インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第四十二話 突破口

シャルロットの話を千冬さんは目をつぶりながら黙って聞いた。

自身がどう生きてきたか、デュノア社での生活、そしてなぜこのIS学園に来たのか。

すべてを千冬さんから目を逸らさずに話していた。

ちなみにその間俺は晩飯を作っていた。

いや、一緒になって聞いてもいいんだがそれじゃあシャルロットが自分で話せないと心配している過保護な奴みたいに思え、何よりあいつを信頼していないような気がしてしまった。

よって俺は千冬さんとシャルロットにお茶を出した後一人台所で飯をつっくっていた。

しばらく料理に集中していると向こうでシャルロットがすべてを話し終えたようだった。

しばらく俺の料理を作る音のみが部屋に響いていた。

 

「奏、こっちに来い。」

「うっす。今行きます。」

 

千冬さんに呼ばれ俺も話に再び参加する。

料理をやめ自身のベットに座る。

 

「……奏、単刀直入に聴こう。お前はこの話をどこまで信じた。」

「っ!!…」

 

千冬さんは俺にそう指摘する。

シャルロットは自身でもわかっていたのだろう。

指摘された後も少しびくっとしただけで何も言わない。

まぁ言いたい事がわからないでも無い。

俺が男性のISパイロットになり

偶然にもデュノア社長の娘のシャルロットが俺の知り合いで

偶然にもデュノア社のテストパイロットにシャルロットが居て

偶然にもデュノア社の経営危機のせいで捨て駒にされた

偶然にも厳しい監視がシャルロットについてすら居ない。

そこまで偶然がそろうなら、最早必然的に狙ってやったと言ったほうが説得力がまだある。

だが俺は笑顔で千冬さんに答える。

 

「余すとこなく全部ですね。」

「私の言いたい事を解って、そう言っているんだな?」

「ええ、シャルロットが嘘を言っている可能性があることが解らないわけじゃありません。」

「それでもか?」

「はい。もちろんですよ。」

 

そういうとシャルロットはホッとしたような顔をしている。

安心しろ、千冬さんも本気で疑ってるわけじゃない…たぶん。

 

「……理由は?」

「強いて言うなら僕の勘と……女の涙ですかね?」

「まったく当てにならないな。」

「そんなぁ…」

 

とがっくりしてみせる。

その後顔を上げ笑顔で話し始める。

 

「まぁ正確に言いますと、シャルロットの言っている事は全部本当。と思っています。」

「……まだ解っていないことがあるとでも?」

「シャルロットも気になることをいってましたしね。」

 

といいシャルロットに目線を合わせる。

 

「なぁシャルロット、さっき言ってた『お前の正体をばらしても俺には被害は出ない』ってやつ教えてもらってもいいか?」

「うん、私が送り出されるときに思ったんだけど『フランス政府が検査をしないっておかしい』って。だって国の代表候補生だよ?検査をするのが普通じゃないの?それなのに私、国からの検査も無しにここにこれたんだよ?」

 

自身の疑問に思っていることを話すシャルロット。

しかし、そういわれても俺は代表候補生じゃないのでなんともいえない。

 

「……千冬さん、こういうことってあるんですか?」

「普通の女性パイロットならありえ無い話でも無いだろうが男性の場合はありえんだろう。国だって男性操縦者のデータが欲しいはずだ。何かと理由をつけて検査をしようとするはずだ…」

「だから、始めからフランスはわかって私を送り込んだんじゃないかなっておもって。なら他の国の迷惑になるような事はしないと思うんだ…」

 

まぁまともな神経だったらやらんよな。

男と偽った上にそれを知っていた周囲を批判する前にまともな国ならフランスのほうを批判する、その程度の事フランスだってわかっているはずか…

だがそれならなぜフランスはこんな事を?何のメリットがあってこんな事を……まてよ?

 

「シャルロット聞きたいことがあるんだがいいか?」

「うん。」

「『他の第三世代ISのデータ集めおよび男性操縦者のデータ集め』この命令をお前に告げたのは誰だ?」

「……多分父だと思う。」

「違う直接(・・)お前にその命令を言ったのは誰だ?」

「え、デュノア社の人だと思う。僕に基本的な説明をしたのは多分会社の上層部の人。」

「じゃあ『情報を送るのは一ヶ月に一度』と『男性として振舞う事』は?」

「『男性として振舞う事』はさっきの会社の人が同じ時に言っていたけど『情報を送るのは一ヶ月に一度』は最後にこの国におくられるときに一緒に来た人に言われたよ。」

 

俺は口元に拳を当て考える。

千冬さんは俺が何か気がついたと思ったのだろう、俺に話しかける。

 

「奏、突然どうした。」

「いえ、引っ掛かりが取れそうなんです、ちょっと考えさせてください……」

 

考えてみろ。

始めからシャルロットに与えられたこの命令は明らかにおかしい。

なぜなら『矛盾しか無い』からだ。

急いでいるのか、ゆっくりなのか。

ばれないほうがいいのか、ばれたほうがいいのか。

つまり意思が統一されていない(・・・・・・・・・・・)

それはなぜか、こう考えればすんなり納得できる。

始めから二つのグループ(・・・・・・・)からシャルロットは似たような命令を受けていると。

そしてその二つのグループとは?

決まっている『社長派』と『反社長派』だ。

 

「お前がデュノア社長に会ったのは何時と何時だ?」

「『社長婦人と会ったときと』、『ここに来る時の命令のとき』だけだよ、もっともどちらの時も私の事は見ていなかったけど……」

「その時社長からはなんといわれた?」

「何も言われなかったよ……」

 

そう言って顔をふせるシャルロット。

さてそろそろ最後の質問にさせてもらおう。

 

「シャルロット…最後に一つだけ。デュノア社長にお前以外の子供は?」

「居ないよ。これは確かだと思う。」

 

俺の想像通りならまだ最悪の目はでてないな。

後はもう少しデュノア社長との交渉に備える準備と倉持技研(・・・・)のほうにも連絡をつけないとな。さてそろそろシャルロットのことをこの煩わしい鎖から開放してやれそうだな。

俺は考えをやめにっこり笑う。

 

「引っかかりは取れたのか?」

「いえ、全然。さっぱりわかりません。」

 

そういうとがっくりするシャルロットと俺をにらむ千冬さん。

 

「では、糸口は見えたのか(・・・・・・・・)

「何とかですが突破口がありそうな場所は検討がつきました。」

「本当なのソウ!!」

 

俺の言葉に驚くシャルロット

俺はさらに笑みを深くする。

 

「いや、見えそうなだけだよ、後はもう少し考えないといけないね。」

「ふっ、そうか。あまり無茶をするなよ。」

「………」

「返事をしろ。」

「お、覚えている限りは…」

「…お前、そこまで言えない事をするのか?」

「場合によってはそうなるかと……」

 

俺は先ほどまでの笑いを引きつらせながら答える。

正直な話俺も自身がどこまでいけるかまったくわからないのだ。

最悪、俺が全世界のモルモットになりシャルロットはIS学園に残ると言う風に、最高でラウラのこと以外はすべての問題が解決する(・・・・・・・・・・・)

どこまで俺の運が続くか次第だな……

 

「いざとなったら私を頼れ。私の名を使ってでもお前を守ることくらいはしてやる。」

「やだ、千冬さんかっこよすぎ…って冗談ですから叩こうとするのやめてくださいよ。」

「こっちは真面目に話してると言うのに…あとデュノア。」

「は、はい。」

 

千冬さんは鋭い目線でシャルロットを見る。

シャルロットは息を呑み真面目な顔で千冬さんの目を見る。

その瞬間千冬さんがふっと笑いはなす。

 

「お前がこいつに頼る選択をしたのは何等間違っていない。ならば最後まで頼り切ってやれ。」

「え?……」

「返事はどうした!?」

「は、ハイ!!」

 

とシャルロットに無理やり返事をさせる。

 

「では私はそろそろ失礼しよう。」

「そうですか…千冬さん待ってください。」

 

そう言って部屋を出ようとする千冬さんを呼び止める。

 

「どうした。」

「お土産いります?」

「……つまみになりそうなものはあるか?」

「少々お待ちください。」

 

俺は千冬さんに笑いかけながらタッパを用意した。

千冬さんに酒のつまみを渡すと千冬さんは顔には出さないがうれしそうにしている。

あの人に渡したのは自家製ピクルスと豚肉のマスタード漬け、酒を飲むのにはぴったりだろう。

廊下に出た千冬さんを俺は見送る。

去り際に千冬さんには本当の理由はいっておくか。

 

「千冬さん、そう言えば俺があいつの話を全部信じた理由しっかり言ってませんでしたね。」

「なんだ、アレが本音じゃなかったのか?」

「まぁ勘って言うのも本当ですが、ぶっちゃけたところ理由なんてありません。助けたかったから助けました。」

 

俺が満面の笑みでそう告げる。

言ったとおり理由なんて無いのだ、ただ助けたいと思ったから助ける。

特に今回はヴァッシュならそうした云々すら関係なく俺がそうしたかったから助けるのだ。

千冬さんは俺の話を聞いた後頭を抑える。

 

「はぁ…そんなことだろうと思っていた…」

「それに相手があいつでしたし。だったらだまされてもいいかなって。」

「……それは恩人だからか?」

「友人だからです。」

「そうか…」

「納得してもらえましたか?」

「ああ、はじめの下手な理由よりはよっぽど…さっきも言ったがいざとなれば頼れよ?」

「了解しました、では。」

「ああ、また。」

 

そう言って千冬さんは俺の前から去って行った。

ここまで話せば一応教室内や千冬さんの目が届く範囲ではある程度庇ってくれるだろう。

今の所シャルロットについて知っているのは俺の知る限り一夏、千冬さん、山田先生、楯無、理事長か…最初に思っていたよりは少なく済んだか?だがこれ以上増やすのは危険だし、協力者をこれ以上増やすのはきついだろう。

しかし…たぬき親父とOsa.楯無のせいでシャルロットが同室か。頭が痛くなってくるな…

……ポジティブに行こう。下手な難題を押し付けられなかっただけよかったと考えろ。

だがなぁ…シャルロットが恐らくだが俺に好意を持っている事はわかっている。

俺もあいつの事が嫌なわけではない、むしろ好きと言ってもいいくらいだ。

だが下手な話、『俺があいつを好きだから助けた』となると面倒事になりかねん。

よし、これは俺はあいつが俺に恩を感じていると思っているという事にしよう。

その方が安全だ、俺の精神的にも周りの認識的にも。

さてこれ以上の考えはいろいろと俺が危ない。

そう思い部屋に入るとシャルロットがこちらに寄ってくる。

 

「ソウって織斑先生と仲がいいんだね。」

「まぁ…何だかんだで結構一緒に生活していた時期もあるしなぁ…まぁどちらかと言えば近所の姉さんみたいな感じだな。それも凄まじく怖いの。」

「ふぅん……」

 

少し機嫌が悪いな…やきもちか?

そこを指摘するとまた話が面倒になりそうだから気にせずに流そう。

 

「まぁとりあえず料理の続きをしよう。シャルロットも何か作るか?」

「うん、私も少しは手伝うよ?」

 

そう言って一緒になってキッチンに立ち料理を作り始めた。

俺は適当にいくつか料理を作る。先ほど千冬さんに渡した豚にキッシュでも焼けばいいだろう。

一方シャルロットが作っているのは恐らくポトフだろう。

そういやシャルロットの家で食った記憶があるな…なんか楽しくなってきたな。

俺はシャルロットと談笑をしながら料理を作り続けた。

料理を作り終えた後一緒に飯を食べる。

既に一夏には連絡済だ。箒、セシリア、鈴の三人組も一夏と一緒にいられるほうを選ぶだろう。

しかしあの三人を味方に引き込むことが出来ればかなり仕事は楽になるんだが…これはあまりにも欲張りすぎるか。

まぁ今は難しい事は無しにしてこの食事二人で自由気ままに楽しもう。

 

 

 

 

他人のように上手くやろうと思わないで、自分らしく失敗しなさい

                                  ~大林宣彦~




ということですこしずづですが答えが見えてきそうですね。
次回からどうなっていくのでしょう?
ということでまた明日ww

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