インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

37 / 120
第二十一話 訓練

「まったく…僕に嫉妬してどうする。」

 

説得を終え一息つく、これじゃもうすぐ昼休みも終わる……

三人への説得は困難を極めた。

結局俺の『仮に一夏が“そっち”だとしたらお前らどうするんだよ!?』という根本的な一言で事態は収拾した。当の一夏はなぜこんな事になったのか解らないと言った顔だ。

 

「い、いえ。少しわたくしたちも混乱しておりまして……」

「そ、そうだ。ちょっと混乱していただけだ。」

「……本当に何にも無いんでしょうね…」

「無いよ!?」

 

という風に納得してくれたか?…詳しくは考えないようにしておこう。

さてそろそろ昼休みも終わるし先ほどの話の結論を言うか。

 

「あと鈴。君の言った訓練についてだけどせめて君との試合が終わってからで良いかい?」

「!?何でよ。」

「そうしないと一夏の勝率が下がるから。基本的にいくら一夏が優秀だからといってもISの熟練度がどう見ても君とは比べものにならないほど低い。そうなるとこちらの勝つ方法と言えば不意打ち位だ。ってことで一緒に訓練しちゃうとその不意打ちすら出来なくなりそうだしね。」

「そういうことですわ。」

「そうだ。」

 

お前らは……調子に乗らないように釘はさしておくか。

 

「もちろん試合終了後は好きにしてくれ。むしろ一夏もその方が良いんじゃないか?」

「ああ。鈴に教えてもらえるなら助かる、断る理由もないしな。」

「もちろん二人もそれなら反対は無いよな?」

 

箒とセシリアが何か言う前に圧力をかける。

二人とも納得はいかないが反論はでき無いようなのでうなずいた。

 

「う……わかったわよ……じゃあ対抗戦が終わったあとにたくさん教えてあげるわ。」

「おう、頼むぜ鈴。」

 

鈴の方もここが落とし所と判断したのであろう。

しかし…なんで俺がこいつのハーレム管理じみた事やらなくちゃいけないんだ…

そう考えていると昼休みが終わった。

 

 

 

 

 

 

放課後俺は一夏たち三人と共にアリーナを借り練習をしていた。

箒は貸し出しされている打鉄を纏っている。

普段俺が参加する事は無いのだが今回は簪に頼まれたデータ収集と一夏の鍛錬に付き合うことにしたのである。

一夏とセシリアは何か話した後向かいあっている。

さてどう訓練をするのか見せてもらおうか。

 

「じゃあいきますわよ。」

「ああ!!こい!!」

 

と言って突然試合を始めた……いきなりスパーですかい……

これは箒に確認した方がいいな。

 

「箒、いつもこんな感じなのか?」

「ああ、だがただ試合をするわけではない。」

 

という箒。

って事は何かかしらの目的があるのか。聞いてみよう。

 

「ほう…どういう風に?」

「言ってはなんだが私はあの二人と比べてISを動かすのが下手だ。だからこの訓練では私は一夏の動きを観察し、悪いところや攻め時が有れば後で自分の剣ならどう動くかを一夏に伝える。」

「……」

「一夏は一夏で自身の武器が近距離用の物しかない事は解っているからな。どれだけ遠距離の相手と戦えるかを伸ばすように戦っている。」

「セシリアは?」

「セシリアは一夏に懐に入られないようにする相手のコントロールの訓練と自身の弱点の克服らしい。」

 

話しながらも箒は二人の試合から目を離していない。

ふむ……一夏が箒と一緒の剣術で戦うという事なら問題は無いかな…

ただ問題点を挙げると

・箒の鍛錬が出来ない事

・一夏のISは聞くところによるとどちらかといえば一撃離脱なのだがそれを生かせる戦術になるか不明

と言ったところか?ただ前者は今必要かといわれれば必ずしもそうではないし後者は今すぐにそれ専用の訓練をひらめくかと言ったらまったくひらめかない。

つまりしばらくはこの訓練でも問題は無いのか?

前者については俺が箒に教えれれるコツを説明する事は出来るな。

しかし後者か……後で一夏に言ってだめもとで試させてみるか。

とりあえず今は箒の方だな。

 

「箒。一応僕の知る限りのISの動かすコツなら教えられるけど、どうする?」

「……試合が終わった後の時間にでも教えてもらえるか?」

「いや、そんなたいした事じゃないし今すぐそのままできる訓練。」

「……教えてもらってもいいか?」

「簡単のこと。常にどこかISを動かしてタイムラグの感覚を掴むだけ。」

「……どういう意味だ?」

 

そう聞きながらも彼女は一切こちらを向かず試合を見ている。

 

「え~っと、僕の感覚なんだけどISを装着している時なんか動きが自身のイメージした動きと違う感覚無い?」

「動き自体は早くなってるが細かいところだと違和感があるな。」

 

なるほど、普通はそうなのか。

こっちは動きは鈍いし細かい動きはすばやくできない、無茶をしようものなら壊れかねん。

ぶっちゃけ着る必要無いんじゃない?…まぁそこら辺は今は良いとして話を続けよう。

 

「その違和感になれるように動かすんだ、手をゆっくり動かすのでも良いし、石を上に投げ掴む動作でも良い。箒の場合素振りでもいいんじゃないかな?ひたすらに違和感を感じなくなるまで動くんだ。」

「なるほど…感謝する。」

「あと紙一重で避けようとしないことかな?どうやっても動きにくいから生身で紙一重をやってる感覚で動くと被弾する。」

「……奏、お前何か武術でもやっているのか?」

「いや、ただ逃げるためにひたすらに回避を鍛えてただけ。」

 

と笑顔で場を濁す。

流石に誰も殺さないで無理を通すために鍛えているとはいえない。

そうしていると二人が降りてきた、試合は終わったようだ。

 

「ほら箒、行ってきたら?セシリアと二人っきりはまずいんじゃない?」

「わ、解っている。」

 

と言って箒を二人にけしかける。

まぁ一夏強化の訓練はあの三人で十分だろ。じゃあ俺も俺でがんばるとするか。

とりあえず今日必要なのは脚部ブースターだけでの機動データ。

世界に公表もされるわけだから動き回る訓練をしているようにするか。

訓練の最中でもそこら辺を気にしないといけないとは……

どこか何かのデータを取ってるように見られるだけで疑惑が広がるからな……本当に面倒だな。

頭の中でぼやきながらも自身の訓練(データとり)をはじめる。

しかしやはりISは動きにくい。空を飛べるという利点があっても武器としては使いたくないな……

出来る事なら何もしがらみがない状態で飛び続けたい、もしくはこのまま宇宙開発に使うべきだろ、個人でここまで細かい作業が出来る宇宙船なんてどこまで利用価値があることか。

たとえば月にあるであろう資源の回収や危険な実験施設の建築。

もっと言えば月に前線基地を作って、その後火星のテラフォーミングも可能かもしれないのだ。

なぜそれほど浪漫にあふれた発明品をを武器利用しなければならないか…やはりそれだけ白騎士事件が強烈だったんだろうな…

約2400発近くのミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器の大半を無力化した事件。

ISの兵器としての側面が世界に知らしめられたこの事件、これのせいでISは『宇宙開発のマシーン』から『効率的な戦争のマシーン』となったのだ。

こうなったら世界は我先にその『効率的な戦争のマシーン(IS)』を開発するだろう。

そしてそれには終わりが見えない。そうするとどんどん宇宙は離れていく…

 

(ああ、製作者のことを考えてるとやるせないわ……)

 

恐らく宇宙を夢見て作られたこれが今じゃ地球のしがらみに縛られてるとか……

そう考えながら空を飛ぶ。

何も考えずに飛べるのなら気持ちがいいんだろうがあいにく今はデータ取りだ。

そろそろデータも取れたし今度はIS状態での武器の挙動を確かめるか。

下に降りて今度は壊れない限りのスピードで銃を構える。

遅い…では一回銃をしまいもう一度…やはり遅い。

これ以上の訓練は無駄だな…逆に変な癖が付いてしまいそうだ。

最後に一回全力でいってみるか……

目を閉じ集中して構える。

 

<―バチッ―>

 

という音と共に構えることに成功するが今の音は……

[右腕部装甲にダメージあり]の表示、全力一回でこのザマか……

よし、やはりISで逃げに徹しよう。戦う時も時間稼ぎか囮だ。

正直この状態で戦うのは危険すぎるし何より責任が持てない力を振るうのは性に合わない。

そうしていると一夏が近寄る。

 

「奏どうした?さっきから飛び回ってたかと思えば今度は銃を構えて。」

「いや、動いてみたんだけどやっぱり慣れなくて動作の確認をしていたんだ。ただやっぱり武器を構えるのは性に合わないなって思っただけさ。」

「その実力で?」

「あわないものは仕方ないでしょ?」

「そうか。お前本当に喧嘩とか駄目だもんな。仲裁に入ってもいつも逃げ回ってたし。」

「そういうこと、僕は飛び回るほうが性に合ってるみたい。悪いけど一夏、先上がらせてもらうわ。」

 

そう言って俺はアリーナを後にした。

 

 

 

 

アリーナの控え室にもどるとそこには鈴の姿があった。

こちらに気が付いているようだし一応声をかけておくか。

 

「や、鈴。一夏ならまだ訓練中だぞ?」

「ああ、奏。……ありがとう。」

「うん?これくらいどうって事ないさ。」

「そうじゃなくてさ、一夏の誘拐事件のこと。」

 

と口に出す鈴。

その事はあまり広めるべきじゃないんだが…あいつ親しい奴には知らせたのか?

 

「……鈴知ってたんだっけ?」

「一夏の話してた事はあんたに助けてもらったってだけ。このことは中国で知ったの。」

「…一応どういう風になってるか教えてもらってもいい?」

「詳しくは解らないけど一夏が誘拐されたってこととあんたが助けたって事はわかった。」

 

中国にはばれていたか……だが詳しく知っている訳ではなさそうだな。

もし中国が完全にその情報を掴んでいたら

『日本に世界の宝の男性IS操縦者を任せるのは不安だ』

とでも言って奪おうとするだろう。

そして鈴もあまり広めるべきことではないと思っているようだな。

ならここで適当に答えて終わらせよう。

 

「助けたのは偶然さ。おかげで僕は日本にこれたしむしろお礼が言いたいくらいさ。」

「そっ。じゃあこの話はおしまい。次に聞きたいことがあるんだけどいい?」

「……一夏の周りについて?」

「……そ、そうよ。」

「箒とセシリアが現在一番近いかな?ここら辺は僅差だね。後は五反田 蘭は解るでしょ?」

「ええ、もちろん。」

「彼女はとりあえず一歩引いてるところら辺かな?どちらかと言えば一夏も妹だと思ってるって感じ。そのほかはぶっちゃけ把握しきれません。」

「やっぱり…あの歩くフラグメーカーは…」

 

とわなわなと肩を震わせる鈴。

そしてこちらを見て話し始める。

 

「聞きたい事はそれだけ。あとあんたがどっちに肩入れしてるかはわからないけど残念ながら私の勝ちって伝えておいて。」

「二人に伝えておくよ。」

「何だ、まだ中立だったんだ。そういえばあんたはなんで訓練やめてもどってきたの?」

「ちょっと調子が悪くてね。あとISの整備もしたかったし。」

「ふーん、あんたもそれなりに強いって聞いたんだけど?」

「よしてくれよ。僕ランクDの初心者だよ!?多分噂の勘違いだよ。」

「そう。まっどっちにしても一番強いのは私だけどね。」

 

と胸を張る鈴。

やはり似合っていない。

なんというか小学生が威張っているようなイメージを感じる。

なんか頭を撫でたくなるなぁ…怒られそうだからやめよう。

さてそろそろISのデータをおっさんに送って偶然にも頼み事をされる予定(・・・・・・・・・)の時間だ。話を切り上げて先に行こう。

 

「じゃ悪いけどそろそろ僕も行くわ。」

「そ、じゃまた後で。」

「夕食にでも合えればね。」

 

そう言って俺は鈴と離れるのであった。

 

 

 

 

 

友を得る唯一の方法は、自分が良き友たるにある。

                                  ~エマーソン~




一夏のホモ疑惑……
作者の友人の内半数は『あいつはホモだ』と言っております
では次の話まで~
読んでいただきありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。