インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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投稿の日にちがずれてた……危ない危ない


第四十三話 ほころび

飯を食べ終えシャルロットが先にシャワーを浴びている。

さていまさらながら問題がある。

俺のトレーニングについてだ。

今までは毎日食後に少しと朝間にそれなりと言った感じだったが流石にシャルロットの前で全力でやるのは気が引ける。

だがトレーニングをしないと言う選択肢は無い。

だとしたらやはりもっと朝早くおきてトレーニングの密度を高くするしかないか……

まぁやるだけやってから考えよう、これを失敗しても困るのは俺だけなんだ。

失敗しちゃいけないのはシャルロットやラウラ、簪の問題だ。

それに箒の訓練も手を抜くわけにはいかない。

自身のことに集中したせいで三人を助けるのを失敗しましたなんて事は何が起きてもあってはいけないし、手伝うと言ったのに箒のことをないがしろにすると言うのは考えられない。

そうなるとしばらくトレーニングをやめることも視野に入れたほうがいいかもしれん。

さてプランを遂行するためにはやはりデュノア社長との交渉が必要だ。

そして倉持技研の方もおっさんへの協力要請、駄目なら脅しをかけることも視野に入れよう。

一応現在の考えでは文句や邪魔をする国や組織は無いはずだ。

問題はいくら男のIS操縦者だからと言ってどこまでわがままが許されるかどうかだ。途中止められるだけでも面倒な事になりかねん。

頭をフル回転させていると突然声をかけられる。

 

「…ソウ!!」

「うん?突然大きい声だしてどうした?」

「さっきから何回も呼んでるよ。ソウ、シャワー空いたよ?」

 

そういうシャルロットのほうを見るとバスタオルで髪の毛を拭きながらシャルロットはこちらに話しかけていた。

服装はジャージを着ている……

え?お前そんなに胸大きかったの?

というかどうやって今までそれ隠してたんだよ!?

普通の服装じゃ隠し切れないだろそれは!!

もしかしてデュノア社がシャルロットをここに送り込むのに時間がかかった理由はこの胸を隠すための何かを開発するのに時間がかかっていたのでは?

と馬鹿なことを考えてしまう。

まぁ…深く考えないでおこう、そこを指摘すると確実にセクハラだ。

という青少年らしいか親父臭いかは別としてそのショックを顔に出さないで話し始める。

 

「ああ、ごめん。考え事をしていて聞こえてなかったわ。」

「………私のこと?」

「まぁ……デュノア社のことだね。あ、今の内に言っておいた方がいいね。」

「なに?」

「俺はシャルロットを騙して利用しているって事にするから。って言うかそう風に動く。」

「どういうこと?」

「そうした方が話がすんなり進むんだ…あとかなりデュノア社を利用していろいろと俺の問題を解決させるつもり。」

 

そういう風に言うとシャルロットは何か考えている。

 

「ねぇソウ、話は変るけど聞いていい?」

「何を?」

「さっき織斑先生にラウラのことを話してたけど…」

「ああ、ちょっとね。頼まれ事って言うか首突っ込んでいるだけ。」

「……どうしてラウラのことをそこまで気にかけるの?」

「どういうこと?」

「だってソウ、あの子にいろいろやられてるのに何かしようとしてるんでしょ?多分仲良くなるつもりで。」

「…まぁ、そのとおりだね。」

「どうして?」

 

って言われてもなぁ……

シャルロットに『ラウラの笑顔を知っているから』って言えるわけ無いし…

それにヴァッシュなら迷わずこうしていただろうからあまり深く考えてなかった。

だが普通の考え方だったら関わろうとしない方が普通だ。

なぜこうしたかったかの理由か……

 

「う~ん……性分っていうか、そういう人間を目指してると言えばいいのか……もったいなかったからかな。」

「もったいない?」

「そう、だってこれから三年間一緒に生活する事になる相手をはじめに喧嘩をしたからずっと嫌い続けるってもったいなくないかい?どうせだったら仲良くなって三年間笑顔で過した方がいいじゃないか。」

「だから無茶をするの?」

「そうさ。それに話してみたら結構いい奴だったって結構あるんだぜ?例えばセシリアなんて俺に対して『わたくしあなたのことを認めておりませんの』って感じだったんだぜ?」

「本当に!?今はすごいソウたちと仲がいいのに。」

「ホント、ホント。あ、これはセシリアには内緒ね?言ったってばれたら俺が怒られる。」

「あはは、ソウの秘密を一つ手に入れちゃた。」

 

と俺の弱みを握ったつもりのシャルロット。

俺は悪い顔をしながら言い返す。

 

「言ったら、お前が俺のことをノゾキしたことを…」

「もう!!その話はやめてよ!!……それにみんなに話せないでしょ?それは…」

 

と言って暗くなるシャルロット。

こいつ多分『自身に良くしてくれている人に嘘をついている』ことを気にしているのだろう。

そんなシャルロットに俺は笑顔で話しかける。

 

今はね(・・・)。」

「…え?」

「そりゃ今すぐそれをいえるわけが無いさ。ただ何時までもお前に男の振りをさせるつもりは俺は始めから無いぞ?いずれ必ずみんなの前で本当のお前の事を話せる機会を作る。俺を信じろ。」

「そっか……わかった。」

 

と言ってとりあえずは少しだけ明るくなるシャルロット。

……もう少しいじってやろう。

 

「だから仮にお前がさっきの俺の秘密を話したとしたら、その時にあること無いこと話される覚悟はしておけよ?例えばノゾキについて面白おかしく話されたり、他にもあんなことやこんな事を…」

「ちょっと!!わかったからやめてよ!?」

「………ワカリマシタ、イイマセン。」

 

俺はそっぽを向きながら声色を変えて話す。

シャルロットは顔を真っ赤にしてこちらに話しかけてくる。

 

「ソウ!!こっち見てちゃんと言ってよ!!」

「ア、ボク シャワー アビテキマスー」

「逃げないでよ!!ねぇったら!!」

 

面白がっていじり続ける俺と少し涙目になり気味のシャルロット。

そうやってシャルロットとの共同生活の一日目の幕が閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後の放課後のアリーナ。

俺は箒の訓練をするために早い時間のアリーナを借りていた。

理由としては他の人物にばれたくないから、特にセシリアと鈴のことだろう。

そしてもう一つ、なぜか箒の訓練に簪が参加しているからだ。

大体この訓練は現在三回目だ。

簪は二回目から参加している。

箒に聞いてみると

 

「……簪も協力してくれるらしい…」

 

とのことだった。

お前ら何時の間にそんなに仲良くなったの?とも思ったが拒む理由も無いし一緒に訓練していた。

俺がいま教えているのは、箒には回避をするためのコツと簪には銃で狙い撃つ時のコツだ。

二人とも三回目とはいえ結構さまになっている。

しかし時間が時間だ。そろそろアリーナ内に人が来る。

 

「簪ちゃん~。そろそろ人が来るぞ?」

『え?う、うん。わかった。』

「箒はどうする?」

『私はもう少し訓練をしている。簪、先にあがっていてくれ。』

『わかった。じゃあね。』

 

うん、完全に友達の雰囲気だ。

この中だとむしろ俺が浮いている感じすらしてくる。

本当に仲良くなったんだな二人とも……ちょっと聞いてみるか。

俺は二人が仲良くなった理由を聞こうと訓練を止め下に下りてきた簪に近寄って話しかける。

 

「おつかれ、簪ちゃん。訓練はどんな感じ?」

「あ、はい。動く相手を狙う感覚はつかめてきたと思います。」

「そいつはよかった……ひとつ聞きたいことあるんだけどいい?」

「え?なんですか。」

「いや、簪ちゃんすごい箒と仲良くなってたからさ、なんかあったのかなぁ……って。」

 

と俺が簪に話しかけると簪は笑いながら俺に話しかける。

 

「箒ちゃんとはいろいろと話してたら話が合って仲良くなりました。なんというか……仲間みたいな感じですね。」

「そっか、それだけなんだ。変なこと聞いてごめんね。」

「い、いえ。全然大丈夫です。」

 

仲間ねぇ……おそらく『対姉同盟』みたいなものか。

この二人の共通の話題と言われるとそれが一番初めに思いついた。

出鱈目で世界一の天才の姉を持つ箒。

自身のはるか上をいく万能の姉を持つ簪。

まぁ……いろいろと話は合いそうだな。

そう考えていると今度は簪が俺に話そうとしているは何か悩んでいるみたいだ。

こっちから聞いてみるか……

 

「簪ちゃんどうしたの?」

「い、いえ……奏さんは箒ちゃんの約束知ってますよね?」

「一夏とのやつ?」

「は、ハイ。それです。それの話って奏さん広めました?」

「まさか!?そんなこと僕しないよ!?」

「そ、そうですよね……」

 

と考えながら話す簪……まさか噂が!?

 

「まさか箒の事が噂に!?」

「………正確には広まって無いんですけど、『トーナメントに優勝したら付き合える』って感じの噂がいま広まってるんですよ…」

「うわぁ……一夏大変だな…」

 

と俺が言うと簪ちゃんはさらに何か言いたげにしている。

首をかしげて言うのを待っているとぼそぼそっと話し始めた。

 

「それなんですけど……噂に奏さんもいるんです…」

「……へ?」

「優勝したら織斑君か奏さんかデュノアさんのうち、誰かと付き合えるってことになってるんです。」

「…マジ?」

「ほ、本当です。」

 

おい、何時の間に俺に勝ったら付き合えるってことになってるんだよ。

しかも現状ラウラの暴走イベントは無しだから……一夏が優勝しないともしくは箒に負けないと駄目ってことか…まぁ俺は出る気無いから関係ないか。

 

「まぁ、僕トーナメントには出場しないから別にいいや。」

「え?でないんですか?」

「だって僕、争うのいやだもん。だったら始めから戦わないさ。」

「そうなんですか…」

 

といってホッとしたような簪。

この反応を見るに別に僕を狙ってるって訳ではなさそうだな。

じゃあ何でホッとしたんだ?

まぁそこら辺は考えてもわからないから気にしないでおこう。

そう考えていると携帯の方に連絡が入っていることに気がつく。

ISコアとつなげればそういう機能もあるらしい。

相手は……ランベルト?

なぜ今になってこの人が?

 

「………ごめん箒、俺ちょっと席はずすわ。」

『わかった、私もそろそろ一旦やめようと思っていたところだから気にしなくてもいい。』

「すまん、じゃあまた今度。」

 

と簪と箒に手を振り俺は人気の無いところに向う。

なんだこの猛烈に嫌な予感は……不安を覚えながらも俺はアリーナ脇の人気の無い場所に向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ無いの端、人気の無いポジションにつくとまたもやランベルトからの電話を受けた。

嫌な予感を感じながらも俺は電話に出る。

 

「やあ、いま電話は大丈夫かね。」

「ハイ、一体どうしましたか?」

「……まず君がくれたあの情報はかなりの高確率で本物であるという事がわかったため、ラウラ・ボーデヴィッヒについてブリュンヒルデに話す許可は先に出しておいた。」

「ありがとうございます。」

 

よし、これでラウラの問題はほぼ解決された、俺はそう確信できた。

だが彼が次に話す内容を聞いて俺は愕然とした。

 

「……そして残念ながら君の心配するラウラ・ボーデヴィッヒ関しては我々は手が出せん。」

「………どういう意味ですか?」

 

そんな電話を受けて俺は焦りはじめる。

全世界レベルでお偉いさん方が見ることになる次の大会でVTシステムの開発をしている事がばれかねないんだぞ?

機体の回収するか、それが無理でも試合への出動停止にするのが普通じゃないか?

俺の考えがわかったのかランベルトはさらに口を続けて話す。

 

「……君の考えている事はわからないでもない。だがあのシステムを開発していたのは軍の『技術部』であって『実戦部隊』ではない。軍部の方で仮に『技術部』を摘発するときいろいろと問題があってね。」

「っ!!」

 

つまり、確固たる証拠があるが攻める時の味方が少なければ黒幕に逃げられる。

そして包囲網を強いてるときに別のところから邪魔をされたくないと言う事だ。

ドイツ軍としては非難する仲間として実働部隊も引き込みたいため、わざわざ喧嘩を売る事は好ましくないと判断されたのか…

だがそんなことを言う以前の問題が……

そうか、この世界で現在『ラウラがVTシステムを起動させる』という未来を知っているのは俺だけだ。ラウラはドイツの最強部隊の隊長だったはず。そんな奴がたかが学生の大会で機体の損害がレベルDまで追い込まれ負の感情を最大限まで感じる…なんて軍として考えるはずが無い。

そしてそんなことを理由に『ISの性能発表』の場からドイツが逃げ出す事ができるはずが無い。

クソ!!あてが外れた!!

このままじゃラウラに危険な橋を渡らせなくてはいけなくなる。

大会まで後約一週間を切っているというのに……

 

「君の渡した資料にしっかりとした開発データがあればまた話は別なんだがな…」

「……スイマセン、肝心なところで役に立てずに…」

「いや、これだけでも十分すぎるくらいだ、本当に礼を言うよ。」

「……仮に彼女からVTシステムを回収できるとしたらどれくらいの期間がかかりますか?」

「………正確には言えないが速くても二週間後、いやもっとかかるかもしれない。」

「……わかりました、ではわざわざ電話してもらってありがとうございました。」

「いや、礼はこちらがするべきことだ。本当にありがとうではな。」

 

そう言ってランベルトからの連絡はきれた。

残されたのは電話を握りながらどうすれば言いか考える俺だった。

やばいぞ…ラウラが危険な目に遭ってそれでも一夏によって助け出される…そういう未来が来るのならまったく問題は無い。

だが俺のせいで(・・・・・)ここの世界の未来は変っているのだ。

今まではなるべくいい方向に動かすように努力してきた。そして未来は少しだけ変った。

セシリアは父親についての考え方が変った。

結果的に係わり合いが少なかった鈴は一夏の方の変化が大きく俺が関わらなくても未来は変わると言う事がわかった。

だがつまりそれは悪い方向に行くかもしれない(・・・・・・・・・・・・・)という事なのだ。

俺のせいでラウラが最悪死ぬ可能性もある。

つまりラウラは今までのセシリアや鈴相手と違い絶対に失敗してはいけない相手でもあったのだ。それを軍に情報を渡したから大丈夫だろうと言う俺の油断のせいで追い込まれてしまった。

どうすればいい?ここまで来ると最早対策は見つからなかった。

 

<―ドン!!―>

 

アリーナ内での突然の爆発音。

何があったか解らないが俺はアリーナへと向った。

 

 

 

 

 

悪法も、また、法なり。

                                  ~ソクラテス~




ということでラウラのVTシステム取り外し作戦は失敗しました。
大会から一週間をきっているこのタイミングでこうなってしまいました。
機体の損害がレベルDまで追い込まれ負の感情を最大限まで感じる二つの状況って普通の大会だとありえませんしね。
ラウラのことを知っていて、さらに一夏のことを恨んでいることもわかり、そして取り外す前に一夏と戦って負ける……知っている事だから起こるといえますが、そこまで想像出来る人はなかなかいないのではないでしょうか?

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