インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第三十五話 一夏の素質

放課後俺は一夏たちの自主鍛錬に参加する事にした。

理由としては簡単だ。確実にあのラウラが一夏か俺にちょっかいを出してくるはずだ。

あいつが授業中にこっちにちょっかいを出さなかった理由、それは単に『千冬さんの監視下だったから』であいつ自身がやめようと思ったからではない。

ならば放課後、それも自身の実力が発揮できるところにいる一夏を狙わないわけが無い。

そう考え自主鍛錬に参加したのだが……

 

「一夏さん!!本気を出してくれませんこと!!鈴さんとの試合の動きどころかわたくしと戦った時よりも動きがにぶいじゃないですの!!」

「って!!言っても!!よ!!」

 

現在一夏とセシリアの試合だが、一方的に一夏が撃たれ続けて懐に入ることすら出来ていない。

それを見て鈴も納得できないらしく声を上げる。

 

「一夏ぁ!!あんた何手抜いてるのよ!!」

「違うんだって!!ああ!!もう!!」

 

と言いながらまたセシリアの攻撃が被弾する。

これでこの試合はセシリアの勝ちである。

試合を終え二人とも地上に降りる。

お互いに納得できないといった顔で不満げだ。

これが今現在一夏の抱える問題だ。

訓練に参加している箒、セシリア、鈴は少しずつだが確実に成長して言ってるのが目に見えている。時々だが参加している簪ですら接近戦になれかなり動きがいい。

ちなみにデータのほうがある程度たまったらしく何度目かの俺用という名目の簪の荷電粒子砲が製作されている。試作がいくらか送られては来ている物の俺には使えない上に簪は納得いかないらしくさらにデータ集めをしている。

話はそれたがこのように全員進歩して先に進んでいる。

だが一夏のみ、あの鈴との戦いで見せた動きが出来なくなっているのである。

その他の基本的な動きはもちろん成長はしている、だが回避や踏み込みのタイミングに関しては贔屓目に見ても格段に下がったとしかいえないのだ。

それに対して現在、実戦方式でいろいろとやってみてはいるのだが一度もあの動きは出来ていない。

 

「あああああ!!クソ!!何で出来ないんだろ…」

「…正直私たちにもわかりかねますわ。」

「別に手を抜いてるわけじゃないのよね…」

「当たり前だろ、試合と同じ意識で臨んでる。」

 

と三人で話している。

一応俺の意見も言ってみるか。

俺は三人に近寄り一夏に話しかける。

 

「一夏、お前試合と同じって言っても具体的にどう考えてるんだ?」

「え?これは試合だぞー、後は無いぞ、って感じかな。」

 

そう語る一夏。

大体理由はわかったかな。

 

「多分わかったわ。お前があの動き出来ない理由。」

「本当か!!」

「どういうことですの!?」

「一体何がおこってるの!?」

 

と一斉に俺に詰め寄る三人。

そんなことしなくてもしゃべるから。

 

「多分だけどな、お前セシリアと戦った時も鈴と戦った時も乱入者の時も自分のために(・・・・・・)戦って無いだろ。」

「「「え?」」」

 

とどういうことかわからず疑問を持つ三人。

構わずに話を続ける。

 

「一回目のセシリア戦。お前が戦った理由はあまり意識して無いまでも自身が馬鹿にされたより、この国と千冬さん、何よりセシリアのことを考えながら戦ってたんじゃないか?」

「どうなの一夏?」

「……そういわれるとそんな気がする。」

 

と鈴に聞かれると考え込む一夏。

 

「二回目の時は怒り云々より勝って鈴と仲直りする事や……僕にISを向けて脅したことを謝らせようと考えてた。」

「ああ、それは確かに考えてた。」

 

と即答をする一夏。

ここら辺でセシリアは何か気がついたようだった。

 

「最後にあの乱入者はたくさんの観客、そして箒を守らなくちゃいけない戦いだった。」

「ああ、そうだな。……で、それがどうしたんだ?」

 

納得しながらも何を言っているかがわからない一夏。

結論を言おうとする前にセシリアが口を挟んだ。

 

「つまり奏さんは一夏さんが本気を出すためには、自身以外の何かのためじゃないと本気が出せないのでは?と……」

「セシリアの言うとおり。ただこれは全部僕の意見で本当かどうかはわからないけどね。」

 

と最後に付け加えるように話し終える。

一応三人とも納得してくれたようだ。

だが問題はだからどうすればいいのか、と言ったところだ。

一夏の素質が俺の世界での創作の登場人物の一夏と比べ高い事はわかっている。

だが心構え一つでここまで実力が変るとしたら…なんとムラの大きい奴だ。

そんな時にシャルロ……デュノアがこちらに来た。

先ほどまで他の女子生徒と軽く話をしていたのだ。

 

「どうしたの?4人とも。」

「あ~…ちょっと一夏のことでな、まぁ今話しても仕方ない事だ。他の訓練をしよう。」

 

そう言って一夏の訓練を一旦やめることにした。

そういや箒はどこに行ったんだ?さっきから見えないが……

そう考えているとデュノアが一夏に話しかける。

 

「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ。」

「おう、いいぞ。ちょっと行って来るわ。」

 

セシリアと鈴が何か言う前に一夏は飛び立ち追うようにデュノアが飛ぶ。

二人は止める前に行かれてしまったせいでムッと顔をゆがめた。

またか、と思いながら苦笑いをしながら嗜める。

 

「おいおい、前にも言ったけど男に嫉妬してどうする。」

「でも一夏の奴、何かと男と一緒に居ようとするじゃない!!」

「そうですわ!!そう考えると仕方ないじゃないですの!!」

 

こいつらはどちらかといえば嫉妬って言うよりどちらかと言えば寂しいのか…

だが一夏の疑惑だけは解いておこう。

 

「あ~……ちょっと考えてみてくれない?」

「何を?」

「突然自身が男しか居ない空間に突っ込まれて三年間でれないって。」

「え、でも一夏は男だし…」

「男でもそういう空間はきついよ?だって女性相手じゃどうしても気を使うし、何よりも下手な事ができない。」

「それはそうですけど…」

「で、話は戻るけどさっきのイメージした空間で二人とも互いを見つけたら一緒にいたいと思わない?」

「…ですが一夏さんは既に奏さんとも仲がいいですし。」

「そしたらデュノアは一人ぼっちでその空間にいることになる、多分ほっとけないんだろ。あいつ。」

 

と言って一夏たちのほうを見る。

あ~一方的にやられてるな、一夏。

デュノアはなんか高速で武器を入れ替えて戦ってるな。

どの距離で戦っても攻められてるわ。

あと少して試合は終わるな。

横の二人を見ると一応頭のほうでは納得しているようだったが感情では納得できていないようだった。

俺は笑いながら二人に話しかける。

 

「まぁ、僕の方で、あいつが男に付きっ切りにならないようにはしておくよ。だから心配しなくても大丈夫。」

 

二人はため息をつきながら話し始める。

 

「……前から思ってたんですけど、奏さんって本当はもっと年上なのでは?」

「あ~なんかわかるわ、あんた落ち着きがありすぎ。多分っていうか絶対そうよ。」

「え゛……そんなに年上に見える?」

「見えるというよりはそう感じてしまうと言った感じですわ。」

「今日の授業のせいか、あんたうちのクラスですごい言われてたわよ。」

「……どんな風に?」

「一番多かったのが『なんか…先輩みたい!!』で次に多かったのが『お兄ちゃん』。」

「お兄ちゃん!?」

「奏さん、うちのクラスでもあなたを兄みたいと思ってらっしゃる方は多いですわよ。」

「そんなの僕知らないよ!?」

 

わざとらしく反応して見せると二人はくすくすと笑っている。

そんな事いわれても中身は既に三十代よ?

いくら体に精神年齢引っ張られててもこれくらいの落ち着きはあるさ。

しかし…年上や先輩ならともかくお兄ちゃんか……一人っ子だったから想像がつかん。

二人の言葉に苦笑いをしていると一夏とデュノアは別の訓練を始めているようだった。

さて俺はあっちの方に顔を出してみるか、と考え飛び立つ。

鈴とセシリアがついてこないところを見ると何か考えがあるのだろう。

俺は二人に構わず一夏たちの所に向う。

そばに行くと二人はデュノアが一夏に覆いかぶさるようにして重なりながら銃の訓練をしていた。

あの銃はデュノアの銃だな。

 

「おう、二人して何やってたんだ?」

「一夏に銃の使い方と、どういう風なのかを覚えさせようかって思って射撃訓練してたんだ。」

 

なるほど一夏に基本的なことを教え込んで満遍なく成長させようって感じかな。

確かに白式は近距離武装しかないが一夏が遠距離での戦い方を覚えれば対処もしやすいな…

俺も近距離武器の使い方を覚えた方がいいのだろうか?でも俺この銃で近距離から超遠距離でも戦えると思うんだけどな……それじゃ意味が無いのだろうか。

俺が『う~ん…』と唸っているとデュノアが声をかけてくる。

 

「どうしたの?奏。」

「いや、俺も近接武器使えた方がいいのかなぁ…って。この機体近距離装備無いんだけどだからといって俺が使えないで良いって訳じゃないし。」

 

と自身の『赤銅』の右手を見る。

今の所ヴァッシュみたく銃ひとつで強敵と戦うのは難しい。

やはり戦い方を変えISの性能をすべて生かせる戦い方を探した方がいいのだろうか…

まぁ最終的に守りきる事ができればどんな戦い方でもいいのだ。

そう考えるとやはり後者だな。

いろいろと模索してみよう。

 

「ねぇ、奏。その機体だけどさ。見たこと無いしデータとしても浮かんでこないんだけどなんなの?」

「打鉄の改造機。名づけて『打鉄改―赤銅―』。通称赤銅だな。」

「へぇ~、どんな改造されてるの?」

 

とデュノアが疑問を投げかけてきた。

俺は何も考えずそのまま伝える。

 

「反応速度および最高速度の底上げ。それのせいで操作難易度の上昇、装甲および拡張領域の低下。運動性は約2倍まで上がったが武器は左手の基本装備およびハンドガン一丁のみ。装甲にいたっては従来の半分以下の紙装甲で、基本的な考えが『当たらなければ問題ない』だ。」

「…………ごめん、すごいめちゃくちゃで全部は理解できなかったんだけど、すごい無茶な事言ってない?それ。」

 

と頭を抑えるデュノア。

無茶な事ではあるができないわけでも無いだろう。そう言ってやろうと思うと一夏も話に入ってきた。

 

「そういやシャルルの機体は何なんだ?山田先生の機体と似てるように感じてたけど。」

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前はラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。基本装備をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある。」

「倍か。それはまた凄いな。俺の白式にもそれくらいあれば良いんだが…」

「あはは。そうだね、そういう機体だから今量子変換している武器だけで軽く20はあるよ。」

「20ってそんなにか!?」

「それだけがとりえみたいなものだからね。」

 

へぇ。簡単に聞こえるけど結構中身はいじってるんだろうな。

たかが基本装備をはずした程度で拡張領域が倍になるのなら既におっさんが左腕のこれをはずしているはずだ。

もしくはデュノア社の技術者はそっちのソフト面の方が優秀なのか?

聞いてみようかと考えているとアリーナがざわめき始めた。

原因を探してみるとすぐにそれは見つかった。

アリーナの上の入り口からこちらをにらむように見つめるラウラ・ボーデヴィッヒがそこにいた。

周りの女子生徒たちの話に耳を傾ける。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ。」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

なるほど、ここまで騒ぎになるほどの機体って訳か……

見たところメインウェイポンは右肩に浮かぶ大口径の恐らく砲弾。

拡張領域内にどんな装備を入れているのかは解らないが相手は第三世代と呼ばれる機体。

何らかしらの特殊能力がある、それは間違えは無い。

このまま彼女も訓練をして帰ってくれればいいのだが……それは無いんだろうな…

そう考えこの後起こるであろう事態に身構えるのであった。

 

 

 

 

人間には幸福よりも不幸のほうが二倍も多い。

                                   ~ホロメス~




ということでここから主人公が戦い方を具体的に模索し始めます。
まぁ……実際はISに通用する武器があれば生身で戦ったほうが楽なんですけどねw
ですがそれをするわけにはいかないのが難しいところです。

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