インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第十六話 更識姉妹

「かんちゃ~ん、わたしだよ~あけて~」

 

と寮の一室の前でドアを叩いた跡に話す本音。

この話し方から察するにそれなりに仲がいいんだろう。

しばらくすると返事も無くドアが開いた。

 

「一体どうしたの?」

「う~んとね。カゼネがかんちゃんに渡したいものがあるんだって。」

「……なんでしょうか?」

 

うっ、なんかこの子めっちゃ俺のこと警戒してる。

まぁ、だからといって態度を変える俺じゃない。

 

「はじめまして。僕の名前は風音奏。どっちでも好きな方で呼んでよ。」

「………ご用件は?」

「…あれ?おっさんから何か聞いてない?」

「おっさん?……あの、どなたの事でしょうか?」

「いや、倉持技研の栗城修っておっさんから何か知らされてない?データ持って来る奴が居るとか……」

「いえ、一切連絡は来ていないですね…」

 

おっさんこの子に連絡してねぇな…ヤバイ、この子の警戒度かなり上がってる。

ここは普通に説明するか。

 

「え~……じゃあ一応僕の説明を聴いた上で判断してもらえません?」

「……」

「だいじょーぶだよ、かんちゃん。カゼネはいい人だから。」

「……わかりました。では部屋の中にどうぞ。」

「え?入って大丈夫なの?ルームメイトは?」

「今居ませんしそういうことを気にする人でもなかったと思うので。」

「おっじゃましま~っす。」

「じゃあお邪魔します。」

 

そう言って俺と本音は部屋へと案内された。

しかしあのおっさん、もしかして説明とかも俺に全投げしたのか?

くそ、おっさんに良いように使われている気がしてならねぇ……後で2~3文句を言ってやろう。

まぁ既に相手のテリトリーに踏み込んでしまった後だ、とやかく言っても仕方あるまい。

部屋に入ると椅子を出されそれに座る。

見たところこのかんちゃんこと更識 簪ちゃん、かなり気が弱い。そして男には慣れていない。おっさんも苦手なのか?まぁ話す分には関係ないだろ。俺は出来る限り笑顔でやわらかく話しかける。

 

「え~っと、さっきも言ったと思うけど一応もう一回挨拶しとくね。僕の名前は風音奏、一年一組所属で一応『男性のIS操縦者』やらせてもらっています。」

「……えっと、更識 簪です。一年四組のクラス代表生です。」

「おお、すごい。僕は落ちちゃったからな。それ。」

「でもカゼネもすごかったよ~。」

「ありがと本音さん。」

「……それであの…データって一体何の…」

「ああ、ごめん。えっとね、栗城修って人は知ってる?」

「……はい。私のIS開発に協力してもらっていますし…」

「その人に頼まれて僕のISのデータを君に渡すよう言われたんだ。なんか端末から情報落とせる奴ない?」

「……どのような情報かわかりますか?」

「『打鉄』系列の高速戦闘時のISのデータだって言ってた。多分どう動けばどこに負荷がかかるとかじゃないのかな?詳しいところはわからないけど。」

「………」

 

彼女また悩んでるな……なんでだろ、ちょっとカマかけてみるか。

 

「君も納得できないかい?倉持技研がいまさらなぜって。」

「!?い、いえ……」

 

反応を見るに既に彼女には事実上の停止については伝えられているんだろうな。

んで協力したいっておっさんが直接言っても『面倒なこと』のせいで説明しにくいっと。

さて、どう説明しようか。まあ普通に話してから考えよう、俺は真面目な顔で話し始める。

 

「これは僕がおっさん…クリキさんから言われた事そのまんまね。」

「なんでしょうか……」

「『自分に出来る事ならなんでもする、頼むからあの子のIS開発に協力してやってくれ。』だってさ。」

「………どういうことですか?」

「一応、僕いま面倒な立ち位置に居てね、勝手に一つの企業に肩入れしたら面倒な事になるのよ、僕もそんな抜け駆けをした会社もね。もっと言えば個人で勝手に会社追い込んでるわけ、あのおっさん。で、その事はおっさんも良くわかってる。」

「……なんでそんな事を?」

「さぁ?そこはおっさんに聞いてくれ。ただおっさんはそうまでして君に協力しようとしてる。これは本当。」

「………お姉ちゃんは、関係ないんでしょうか?」

「…………だれ?」

「へ?」

 

意を持って聞いたのであろうその質問は俺のマヌケな答えにより肩透かしを喰らってしまったようだ。

この隙に一気に決める。俺は笑顔でさっきまでの真面目な雰囲気を吹き飛ばした。

 

「かんちゃん、お姉さん居るの?」

「か、かんちゃん!?」

「あ~!!かんちゃんだけニックネームずるい~私も~」

「じゃあのほほんさんでいい?」

「いいよ~。カゼネはどうする?カゼー?カザー?ソウソウ?」

「最後のはパンダみたいだね。ちょっと親近感を感じる。」

「あ、あの……」

「うん?なんか良いニックネームひらめいた?」

「ち、違います…あの本当に知らないんですか?」

「自慢じゃないけどIS関係の有名人だったとしても、僕が知ってるのは千冬さんぐらいしか居ないから解りません。」

 

キメ顔のような顔をし二人を見ると本音の方は指をさして笑っているし、簪にいたってはぽかーんとしている。

さて順調に頭の中がかき回されているだろう、ここら辺できめるか。

 

「冗談はここら辺までとして何も裏は無いよ。僕はね。だから受け取ってもらっても良いかい?このデータ。」

「……解りました。ではいただきます。」

「そ、良かった。でもあのおっさんひでえよな。僕に説明全部押し付けやがった。」

「カーゼだからしかたないね~。」

「なんか車の複数系みたいだからそのニックネームは却下。あと仕方ないってなにさ。」

「いいひとだから頼んだんだよ~。きっと。」

「面倒だったからじゃないんだろうか?ねぇ、かんたん。」

「そ、その呼び方も止めてください。名前で呼んでください。」

「OK、簪ちゃん。あとデータのほうは写し終わった?」

「ちゃん…まぁいいです……ハイ、終わりました。あと中に説明が書いてあるデータを発見しました。おおよそさっきの説明と一緒の事が書いてありました……」

「多分、僕が自主的に協力したって書いてあるでしょ。あと僕がうそつきだとか。」

 

そういうと簪は驚いた顔をしながらうなずいた。

 

「なんで解ったんですか?」

「あのおっさん。おっさんのくせにツンデレだからさ多分照れ隠しで僕のことを犠牲にするだろうな~って考えただけ。」

「……仲がいいんですね…」

「どうだか。それと後何か書いてあった?」

「他にほしいデータがあれば奏さんに連絡をつけろと連絡先が書いてありました。」

「そうか、じゃあよろしくね。」

 

と手を差し出すと一応握手はしてくれた。

あのおっさん人の連絡先勝手に教えてるんじゃないよ。

まぁおっさんが教えなかったら俺が自分でやってたけどさ。

しばらく二人と話すとそろそろいい時間だ、もしかしたら彼女のルームメイトも来るやもしれない。

ここら辺で帰るとしよう。

 

「じゃあ、僕はそろそろ自分の部屋に戻るよ、これからよろしくね。」

「じゃ、わたしも~、かんちゃんまたね~。おやすみ~。」

「はい…おやすみなさい。」

 

といい部屋から出た。

さてじゃあ本音とも分かれるか。

 

「じゃあ、僕も部屋に戻るね。紹介してくれてありがと。後あの話は秘密でね。」

「了解しました~。ソーも、ありがとね、かんちゃんに協力してくれて。あと気をつけてね。」

「うん?何に?」

「えーっとね、秘密。」

「そこは秘密なの!?まぁいいか、じゃあお休み。」

「おやすみ~」

 

そう言って本音と分かれる。

 

 

 

 

 

本音と分かれた後に考える。

気をつけろ、って言う事は何かあるんだろうな……しかもあの本音が言うのだ、よっぽどだろう。

恐らく何かかしらの危険が有る、しかも予測できる事だ。……状況を考えよう。

現在俺はおっさんに言われ簪にデータを渡した。

そのダータも問題なく渡され協力する事もできるようになった。めでたしめでたし。

………何に気をつければいいんだ?現状問題になりそうな箇所はない。

いや、待てよ。

おっさんの言っていた面倒って何だ?

さらに簪の言っていたお姉ちゃんなる人物。

この人がクレーマーか何かなのか。そうすれば友達の本音も知っているだろう。

まぁ文句や嫌味程度なら適当に逃げよう。そうすれば問題なしだ。

そんな事を考えていると自分の部屋に着いた。鍵を開けて部屋に入ろうとすると何か違和感を感じる、誰か侵入している………よし、逃げよう。

そう思い俺はそのまま部屋のドアを開けようともせず背を向け適当なところに行く事に決めた。

盗まれて困るものはないし、恐らく一夏の部屋にはまだセシリアも居るだろうしそこで時間を潰そう、そうしよう。

その時後ろのドアが<―ギギギィ…―>と音を立てて開く。あれ俺の部屋のドアこんな音なったけ?

恐る恐る後ろを向くと一人の女性がなぜか俺の部屋の中に居た。

 

「気が付くなんてすごいじゃない。今までそんな人居なかったわよ。」

「……」

「さすがはIS相手に生身で勝ったって噂があるほどね、そして代表候補生相手に互角以上に戦うランクDのパイロット。」

「……あの一ついいですか?」

「なに、言って御覧なさい。」

「……あなたは…どなたでしょうか?」

 

その女性何事も無いかのように話をしているが状況がまずおかしい。

まずなんで俺の部屋に勝手に入り込んでいるのか、次にそれを無かったかのように俺の前に現れ話し始める。極めつけに目がまったく笑ってない(・・・・・)

こいつはヤバイ。とりあえず話を進めるか…

 

「とりあえず今は更識楯無とだけ言っておくわ。」

「更識……もしかしてかんちゃんのお姉さん?」

かんちゃん(・・・・)…?」

「いえ、失礼しました。簪さまのお姉さまでございましょうか?」

 

やべぇ!!この人今絶対俺に攻撃しようとしていた!?なんなの一体!?本当に俺なんかやった!?簪に変な事なんてしてないし……

まぁ話を聞こう、そうすれば解るだろう……多分。

 

「……その通り。私はあの子の姉よ。いくつか聞きたいことがあるんだけど良い?」

「何なりとお聞きください。」

「そう……まず一つ目、あの子に何をしようとしたの?」

「データを渡しに行きました。ISのデータらしいです。サー。」

「あなたがなんでそんなものを?」

「倉持技研の栗城修という研究者からです。自分が渡すよう依頼されました、サー。」

「………そう。じゃあ次の質問。」

 

顔を見ると少し落ち着きを取り戻しているな。多分今のが本題だったんだろう。

次からの質問はおまけ、もしくは今の問題と比べてそれほど重要じゃないって感じかな?

そう考えていると楯無と名乗る女性は話を続ける。

 

「二つ目にあなたは何者?」

「CIAのエージェント…ごめんなさい!!そんな怖い顔で見ないで!?ただの普通の生徒ですよ!?男である事を除けばね。」

「……一般生徒が生身でISと戦ったり100m先の的でワンホールショットしたりするのね。」

「たかが噂でしょ?それ。」

「後者は確認済みよ。まだCIAのエージェントって方が納得できるわ。」

 

事前に調査もしています…っと。この人が何者かはわからないけどそれなりに始めから僕がターゲットだったと……さてどう落ちをつけようか。

 

「っていわれてもな~僕としてはそれ以外に言えないし。」

「……それを信用できると思う?」

「それなら僕について調べていただいてもいいですよ。むしろ僕の過去について解ったら教えていただきたいほどですね。あと一つだけこちらからもいいですか?」

「……なに?」

「妹が心配なのはわかりますが過保護過ぎじゃありません?それと僕は彼女の敵じゃありませんよ。」

「………どういうこと。」

「採点の点数、足りませんでした?じゃあ詳しく説明して加算点を狙わせてもらいます。」

 

そう俺は笑顔で話し始めた。

 

「まず一つ目の質問ですがこれはあなたが一番聞きたいことですよね?でもそれに関して聞くのならどう考えても一緒に居た本音の方が聞きやすい。そして僕が部屋に行ったことを知っているのなら一緒に本音が付いて来たことも知っていなくてはおかしい。それなのにあなたは僕の方に聞きにきた。つまり自分で僕に尋問して邪な考えはないかを知りたかった。」

「………」

「二つ目に関してですがこれは単なるあなたの僕に対する採点ですよね。本当にそう疑っているのなら僕に何者なのかなんて聞きませんよ。話の内容からあなたが僕について調べている事も解りましたしね。そこに気が付く事が出来るか、そして圧力的な尋問に耐えることができるかのテストですか?恐らく簪ちゃんの手伝いをする上で役に立つかどうかのテスト……かな?」

「………」

 

笑顔を崩さず話し続ける。

楯無さんの方はいまだに表情は変わらず険しいままだ。

さーて、これで間違えているのなら恥ずかしいじゃすまないぞ?

 

「このことをふまえて恐らくあなたが僕に対してテストをしているのではないのかと考えさせてもらいました。そしてかなりわざとらしく情報渡してくれましたしね。ただやり方がいくらなんでも過剰では?と感じたので過保護といわせてもらいましたけどね。」

「……本当に尋問されてるとは思わなかったの?」

「だったらはじめに自分の妹のことを聞きませんよ。自分から弱点を言っているようなものですもの。この考え方でいかがでしょうか?」

「……100点満点あげましょう。」

 

そう言って楯無さんは笑顔になり扇子を開いた。

扇子の真ん中には三文字。『お見事』と書いてあった。

心臓に悪い人だな……

 

「ふぅ…ここまでかっこつけて間違ってたらどうしようかと思っていましたよ。」

「あら?それにしては終止笑顔だったじゃない。」

「笑顔を貼り付けてただけですよ。それにあなたの演技が怖かったんですよ。特に僕が『かんちゃん』って言った時の反応、あれ本当に攻撃されると思いましたもん。」

「当たり前よ、アレは本気だったもの。」

「……さいですか。」

「それにしてもよく気が付いたわね…今までの人の中で一番早く気が付いたわよ、あなた?」

「ということは合格ですか?」

「まぁ許可を出しましょう。」

 

許可がでなかったらどうなっていたのだろうか……

まぁでたんだから考えても仕方あるまい。とりあえずずっと廊下で話すのはアレだし部屋に入るか。

 

「そいつは良かった。じゃあ話はこれでおしまいですか?」

「えっと……そうなるわね。」

「……お茶の一杯くらい飲んでいきますか?」

「……せっかくだからいただくわ。」

「じゃあどうぞ…って言っても既に部屋の中に居ますね楯無さん。」

「あら、私はたっちゃんでもいいのよ?」

「気が向いたらそう呼ばせてもらいますよ。」

 

軽口を叩きながらとりあえず部屋の中で話を続ける事にした。

なんか本当に面倒ごとに巻き込まれてる気がするけどおっさんそこまで考えて依頼したんだろうか。

とりあえずおっさんに恨み言を言う事を決め部屋の中で話すことにした。

 

 

 

 

 

この世は絶え間のないシーソーだ。

                                  ~モンテーニュ~




ということで更識姉妹の登場です。
原作と比べかなり序盤に出させてもらいました。
この後どう物語に絡んでいくのかお楽しみにwww
では読んでいただきありがとうございました~

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