インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第三十七話 ラプンツェル

夕飯を食ったあと俺は自身の部屋でベットに座って考えていた。

恐らくこれから来るデュノアは自身のことについて語るのでは?

まぁ語らなかったとしても俺が話させる。

そして聞ける限りの情報を聞かなければ。

 

<―コンコン―>

 

とドアを叩く音がする。

少し早いがそろそろ約束の時間だな。

そう考え俺は部屋のドアを開けるとそこにはなぜか箒が居た。

 

「おう、箒どうした?」

「……奏、ちょっといいだろうか。」

「うん、どうした。」

「……」

 

と聞いたが答えは無い。

ここで追い返すのは考えられんし何より箒には簪の手伝いもしてもらっているのだ。

相談くらい受けてやろう。

 

「ここじゃ話しにくいなら中で話すか?」

「……すまない。」

 

そう言って箒を部屋にいれ椅子に座らせる。

さてこいつは何を悩んでいるんだ。

 

「さて、箒。一体どうした。」

「……」

 

何か悩んでいるか解らなければ相談に応じようが無い

適当にいろいろ言ってみるか。

 

「……部屋が一夏と一緒じゃなくなった事か?」

「…違う。」

「新しいルームメイトについてか?」

「違う。」

「一夏がシャルルと一緒にいることに関してか?」

「違うんだ…奏。」

 

さて、じゃあ後はなんだろうか。

次に箒の吐き出した言葉に俺は自身の耳を疑った。

 

「……トーナメント試合で私が一夏に勝ったら私と付き合ってくれと言った。」

「…………誰が?」

「…私がだ。」

「………一夏に?」

「…そうだ。」

 

言葉の意味が一瞬わからなかったが俺は次の瞬間に叫ぶ。

 

「箒!!お前一夏に告白したのか!!」

「っ!?……そ、そうだ。」

「マジか!!あいつはなんていってた!!」

「……平然と『わかった』とだけ言ってた。」

 

その答え方。

恐らく一夏は言葉の意味がわかっていない。

だがそんな事は関係ない。

 

「箒、いいか、最後まで僕の話を聞け。」

「え、う、うん。」

「恐らく一夏には言葉の意味は伝わってないと思う。多分買い物に付き合ってくれとかだと思ってるだろうよ、あいつ。」

「え?………あ。」

 

そう言って俺の言っている意味がわかった箒は顔を青くする。

だが俺は言葉を続ける。

 

だがそんな事関係ない(・・・・・・・・・・)。」

「!?どういう意味だ?」

「いいか、箒。ぶっちゃけた話お前、セシリア、鈴の三人は今現在一夏にとってただの友達だ。」

「……確かにそのとおりだ。」

「だがお前が仮に一夏に勝つことが出来た後に、お前がもう一度一夏にこの事を説明できたらお前は一夏の中で『ただの友達』から『自分と付き合いたいと思っている奴』に変る。」

「つ、つまり。」

「他の二人より一歩どころかかなり一夏に近づく事ができるチャンスだ。僕としては今回の箒の動きはかなり良いと思うぞ。むしろ褒め称えたい。」

「ほ、本当か!?」

「本当だ。それで相談したいのはそれだけか。」

 

そういうと箒は俺のことを真剣な顔で見ながら話しかけてくる。

 

「奏、お前に頼みたいのは私に稽古をつけて欲しいという事だ。」

「僕に!?」

「私から見てお前はかなり強い。変な言い方だが機体の強さではなくお前自身の強さがそれを表しているんだと思う。」

「いや、でも学ぶならもっと良い人が居るんじゃない?僕近距離戦なんて教えられないよ。」

「だがお前は自身の適正の低さを関係無しに戦っている。頼む、その動きを教えてくれるだけで良いんだ。」

 

そう言って俺に頭を下げる箒。

正直な話あまり乗り気ではない。

一ヶ月以内にシャルロットの問題にめどをつけなければいけない上にラウラの問題の解決。

さらに簪のISの開発すらめどが立っておらずそちらも何とかしなければいけないのだ。

それに箒の修行もつけるとなると………

だがあの箒が、一夏に対して勇気を振り絞り告白して、さらにここまで俺に話して頼ってきているのだ。

何とかしてやりたい。

 

「……わかった、とりあえず基本的な動きと回避重視の相手への攻め方は教えられると思う。」

「じゃあ!!」

「ただし僕に教えられるのはその程度だ。せいぜい身のこなしと回避位だ。一夏を倒す剣は箒自身の剣だけなんだからね、それは忘れないように。」

「わかった、では練習はどうする。」

「そうだなぁ……」

 

と約束を決めようとしているときに

 

<―コン、コン―>

 

とドアを叩く音がする。

もうデュノアが来たのか。

仕方ない一旦話はここで切り上げて追って連絡をする事にしよう。

 

「箒、練習の予定はこっちで立てて明日にでも教える。だから今は帰ってもらっても良いかい?」

「一体誰が来たんだ?」

「シャルルさ、ちょっと大事な話し合いをしなくちゃいけなくてね。」

「………わかった。」

 

そう言って箒は部屋の出口に向う。

扉を開けると案の定デュノアがそこにいた。

デュノアは俺の部屋に来たのに、なぜ箒がここにいるのかわからず目を丸くしているが箒はそれに構わず俺に話しかけた。

 

「じゃあ奏。これから頼んだぞ。」

「りょーかい。まぁ…とりあえずよろしく。」

「こちらの台詞だ。本当によろしく頼む。」

 

そう言って箒は俺に一度頭を下げた後自身の部屋に帰っていった。

デュノアはそこでようやくはっとして俺に話しかける。

 

「奏、箒はどうしたの?」

「一世一代の勝負に出た…って感じかな?」

「どういうこと?」

「まぁ立ち話もなんだから部屋に入れよ。」

 

そう言ってデュノアを自身の部屋に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノアを部屋に入れた後俺はデュノアを椅子に座らせた。

さてこいつかなり緊張してるな。

まぁとりあえず緊張を解くか。

 

「………」

「……告白したんだって。」

「…え?」

「うん?さっきの箒の話。一夏に『自分がトーナメント試合で勝ったら付き合ってくれ』って言ったんだって、箒。」

「ほ、本当に?」

「マジもマジ。それで俺に稽古を頼みに来てたの、あいつ。」

「そ、そうだったんだ。」

 

そう言ってデュノアに笑顔で話しかけると。

箒の話を聞いてか顔を真っ赤にしている。

さてそろそろ本題に入るか。

 

「さ~て、どうする。互いに質問形式で行くか?それとも一気に話し合うか?」

「……ソウからも何か聞きたいことあるの?」

「むしろ聞きたい事だらけでどれから聞けばいいのかわからん。」

「あはは。私も。」

 

そう言って笑うデュノア。

なんというかデュノアはようやく俺の知っているシャルロットに戻った。

このとき本当にシャルロットと再会できた気がした。

 

「じゃあはじめにソウから聞いてよ。」

「じゃあ…『お前は本当に男か?』。」

「……ちょっとソウ、わかってるんでしょ?」

「いや、再会したときに男装でしかも似たような名前とか自身の記憶をまず疑った…」

「あ~…そういうことか。」

 

そう言ってシャルロットは苦笑いをしながら話し始める。

 

「私は女で名前は『シャルロット・デュノア』です。これで良い?」

「ありがと。いや、本当に今日の朝は焦ったぞ…」

「あはは、ごめんね。」

「いや、そこはもう良いよ。じゃあ今度はそちらの質問をどうぞ?」

 

そうおどけたように聞いてみるとシャルロットはちょっと考えた後俺に話し始めた。

 

「……あなたは本当に『風音奏』ですか?」

「いいえ、私はトムです。……OK、怒るな。そうです、私は『風音奏』です。」

「証拠は?」

「証拠!?」

「そう、私の知ってる『風音奏』だって証拠。」

 

俺にからかわれてちょっとムッとした後にいたずらをするように笑うシャルロット。

ちょっと仕返しをしてやろう。

 

「そうだな……とある山奥で俺が水浴びをしていたら、ある少女にノゾかれてその後にビン「もういい!!もういいから!!!」……ちなみにその後じぶんの「ちょっとソウ!!」冗談だから怒るなって。」

 

顔を真っ赤にして怒るシャルロット、恐らく顔が真っ赤なのは怒りだけでは無いだろう。

俺は面白くなり笑いながら話す。

 

「いかがでしょうか?これで俺が『風音奏』だという証拠にはなったでしょうか?」

「ハイ!!もう十分です!!もぉ~…」

「あ~面白ぇ、次はこっちの質問で良い?」

「ちょっと……変な質問はなしだよ?」

「安心しろ、質問はまともだから。質問はな。」

「答えもしっかりしたのにしてよ。」

 

そう言いながらもシャルロットはこの質問を本当に楽しんでいるようだった。

今日一日一緒に生活いていたがこいつの笑顔はどこか作り物臭かったのだ。

なぜかなど考えれば思い当たるところは大量にある。

だからこの少しの時間だけは本気で楽しませてやろう、そう考え俺はくだらなく、それでいて懐かしくなる質問を続けた。

俺の好きな食べ物は何か、俺は今幾つでしょう、別れ際にお前はどんな感じだと思っていたでしょうか?と言った質問を面白おかしく話し続けた。

しばらくそうやって笑いあいながら質問を続けたがそこまで互いに楽しい質問ばかり持っているわけで無い。

どうしても聞かなくてはいけない質問があるのだ。

俺がシャルロットに踏み込みかねているとシャルロットがこちらに質問してきた。

 

「ソウ、質問です。『私はどうして男の振りをしてIS学園に来たんでしょうか?』……わかる?」

「……すまん、はっきりとはわからない。」

「うん、多分そうだと思うよ……じゃあ次はソウの番。」

「……『シャルロット、お前はどうして男の振りをしてIS学園に来たんだ?』」

 

シャルロットのほうからこの話をしてきたんだ。

話す覚悟は決まったんだろう。

あいつの顔を見るとまた昼間にみせた作った笑顔を俺に向けえていた。

 

「お母さんがね……今から二年前くらい前に死んじゃったんだ。」

「っ!!…そうか…」

「その後に私のお父さんが私を見つけたらしくて私はデュノア家のお屋敷に連れて行かれました。」

「………」

「そこにはお父さんの……父の本当の奥さんが居ました。」

「………」

「私……愛人の子だったんだって……」

「……そうか。」

 

話すのもつらい話だろうがシャルロットは笑顔を崩さなかった。

いや、笑顔のままで固まっていた。

俺はあえて何も言わずに聞くことにした。

 

「それからはお屋敷の離れに住む事になったんだけど一回も奥様と父にはあわなかった。」

「……」

「それからどれくらいか時間が経ったか解らないけど私はISの適正があることがわかって非公式だけどデュノア社のテストパイロットになりました。」

「……」

「でも一度も父からの連絡は一切なくて、連絡はデュノア社の誰かからのしかなかったんだ。」

「……」

「でもね、私がんばって…がんばって強くなったんだ。」

「…おう。」

「そしたらお屋敷の本邸の方に一度だけ呼ばれたんだ。」

「……」

「そしたら奥様からビンタされたよ、今朝のソウみたいにさ。」

「…俺みたいに変な声上げたか?」

 

一旦話を途切れさせようかと思って話を変えようと考えたが

シャルロットはあはは、と乾いた笑いをした後関係なく話し始めた。

 

「……どうだったんだろ…びっくりして何も出来なかったと思う。ただ奥様からの『この泥棒猫の娘が!』って言葉しか覚えてないや。」

「………そうか…」

「それからしばらくテストパイロットとして生活してたらさ会社の方が経営危機におちいったんだ。」

「……」

「ISの開発ってすごいお金がかかるんだ、それこそどこの会社も国からの支援があってやっと成り立っているところばかり。」

「ああ、それは知ってる。」

「デュノア社はね、第三世代ISの開発がうまくいって無いんだ。」

「そうなのか。」

「フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。フランスは第三世代型の開発は急務なの。」

「それのせいか。」

「そう、だからフランスは一刻も早く量産のできる第3世代を作らないといけないんだけど今のデュノア社に作れるのはせいぜい私のラファール・リヴァイヴ・カスタムIIくらい。いわば2.5世代くらいなんだって。」

 

なるほど、なぜフランス代表候補生がある意味国家間の縮図と言っても良いIS学園に第三世代ISを送り込んでこなかったのは『送り込まなかった』のではなく『送り込めなかった』のか。

そうなるとなぜフランスは、いや、デュノア社はシャルロットをこうやってIS学園に送り込んだんだ?

考えられる理由はいくつかあるが…

 

「だから…時間稼ぎとしてか。」

「そう、『デュノア社には男性パイロットが始めから居て、そのデータ収集で第三世代の開発がうまくいっていない。だから第三世代の開発を本格的にはじめればすぐに第三世代をデュノア社は作れる』そう言い分として出すんだって。」

「そんなの通るわけ無いだろ、普通に考えれば。始めから男性操縦者のデータだって無いんだ。」

「だから私がここに来たんだ……他の第三世代ISのデータ集めおよび……」

「男性操縦者のデータ集めか……」

「あはは。……そういうこと。」

 

そう言ってシャルロットは話すのをやめた。

恐らく後は何を話すか迷っているのだろう。

 

「それが……IS学園に来た理由か?」

「……本当はね…」

「うん?」

「本当はただソウに会いに来たんだ。」

「……どういう意味だ?」

「私がお屋敷で暮している時はね…外からの情報はほとんど解らなかったんだ。勝手に町を歩く事もできないし私に伝わってくる情報は全部管理されてた。私に伝わってきたのも、ただ男性もISパイロットが日本で二人見つかったってだけ。」

 

軟禁生活だったのか…

そんな生活を2年間も…

 

「そして3ヶ月ほど男の振りをする練習をした後はじめて男性操縦者の名前を知ったんだ。」

「その時にはじめてか。」

「本当に驚いたんだよ。何でソウの名前がここにあるの?って。もう他の事は考えられなかった。」

「一応仕事に来たんじゃなかったのか?」

「そんな事どうでも良かった。ただソウに会いたかった。朝にねソウの顔見て私泣きそうだったんだよ?」

「でもクラスの女子とラウラのおかげで感動の対面はありませんでしたと。」

「あはは。そうだね。でも本当にうれしかった。私のことを知っている人が居て…本当に……」

 

そう言って顔を伏せるシャルロット。

もういろいろと限界だったんだろう。

恐らくこの二年間回りに味方もなく逃げる事もできない。

ただただあるがままにされるだけだったのだろう。

その上最後はほぼ捨て駒扱いだ。

ばれたら全責任をどこかに押し付けて……押し付けられるはずが無い(・・・・・・・・・・・・)

よく考えてみろ、どんな事を言われようと愛人の子だろうがシャルロットはデュノア社長の娘だ。

それを送り込んだ後知りませんでしたでとおせるはずが無い。

何かこの計画はおかしい、目的は本当に『第三世代ISのデータ集めと男性操縦者のデータ集め』なのか?

俺が考えているとシャルロットは顔を伏せたまま話はじめる。

 

「ねぇ…ソウ。次の質問……いい?」

「ああ。」

「私をこの後どうするの………」

「決まってるだろ。助ける。」

「……え?」

 

そう言って顔を上げるシャルロット。

俺は何か言われる前に話し始める。

 

「お前がなんと言おうが俺はお前を助ける。既に生徒会長から一ヶ月間の許可をもらって、その間にお前は危険性が無いことを証明できればお前はここに居ても良いことになっている。」

「え?何時の間に?」

「何時の間にって……2~3時間前?」

「で、でも…」

「でももクソもあるか。もうお前を助けるために既に俺動いてるんだから協力しろ。それにもう生徒会長に大見得切ったんだ。断る事は出来ないぞ。」

「……本当に?」

「今このタイミングで嘘ついてどうするんだよ…」

 

と俺は呆れ顔ではなす。

さてもうシャルロットの前でここまで言い切ったんだ。

後には引けない。無論始めから一歩も引く気は無い。

だがここまで言ってもまだこいつは安心できていないようだった。

ここには別れを告げるつもりで来たんだろうが自分に都合がいいように物事が運ばれていて信用できないんだろう、情けない顔をしている。

最後に安心させてやるか…

俺はいつもどおりの笑顔でシャルロットの頭を撫でる。

 

「シャルロット、今まで良くがんばった。後は俺に任せろ。な?」

「っ……うん…うん…」

 

そういって泣きはじめたシャルロットの頭を俺は彼女が泣き止むまで撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

愛情には一つの法則しかない。それは愛する人を幸福にすることだ。

                               ~スタンダール~

 




ふぅ……ようやくこの話でシャルロットがヒロインっぽくなった気が……
気のせいとは言わないでくださいww

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