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど二人を医務室に連れて行ってもいいかい?流石にやりすぎだと思うし。」

『ふん、強者が弱者に気を使って何の意味がある。連れて行きたくば私を倒せ。』

 

そう言ってラウラはこちらにレールガンを撃ち込みながらこちらに突撃してくる。

完全に逃がすつもりは無いわけか…体をそらして弾丸をかわす。

動きづらいがかわせないわけじゃない。そしてこちらに迫るワイヤー状の武器、ようやく名称がわかるがワイヤーブレードか…それが俺を拘束しようと迫ってくる。

ブースターを起動しひたすらに逃げ回る。

その後は逃げ回る俺を捕まえようとするラウラとの追いかけっこだ。

ラウラはワイヤーブレードとレールガンで俺を捕らえようとするがすべてかわしきる。

しばらく逃げ回っていると痺れを切らしたラウラが叫ぶ。

 

『貴様…いい加減に戦え!!』

「いやです。それより早く医務室にいかせてよ。第一この状態で戦えるはずが無いじゃないか。」

『足手まといなど捨てればいいだろう。』

「じゃあ医務室に捨ててくるからちょっと待ってて。」

『ふん、切り捨てる覚悟も無いのか腰抜け!!』

「そんなもの持った事も無いね。」

 

このままじゃ平行線か……その時俺に連絡が入る。

 

『奏!!』

『ソウ!!大丈夫!!』

「一夏、シャルロット!!」

 

アリーナ内に二人がやってきており、こちらに向っている。

いいタイミングで来たな。

ラウラの方を見ると一夏をにらみつけている。

 

『織斑……一夏ぁ!!』

 

そう叫びながら一夏にレールガンを撃ち込む。

しかし一夏にもそれはかわされ、さらに俺がラウラに銃を突きつけたことにより彼女は攻撃を一時的にやめた。そのまま二人は俺と合流する。

 

『奏!!無事…鈴、セシリア!!大丈夫か!?』

「…うるさいわね…一夏…」

「…このくらい…どおって事…っ」

 

セシリアも意識を取り戻したか…

だが速めに医務室に連れて行ったほうがいいことには変わりない。

 

「シャル、二人を医務室に。あいつの狙いは一夏か俺のどちらかだ、頼む。」

『わかった!!』

 

そう言って鈴とセシリアをシャルロットに渡す。

ラウラはまだ動かないが隙は狙っているな……

 

「一夏さん…彼女のISは不可解な機能を持っています…」

「突然動けなくなるから…注意して……」

『ああ、わかった。』

 

二人はそうこちらに言いながらシャルロットに抱えられ運ばれる。

そしてシャルロットはラウラから背を向けてアリーナを後にしようとする。

だがラウラはそれに照準を向けレールガンを撃ち込む。

だが弾は下に曲がりシャルロットとはまったく違う方向に飛んでいく。

既に俺が撃ちだした弾丸がラウラの砲弾の軌道を変えていたからだ。

 

「ちょっと…逃げる相手に撃ち込むのはなしでしょ。」

『弱った相手から落とすのが戦場の基本だ。』

「ここは戦場じゃ無いんだけどね……」

 

やはりな…

ラウラにとってここにいる人間は全員敵なんだろう。

だから逃がしてくれと言ってもそれは敵からの言葉であって聞く意味が無い言葉だ。

 

『ふん、こんな兵器を使っていて何が戦場じゃないだ。寝言を言うのもいい加減にしろ。』

「じゃあ寝てから言うから帰っていい?」

『奏!!こいつをこのままにしておくって言うのか!?』

 

一夏が俺に向って叫ぶ。

俺はラウラに話しかけながらハイパーセンサーで後ろを見ていた。

シャルロットは今ようやくアリーナのフィールドを出たところだ。

さてこのまま逃がしてくれればいいんだけどそうは行かないだろう。

 

『ふん、腰抜けらしい発想だな。しっぽを巻いて逃げ出せばいい。』

「後ろから撃たないって言うんなら喜んでそうするんだけどねぇ…君後ろから撃つでしょ?」

『当たり前だ。敵に背を向けるほうが愚かなだけだ。』

 

逃げるのは……無理だな。

現状どうあがいてもこいつは俺たちと戦うつもりだ。

それに一夏は先ほどからラウラに対し頭に血が上っている。

冷静な行動は期待できないだろう。

 

『だが織斑一夏をおいていくなら貴様も逃げればいい…』

「やっぱり目的は一夏か…」

『おい、ラウラ。俺を狙うのはかまわないがなぜ二人を巻き込んだ…』

 

一夏は怒りを押さえ込みながらもラウラに言葉を発する。

ラウラは挑発するように一夏に話しかける。

 

『ああ、あの二人か。あいつらは喧嘩を売ってやっただけだ。歯ごたえがなさ過ぎて正直売ったことを後悔してしまったほどだよ。あの程度で国家代表とは…イギリスと中国はよほど人材不足と見える。まぁサンドバッグとしては優秀だったかもな。』

 

二人を嘲笑うようにに語るラウラ。

こいつ…あの二人を痛めつけて楽しんでやがったな…

そして俺が何か言う前に一夏が怒りのまま飛び出る。

手には雪片弐型が握られており完全に攻撃をするつもりだろう。

だが一夏がラウラに接近する前に一夏は見えない壁に止められた様に動かない。

 

『ふ、馬鹿め!!くら…っ!!』

 

そう言ってラウラは一夏にレールガンを向けるが撃つ事は出来なかった。

目の前から俺の作り出した銃弾の壁と言ってもいいほどの弾幕が迫ってきていたのだ。

ラウラは攻撃するのを止め、弾幕を急降下する事でかわす………がかわした先にさらにさらに銃弾が迫っておりかわしきれず数十発被弾する。

 

『くっ…なめるな!!』

 

そう言ってラウラはまたも見えない壁を形成する。

弾は空中に止まったように停止する。

俺はその間に一夏のそばに行く。

 

「…一夏……頭に血上りすぎだ。怒るのは解るけど突っ込むのは勘弁しろよ。」

『あ、ああ。すまない…』

 

さて先ほどの攻撃で完全に俺を敵だと彼女は認識しただろう。

そして俺のISも今の無茶をしたせいでかなり具合が悪い……

さらに俺の我慢も限界だった。一夏には頭に血が上りすぎと言ったが俺も人のことが言えないほどラウラに怒りを覚えていた。ある程度はこういうことを言われるのは覚悟していた。

だが実際に言われるとなんともいえない怒りが俺の中に渦巻いた。

仕方ない、完全に俺だけを狙ってもらうことにしよう。俺も全力で相手してやる。

俺は地面に着陸しISを解く。否、片腕の装甲を残して銃を片手に持ち全力で戦う準備をした。

ラウラはそれを見て俺を笑う。

 

『おい、奏!!何やってるんだ!?』

『はっ、とうとうこの腰抜け、武器まで捨てて逃げ出すのか?』

「はぁ……あまり言いたく無いんだけどさ……黙ってろ、ハタクぞ。お前が言葉を発するたびに呆れてものが言えなくなる。」

 

俺は心底つまらないものを見るような目でラウラを見る。

突然の俺の豹変のしようにラウラは驚き一夏は呆然としている。

俺はあきれたように話す。

 

『なんだと?』

「お前を見ていると、正直ドイツが低く見られそうで虫唾が走るから黙ってろって言ったんだよ。とうとう言葉すらわからなくなるほど頭がおかしくなったか?」

『貴様…私を侮辱するか!!』

「それ以前にお前はドイツを侮辱してるだろ。お前のように我侭で周りを気にせずに暴れあげくの果てに戦えない相手を襲う。そんなのがドイツの代表なんて思われたら俺の知り合いのドイツ軍人まで悪く見られそうだからさ、国に帰れよお前。正直お前、ドイツの恥だぜ。」

 

そういうとラウラは俺の近くにレールガンを撃ち込む。

俺は気にせずになおもつまらないものを見るようにして言葉を続ける。

 

『奏!!』

「大丈夫だ一夏。さらに言わせてもらえばお前の行動は織斑先生のことすら侮辱している。」

『なんだと!?私が何時教官を侮辱したと言うのだ!!』

「今までの自分のやったこと思い出してみろよ。織斑先生の指導した軍人はこの程度の軍人になるのか?ISを兵器だと自覚しているくせにそれで喧嘩を売り、平然と戦えない相手を殺しかねないほど攻撃する。さらにそれを自慢するかのような口調で話す……軍人云々以前の問題だ。それともお前はあの人からの指導で、こんな暴力や我が物顔で暴れ回ることを教えられたのか!?」

『っ!!貴様が教官を語るな!!』

 

ラウラが叫ぶ。

否定しないと言う事はやはり何か思い当たる節があるのだろう。

俺は声を強めながらラウラに叫ぶ。

 

「俺ですらあの人の指導がその程度で無い事はわかるっていってるんだよ!!言われたくないのならお前の受けた教えを答えてみせろ!!ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

『っ!!黙れぇぇええええ!!』

 

そう言って片手からブレードを展開して突撃してくるラウラ。

俺は攻撃をかわし銃弾を撃ち込む準備をした。

とりあえずこいつは今、全力で潰す。

あと少しで戦闘に入ると言う瞬間に俺たちの間に入りこむ人影があった。

ラウラのブレードを恐らく打鉄の近接ブレードを構えた千冬さんが受け止めていた。

 

「き、教官。」

「やれやれ…これだからガキの相手は疲れる。」

「千冬姉…」

 

一夏も俺のそばに下りてきて千冬さんに驚いている。

まぁ……ISも無しにISの一撃を止めるとかそりゃ誰でも驚くって。

しかしおかげで落ち着けたな……

 

「教官ではないと言っただろう。聞くが、奏、一体何をしている。」

「…スイマセン。頭に血上ってました。」

「そこまで血の気が多いなら大会までとっておけ馬鹿者が。」

 

そう言って千冬さんは俺をにらむ。

その後周りを見て全員に話し始める。

 

「模擬戦をやるのはかまわん、だがアリーナのバリアーを破壊されるような事態になっては教師として止めざるを得ないのでな、この決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか、なぁ風音。」

 

そこでわざわざ俺のことを名指しするとは……出ろと言う事か。

 

「教官がそうおっしゃるなら。」

「お前らもそれでいいな。」

「…おう…」

「教師にはハイと言わんか、馬鹿者が。」

「は、ハイ!!」

 

と一夏はにらまれながら返事をする。

千冬さんはそのまま俺のこともにらむ。

返事をしないわけにはいかないな

 

「……ハイ解りました。」

「では学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する…では解散!!」

 

千冬さんはそう言ってアリーナから去る。

ラウラはそれを見届けた後俺をにらむ。

 

「貴様には必ず先ほどの言葉を取り消させてやる!!」

 

それだけ言うとISを解除して去って行った。

一方俺は頭を抱えてため息をついていた。

あそこで怒りに身を任せて吼えてしまうとか……

愚か者としか言いようが無い。

これではラウラを説得してVTシステムについて認識させる事すらできないではないか。

なにがヴァッシュを目指すだ、これでは笑いものにもなりやしないぞ。

頭を抱えて考えていると一夏が近寄ってくる。

 

「奏……大丈夫か?」

「…情けなくて穴があったら入りたい。一夏そのまま埋めてくれない?」

「いや、まぁ…」

 

と歯切れの悪い一夏。一体どうしたんだ?

 

「どうした一夏。」

「いや、お前があそこまで怒ったのはじめてみたからさ…ちょっと驚いてるだけだ。」

「……そういやそこまで怒った事なかったよな…ああ、一夏に『頭に血が上りすぎ』って言った後にあれだぜ?もう考えられないよな…ありえなさすぎだよなぁ……」

「まぁお前があそこまで怒ると思わなかったけどそこまで落ち込む事無いんじゃないか?」

「いや……もう本当にありえないよ、恥ずかしいのと情け無いので死にたくなってきた……」

「そこまでか!?」

 

その後がっくりとテンションが下がった俺は一夏に慰められながら

セシリアと鈴の様子を見に行くために引っ張られていくのだった……

 

 

 

 

自分がなりたいと思うような人間に、既になった気持ちで行動せよ。間もなく必ずそうなる。

                                ~ジョージ・クレイン~




ということで奏の未熟さが出てしまう結果に終わりました。
ここでヴァッシュなら今までの経験からいろいろと話を変える事が出来たでしょうが。
残念ながら奏は生き方を知っていて力はありますが経験がありません。
よってこのような結果に終わってしまいました。

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