インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
さて試合が始まる前だけど早速問題だ。
既にハイパーセンサーが働いていない、しかもそれどころか脳内に送られてくる情報もノイズが入っているかのように断片的だ。何とか相手のISの名前はわかるが装備とかの情報も断片的だ。…大丈夫か?これ。
流石に6日で仕上げるなんて無理をさせすぎただろうか……まぁいまさら言っても仕方ないな。
さてどうしたものかと考えているとセシリアがコアネットワークを通して声をかけてきた。
『カザネソウさん…戦う前に言いたい事といくつか聞きたいことが有るのですが……』
「どうぞ?かまいませんよ。」
『……まずあなたに言われた事を考えてあなたがどのような人かということが少しだけわかりましたわ。』
……どういう人間に思われているのだろうか?
まぁ、この後の話を聞けば解るか。俺は何も言わず話をそのまま聞いた。
『そしてそのようなプライドと力の考え方があることが初めてわかりましたわ。それではじめにあなたに対して失礼な事を言った事を謝ります。』
「いいですよ。僕も覚えていませんし。」
『ふふ、ありがとうございますわ。あとあなたに聞きたい事は…』
なんとなくセシリアの雰囲気は柔らかくなってるな……このまま行けばいい感じに終わりそうだな。
セシリアが何か話そうとしていたがその前にアリーナ内に千冬さんの声が響いた。
『これより一年一組のクラス代表生を決めるための試合を開始する。両名準備は言いか?』
「…質問は試合後でいいでしょうか?」
『そうですわね。しかし試合は手は抜きません事よ?』
「お手柔らかにお願いしたいんですがねぇ…」
俺の言葉にセシリアは少しだけ微笑んでいる。
機体は相変わらず不調のままだ、この際不調を宣言して逃げるのもありだろう。
だがここで俺が逃げたらセシリアは俺の……いや…断片的な記憶だが恐らく
そう覚悟を決め声を上げる。
「こちらは準備OKです。」
「こちらも何時でもいけます。」
『そうか……では試合開始!!』
そして千冬さんの掛け声と共に試合は始まった。
開始早々彼女は俺にライフルで攻撃をしながら叫ぶ。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
そうセシリアが叫ぶとセシリアのISから何かが四つ飛び出してきた。
ISの方が何にか情報を出しているのだろうが残念ながらノイズで解らない。
(ミサイルか?頼むからもってくれよ『赤銅』!?)
そう考えると四つの何かから突然レーザーが撃ち出された。
始めから回避行動を重視していた俺は何とか不意打ちをかわす事ができたがその後も俺を取り囲むようにして連続してそれが攻撃してくる。
(フ●ンネルか!?ってことはセシリアは強●人間!?)
アホなことを考えながらも回避をしながら自身のISに慣れる。
流石におっさんが自信を持って言うだけあり普通に動く分にはまったく違和感が無い。
しかしハイパーセンサーは働いていない、送られてくる情報はノイズ入り、下手したら他にもバグあるんじゃねぇの?これ。
……シールドバリアー無しとかは無いだろうな?おっさん。
そう考えながらしばらく回避を重視しながら相手の観察をする事にした。
セシリアのIS「ブルー・ティアーズ」。イギリスの第三世代ISだ。
第三世代ということは特殊兵器の搭載を目標とした世代のはず、ということはこのビットが彼女のメインの武器だろう。
面倒だがかわせないわけではない。だが切り札も恐らくあるだろう。とりあえずまだ見に徹することにしよう。
モニタールームで山田真耶、織斑千冬、両先生がたは現在行なわれている試合を見ていた。
公平のため一夏は見学をしておらず箒も一夏と共にいるためここの空間には二人しか居なかった。
試合を見ながら山田先生は話した
「風音君、今回はあまりめちゃくちゃに動きませんね、織斑先生。」
「変な話だがISを着ているせいだろう。それに聞くところによるとしっかりと動かすのは今日が初めてだそうじゃないか。」
「本当に変な話ですよね…ISのせいでまともに動けないなんて。」
真耶は苦笑いをしながら考えた。
自身の実力が高すぎるためにISに乗ると弱くなるなどでたらめもいいところだ。
だが逆に彼に教えるべき事はISの使い方についてだな、そう彼女は教師として考えた。
一方千冬は不審に思っていた。
現在ISに慣れるため回避を重視しているのはわかる。
だが
おかしいと思った千冬はあのISを造った研究員を呼び出すことにした。
一方その頃奏はようやく操作にも慣れさらに何とかノイズのする情報を少しずつ読み取り反撃の準備を整えていた。
回避もはじめは大きく動く事でかわしていたが今では最低限の体捌きのみでかわしている。
そしてセシリアの弱点、恐らく彼女はビットを動かしながらライフルを撃つ事はできない。
(よし、大体慣れたし相手の観察も終了。何とかこの機体の使い方についても把握した。あとはこのISがどこまでもつかだな……)
先ほどから少しずつではあるがノイズがひどくなってきている。
そろそろ攻めに入るかそう考えているとセシリアから連絡が入った。
『どうしましたの?まさかかわすので限界とはおっしゃいませんよね?』
「いや、ワルツなんて踊った事がなくて…どうすればいいのかわからずに困っていたところなんだ。」
『あら、じゃあここでフィナーレにして差し上げますわ。』
「いえいえ舞踏会はここからさ。オルコットさん一つ聞いていいですか?」
『とどめの前に聞いて差し上げますわ。』
「情熱的なフラメンコはお好き?」
『はい?……な!?』
奏がそう言った瞬間『赤銅』のスピードがありえないほど上がった。
セシリアは驚きながらも必死に縦横無尽に自身の周りを飛び回るそれを追うが、ハイパーセンサーのおかげで何とか見失わないで済んでいるだけで、体の方はまったく付いていっていなかった。
逃げ出そうとしようにも出ることができず彼女はいわば一人に包囲されていると言っても過言で無い状況だった。
『赤銅』の最大の特徴、それはこの高速戦闘である。
『赤銅』に取り付けられている下半身部の装甲板。それは装甲ではなく8機の大型ブースターユニットである。
さらに脚部に取り付けられたブースターも含めれば計10機のブースターがこの機体に取り付けられていることになる。
奏はこの機体をコントロールしながら頭の中で考えた。
(こんなもんで戦わせるなんてやっぱりあのおっさん頭おかしいぞ!?)
少しでも操作中油断すれば別の方向に飛んでいきかねない。さらに操作中に必要な反応速度も普通の人間なら反応できないレベルだろう。
栗城の考えとしてはこうである。
『現在のISでの試合はいわばエネルギーの削りあいだ。いくら重装甲でも結局シールドエネルギーは削られちまう。なら最初から回避特化にしちまって誰も追いつけなくしちまえばいい。一応俺の試作機はブリュンヒルデの踏み込み速度を元に造ってあり理論上その速度を維持したままでも戦える。何がだめだったんだろうか…』
と言うアホな考え方と他にもいくつもツッコミ所が満載なのがこの機体だ。
一つ目の突っ込みどころは『機体性能維持するために拡張領域がほとんど潰されている』というところである。
よって積める武器はせいぜい小型の武器2つほどで小型の銃やナイフのみで戦わざるをえないのである。
よってもちろん特殊な武器など積めやしない。
次に『そんな速度で戦える操縦者が居ない』のである。
一応試作した機体に乗ってもらったところ1分もしないうちに叩き返されたらしい。
当たり前だ、戦闘機内から逃げ回る鳥を拳銃で撃てと言っているようなもんだ。やれる人間を探す方が時間がかかる。
最後に『基本的な操作性は確かに高いが、それほど重視されていない』という事である。
なぜなら現在のふつうのISすら使い潰す事ができる人間など居なかったため、現在で十分要求を満たしている。それなのにそれ以上にするために機体の特性を殺すなど馬鹿としかいえないということだ。
こんな改造を施すくらいなら新しい機体を作った方がいいと大半の人は考えるだろう。
だがそんな機体なら俺なら使えるかもしれない。
そう考え俺はおっさんの悪巧みに乗った。
そして現在セシリアはありとあらゆる方向を必死に撃つが俺にレーザーがかすることすらなかった。
(なんてスピードですの!?でもこれならあちらも……いえ、彼ならできるでしょうね!?)
そう考えながらセシリアはなんとかこの包囲から抜け出そうとしていた。
しかし俺は逃げ出せないように動きながらチェインガンをセシリアめがけ撃ち、同時におっさんに頼んで造ってもらった特注の銃を領域内から取り出しセシリアではなくビットを狙って撃った。
反応して自身の回避とビットの回避をしようとするがそれが同時に出来ない事は先ほどの観察で解っている、結果的に自身も削られながらビットに多数被弾していく事になった。
俺はそのまま削りとおそうとしたが四つ目のビットを落としたときにアクシデントがまた起こった。今度は8機の大型ブースターユニットすべてが停止したのである。
仕方なく高速戦闘を止めセシリアのほうを向く。
セシリアはまだ諦めておらず手に持つライフルでこちらを狙う。
『……どうしましたの?踊りはもうおしまいですの?』
「フラメンコのリズムを取るのにこちらの方が息切れしまして。」
『………じゃあ終わらせてもらいますわ!!』
そういうとセシリアはライフルを俺に向け撃つと同時にミサイルを発射した。
俺はライフルを少しの動きでかわした後ほぼ同時に発射直後のミサイル二機を撃ちぬく。
近距離で爆発したためセシリアにダメージが入っただろう。
俺はそのまま脚部ブースターのみで距離をつめセシリアの頭に銃を突きつけ引き金を引く。
<―カチン―>
弾切れ!?いやISに弾切れなど無いはずだ……
しかし左手のチェインガンで撃つ前にセシリアは自身の状態を建て直し距離をとった。
セシリアは俺がなぜ撃たなかったのか不審でならないようだ。
イカン、どうごまかせばいいのだろうか…
それ以前にそろそろ限界か!?しかし左手のチェインガンはまだいけそうだが…相手のシールドエネルギーも恐らくもう残りわずかだ。ならばギリギリでいけるはず。
俺が思考をまとめていると、アリーナ内に放送が響いた。
『クソガキ!!さっさと帰ってきやがれ!!テメェそんな状態で戦ってるんじゃねぇ!!』
『ちょ、ちょっと、落ち着いてください。』
栗城のおっさんの叫び声と山田先生の声だ、その後もおっさんの叫び声が聞こえる。
『おい!!クソガキ!!お前にそれをくれてやったのはテメェを危険な目にあわせて殺すためじゃねぇんだ!!ヤバイならさっさとそう言え!!』
『風音そういうことだ、試合は中止だ。至急お前は戻れ。』
千冬さんの声もする。やべぇ、声から怒りが感じられる。
俺が冷や汗を搔いているとセシリアが声をかけてきた。
「どういうことですの!?説明しなさい!!」
「ちょっと機体に不備が起きただけだよ、詳しい話は一夏との試合終了後でいい?」
「………わかりましたわ。」
そう言ってセシリアは俺とは不満そうにしながら逆側の控え室に向っていったのだった。
結局俺とセシリアの試合はノーゲーム。そして俺はおっさんに一発殴られ一夏の試合開始前まで千冬さんの説教を受け続けた。
すべてをいますぐに知ろうとは無理なこと。雪が解ければ見えてくる。
~ゲーテ~
あ~~~これで第十二話終了ですww
この話だけで3回書き直しましたwww
それでもまだなっとくできねぇ……がんばります……
読んでいただきありがとうございました