インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
さてラウラ・ボーデヴィッヒがアリーナ内に来てからかなりアリーナ内は騒がしくなったな。
周りを見ているとセシリアと鈴がラウラのことをにらんでいる。
恐らく朝の出来事であいつが一夏を狙っていることを知っているのだろう。
他の場所を見てみると簪と箒が一緒になってラウラを見ていた。
箒の目線はかなりきついものだが、簪はデータを集めようとしているのだろう。
さて、この後ラウラはどう動くのか、と考えるとコア・ネットワークがこちらにつながれた。
「織斑一夏。」
「……なんだよ。」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え。」
「イヤだ。理由がねえよ。」
「貴様にはなくても私にはある。」
そう言って戦いを申し込んでくるラウラ。
これくらいなら一夏でも対応できるだろう。
一夏には一夏自身に対しての挑発はきかないからな。
「お前にあっても俺には無いの。第一、俺、お前とちゃんと話したことも無いのに何でここまで言われなくちゃいけないんだ?」
一夏にそう言われるとラウラはさらに視線を鋭くして一夏をにらむ。
「貴様が…貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だが貴様のせいで教官は……私は貴様を――貴様の存在を認めない。」
「!!っ……」
ラウラが一夏を狙う理由はそれか。
千冬さんの二連覇を妨害した原因とも言える一夏。
だがドイツ軍でそこまで解っているのなら原因は一夏ではなく誘拐犯、もしくはしっかりとした防衛をおこったった日本政府。さらに言うならドイツ国内でそのような事件を起こさせたドイツ側のほうが責められるべきだとわかるはずなのだが。
だがラウラは一夏さえ存在しなければよかったという考えで止まっているのだろう。
恐らくそこには一夏に対する嫉妬も含まれているのだろうな…
一夏は先ほどのラウラの言葉を受けて動揺はしたもののその程度の事こいつは既に自身で十分に悩んだ後だ、そこまでショックはでかくあるまい。
「だったら学年別トーナメントで戦えるのだからそこでいいだろ。」
「……どうしても今戦わないというのか。」
「そういうことだ、じゃあな。」
「では戦わざるをえなくしてやる。」
そう言ってラウラは自身の右肩に装備されている大型の武装の狙いを一夏に向け警告もなしに発射した。
こいつ何考えてやがる。
次の瞬間デュノアが動いた。
自身の左腕にシールドを展開して一夏の前に立つ。
恐らく自身が盾になるつもりだろう。
だが
デュノアが盾を展開している頃には既に俺は数発の弾丸をラウラが発射した砲弾に当てており、狙いはそれていた。
撃ちだされた砲弾は大きく狙いをそれ一夏から左にかなりそれたポジションに着弾する。
デュノアもラウラも何が起こったか理解できないようで不思議な顔をしている。
まああいつらから見たらありえない曲芸を見せられたようなもんだしな。
その後俺はラウラに通信をつなぐ。
「ボーデヴィッヒさん、ちょっと落ち着いて、ね?」
「貴様……今のアレは貴様がやったのか。」
「うん?何のこと?」
「……既に二度目は無いといったはずだが?」
そう言って今度は俺に武器を向けて俺を脅す。
先ほど撃ちだされた砲弾。
撃ちだされた速度、破壊力、何より砲弾の大きさと独特の発射音。
恐らくレールガンと見て間違いは無いだろう。
しかしラウラとの戦闘か…正直戦いたくないな…
「って言われても友人が狙われたんだ。こうやってやめてくれって言葉くらいはかけるでしょ?」
「……」
そう俺はラウラに向けて笑顔で話しかける。
一方ラウラは返事の代わりにレールガンを俺に撃ちこむ。
デュノアがこちらの盾になろうとしたが距離的に間に合わないだろう。
だがそんな事は関係なしに俺は、今度は発射される前にレールガン本体を撃ち射線をずらした。
結果俺の頭の上を高速の砲弾が通り過ぎ、後ろで土煙を上げながら着弾する。
「やはり貴様がやっていたのか……」
「ねぇ、もうやめにしない?」
「邪魔をするなら貴様から…」
といいもう一度俺に狙いをつけようとするがラウラの顔付近、少しそれたところに銃弾が撃ちこまれた。
撃ち込まれた弾丸はアリーナのシールドに着弾する。
そちらを見るとデュノアがラウラに銃を向け攻撃の意思を示していた。
「誰と構わず喧嘩を売るのがドイツ人の礼儀なのかな?それともそういう風にしろと軍で教えられてるのかい?」
「フランスの第二世代型ごときで私に喧嘩を売るというのか?」
「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりはマシだと思うけど。」
そう言って敵意をぶつけ合う二人。
頼むからここで戦うのだけは勘弁してくれ。
「ちょっと二人とも落ち着いて頂戴!!ここで戦っても何にもならないから。」
「ソウ!!でも!!」
怒り心頭のシャルロットを落ち着かせる。
こいつ完全に呼び方が昔の呼び方に戻ってるな…
まあ今はそっちよりラウラを引かせるほうが大切だ。
笑顔のまま俺は二人に話しかける。
「いいからデュノアも落ち着いて。それにボーデヴィッヒさん。今ここで戦っても途中で止められかねない上に、下手をすれば本人に問題性ありとみなされて本国に送り返されるかもよ?」
「…………」
返事は無いが『ありえない話では無い。』そういう風に捉えられたと判断し話を続ける。
「それは君の望むところじゃ無いはずだ。だったら誰にも邪魔されず最後まで戦いぬける学年別トーナメントにでも参加した方がいいんじゃない?」
「………」
「それに僕ははじめっから誰かと戦う気は無いんだ。だからここは引いてくれないかい?頼む。」
そう言いながら俺はラウラに深々と頭を下げる。
ラウラは俺を見下しながらこちらを見ている。
これで引いてくれるといいんだが……
その時にアリーナ内に放送が響く。
『そこの生徒!何をやっているの!学年とクラス、出席番号を言いなさい!』
ようやく監視の先生が気がついたのだろう。
二度の横槍にやる気をなくしたのか、それとも俺の説得に納得したのかラウラはISを解除した。
そして鼻を鳴らしたあと一夏をにらみつけ俺を見下した後に背を向けアリーナを去って行った。
「Feigling.」
去り際にそう俺だけに一言のみ言ってラウラは去った。
Feigling……『腰抜け』ね…
そりゃ俺に一番ふさわしい呼び方だろうよ。
ラウラが去って行った後に一夏とシャル…いやデュノアがこちらに駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?奏!!」
「あー怖かった。一夏も平気?」
「こっちは大丈夫だけどお前はどうなんだよ。」
「怖くって足がったがた。デュノアもありがとうね、助かったよ。」
「どうって事無いよ、二人とも無事でよかった。話は変るけど奏、あの砲弾をそらしたのは?」
「一応狙ってだね。僕が使える武器は限られてるし、だったら完璧に使いこなせないとね。」
「そ、そうなんだ…」
と少し引き気味のデュノア。
まぁ自分でもめちゃくちゃ言ってる自覚あるけどさ、そんな反応しなくてもいいじゃない。
しばらくすると箒、セシリア、鈴の三人も寄ってきた。
「無事か!?一夏。」
「大丈夫ですの!?一夏さん。」
「怪我は無い一夏。」
と皆さん一夏の心配。
すこしからかってみるか。
「みなさ~ん、一夏の方が心配でしかたないのはわかるけど僕もボーデヴィッヒさんに襲われたんだけど。」
と三人に言うと一旦ぴたっと止まった後顔を見合わせてそれぞれ話し始めた。
「……奏、お前の事は心配するだけ無駄だという事はわかっている。」
「奏さんならあの程度問題ないと信じていましたから。」
「なんていうか……奏なら狙われても大丈夫か、みたいな感じね。」
「みんなからの信頼がうれしいよ……」
そう言ってわざとがっくりと肩を落としてみせる。
それを見てくすくすと笑い始める5人。
うん、暗い雰囲気はなくなったな。
「じゃあ、もう時間も時間だし練習はやめにしよう。」
「おう。そうだな。あ、シャルル、銃サンキュ。色々と参考になったわ。」
「うん、それなら良かった。」
と言いながら帰る準備をする。
しかし……着替えはどうしよう。
仕方ない、ちょっと用事があることにして着替える時間をずらそう。
「デュノア、ちょっと付き合ってくれ。あと一夏、先に行って織斑先生に伝言頼んでいいか?」
「うん、なんだ?」
「ラウラがこちらを狙ってきた。これだけ言えば織斑先生も動くだろう。」
「お前らはどうするんだ。」
「一応二人でボーデヴィッヒさんのことを監視の先生に伝えに良く。ボーデヴィッヒさんの性格上、素直に話をしているとは思えないし。」
「じゃあお前だけでいいんじゃないか?」
「アリーナのシールドに当てたのはデュノアだしあとアリーナ内の道案内もかねてだよ。それに俺が織斑先生に説明しに行ってもいいけどお前しっかりと監視の先生の質問に答えられるか?」
「あ~……解った。じゃあな。」
「おう、飯時にでも。」
そう言って一夏、箒、セシリア、鈴は飛び去って行った。
さて一応監視の先生の元に説明しに行くか。
俺はデュノアの方を向くと少しほっとしたような顔をしていた。
理由はわかるが露骨な態度はやめなさい。
「さてデュノア、ちょっとだけだが付き合ってもらう。」
「うん、大丈夫。………ねぇ奏。」
「どうした?」
「………今日、夜に時間空いてる?」
「問題ないが。」
というとデュノアは少し不安そうな顔をしながらもこちらを真面目な顔で見る。
「話があるんならいい?」
「飯の後でよければ。」
「……うんわかった。じゃあいこう?」
そう言って監視室のある部屋まで向かい何があったのか起きた事だけを告げて俺はその日の訓練を終えた。
更衣室で先にデュノアを着替えさせたあと俺も着替えを終え一人寮へと向う。
先にデュノアの方は自身の部屋に向わせている。
今日の終わりのH.Rで既にデュノアの部屋は一夏と同じだという事はデュノアも解っているため問題は無いだろう。
しかしことはデュノアをシャルロットだと一番最初に気がつく可能性が高いのは一夏か……
いやもうすでにこの学校の理事、もしくは教師の一部。
さらには楯無生徒会長辺りは気がついていても不思議では無いだろう。
だが一体なんのメリットがあってデュノア社はこんな事を?
こんな事をしてもほとんどメリットよりもデメリットの方が大きい。なのにそれを推し進めるとは……さらにデュノアの話を聞く限りあいつの父親はあの昔会ったデュノア社長だ。
そこまで悪い人のような気はしなかったのだが…
まぁ何とか調べてみるか……って言っても今現在情報を得ることができるものが少なすぎる。
しかもこれと同時進行をしながらラウラについても解決しなくては……
まぁこちらは一応情報源が存在する上に、切り札もある。
ならばまずはラウラのほうから情報を集めてその後にデュノアの方をやるか。
どっちもどうやって情報を手に入れるかが鍵だな。
考えがある程度まとまったところで後ろを振り向き声をかける。
「楯無生徒会長、少しいいですか?」
「………いつから気がついてたのよ。」
そう言ってぬっと通路の横から楯無が現れた。
「いや~管理室の辺りからついてきている事はなんとか。」
「始めからじゃないのそれ。まぁいいわ、話は何?」
といってにやりとこちらを見る楯無。
さてこれが第一関門だな。
「スイマセンがデュノアに関してどこまでわかってますか?」
「デュノアくんは実はデュノアちゃんってこと?」
「いや、それ以外です。」
「あら?私がそれに気がついてることには驚かないのね。」
そう言って少しつまらなそうな顔をする。
「いえ、楯無生徒会長ならそれくらいは気がつくだろうなって思いまして。」
「う~ん……っていってもそれほど多くはわかって無いわよ?ただその気になれば何時でも排除できるけどね。」
「あ~……それ勘弁してもらってもいいですか?」
そういうと楯無の表情が真面目になる。
「悪いけれどそれは無理よ、私はこの学園を守らないといけないからね。危険だと判断したらすぐさま排除するわ。」
「……ならせめて少しだけでも待ってもらうことは?」
「どれくらい?」
「1ヶ月…せめてこれくらいは?」
「無理ね。長くても一週間よ。入学を許した時点でこちらとしては納得がいかないのに。」
『納得がいかない』とね……
ということはそれに納得して動いている人が居るということか。
「そこを何とか。お願いします。」
「………わからないわね。」
「何がでしょう?」
「何であなたがそこまでするかよ。」
そういうと楯無は俺に近寄り首に扇子を突きつける。
そのまま真面目な顔で俺に話す。
「まさか惚れたとかいうくだらない理由じゃ無いでしょうね?」
「愛する人のためとかかっこよくありません?」
「茶化さないで正直に答えなさい。理由によっては考えてあげる。」
ここは真面目に話したほうがよさそうだな。
俺は楯無に微笑みかけながら話す。
「………顔見知りって言うか恩人なんですよ。ホームレス時代のね。」
「……」
「その時に受けた恩を僕はまだ返し終わってないもので。」
「……ここで私が無理といったらどうする?」
「そうですね……簪ちゃんとの仲直りの時に簪ちゃんにある事無い事いろいろ吹き込みます。それはもう『お姉ちゃんって……そんな人だったんだ…』ってショックを受けるくらいに。」
笑顔でそう返す俺に楯無はため息をつきこちらをにらむ。
「そこは『簪に協力しない』とかせめて『仲直りできると思うなよ?』とかじゃないの、普通。」
「約束は約束ですし守りますよ。ただしばらく簪ちゃんが生暖かい目で『隠さなくていいんだよ、お姉ちゃん……私知ってるから…』って言うくらいにはあなたについてある事無い事を言い続けます。」
「なんというか…地味だけど本当に嫌な嫌がらせね。」
そう言いながら楯無は扇子を首からはずす。
俺は笑顔のまま話かける。
「ということになりたくなければ僕に従うのだ~~」
「く、なんて卑怯な!?」
と乗ってくれる楯無。
これはいけそうかな?
「ということで2ヶ月お願いしますね?」
「増えてるわよ。まぁ1ヶ月ね。その途中でばれた場合も私は処理するからね。」
「え~~~そこはおまけしてくださいよ。」
「おまけって何よ、おまけって……そういうのならあんたがしっかり守りなさいな。」
「解りましたよ。」
そう言って了承を受ける。
さてこれで途中でばれない限りデュノアの身は一ヶ月は保障されるのか……
それまでの間にデュノアについて何とか落ち着きを見させる、もしくは危険性が無いことを楯無に証明しなければいけない。
さらに言うならデュノアのことを解りながらも入学させた人物についても何を考えているのかを含めて突き止め無ければいけない……
リミットが伸びたのはいいけどかなりきついな…
そう考え悩んでいると楯無が声をかけてきた。
「どうする?諦める?」
「それは無いですけどやはり難しいな…って考えてたところです。」
「協力してあげよっか?」
「………何が目的ですか?」
「そうね……私のことをあだ名で呼んでくれたらいいわよ。」
「それくらいならお安い御用ですよ。」
「じゃあ呼んでみて。」
「ではよろしくお願いします……『オサ』。」
そう俺がにっこり笑いながら言うと楯無はずっこけ俺にツッコミを入れる。
「そっちじゃないわよ!?そこは普通『たっちゃん』でしょ!?」
「オサ 強イ オサ 優秀 オレ オサ 尊敬スル。」
「そんな風に言わなくてもいいから!!普通にしなさい普通に!!」
「そうですか、じゃあよろしくお願いしますね、会長。」
とからかうようにそう呼ぶ。
楯無ははぁ…とため息とつく。
「本当にあなた一筋縄じゃいかないわね。」
「いえいえ、生徒会長様ほどでは。」
「私だってここまでひどく無いわよ。」
という楯無。
自身がひどい事は自覚していたのか。
さて真面目に話しますか。
「冗談はここまでにするとして実際のところ協力する理由は?」
「一つ目にあなたが調べるからといってもたかが知れてるでしょうし、あなたが調べるからと言って私が調べなくていい理由にもならないからね。それを少しだけ教えてあげるってだけよ。」
「まぁ…そのとおりですね。」
「二つ目は私が『無理といったら』と言った時の答えが約束は守るだったからかしらね。私も自身に対する恩はしっかりと返す方なの。」
「そいつはありがとうございます。」
「まぁある程度はつかめるとは思うけどあなたが欲しい情報は手に入らないかもしれないわよ。」
「それでもお願いしますよ。」
「解ったわ。………あと、簪ちゃんの打鉄弐式についてだけど……」
「『残念、好感度が足りないようだ』。」
「ちょっと!!今かなり伸びたんじゃないの!?どこまで上げれば解るのよ!!」
「『残念、好感度が足りないようだ』。」
「ええい、もう頼まれたって聞かないわよ!!ということで簪ちゃんのことよろしくね!!」
そう言って楯無は去って行った。
具体的にタイムリミットが解ったのと情報が手に入るのはありがたいが……
どこに落としどころを決めればいいか検討もつかない。
まずは焦らずに情報を集めよう。
そう考えながら寮へと進んでいくのであった。
過去のことは過去のことだといって片付けてしまえば、
それによって、我々は未来をも放棄してしまうことになる。
~チャーチル~
ということで次はいよいよヒロインとしてのシャルロットをえがけると思います。
ここまで本当に長かったなwww