インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第四十話 化かし合い

放課後、俺はシャルロットと共に理事長室へと案内された。

はじめは千冬さん相手に

『話したいことがある、この学園にとってもかなり危険な事なので出来れば直接上の立場の人に言いたい』

といったところ、ここに連れて来れれたのである。

正直いきなり理事長室に連れてこられるとは思ってもいなかったのだが……

緊張だけは顔に出さないように気を引き締める。

シャルロットが緊張していないか見てみるが予想外にまったく緊張しているようには見えなかった。ただ少しだけだが何か考えているな、これ。

部屋の中には現在千冬さんと山田先生。後は俺とシャルロットのみ。

さて、あとは理事長の到着を待つだけだな。

と思っていると千冬さんが声こちらにをかける。

 

「かなり重大でそれでいて緊急性のある話とはいっていたが……なぜデュノアそこにいる。」

「いやぁ…ちょっとした理由がありまして。」

「……どういうことだ?」

「それは理事長さんが来てからで良いでしょうか?」

「……わかった、しばらく待て。今こちらに向っているはずだ。」

 

そう言って千冬さんは話すのをやめた。

沈黙のまま5分ほど時間が過ぎると清掃のおじさんが入ってきた。

何度か会った事があったな……名前を聞いた事は無かったけど。

先生方の顔を見るとかなり驚いている。

どういうことだ。

 

「おや。君は噂の風音奏くんじゃないか?こんなところで一体どうしたんだい?」

「いや~怒られる様な事をした記憶は無いんですが…連れてこられました。」

「おやそれはひどい事もあるもんだね。」

「本当ですよ。」

 

と言いお互いに『はっはっは』と笑う。

それを見て千冬さんは頭を抱え山田先生は固まっている。

シャルロットは何が起こっているのかもわからずポカーンとしている。

この反応を見るにこの人が俺の話を聞くのか。

 

「さて自己紹介をしてもいいでしょうか?理事長殿(・・・・)?」

「おや、……既にばれていたのかい。」

「いえ?カマかけですよ。」

「おや、それは一本取られたようだ。」

「お、やった先取点はいただきました。」

 

そうやってまたお互いに笑い合う。

このじいさん、笑いながらこちらを観察してるな…

間違ってもマヌケでは無いだろうし恐らくたぬきの部類か。

下手を打ったらひどい目に遭うのはシャルロットなんだ、このたぬきに化かされないように気合を入れねば。

 

「僕の名前は風音奏、こっちのほうは…理事長先生の方がご存知では?」

「おや、自己紹介はなしかね?そいつは残念だ。」

「話の流れによりますかねぇ…さて本題、ここにきたのはちょっと先生のお耳に入れたいこととお願いしたい事がありまして。」

「ふぅ…こんな老いぼれにできることなどたかが知れてるがね。」

「こんな若造を助けると思って、そんな事言わずに。」

「はっはっは。君は乗せるのがうまいようだね。」

「先生がお上手なだけですよ。」

 

こっちに乗りながらも尻尾は見せてこないか。

そんな具合にやっていたところ、とうとう千冬さんからの指導(物理)が俺に入った。

頭への拳骨一発、視界がかなりぶれた。本当にいてぇ……

 

「風音…お前はここに何をしに来たんだ?」

「イエス、マム。今すぐ話します。」

 

俺は真面目な顔をして理事長に話し出す。

 

「先生…今回の話というのは織斑先生の指導の破壊りょ――スイマセン千冬さん!!冗談ですからその手を下ろして!!お願いします!!」

「………次は無いぞ…」

 

マジで恐ろしい顔してるよ、千冬さん。

一方理事長を名乗るこの男性、まったく動じずに笑っている。

さて向こうはどう動くかな?

 

「いや、君は本当に愉快な人だね。」

「お褒めいただきありがとうございます。」

「では私も自己紹介から行かせてもらおうか、私の名前は轡木 十蔵。この学園の理事長をやらせてもらっている者です。」

「あれ?入学式では女性が理事長だったと思ったのですが…」

「アレは私の妻でね、二人で理事長をやらせてもらっているのだよ。…では私の耳に入れたい事とは何かね?」

 

さっきまで笑っていた気のいいおじさんが今じゃかなり貫禄を感じる老紳士に変っていた。

さて……こっからが本番かな。俺は笑顔で話し始める。

 

「えっと、篠ノ之博士に関しての新しい情報を手に入れました。」

「!?なぜお前がそんなことを!!」

「それについての理由は後で話します。大切な事はこの後です、『亡国機業が篠ノ之博士にコンタクトを取りました』。」

「ほぅ……亡国機業がねぇ…だがそれがどうしたと言うのだね?」

 

そういって俺に笑いかける轡木理事長。

このじいさん、あからさまに圧力かけてくるな…

さてこっからが本番だ。

 

「いえ、生徒の一人として心配になって連絡しただけですよ。そんなことになったら恐ろしくて仕方ないですしね。」

「何が怖いと言うのかね?ただ単に取引をしたと言うだけで。」

「その取引内容が無人ISだとしたら?」

 

俺が真面目な顔をしてそう告げる。

シャルロットは聞き覚えの無い話が出てきたが何も言わずに聞いている。

ただ向こうの顔色は微妙にだが変る。

 

「この前の無人ISの襲撃。アレの記憶は新しいと思います。」

「ああ、その危険性も十分承知しているよ。」

「アレがもしかしたら篠ノ之博士のものではないかという事は?」

「一応織斑先生から聞いてあります。たしか…君がそう言っていたんではなかったかな?」

「ええ、ではそれを亡国機業がそれを取引で手に入れた後にばら撒くとしたら?世界各国にいる現状に不満を持つものに渡されるとしたら?もう怖くて怖くて仕方ありませんよ。」

 

誰も反論は無い、どうやら俺の言いたい事を理解してくれたようだ。

口に出してはいないがあの無人ISの危険性は十分先生がたも理解したはずだ。

そして同時に誰だって解るはずだ、アレがどれほど金になる(・・・・・・・・・・・)かということも。

倫理観も無くただ金を求めるのならアレの存在はまさに金の卵を産む雌鳥だ。

仮に売り出されたとしたらとてつもない富を手に入れるだろう。

それだけでない、無人ISと言う事は材料とコアだけあれば大量に生産も可能、裏切る事も無いある意味最強の軍隊も作れる。

無人IS、それは今の世界では確実に公開してはいけない技術なのである。

それに対して注意を発する、この程度の事をするだけでどれだけのリスクが抑えられるか、その程度どんな人間でもわかるだろう。

 

「君の言いたい事は十分わかった。ではこちらのほうで対策をさせてもらおう。」

「それは一安心です、あ、この情報ですが亡国機業の方からコンタクトを取ってきたんですよ。なんというか……スカウトされたといえばいいんでしょうか?電話番号がそのたびに変るのでこちらからはコンタクト取れませんけど。一応証拠としてその部分だけは録音できてますよ?」

「そういうことなんですか、では後でそれをいただきましょう。おっと、それとお願いとはなんだね?それが君にとって本題だろう?」

「簡単です、こいつの事を守るために結構無茶することになるんですけどIS学園側からの許可をいただきたい。」

 

俺がシャルロットへ向き話す。

そういう風に言うと山田先生は首をかしげ、千冬さんは何を言っているのかわからないといった風に顔をしかめる。

ただこの理事長だけはわかっているようで顔を笑わせる。

 

「無茶ですか…しかし彼女についてはすべて生徒会長に一任しているのですよ。」

「既に一ヶ月の猶予はもらってあります。」

 

そう俺が口に出すと理事長は少し驚く。

俺が既に楯無に接触している事に驚いたんだろうか?

話を進めようと考えるとその前に千冬さんが介入してきた。

 

「……理事長、今『彼女』とおっしゃいましたか?」

「ええ、確かにそういいました。」

「……奏、どういうことだ?」

「シャル、自己紹介頼んでいいか。」

「………うん、先生。僕の、いえ、私の本名は『シャルロット・デュノア』。…私は本当は………女です。」

 

そういうと山田先生は完全に固まり動かなくなり、千冬さんは頭を抱え、理事長は楽しそうにしている。

頭を抑えながら千冬さんが話す。

 

「……理事長、あなたはご存知で?」

「もちろんですよ、解っていて入学させました。」

「……奏、お前は何時から気がついていた。」

「会った当初から解ってました。」

 

本気で頭を抱える千冬さん。

なんというか……スイマセン。

 

「今まで言えなくてすいません。ですがこいつを守れる確証も無いまま先生に話すわけにはいかなかったもので。」

「ということは今は確証があるので?」

「いえ、ただ最低限、守る段取り程度は出来ています。」

「そうですか………仮に私が許可できないといったらどうしますか?」

 

と言ってこちらに笑いかける理事長。

俺も真面目な顔をやめて笑顔で返す。

 

「そうですね……泣いて土下座でもするしかないですね…なんなら靴でも磨きましょうか?」

「出来れば肩をもんでくれたほうがうれしいのですが、最近どうも厳しくて。」

「それくらいならお安い御用ですよ。では?」

「ええ、学園側として風音くん、君の行動を許可します。ただあまりにもめちゃくちゃだとかばいようがありませんからね?そこは了承してくださいよ。」

「ハイ解りました、ありがとうございます。では自分はこれで。」

「ええ、お気をつけて。」

 

そう言って部屋を出る。

最後の最後まで食えない爺さんだったな。

これ以上話せばこちらがボロを出しかねない、正直何時ぼろが出るか解らない化かし合いなんてごめんだ。しかし多分この考えも向こうには見抜かれているんだろうな…

そこら辺は気にしても仕方がないか

そう考えながらシャルロットを連れて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長、本当に良かったので?あいつが無茶をするといえばとことんやりますよ?」

 

奏の居なくなった後の理事長室で話し合う三人。

千冬が懸念している事はあの風音が自身から無茶をするといっているのだ。

本当に凄まじい事をやりかねないことを千冬は知っていた。

だが一方理事長は笑顔でこれを返した。

 

「大丈夫ですよ。彼はそこまで人に迷惑をかけるひどい人間では無いでしょう。それに最低限度守る手段とは、最後の砦として私のことを利用する気ですよ彼。」

「どういうことですか?」

 

今まで固まっていた山田先生が話す。

今聴いた限りの内容では奏はただ理事長に頼んでいただけだ。

だが理事長には違ったように見えていた。

 

「いえ、シャルロットさんの前で彼は言わなくてもいいような情報を言い続けた。あそこまでいろいろ知られてしまっては(・・・・・・・・・・・・・・・・・)この学園から追い出すことは難しいですね、仮に彼が失敗して彼女をここに置けない、となったら恐らく彼はそれを利用させて彼女だけはここに居られるようにするつもりでしょう。」

「……そこまで考えてあいつはシャルロットを連れてきたというのですか?」

「さぁ?そこまでは解りませんが結果的にそうなってしまったのは事実ですな。」

「理事長はなぜデュノアを入学させたので?男の振りをして入ってくるなんてどう考えてもスパイなのでは?」

「そうなんですよ、おかしすぎて興味を持ってしまいまして。その謎を風音君が解き明かしてくれる事を期待してるんですよ、私は。」

 

本当に楽しそうに笑う理事長を見て教員二人はため息をつくのであった。

そして真耶はふと思い出したようにはなす。

 

「しかし、あの風音君。なぜあそこまでデュノアさんのことを気にかけるか解りませんね。」

「……そういう奴なんですよ。見知らぬ誰かの身代わりになるような奴です、あいつは。」

 

そう言って頭を抱える千冬。

あいつは既にボーデヴィッヒについても何かやっているはずだ、それと同時にデュノアの事をやるなんて、どこまで背負い込む気なのだろうか。

 

「理事長、デュノアの件ですがいかがいたしますか?」

「そうですね…対応等は今までどおりにしましょう。問題が起きていないという事は恐らく彼の方で何かかしら対応はしているのでしょう。そういえば彼女の部屋は今誰と相部屋になっているのですか?」

「現在は私の弟の織斑一夏と共にしてあります。」

 

もしかして一夏もこの事に関わっているのでは?

と思ったがあいつの場合気がつかない可能性もある。

そう考える千冬。どちらにしても面倒な事に巻き込まれていそうだった。

いや、あの二人なら既に一緒に動いているだろう。

そう考えるとますます頭が痛くなる。

一方理事長の顔を見るといまだに楽しそうに笑っていた。

 

「そうですね……ちょっと提案があるのですがよろしいでしょうか?」

 

そう言っていたずらをするように笑う轡木。

それをみて無茶を言われるのでは?と身構える二人であった。

 

 

 

 

現状維持では 後退するばかりである。

                          ~ウォルト・ディズニー~




ということでVS理事長でした。
こちらの方が押しているように見えるかもしれませんが
結果的には
理事長⇒マイナスなしで情報ゲット。奏の人柄もわかる上に対策を考える時間も手に入れる。
奏⇒ただ許可をもらい向こう側がこっちをどこまで知っているか解らず。情報渡すから見逃せよ?
というほぼ敗北です。
ぶっちゃけどこまでがんばってもこの方々には勝てませんww
ということでこちら考えとして被害を最小限にするために先手を打った感じですね。

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