インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
かばんをひったくられた男性はクマのぬいぐるみを見続けたかと思うとハッとしたような顔をしてこちらに目を向けた。
「ありがとう…私の大切なものを取り返してくれて……君のおかげだ本当にありがとう…」
と涙汲んで肩をつかまれながらお礼を言ってくる。いやお礼を言われるのはうれしいんですが……10歳児としてどう反応すればいいのかわからなくてうかつなことはいえない…いったいどうすれば良いのか。
そうしていると相手のほうもそれを見て俺が驚いているのかと思ったらしい。
すぐさま肩から手をはずし少しあわてるように話し始めた。
「すまない。これは私にとってとても大切なものでね。お礼がしたいんだが名前を教えてもらえるかな?」
「ええっと……」
……やばいぞ。なんだかんだで『風音』を名前か苗字か決めかねてたのがここに来てこうなるか!?
こうなったらとりあえず現実世界の名前を……あれ?名前なんだっけ……いやさすがにそれは忘れちゃだめだろ!?俺!!
現実世界の名前を思い出せず焦る俺を見て男は何を思ったか笑顔で話し始めた
「な~に、おじさんは悪い人じゃない。安心していいぞ?」
悪い人は皆そういう…ってそんなこと考えてる暇が有ったらさっさと名前を思い出せ!!
「……じゃあほかの人には内緒で私のことを教えてあげよう」
小さい声で内緒話をするように俺に顔を近づけて話し始めた
「おじさんはね、あのデュノア社の社長なんだよ?ISを造っている会社さ。」
「!?」
え?あのISを製作してる会社?って言うよりなんか引っかかるがとりあえず何か話さねば。
「……お金持ち?」
「そうさお金持ち、だから安心して名前を言ってご覧?」
社長さん……お金持ち以前にその言い方は間違ってると思いますよ…まぁとっさに出てきた言葉がお金持ちって俺も人の事言えないけどさぁ…
俺の発言が面白かったのか少し声を抑えながら笑う社長さん。むしろちょっとは子供っぽい話かたができたか?
そんなことを考えてるとパッと本当の名前だけは思い出すことができた。なら苗字は仕方ない『風音』をそれにして
「…ぼくの名前は『
そういうとデュノア社長は少し考えた顔をした後名刺を俺に渡した
「カザネくんか……あとでこの名刺を持ってどこでもいいからデュノア社に関係あるところにいきなさい。必ずお礼を渡すからね。」
しまった・・・名前のことだけ考えてたせいで名前を言う順番を間違えた……まぁいいか。それっぽく聞こえる苗字だし。とりあえずここは素直にお礼を言って逃げよう。さっきから色々と目立ちすぎて居心地が悪すぎる。
「は、はい。ありがとうございます。」
「いやいや、お礼を言うのはこちらだよ。本当にありがとう、カザネくん。」
そう言ってデュノア社長は片手にクマのぬいぐるみを持ちながらその手を振りながら去っていった。
その後、俺は薪になりそうな枝を集めながら山を登って行った。理由は二つある。
ひとつはそこに山があったから……とか言うどこぞの登山家みたいな理由ではない。
町で出た、あの引ったくり二人である。寝ている間は大丈夫なのでは?と考えるだろうがこの世界がそんなに俺にやさしいはずが無かった。
確かに寝ている間は何にも襲われない。物も取られない。しかし一度目を覚ませばそれは関係ないのだ。一度山で寝ている最中目を覚ますと近くで野犬がスタンばってた時には正直苦労した。よって眠る時は昼間の公園や人が多く集まるところと決めているのである。
ふたつめに水浴びがしたい。野生的だなんだいっても正直一週間に一度水浴びをするの何度もするのではぜんぜん違うのである。幸い山のほうに家は無く夜なので水浴び中に荷物を取られる心配も無い。……ただ風邪には気をつけなければいけない。
まぁ何度もやってるからそれほど不安は無い。初めのうちはどこかに温泉は無いのか!?と探したものだがそういうところには確実に女尊男卑の方がいらっしゃるので泣く泣くあきらめているのである。ああ、シャワーでいいから暖かいお湯が欲しい……でもそれほどの火をおこすとなると薪集めで一日が終わる、さらに目立つ。それはどうあっても避けたい。そんな考えをしていると上流の水がきれいな所でちょうどいいポジションを見つけた。
緩やかなカーブ上の川に遠浅になった砂地。コレなら砂地で火もおこせるため水浴び後も寒くない。
てきぱきと薪に火を熾す。さすがライター、文明の発明品!!火も簡単に熾せるぜ!!とISが活躍する世界でたかがライターで人類の叡智を感じているのであった。
火がある程度大きくなったら川の水をなべに入れ火にかける。こうすれば水からあがったあと温かいお茶が飲めるであろう。
さてそろそろ川に入ろうかと覚悟を決め服を脱ぐ。いくらこの生活に慣れてもこの水浴びだけはぱっぱと終わらせたかった。
覚悟を決め水に入ろうとした瞬間
「ガサッ……」
後ろの茂みから物音がした。……火に寄ってきた獣だろうが油断はできない。もしかしたら野党の可能性も無いわけじゃない。
俺は音がすると同時にすかさず服のそばに置いた銃を両手で構えた…いくら身体能力が高かろうと所詮人間。クマや野犬相手に素手では勝てない。人間が相手ならなおのことだ。
しばらく構えているが物音はしない。コレが獣の類ならおそらく既に逃げているだろう。しかし野党の場合…緊張ながらもできるだけ大声で声をかけた。
「オイ!!誰かいるのか!!」
「ガサッ!……」
確実に何かいる。しかもおそらく人間。最悪の事態を考えながらジワリ、ジワリと音のした場所に歩く。茂みまでの距離は一メートルほど。それでも目に姿が映らないということはおそらく人数は一人。それも小さめの体だ。
そう考え警告の言葉を出す。
「……今から3秒数える…でてこなければ撃つ!!」
そう言って数を数え始めようとした瞬間、
「や、やめて!!」
女性の声が聞こえる。しかし姿は見えない。おそらくまだ音がした茂みの後ろに隠れているのだろう。しかし油断はできない。相手がどんなに小柄でもここで銃をおろした瞬間こっちが撃たれる可能性もある。
「わかった。でも姿が見えないとこちらも銃をおろせない……手を上げて茂みから見えるようにしてくれないか?」
「は、はい……」
おびえる声を聞く限りおそらくかなり若い女性だろう。そしておびえているということは武器を持っていない可能性のほうが高い。
油断しないように銃を構えたまま茂みを見続ける。すると茂みの後ろから『にゅ』っと手が伸びた。それはどう見ても子供の手さらに武器などは一切無い。安心して目を閉じながら銃を下げ再び彼女を見ると彼女はこちらに背を向けたまま手を上げて立っていた。そして良く見るとおびえて震えていることもわかった。
(あちゃ~、悪いことしちゃったかも?)
と仕方ないことながら少し罪悪感を覚え、できるだけ明るい声で言葉をかけた。
「うん。こっちからも見えたから銃はもう向けて無いよ。安心して。」
そういうと少女は恐る恐るこちらに眼を向けた
「ほ、ほんとうに?だいじょう………」
途中彼女の言葉がとまり見る見る顔が赤くなる。何かと思いふと自身の姿について思い浮かべる。
あ……そういや今、俺…裸だったわ…
「ご、ごめ「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」」
夜も森に響く少女の悲鳴とビンタの音。眠る鳥たちもいっせいに目を覚ましたのか羽ばたく音が聞こえる。
そんな中、俺はビンタのダメージと目の前での悲鳴、さらに裸を見られた羞恥心と(あれ?俺のせいなの?これ?)と言った感情を頭の中で混乱させながら倒れて動けないのであった。
コレがこれから先何かとめぐり会うことになる『シャルロット・デュノア』との出会いである。
貴方がたとえ氷のように潔癖で雪のように潔白であろうとも、世の悪口はまぬがれまい。
~シェイクスピア~
と言うことで主人公の名前とこの物語のヒロインとなるシャルロット・デュノアちゃんとの出会いでした~
っていうか話の構成が未熟だな・・・まさか主人公の名前が3話まで出せなかったとは。
このあともしばらくオリジナルの話が続きますがどうかお付き合いいただけるとうれしいです。