インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第三十九話 軍人交渉

俺がスコールからの電話を受けたあと1週間後の夜。

予定上は今日には向こう側からの連絡があるはずでそれを待っていた。

まぁ仮にこのまま放置されたとしてもほとんど問題は無い。

ドイツ側、いや『ランベルト』と交渉する時の手札として既に

『VTシステム』と『亡国企業がそれを狙っておりデータはほぼ抜かれている』

という事態を伝える事ができる。

前者はほぼ見せ札だ、俺がそれを知っているぞ?といった脅しといってもいい。

しかし最終的にはどのような事態になっても両方の情報は知らせる。

そこを見抜かれなければ良いんだが…と考えながら連絡を待った。

 

しかしたった一週間でもかなり疲れた。

一夏が協力者になった事はすぐさまシャルロットは納得してくれた。

だが問題はシャルロットは確かに話し方や身の振るい方は上品な男性のそれに近いが、考え方にいたっては女性と何等変らない。

そのたびに俺が茶化したり庇ったりしていると……俺のホモ疑惑が広まり始めた。

広まっているのはごく一部というかそっちっけの趣味の人だけではあるのだが…いい気はしないな。一夏もホモ疑惑をかけられていたときはこんな気持ちだったのか…ネタとしても控えるようにしよう。

 

だがこれでわかったこともある。

『デュノア社は本気でシャルロットをスパイとして送り込んだわけではない』

送り込んできた男装したこいつがこの程度ならすぐにばれる事は十分承知できるはずだ。

しかも時間稼ぎとして送り込んだとしても、その情報を世界に発信してすら居ない。

世間一般ではいまだに男性操縦者は俺と一夏の二人のみ、シャルルの存在はいまだに公表されていないのだ。

これはデュノア社が『男性操縦者のデータを持っていないから』と言った可能性もある。…がだとしたら一刻も早くシャルロットから情報が欲しいはずだ。

だが『シャルロットが情報を送るのは一ヶ月に一度』と決められているらしい。

これではシャルルの存在が時間稼ぎにもならない。

しかも仮にデュノア社長がシャルロットのことが邪魔で仕方なくこちらに送ったとしたら。

ならば男性としておくる意味が無い。

公表するならまだしも公表する気が無いなら始めから女性として送り込めば良い。

ここまで来ると『どこか』おかしいではなく『すべて』おかしい。

それについて楯無からの情報はほとんど無い、不気味なほどに外部からの介入が出来ないのだ。

もし探るとしたら本格的にことを構える覚悟が居るらしく割に合わないらしい。

さてこうなってくると本格的にスコールの情報が欲しくなってくるが…

 

と考えていると携帯に連絡がある。

見ると膨大なデータと共に見知らぬアドレスの相手からの連絡がある。

さて、では開いてみるか…と思いデータを開けると目に付いたのは三つ

 

・デュノア

・VT

・ラブコール

 

………一つ目と二つ目は良いだろう、ありがたい。

これで彼女が契約を守る人間だという事もわかった、だが最後のこれはなんだ?

俺は二つのデータを開けるより前にラブコールを開いた。

中には音声が録音されておりますます嫌な予感がしてくる。

恐る恐るだが俺はそのファイルを開く。

 

『ハ~イ、私のカザネ。一週間ぶりね。おかげで私の欲しいものは何とかなったみたい。ありがと。今度はこちらから会いにいくわ、最後に私に勝った御褒美を上げましょう。私からのあなたへのご褒美は……VTシステムは無くなるわ、あと福音に気を付けなさい。それだけよ。じゃあね、バァイ。』

 

そう言って音声データは途絶えた。

下手なメリーさんの電話よりも恐怖である。

VTシステムは無くなる……これは恐らく破壊工作を進めるといったところか?

そして最後の福音………おそらく銀の福音のことだろう。

なるほどこの時点で既に亡国機業は銀の福音のデータを持っていると同時に抹消させるために動いていたのか……ある意味この音声データも使えるな。

だが…これを誰かに聞かせるのはいやだな。なんというか…関係を疑われそうで身震いがする。

そしてその後デュノア社内部についてとVTシステムに関連するデータを見る。

デュノア社内部については以下の事がわかった。

 

・社内は現在大きく荒れており開発どころの状況ではない。

・早急に第三世代ISを開発しなければ援助の打ち切りとISの開発権の剥奪が決定している。

・現在、経営責任として社長おろしが進んでいる。

・社長が現在会社の6割を上層部に奪われている。

・そのうち3割が反社長派であり残りの3割は風見鶏である。

・現在風向きは完全に反社長派であり風見鶏の大半はこちらについている。

・社長が現在社内のコントロールを取り戻すのはほぼ不可能である。

 

……こりゃもう一度シャルロットに詳しく話を聞かないとな。

だが大体向こう側の状況との交渉の糸口はみえたな。

一方VTシステム関連だが眺めるだけで正直胸糞が悪くなった。

 

・研究は現在も持続中。

・VTシステムに関しては現在パイロットに知らせずに複数のISに搭載されている。

・有事時の対処として発動した場合パイロットの死亡まで解除は原則できない。

・トカゲの尻尾きりの準備は出来ている。

・軍内部でも秘密裏に動いている。

 

大まかに分けて言うとここら辺が交渉に使えるだろう。

胸糞悪くなる原因、それはここでのラウラの記載のされ方だ。

基本的な書き方で『廃品』『モルモット』と言った書かれ方。

ただの資料でここまでなのだ、実際はどんな扱いをされていたというのか…

そして彼女に関してのみVTシステムの発動設定が甘めなのである。

いわば発動してもそれほど強いわけでもないが解除は出来ず、ラウラの死後VTシステムを搭載したのはラウラの独断であるとされるのだ。

仮にも彼女は部隊長のはずだ、それがなぜここまでの扱いをされなければならない。

それを含めて聞かなければいけないことが増えたな。

同時に書類でのこの書き方、恐らく軍部の一部の独断だろう。

でなければもう少しまともな書類になるはずだ。

そう考え俺はようやくランベルトへと電話をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰だ、この電話番号は知らない相手には教えてないのだがね。』

「スイマセン、僕です、風音奏ですよ。お久しぶりですランベルトさん。」

 

電話に出たときの彼ははじめ不機嫌そうに俺に声をかけるが相手が俺だとわかるとかなり声が柔らかくなる。

 

『ああ、君か。こんな時間にどうしたというんだね。』

「早急にあなたに知らせなくてはいけない事がありまして……いま話しても大丈夫ですか?」

『……わが国の代表候補生についてならすまんが私の管轄外だぞ?』

国そのものに被害をあたえかねない(・・・・・・・・・・・・・・・・)情報です。」

『どのような情報かね、それをどこで?』

「…それを含めてお話したいのですが大丈夫でしょうか?」

 

ランベルトは少しばかりの時間黙った後に電話を切った。

これで折り返すように電話が来れば良いんだが……

そうしていると俺の携帯にまた着信がある。

急いででると電話の相手はランベルトだった。

 

『今の状態なら傍受はされない、話してみろ。』

「では…ドイツでVTシステムの研究をしている情報を手に入れました。」

『……今自分が何を言っているのかわかっているのか?』

「…ここ一週間以内にドイツ軍がハッキングを受けた事は?」

『ない…と言いたいが私にははっきりといえない。』

「篠ノ之束がVTシステム、それを邪魔に思っています。」

『……次は篠ノ之博士がでた来たか…情報はどこから?』

「……亡国機業。」

『……なぜそれと君がパイプを持っているのかね?』

「向こうから連絡を取ってきて一方的に伝えられました。僕では判断がつかない上に本当だったらドイツが危ないと思い電話を。」

 

とりあえず伝えたい事はすべて伝えた。

後は彼が信じてくれるかどうかだ。

 

『……証拠はあるのかね?』

「あちらから渡されたデータを今僕は持っています(・・・・・・・・・・・・・)。ここまでいえば信じてもらえますか?」

『……データをこちらにもらえるか。』

「はい、良いですよ。」

『……要求はなんだね?』

「…強いて言うならラウラ・ボーデヴィッヒの情報をいただきたい。でもいただけなくてもデータは渡しますよ。」

『それはどういう意味かね?』

 

疑いが声に乗るランベルト。

まあ普通ここは強気で押すところだろうがあいにくもう目的はほとんど達成しているんだ。

俺の目的、それは彼女からVTシステムを切り離すこと。

それさえ出来ればラウラ・ボーデヴィッヒの情報などほとんど要らない。

 

「単純に恩返しですかね。あなた方のおかげで今僕がここにいれるっていっても過言じゃないんで。」

『……交渉で信頼や恩という言葉は意味が無いぞ?』

「僕は始めからあなたに情報を渡すために電話をしただけですし、交渉なんてする気は無いですよ。それに僕はこのデータをもらっただけで本物かどうかの判断つきませんし。あ、ただラウラ・ボーデヴィッヒの情報が欲しいのは本当ですね。」

 

そう軽い口調で話す。

実際はこの俺が教えた場所から盗まれたもので、さらに俺の記憶からVTシステムの開発は決定している、いわば始めからこれは本物だとわかっている状態なのだ。

さてこれでこの言葉を信用してもらえれば良いだが。

 

『……ブリュンヒルデに伝えろ【カザネソウにはボーデヴィッヒに関するすべての情報を伝えても良いとな】彼女が持ちえる情報なら君に伝えても良い。なんなら私から電話しておこう。』

「ありがとうございます、では情報を今から送ってその後は削除します。データはどう送れば?」

『メモはあるかね?今から言うところにおくってもらえれば大丈夫だ。あとこの話は内密に。話したら身の安全は保障できんぞ?』

「解りました。では。」

 

そう言って電話を切り言われた住所にメモリーカードを送る。

この時代にアナログか……データ上のやり取りよりは安心できるのかな?後は向こうが動いてくれるのを待つだけだ。

 

さてそろそろラウラについては終わらせたいところだが……

そうなると次の相手はIS学園と、史上最強の女か…気が重くなる。

しかしこんな体になってまで交渉のまがいごとをやらされるとはな。

現実世界でも……あれ?現実世界でこういうことをしていたのだろうか?俺は。

いや、普通の一般市民がこんな事を…こちらに来たときに身についた才能か何かか?

それとも俺の生まれ持っての才能なんだろうか?

まぁ今は使えるものは何でも使わないと。そう考え俺は次の話し合いの準備をした後に眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺が朝食を食べていると一夏とシャルロットが近くに来た。

一夏とシャルロット、両方とも目にクマを作っている。一体何があったというんだ?

 

「おはよう、二人ともお疲れみたいだがどうした?」

「……奏、一晩だけで良いから俺を一人にしてくれないか?」

「…昨日何があった?」

 

そういうとシャルロットが頬をかきながら俺の耳元で話す。

 

「え~っとね…一夏が三人に嫉妬されて……昨日なかなか自身の部屋に帰ってくれなくてね…」

「了解、把握した。」

 

簡単な話である。

俺がホモ疑惑をかけられるのと同じくらい一夏もそれを疑われているのだ。

その程度ならいいのだろうがあの三人が嫉妬しているのか……

頭の中で解っていても感情は別と言った感じか…まぁわからないでも無い。

 

「よし、じゃあ今日はデュノアはこっちに泊まれ。」

「本当か!?良いのかよ奏!!」

「え!?…わ、わかった!!」

 

お前の期待する様な展開は無いぞ、シャルロット。

まぁ、今日うまくいけば千冬さんの協力は得られるしな。

 

「ちょっくら覚悟を決めたからな。」

「え?何の?」

「後で話す。デュノア今日放課後に少し付き合ってもらって良いか?」

「うん、頼んだよ、ソウ。」

 

さてこれで逃げ道はなくなった。

後は突っ込ませてもらいましょうか。

覚悟を決め気合を入れていると一夏が何か首をかしげている。

どうしたんだ?一体。

 

「どうした?一夏。」

「いや、なんか奏がデュノアって呼んでるの聞いて違和感があってさ。」

「…ソウは僕のことは名前で呼ばないよね。」

「………気をつけないとそのまま名前を言っちゃいそうでね。」

「「あ~…」」

 

と納得する二人。

なんというかシャルルと呼ぶときにいまだにシャルロットと呼びそうになるのだ。

慣れればいい話なのだろうがそれならデュノアと呼んだほうがどちらにしても問題は無いはず。

その時一夏がふと提案をする。

 

「じゃあ呼び方を変えるか?」

「うん?どういう意味だ。」

「いや、単純にシャルル、じゃなくてシャルなら問題無いいんじゃないか?」

「あ、それ良いかも、…シャル。どうよ、こんな感じで。」

「う、うん!!それで良いよ!!」

 

とうれしそうにするシャルロット。

その後一夏とこそこそ何か話しているな。シャルロット、そいつに何を吹き込まれているんだ?

とくだらない事を考えながらふと一夏に話しかける。

 

「そういや最近ボーデヴィッヒさんはどうよ?」

「一切こっちに絡んでこないな。多分千冬姉から注意されたんだろうよ。」

 

それなら良いんだが…なんと言うか嫌な予感しかしないな。

彼女に関してはかなり難しい。

まず俺の持っている記憶の彼女は大半が一夏と仲良くなった後の彼女なのだ。

使えそうな記憶は『千冬さんを尊敬している』ことと『VTシステム』。

このくらいだ。

いわば彼女自身についての情報はほとんどわからないと言ってもいい。

だが俺はあの子の笑顔だけはしっかりと覚えている。

今は何も信じられずすべてを拒絶しているあいつがあそこまで笑える未来があるんだ。

それならば全力であがいて手に入れる価値は十二分にある。

飯をかきこみ授業の準備をする。

今日の本番は放課後だが途中の授業も気が抜けないのだ。

……俺はテストは大丈夫なのだろうか……ちょっとだけ心配になるのだった。

 

 

 

 

 

自分が行動したことすべては取るに足らないことかもしれない。

しかし、行動したというそのことが重要なのである。

                             ~マハトマ・ガンディー~




ということで次回VS『IS学園』ですね
なんでIS書いてて内政物みたいなことしてるんでしょ?
作者にも不明ですwww

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