インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
理事長室を出てとりあえずその場を離れる。
今日はあと一体どうしようか……考え事をしながら歩く。
箒の訓練は今は出来ない恐らく今は一夏たちと訓練をしているだろう。
その間にも一夏の戦い方を見ておくように箒には言ってある。
一夏は今現在回避等は成長が微妙だがその他のところは普通に成長している。
ならばそれを覚えさせるのも一つの手ではある。
簪のデータ集め……って言っても現在荷電粒子砲のほうが忙しくアリーナにはこれないはずだ。
山嵐に関してもまったくめどが立っていない。
ならばラウラのデータ集め……と言っても今現在あのランベルトの動き次第だ。
最悪試合前までにVTシステムが取れればラウラに危険な橋を渡らせなくて済むし、時間にも余裕が出来る。
となるとデュノア社についてだがこれも今現在頭の中で整理中だ。
なんというかいくら考えてもデュノア社についてわからないことが多すぎる。
目的を考えてみよう。
まずは表向きのシャルロットへの命令。
・他の第三世代ISのデータ集めおよび男性操縦者のデータ集め
・情報を送るのは一ヶ月に一度
・男性として振舞う事
大まかに言えばこの三つだ。
この情報だけ見れば矛盾は無い。
だがデュノア社には時間が無いはずなのだ、それをふまえてみるとどう考えてもおかしい。
さらにこの程度の振る舞いで完全に男だとだませると思っているのか?
だとしたらよほどデュノア社はマヌケの集まりだと見える。
そう考えていると服が引っ張られる。
「うん?どうした。」
「……ソウ、ありがとうね。ここまで私のためにやってくれて。」
「突然どうした?」
「ううん、私のためにこの一週間いろいろがんばってたんでしょ?いざとなったら私の正体をみんなにばらしてもいいよ。そうすれば多分ソウは大丈夫だと思うから…」
「どういうことだ?」
シャルロットはうつむきながら話そうとする。
俺の不安が伝わったか?しまったな、表面上はいつもどおりのつもりだったんだが。
だがここで話し続けるのはまずいな……
「良し、シャル。一旦俺の部屋にいこう、そこで話そう。」
「……うん。」
突然ここまで暗くなっていったいどうしたんだ?
シャルロットを先導するように歩くとこいつは後ろを歩くようについてくる。
出来れば隣で歩いて欲しいんだが、これだと俺がお前に怒ってお前が落ち込んでるみたいじゃないか。まぁ途中人とすれ違うことはなかったからいいんだが。
とりあえず俺たちは俺の部屋へと向った。
部屋についてもシャルロットはなぜか落ち込んだままだ。
さて、とりあえずお茶でも出すか。
俺はシャルロットを椅子に座らせた後話しかける
「シャル、紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「…紅茶でおねがい。」
「あいよ。入れるのうまくないけどかんべんな。」
俺はあえていつものように話す。
向こうが落ち込んでいるからといってこっちまで暗くなっても仕方が無い。
そう考え俺はお茶と適当なクッキーを持ってシャルロットの所に向う。
「ほれ、適当に菓子も持ってきたからたべよ。」
「……うん。」
なんというか…今のシャルロットはどっか見覚えがあるぞ。
…ああ、あの指切りをしたときだ。
あの時もこいつこんな感じで何にも言わないで黙ってうつむいてたよな。
そう考えるとこいつ何にも変ってないな……
懐かしくて笑いがでてしまう。
それを聞いてシャルロットが不思議そうに顔を上げる。
「ソウ?……どうしたの?」
「いや、すまん。なんか懐かしくてさ。」
「…なにが?」
「今のシャルが。お前を見てたら指切りしてた時のお前を思い出して変らないなぁって。」
「どういうこと?」
「あの時のお前も黙ってうつむいて何も言わなくなってたじゃないか。今も同じ風だったからさ、やっぱり人間変わらないところは変らないんだなぁ、って。」
そうくすくす笑いながら話すと、しばらく不思議そうにしていたシャルロットはクスッと笑った。
「よく覚えてるね、私そこまでは覚えてないよ。」
「あの時のお前も何言ってもうつむいたままで何とかしようとこっちは焦ってたからな。」
と俺はしみじみ語るように、そしてそのまま続けざまに話す。
「それにあの一週間は俺の記憶にあるはじめて人間じみた生活を送った時間だったからね、忘れようが無いさ。」
「……ソウは何であの時私の家を出て行ったの?」
少し黙った後シャルロットはぼそぼそと聞き始める。
多分俺が記憶が無いって知った時に一番はじめに聞きたいことだったんだろうな、これ。
これは……正直に話すか。
「あの町にさ、なんというか若い犯罪グループみたいなのあったの知ってる?」
「うん、お母さんも心配してたから…」
「あの町にはじめてきたときにちょっと一悶着あってね、俺さ狙われてたんだよね。」
「……でも警察とか…」
「そしたら俺のことがばれて連れて行かれちまう、それにやっぱり俺のせいでシャルロットの家をめちゃくちゃにしてしまうって考えてらさ……怖くなったんだよ。」
「…どうして?」
「初めて俺が人間らしく扱ってもらえた場所が無くなるのがさ怖くて、何よりも俺のせいでお前やお前のお母さんが傷つけられる、その原因が自分にあるって考えたらもっと怖くなって…最終的に離れる事にした。必ずまた合いに行くって決めてさ。」
そういうとシャルロットはまたクスッと笑った。
「ソウも変らないね…なんというかいつも人の事ばかりで、一夏もそう言ってたし……それにお母さん心配してたよ、ソウのこと。」
「そうか…心配かけちまってたか…」
「うん…でもソウが居なくなった後もよく話に上がってたな…ソウのこと。」
「なんて?」
「…ヒミツ。」
そう言って顔をちょっと朱に染めながらくすくす笑うシャルロット。
ちょっとは調子が戻ってきたか…
「シャルロット…お前を守るっていうのは俺が勝手に決めて勝手にやってるだけだ。だからお前が悪いとかそういったのは一切考えなくていい。」
「ッ!!……でも私のせいでソウすごく大変そうだし…」
「そんなこと無いって。第一そんな事言ったらこの学園来てからずっとだぜ?一夏の面倒見ながら喧嘩の仲裁入ったり、クラスのまとめもほとんど俺だぜ?一応クラス委員長は一夏なのに。」
「…一夏も言ってたよ、ソウはずっとそうやってきたって。だから今回も大丈夫だって。」
一夏の奴…他になに言ったんだ?
変なこと言ってなきゃ良いんだが……
「他になんていってた?」
「自分を助けるために無茶した時のことや…この学校に来てからセシリアに馬鹿にされながらも仲良くなるためにいろいろしたり、乱入者が現れた時もいち早く気づいて観客の事を守ることを第一に考えたりしてたって聞いた。」
「……他には?」
「…誰にも言うなって言われたけど簪って子のIS開発を秘密裏に手伝ってるとも聞いた。」
あいつ、勝手に話しやがったな……軽く注意だけはしておこう。
その後にシャルロットは顔をまた伏せ小さな声で話す。
「ねぇ……私を助けたのもそれと一緒?」
「……ちょっと違う。」
「…どういうこと?」
「そのときはどちらかといったら『誰かのため』に…って考えながら助けた、一夏のため、セシリアのためって感じにな…シャルロット、お前の場合は俺がどうしても助けたいから『俺自身のため』にお前を助けた。」
そう言って笑顔を向けてシャルロットの頭を撫でる。
「だからさ、そんなに暗い顔するなよ。俺の調子が狂っちまう。」
「…うん、わかった。」
そう言ってうつむいたまま小さい声だが確かにしっかりと返事をするシャルロット。
よし、と思いながら話を変える。
「しかし一夏、話すなと言ったことを平然と話しやがって…後でいろいろいじってやろう。」
「あはは、でも許してあげてくれないかな?私に自分を信用させるためにこっちの秘密をいくつか言うって言ってそれのせいだから。」
「そうなのか…仕方ない、いじるだけで済ましてやろう。」
「…変ってないよ、それ。」
そう言うシャルロットの顔は少しは明るくなった。
「それもそうか。でもシャル、お前思ったよりも一夏と仲良くなるのが早くてよかった。…お前今日の朝間何話してたんだ?」
「え?な、何のこと?」
「いや……まぁいいか。」
隠しきれてないがここで聞いても答えないだろう。
そう考え俺が追求するのをやめるとシャルロットは安心し、ため息をつく。
だが甘いな、シャルロット。答えないなら
そう考えた後に話を変える。そろそろシャルロットからもデュノア社について聞かなければ。
先ほど言っていた『自身のことをばらしても俺は無事ですむ』の意味も聞きたい。
しかしこの状態のこいつから聞くのは少しばかり…いや、かなり気が引ける。
さてどうしたものか……そういえば今朝一夏からの頼みでこいつを部屋に泊めるんだったな。
今ようやく思い出した、ならばこれで行くか。
「シャルロット、今日お前は俺の部屋に泊まる事になっているよな?」
「え!?…う、うん!!」
「だったら晩飯ここで食わないか?なんか作るからさ。」
「え?ここで?」
「そう、ここで。」
「うん!!そうしよう!!」
と元気になりこちらに顔を近づけるシャルロット、扱いやすくてありがたい。
さてこうなれば適当な材料で飯を作ろう。
しかしいまさらだがここの寮のキッチンの設備はすごいな…
これが使いたい放題でさらに全室にあるとは……それだけIS操縦者が優遇されているということなのだろう。料理を作る側としてはありがたいことである。
さてその前にだな……
「じゃあシャルロット、一旦自身の部屋から必要なものとって来い。一々取りに行ってたら一夏も落ち着かないだろう。」
「わ、わかった、すぐ戻ってくるから。」
「急がなくていいから一々取りに戻らなくてもいいようにしろよ。」
そう言って部屋を出ようとするシャルロットを笑顔で見送る。
その後結局走るように去るシャルロットを見送った後俺は料理の準備を始めた。
シャルロットが部屋を出てから約20分後。
ゆっくりでいいとは言ったが、いくらなんでも遅すぎじゃないか?
そう考え迎えにいってみるかと考えた時に部屋のドアを叩く音がした。
<―ココンッ―>
シャルロット…いや、このドアを叩く音…
さらに人の気配が最低でも二人居る……
誰かわからないが…いや、このノックの仕方はまさか…
「織斑先生ですか?」
「……そうだ、開けろ風音。」
やはりそうだった。
ドアに向かい部屋を開けると千冬さんとシャルロットがそこに居た。
「あら、お二人でどうしたんですか?」
「少し前に丁度デュノアと会ってな、丁度いいから一緒に行動していただけだ。」
そう言いながら千冬さんの顔はわかる人にしかわからないが少し楽しそうだ…
そしてなぜか俯き気味のシャルロット…
なんか急激に嫌な予感がしてきたのだが…
というかシャルロット、お前荷物多すぎじゃない?
………まさか!?
「先生、少し聞いてもいいでしょうか?」
「その前に伝えておく事がある。風音、今日からお前はデュノアと同室だ。」
……いや待て、それはおかしいぞ?
「先生、僕は国際会議上、誰とも同室になれないはずでは!?」
「ああ、そのとおりだ。」
「だったら―「だがデュノアはお前のことを国に密告する事は出来ない上に、他の人物との交流も無い。それともデュノアが今になってお前を裏切ると?」……」
そういうとこちらを上目遣いでみるシャルロット。
見えない事にしよう。
しかし…畜生、そう来るか!!
「ですがルールはルールでしょう。俺に同室の人物が居ると知れた―「そこは楯無の奴が協力していてな、外部からほぼばれることは無い。内部だろうとばれて困る相手やお前が言い訳できない奴が近くにいるのか?」……」
……たっちゃん生徒会長、あんた優秀すぎやしませんか?
だがまだだ、まだ諦めん!!
「ですが書類じょ―「そこはいまだにデュノアは織斑と同室とされており問題は無い。私も許可したしこれは理事長が指示されたことでもある。」……」
「え~っと…理事長が?」
「そうだ、『私との会話すら利用するのはいい発想ですが、その仕返しを想定していない訳ではありませんな?』これが理事長からの伝言だ。」
あのたぬき親父、やりやがった!!
確かに利用したかって言われればそのとおりだが、こういう仕返しは想定していなかった…
もっとこう、『自身の計画の手伝いしろ』とか『生徒会に入れ』とか『お前のデータを取らせろ』とかそういうのだと思ってそれの対策は考えていたが……
その時、頭に思い浮かんだのは楽しそうに高笑いをする楯無と轡木理事長の姿だった。
反論のしようが無く、がっくりと肩を落とす俺を見て千冬さんは満足げだ。
「どうだ?まだ何か言いたい事はあるか?」
「……いいえ…ありません…」
「そういうことだデュノア。書類上、貴様はまだ織斑と同室だがこれからは風音の部屋で生活してもらう、いいな。」
「ハイ!!」
二人とも楽しそうですね…
「シャルこれからよろしく……織斑先生話があるんですけどいいですか?」
「うん、よろしくソウ。」
「…何の話だ?」
「ボーデヴィッヒさんについてです。」
「…部屋に入るぞ。」
「了解しました。」
そう言って千冬さんとシャルロットを部屋に入れる。
千冬さんは椅子にシャルロットは奥の普段使っていないベットに座る。
さてどこから話したものか……
千冬さんに話せる事は今の所『ランベルトからいずれ連絡が入る』と言った程度だ。
あともう一つ伝えておきたいのは俺とシャルロットの関係だ。
誤解されたままでは困る。
「さて、織斑先生。ボーデヴィッヒさんについてですがもう少ししたら恐らくランベルトさんから連絡があると思います。」
「ランベルト?………ドイツ軍の外務担当者か。」
「ええ、多分後一週間以内に連絡があると思います。それからでいいのでボーデヴィッヒさんについての情報もらってもいいでしょうか?」
「……奏、どうやって許可を得た。」
「頼み込みました。何回も本気で頼めばわかってくれるものなんですね。」
俺が笑顔でそういうと千冬さんはじっと俺をにらむ。
「……それで通せると思うか?」
「…駄目でしょうか?」
にが笑いをしながら言う、一方千冬さんはにらんだままだ。
もし千冬さんに理由を説明するなら『VTシステム』についても言わなければいけない。
この情報を渡しても千冬さんは動けない。そしてその情報を知ればかなり彼女は悩むだろう。
ならば最初から知らなかったとした方がいいだろう。
「スイマセンが話せないんですよ、ご勘弁を。」
「……いいだろう、だが後でしっかり説明してもらうぞ。」
「そこは了解しました。後先生、僕とシャルロットの関係聞きました?」
「いや聞いていない。なんだ、またお前が勝手に助けに動いただけじゃないのか。」
そう言って少しだけ驚く千冬さん。
あはは…と笑いながら頬をかく。
「いやぁ…ホームレス時代に助けてもらった恩人なんですよ。」
「……本当か、デュノア?」
そう言ってシャルロットに顔を向ける千冬さん。
シャルロットのほうは俺と同じように少し困ったように笑いながら話す。
「そう言っても一週間だけ一緒に暮しただけですけどね。」
「………この際だからお前がこの学園に来た理由を聞いてもいいか?」
そう言って千冬さんはシャルロットに鋭い目を向ける。
恐らく始めから聞くつもりだったんだろう。
しかし俺に一度話したとはいえ、話しづらいことには違いあるまい。
気になってシャルロットを見ると彼女はこっちを見ていた。
「……俺から話すか?」
「ううん、自分で話すよ。」
そう言ってシャルロットは自身の身の上を話し始めたのであった。
人生では無理はいつかほころびてしまうものだ。
~中村真一郎~