インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第二十六話 乱入者

乱入者が現れる数分前、奏は試合を見続けながら考えていた。

この自身の知る『織斑一夏』は、現実での物語の主人公『織斑一夏』と比べ、考えられないほど強いのである。

確かにこの時点での原作の一夏は、一ヶ月での成長とは思えないほど強くなっている。

しかしここまで強くなっているはずがないのだ。

何よりあの動きは自身の動きを連想させる。

 

(これも俺が介入した結果か?だが一体なぜあの動きが出来る!?)

 

いくら俺がこちらの世界に介入したとはいえ俺は一夏自身の修行に直接関わった記憶はない。

だが現にあいつはたどたどしくも俺に近い動きをしているのだ。

何が原因かわからないまま試合を見続ける。

猪突猛進の戦い方しかしないはずの一夏が異常なほど落ち着いているのがわかる。

しかも先ほどはわざと(・・・)鈴の攻撃をくらって分析しているようにも見えた。

すると一夏が大きく逃げるのをやめ鈴の見えにくい攻撃を完全に見切っていた。

これは勝負は決まったか…と思うと上空から接近する何かが目に入った。

瞬間に現世の記憶がよみがえり急いで千冬さんに連絡を入れる。

 

「千冬さん!!上空から何か来ます!!」

『何!?こちらでは把握できていないぞ!?』

(やはり把握できていない…くそ!!)

 

俺はISを展開し全速力で突っ込む。

向こうの謎の機体……いや『無人IS』は速度を弱めず腕を一夏たちに向けている……

銃を展開し左腕部チェインガンと同時に撃つ、しかし相手は怯むことなく突き進みレーザーのチャージをしている。

間に合わないか!?

 

「二人とも!!上だ!!かわせ!!!!」

 

コアネットワークで二人に警告を出した瞬間レーザーは発射された。

腕を狙って撃ったため狙いは逸れただろうが危険なのには変わりない。

無人ISは俺にかまわずシールドの破壊された部分に突っ込みアリーナに侵入する。

後を追うように俺もアリーナに侵入、次の瞬間にはシールドは修復された。

そのまま下に着地した無人ISを見ながら一夏たちと合流する。

一夏は鈴を抱きかかえながらぼうっとするような視線で無人ISを眺める。

……こいつ一体何を考えている?

 

「おい!!一夏!!無事か!?」

『……』

「一夏!!!!」

『……?ああ奏か。』

「……お前大丈夫か?」

 

流石に心配になる。

現在の一夏は異常なほど集中しすぎているのだ、恐らく先ほどの試合の最中もこの感覚だったのだろう。

鈴も何か違う一夏を感じているのか、何も言わずに抱きかかえられたまま一夏を見続けている。

このままじゃヤバイ…具体的に何がというわけではないがそう感じてしまう。

とりあえずこの雰囲気を砕こう。

 

「っていうか一夏。何時まで鈴を抱きかかえているんだ?」

『……え?』

『!?ちょ、ちょっと一夏!!いい加減離しなさいよ!!』

『お、おう…』

 

指摘されて鈴は顔を真っ赤にして一夏から離れようと一夏を押す。

一夏も何かに驚きながら離す。

 

「え~っと…僕お邪魔なようならかえるけど?」

『ち、違うって奏!!そんなんじゃない!!たださっき助けた時に…』

『そんなんじゃって何よ!!一夏!!』

「あ~…やっぱり邪魔しちゃったみたいだね。」

『違うって言ってるだろ!?』

『お前らふざけるのも大概にしろ!!』

 

俺が二人をからかうと千冬さんからの通信が入った。

一夏を見るといつもの雰囲気にもどっていた。

代わりに鈴は顔を真っ赤にしていたけど。

さてこっからは真面目に行かせてもらおう。

 

「スイマセン千冬さん、緊張してたんで場を和ませようと。」

『いいからお前らはそこから避難しろ。』

「スイマセンがそれは出来ません。」

『……なに?』

「まずゲートが閉じたまんまなんで出れません。恐らくそちらでも開けないのでは?」

『……織斑先生!!遮断シールドがレベル4に設定されており、…しかも、扉がすべてロックされています!!』

『なんだと!?……風音お前なぜわかった?』

「始めから勝てない勝負しに来る奴がいる訳ないじゃないですか。」

『奏?どういうことだ?』

 

山田先生からの情報と千冬さんの疑問。

まぁ原作で知ってますともいえないし適当な理由を言おう。

俺は墜落するように地面に着陸した無人ISから目を離さないようにして離し続ける。

 

「僕の予想ですけどあいつは何らかしらの目的で鈴か一夏を狙っています。それを大量のISが存在するIS学園内で、それも堂々とですよ?そんなことをする相手が何の作戦もなしに突っ込んでくると思いません。」

『そういわれればそうだけどさ……』

「とりあえず詳しい話は後。今はあのレーザーを観客席にむけられないようにしないと、アレならシールド関係無しに人を狙える。避難が終わってない今撃たれたらとんでもない事になる…取り合えずこっちで何とかしよう。織斑先生、許可はいただけますか?」

『……わかった、ただし無茶はするなよ?』

「無茶は僕が一番嫌いな言葉なんで。早いとこ援軍お願いしますね?」

 

と言い通信を終える。

さて…どう戦おうか。

とりあえずあいつについてわかる事は

・原作知識より無人ISであり普通じゃない動きをする事。

・先ほどの戦いより強力なレーザーもち。

・同じく先ほどの戦いよりかなり装甲が厚く生半可な攻撃は通用しない。

大まかにわかるのはこのくらいか。

鈴の龍咆がどれほどの威力かはわからないが貫通性は無い印象を受ける。

そして俺の豆鉄砲だと単発だとまったくダメージを受けず……か。

やはり攻めるとしたら一夏の雪片弐型ぐらいか…

現在おそらくアリーナのコントロールを奪い返すように動いてはいるだろうが何時までかかるか解らないし、それを頼りに行動する事はできない。

途中で無人ISが、目標を避難が終わっていない観客席に向ける可能性が無いとは言いきれない事も考えねば…

頭の中で考えていると無人ISが動き出す。

 

『おい、奏。どうする。』

「……とりあえず回避重視で、観客席に武器を向けない限り攻撃はよそう。」

『!?どうしてよ!!私と一夏の二人なら勝てるわよ!!』

「……どれくらいの確立で?」

『?どれくらいって言われても…』

「たとえば八割勝てる相手だったと仮定しても2割の可能性で負けるんだ。負けたら被害に遭うのは僕たちだけじゃない、観客席にいる人たちだって巻き込まれる。ISを纏ってる僕らなら死ぬ事は無いだろう、でも巻き込まれる人は確実に死ぬ。」

『それは…そうだけど…』

「別に攻めないって言ってるわけじゃ無いんだ。はじめは様子見にしようってだけさ。攻めるときはよろしく頼むよ。」

『……解ったわ。』

 

と鈴の説得をしている間も一夏は無人ISを見続ける。

さて動き出しはしたけど何をするつもりだ?

と考えるとこちらに腕を向けてレーザーのチャージし発射する。

それぞれ別の方向に逃げると無人ISは俺のほうに向ってきた。

 

(!?狙いは鈴や一夏だと思ったがアリーナ内にいる奴全員なのか?)

 

突然だったがかわしきる。

確かに普通のISと比べると異形な形状の上、リーチは独特だがかわしきれないわけではない。

見切れるスピードだし油断しなければ当たる事は無いだろう。

俺は何発かセンサーらしきところを狙い、撃ち込むが反応は無い。

近距離で難なく攻撃をかわし続けると無人ISは目標を変えた。

突然腕を通常ではありえない方向に向ける。目標は鈴か。

すかさず銃を腕に向け連続で一点に打ち続ける。

何発か撃つとバランスを崩し目標がそれる。結果、鈴とはまったく別の方向に向けてレーザーが飛ぶ。

振りほどくように無人ISは腕を振るうがまったく距離をとらずに近距離でかわし続ける。

すると今度は俺を離れ鈴に対して近距離戦闘をおこない始めた。

しかも俺の事は完全に無視してだ。

試しに何発か弾丸を撃ち込んで、動きの妨害をこころみるが完全に無視。

……これは完全独立型じゃなくてどこからか指示を受けているのか?

となるとこのままこちらが時間稼ぎをする姿勢では観客席を狙う可能性があるな……

鈴が何とか距離をとったようなので二人に通信をつなげる

 

「一夏、鈴。そろそろ攻めに出る。このままだとヤバイ。」

『こっちはまだまだいけるわよ!?』

 

と声を強める鈴。恐らく自身がしのぎきれないと判断されたと思ったんだろう。

とりあえず誤解は解いてせつめいをする。

 

「問題はキミじゃなくてあいつは恐らく誰かから命令を受けて動いている。」

『……どういうこと?』

「理由を話している時間は無い、だがこのままじゃあいつが観客を狙うのは時間の問題だ。仕方ないからこちらから攻めよう。後もう一つだが…」

『もしかして無人機かもしれないってことか?』

 

と一夏が意見を出す。

現在無人ISの相手をしながら話しかけてくる。

雪片を使いながら回避し距離をとることに努めている。

こいつ本当に何があったんだ?……今、この戦力はありがたいしこのまま行こう。

 

「そのとおりだ。それを前提にしてこいつを撃墜する。」

『ちょっと、二人とも何を言ってるの!?』

『鈴、今は俺を信じてくれ。こいつは確実に無人機だ。』

『…解ったわよ。でも一体どうするの?』

 

一夏の一言で信じる鈴。

まぁ信じてくれるのならどんな理由でも良い。

とりあえず作戦を話す。

 

「とりあえず僕と鈴で隙を作る。一夏、零落白夜は全力でいける?」

『全力でなら一発だけいける。』

瞬間加速(イグニッション・ブースト)は?」

『………鈴が協力してくれれば何とか!?』

『私が?』

「とりあえず両方使えるなら全力で奴を切れ。鈴の分も俺が隙をつくる。」

 

と言いながら雪片で思いっきり無人ISに一撃を入れ距離をとる。

無人ISは動くのをやめこちらに構えている。

やはり誰かに見られて…いや聞かれて(・・・・)いる可能性もあるな。

しかし目的は何だ?俺は無人ISの前に向う。

一夏は鈴と何か話している。鈴は何か叫んでいるが一夏の作戦って一体…

まぁ無人ISの気を逸らさせてみようか。

それにしてもこちらの……いや一夏の会話中に攻撃はしないなんて…なんなんだ一体。

声だけでもかけてみるか。

 

「やぁ…とりあえず日本語で挨拶させてもらうよ。」

<………>

「反応は無しか……これを聞いているだろう人物に向けて言うよ。ここでおしまいにしない?これ以上は無意味じゃないかい?」

<………>

 

反応はやはり無い。元々話す機能は無いのか、それとも聞いている人物など元々居ないのか、俺の言葉なんて聴いていないのか……

とりあえず動かないならそれで良いが…

と考えていると一夏から連絡が来る。

 

『奏、こっちの準備は出来た。後は隙を頼む。』

「了解、突っ込むタイミングは任せたぞ。」

 

そういうと無人ISも動き始める。

やはりこちらの話が聞こえているのは間違いないようだ。

そしてこいつは一夏に反応している……

詳しくは終わってから考えよう。いまは無人機に集中する。

そしてアリーナ内が緊張に包まれる。

一夏のタイミングにあわせ隙を作る。この際ISの限界など気にしない。

自身の出来る限りの速さで隙を作ってみせる……。そう思い銃を握る手に力を入れる。

誰も動けていないと突然アリーナ内に声が響く。

 

「一夏ぁっ!…男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

っつ!!箒!!あいつ何やっていやがる!?

箒は既に人が居なくなっているアリーナ全体を見渡せる位置に立っていた。

しかし千冬さんたちは一体何を!?

そうしていると無人ISは右腕を箒の方に向けて構えレーザーのチャージをはじめる。

しかし

 

(!?このまま撃っても……レーザーは当たらない(・・・・・)ぞ!?)

 

その腕の向きだと撃ち出されたレーザーは箒の近くには行くだろうが当たるどころか10mはそれるだろう。

しかしそんな事関係無しに焦る一夏は声を上げる。

 

『奏!!鈴!!突っ込む!!』

「!?っ、解った!!」

『ああもうっ……! どうなっても知らないわよ!』

 

そう言って鈴は一夏めがけて(・・・・・・)衝撃砲を撃った。

一夏が衝撃砲を受けていると、雪片弐型が展開してるエネルギー状の刃が一回り大きくなった上にそのまま龍咆の勢いを利用して突進する。

 

 

(あの馬鹿…無茶しやがって!!)

 

一夏のやった事は簡単だ。

元々瞬間加速(イグニッション・ブースト)は自身のスラスターからエネルギーを放出し、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する技術のはずだ。

だが恐らく白式の残りエネルギー残量は零落白夜を使いながらの瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使うためには足りなかったのだろう。

それを補うために瞬間加速の原理を利用して、『鈴の龍咆のエネルギー』をスラスター翼で吸収、吸収したエネルギーを利用する事をひらめいたのだろう。

だがそれはエネルギーが吸収できても衝撃は消えない、その上何回も出来る事ではないしタイミングはシビア。

さらに龍咆は見えにくい弾丸なのである。

それに絶妙のタイミングで吸収、すかさず龍咆の衝撃を利用し加速するというなんとまぁ……

とんでもない事をするな。

 

一夏(バカ)がここまでやったんだ…全力で隙をつくってやる!!)

 

俺はISの事など関係無しに全力の早撃ちをする。

ISからのアラートなど無視し、両腕部から火花がちる。

無人ISがこちらに気がつき左腕で振りほどくように動こうとしているがそれすら許さない。

すばやく撃ち出された数多の弾丸は列をつくるように敵へ向い相手の腕を押し動かす。

弾丸のすべて当たった頃には無人ISはまるで万歳をするように両腕を上げ、伸びきった状態だ。

スラスターで動こうとするがそこは既に一夏の間合いの中。

 

<―ズザンッ―>

 

一閃。

一夏の振るう光の刃が相手の右肩から斜めに切り裂き機体がずれる。

一夏もそれでエネルギーがギリギリのようで下に下りると続けて無人ISも落ちる。

しかし切り裂かれてなお頭の方は動けるようで一夏の方に左腕だけで這いよってくる。

こっちで迎撃しようにも両腕が完全に壊れて動かせない。

一夏は一夏で龍咆の衝撃のせいか動けていない。

鈴も向ってはいるが間に合わない。

クソ、俺が突っ込んで体当たりで吹き飛ばそう、そう考えていると自身のISに情報が入り、突っ込むのをやめる。

一夏の顔を見るとあいつも気が付いているようでにやりとしている。

 

『……狙いは?』

『完璧ですわ!』

 

次の瞬間、レーザーが無人ISの頭を撃ち貫く。

レーザーの撃たれた方を見るとアリーナの屋根の上から「ブルー・ティアーズ」を身に纏ったセシリアのスターライトmkIIIが向けられていた。

しかし頭が撃ちぬかれた後も一夏に手を伸ばす。

 

『いい加減往生際が悪いですわよ!!』

 

さらに何発かのレーザーが撃ち込まれる。

やはり貫通性のあるレーザーならある程度始めから通用していたようだ。

無人ISは完全に動きを止めた。

鈴はふぅ…とため息をつくようにして地面に着地しISをといた。

一夏とセシリアはプライベート・チャネルで何か話している。

あ、セシリアの顔が赤くなってる…気にしないでおこう。

先ほどの動きを見れば解るが一応確認してみる。

やはりボロボロの左腕からは煙と電流が流れており原型がほとんどつかめないが機械の様だった。

そういや切り離されたもう片方は……

 

「一夏!!かわせ!!」

「!?」

 

俺が声を上げるが一夏も反応しきれていない。

見ると切り離されたはずの右腕のついた下半身と言っていいような体が、幽鬼のごとく揺らめきながら右腕を一夏に向け腕部の発射口でレーザーのチャージをしている。

 

(間に合え、っ!?)

 

無理やり右腕を動かして弾丸を連射するが最早ISが耐え切れずIS自体に強制キャンセルされた。

現在撃ち出された弾丸だけでは射線はそらしきれず、ギリギリ一夏に当たる。

ところが一夏はかわそうとするどころか無人ISに突撃している。

後数mのところでレーザーが発射され一夏はその光に飲まれながらも相手の発射口を切り裂いた。

切り裂かれた無人ISは役割を終えたように倒れ、続けて一夏も気を失い倒れた。

ISがまだ作動しているって事は怪我は無いだろうが俺と鈴は急いで一夏に駆け寄った。

こうして一夏と鈴の試合は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

こうしようか、ああしようか迷った時は、必ず積極的な方へいく。

                                   ~ジェームス三木~




ということでVSゴーレムでした。
この事件のせいで物語がどう動くか?
お楽しみにwww
ということで読んでいただきありがとうございます。

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