インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第二十二話 告白

夕食後俺は部屋に簪を呼んだ。

簪の部屋に行くとルームメイトに注意しながら話さなくてはならないため正直詳しく内容を話せないのだ。

そうなると周りの目を気にせずに話ができる空間は寮内だと俺の部屋くらいしか思いつかなかったのだある。

まぁ別のクラスの女の子を部屋に連れ込んで二人きりって別の意味でばれたらいろいろと困るが(特に生徒会長とか…)……言い訳を考えておこう。

そんなこんなで現在俺が今日とったデータを簪に見てもらっている状況なのである。

 

「………終わりました。あの、風音さん。このデータを栗城さんにわたしてもらってもいいでしょうか?」

「了解。え~っと簪ちゃんのIS今のところどんな感じなの?」

「本体の方は何とか形になりましたが武装の方はまったくと言って良いほど進んでいません。」

「……おっさんサボってるのか?」

 

ぼそっと口から出てしまう。

たしかあのおっさんは自身が武装製作をするといっていたはずだが…

そう言うと簪はあわてて否定する。

 

「い、いえ!!今栗城さんたちは『打鉄弐式』の本体のパーツ製作をしてくれています。正直なところ人手が足りなさすぎるんです……」

 

終わりになるにつれ尻すぼみに声が小さくなっていく。

しかしその情報を持っているということは。

 

「おっさんに連絡取ったんだ。」

「……はい。」

「どうだった?」

「謝られました……そんな必要無いのに…」

「まぁ、おっさんが謝りたかっただけだと思うよ。あのおっさんそういうところ頑固だから。」

「…そうなんでしょうか…」

 

俺はそう言って笑うが簪は一切笑わない。

う~ん、やっぱり警戒されてるな、いつも以上に……まぁここら辺は気にしても仕方ないんだ。

しかしおっさんと連絡が取れると言う事は…

 

「ねぇ、簪ちゃん。」

「なんでしょうか?」

「おっさんと連絡取れるって事はさ。僕、もしかして要らないんじゃない?直接おっさんからデータ送ってもらえば良いじゃ……。」

 

それで問題ないんじゃないか?

そうすれば簪の俺への疑念も払拭されるだろうし。安全性も高まるだろう。

しかしそう簡単に話が進むわけではないらしい。

 

「……いえ、実は今作っている『弐式』のパーツも、風音さんの『赤銅』の試作パーツの失敗品として製作しているらしいんです。」

「…どういうこと?」

「風音さんもご存知のとおり『打鉄弐式』の開発は実質停止されていています…」

「それはおっさんから聞いたわ。」

「現在の倉持技研全体のの方針は『白式のデータをとること』『織斑一夏からのデータを取り男性でも動かせるISのヒントを見つけること』……そして…」

「そして『風音奏()のご機嫌を取って倉持技研が風音奏()を手に入れること』…かな?」

「……そのとおりです。そのために栗城さんのチームは、風音さんの使用しているISの強化パーツや武器を製作しています。」

 

この話は恐らくおっさんが言っていたんだな…

って事はこれから先、他の企業も同じことをやりかねないってことか…

本当に面倒だな……俺本気で戦うつもりなんてないからぶっちゃけ赤銅(これ)で十分なんだが…

まぁそこは今気にしても仕方ないか。

つまりおっさんが俺に協力して欲しいって言った事はこれの事だったのか。

 

「つまりおっさんは『僕へのプレゼント』名義の開発資材を使って『打鉄弐式』のパーツを作っているってことか…」

「…そういうことです…なのでデータもパーツも風音さんがこう言うのが欲しいといってもらわなければ渡す事も造る事もできないらしんです…それにどんなにがんばっても1チームだけでそれも風音さんのパーツと一緒に作るわけですから…」

「人手が足りません…っと。なるほどね……だから僕が仲介役にならなきゃいけなかったのね。」

 

言葉無くうなずく簪。

しかし、おっさん…本当に無茶するな…

こればれたらただじゃすまないんじゃないか?

しかも俺がそこまでISに詳しいわけでもないのにそんな開発データを使って試作案を作るとか…無理があるだろ。

ちょっと頭使わないといけないかもしれないな。

 

「簪ちゃん…後で君に話を合わせてもらうことになるかも…」

「どんな風にですか?」

「ごめん、まだはっきりとわからないけど開発の邪魔にはならないと思う。」

「……わかりました……あの、一つ聞いても良いでしょうか?」

 

真面目な顔で考えていると簪が質問をしてきた。

このタイミングで一体なんだろう。

 

「なに?」

「……栗城さんが風音さんを信用している事もわかります。風音さんが悪い人じゃないこともなんとなくですがわかります。」

「いや、結構悪い人だと思うよ。僕。現に今悪巧みしてるし。」

「そ、それでも、……なぜ私に協力してくれるんですか!?風音さんにはまったく関係のない話じゃないですか!?」

 

あ~そこか。

栗城のおっさんが協力してくれるのは何とかわかったが、今度は俺が自身のIS開発に協力する理由が見つからないと。

なんで具体的なメリットが見つからない中、面倒ごと覚悟で自身に協力してくれるのか?背後に本当に楯無はいないのか?って感じかな?

多分これを聞くのにも勇気を出したんだろうな、『え?じゃあ止める。』なんて断られたら、そのまま『打鉄弐式』の開発は停止だ。

さて…ここで『かわいい子の前でかっこつけたいから』なんて言ったら確実に信用を得られずに終わりだろう、前から考えていた言い訳を使うか。

 

「…これ、人には広めないでね?秘密だよ?」

「……なんでしょうか?」

「僕さ、喧嘩とか戦いとか苦手なんだよね。根本的に嫌いって言っても良い。」

「……」

「でもこのIS学園に入っちゃたらどうやってもISで戦わざるをえないじゃないか。」

「……そうですね。」

「でもIS開発の方に進めば戦う機会はグッと減る。だったら少しでもそこに進めるように早いところからIS開発にかかわっておきたかったんだ。」

「……でも、IS開発なら普通に進学もできるじゃないですか。」

普通(女性)ならね。僕はレアケース()だから、もしかしたら男性のISの戦闘データを取るために戦闘方面の方に強制的に進められるかもしれない。」

「……そんな事って…」

「既に僕、国籍無理やり取られてるんだよ?それに比べればそれくらいありえそうじゃない?あ、言ってなかったけ?今僕が国籍無しだって事。」

「……し、知りませんでした……」

 

一応ここまでは信じてもらえたかな?

さてじゃあ仕上げに入ろう。

 

「だから自身でもISを強化できる天才…って位の肩書きが欲しかったのさ。そしてその技術もね。だからこの『打鉄弐式』の製作協力は僕にとっても渡りに船だったて言うこと。」

「……じゃあ誰に命令されたわけでもなく?」

「そ、自分の意思で自身のために協力してる。ちなみにさっき簪ちゃんに『栗城さんと連絡取れるようになったのであなたはもう必要ありません』って言われたら頭下げて『何でもするので協力させてください!!』って頼んでいました。」

「そ、そうなんですか…」

 

真面目な顔で情けない事を言う俺、簪も少し引いている。

だが顔を見るに一応納得はしてくれたのかな?

これで簪の認識が『よく解らない協力者』から『持ちつ持たれずの関係』になってくれれば良いんだが…

まぁそこは時間の問題だと考えよう。うまくいかなかったらそのときはそのときだ。

 

「ま、そういうことで理由はわかってくれた?言っちゃえば君を利用してるって事だけど。」

「はい、でも理由がわかった分納得できました。それに…」

「それに?」

「今現在、私『打鉄弐式』のために奏さん利用していますし、責める事は言えませんよ。」

 

お、呼び方が『奏さん』になった。

一応信頼が増したのかな?だが油断せずに行こう。

 

「じゃ、これからもよろしくね。…共犯者さん?」

「はい。よろしくお願いします。」

 

と言いようやく微笑んでくれた。

何とか笑わせれたけどまだ硬いな……まぁ出合って十数日でここまでいければ上出来だろう。

さてそろそろ簪を部屋にかえそう。

 

「簪ちゃん、悪いけど俺そろそろ一夏の所に行かなくちゃいけないから、今日はここら辺で良い?」

「…わかりました…ではおやすみなさい。」

「お休み~。」

 

と言って簪は部屋を出て行った。

さて一夏の所に言ってちょっとアドバイスっていうかお節介をするとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の部屋に向かい寮の通路を歩いていると

 

<―バタンッ!―>

 

とかなりの勢いのドアの閉める音がする……あ~なんか嫌な予感…

その予感が当たらない事を祈りながらも足を速めると一夏の部屋の近くを走り去る鈴を目撃する……確定だな…

一応一夏の部屋に向かうか…

 

<―コン、コン―>

 

ドアをノックするとすぐさまドアが開く

 

「鈴か!?…ああ奏か…」

「あからさまにがっくりするんじゃねぇよ…何があった?」

「いや…良く解らないが俺、鈴を怒らせちゃって…」

「……さっきまでここにいたのか?後箒は?」

「ああ、さっきまでここで俺と箒と話していたんだが…」

 

こいつ何を言って怒らせたんだ?

箒に聞いてみるか。

 

「悪い一夏。部屋の中に入っても良いか?」

「あ、ああ。良いぞ。」

 

そう言って部屋の中に入れてもらった。

入ると箒がこちらに気が付く。

 

「奏どうした?」

「その前に箒、何があったか教えてもらっても良いか?」

「……アレは100%一夏が悪い。」

「…詳しく聞いても?」

 

話を聞くと事の発端はこの部屋についてらしい。

箒と一夏の二人部屋。そこに鈴が箒と代わって欲しいという事でやってきたのだ。

箒と鈴は口論になるが平行線、だが問題はそこじゃなかったらしい。

その後に鈴が一夏との約束を持ち出す。

詳しい内容はわからないが箒もわからないが。一夏いわく

 

『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚をおごってくれる』

 

というものらしい………どう考えてもこれ、アレでしょ?

日本で言う「毎日味噌汁を作ってあげる」って言った感じのプロポーズですよね?

『毎日酢豚か~、胃もたれしそうだし高カロリーだから毎日はちょっと…』とかそういうことは、この際まったく関係ない。完全にこれは普通の人から見るとプロポーズだ。だが一夏の中では

 

『鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをごちそうしてくれるって約束』

 

に変わっていたらしい、さすが一夏。

これは両方悪いっちゃ悪いな……

約束について深く考えなかった一夏も悪いといえるし、一夏にこの手のプロポーズは効かないということを解りきれなかった鈴も悪いといえる。

だがこれはひどいな……

流石に手を頭に当て悩ませる。箒の説明も以上のことだった。

 

「そして鈴は泣きながら走り去って行った……これが先ほどまでこの部屋で起こっていたことだ。」

「……何というか…悲しいすれ違いだな…」

「怒った理由がわかったのか!?奏!!」

 

と俺に聞いてくる一夏。

むしろお前はなぜわからん?

 

「あ~~~……すまんがこの手の事は自分で気が付かないと意味がないな…うん。」

「でも…俺なんて鈴に謝れば…」

 

悪い事をしたんだと自覚はしているが怒り出した理由がわからないと…

しかしそのまま解らないけど御免なさいとはいえないとな……

あ~……めんどくせぇ…

 

「アレだ素直に自分が悪いと思ったところを謝れ。約束についてはその時に聞け。」

「そうか…」

「(そ、奏!!)」

 

と悩み始める一夏と近くに来て小声で話す箒。

 

「(それでは一夏が鈴に取られてしまう!?)」

「(…それはないな。)」

「(なぜそう言い切れる!!)」

「(もし鈴が、謝られた時にもう一度、一夏に意味を説明できるような奴だったら、さっきの時点で既に説明しなおしているからな。そうすれば一夏も今頃告白に関しての答えで悩んでいるだろうさ。)」

「(あ……)」

「(仮にもし一夏が謝った時点で告白したとしても一夏がそれを素直には受け止められないだろうな…)」

「(そ、そうなのか?)」

「(たぶん『俺に気を使って…』とかそういう風に考えるだろうよ。)」

「(そうか…)」

 

そして口には出さないけど鈴は既に勇気を出して一夏に告白しているんだ。

もう一度チャンスを与えるくらいのアドバンテージをあたえても罰は当たるまい。

しかし…なんでどっかのショートコントみたいなことやってるんだよ!?

笑えないのはこれが俺の友人が現実にやっていることということだろうな…

まぁそんなにひどい事にはならないだろう…たぶん。

俺は当初の目的のアドバイスを言う事を思い出し一夏にだけ聞こえるように話をした。

箒に何かは聞かれたが適当にごまかして一夏が質問攻めになっていたのを無視して部屋にもどった。

現世の記憶がほとんど使えない今出来る限りの事はしよう、そう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

愛とは相手に変わることを要求せず、相手をありのままに受け入れることだ。

                                 ~ディエゴ・ファブリ~




ここで簪の信用を得ることと一夏が爆弾を爆発させました。
しかし一夏ほどではありませんがリアルに意味を間違えた経験は作者にもあります。
そのときは笑い話で済みましたが……
一夏のこれをあまり強く攻められない作者でしたwww
ということで読んでいただきありがとうございましたwww

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