インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第十一話 『彼』のプライド

試合日の前日の放課後。

俺はまた射撃場で銃を撃っていた。

自身が成長しているかどうかはわからないが一応いつも以上に気合は入れているつもりだ。

一夏の方も今では箒の攻めを回避重視で8割はかわせるようになっているらしい。

箒としては一夏と打ち合って試合をしたいのだろうがかわせる様になればなるほど喜びながら自身に話しかけてくる一夏を見ると強くいえないようだった。

まぁ役に立っているならいいだろう。そのうち一夏も埋め合わせはするだろうし……多分。

そう考えていると射撃場にようやく待ちかねた人が来た俺は今度は自身から話しかける。

 

「どうしました?オルコットさん。」

「あら、今度はあなたから話しかけてくるのね、カザネソウ。」

「流石にさっきから覗かれていれば気が付きますよ。」

「気づいてましたの?」

「偶然ですけどね?」

 

少し驚いたようにするセシリアに対し俺は少しおどけたような風に話しかける。

そしてそのまま話を続けようとする。が、先に話し始めたのはセシリアの方だった。

 

「偶然ではないのでしょう?」

「いえいえ、偶然ですよ。」

「それほどの実力を持っているのに嘘をおっしゃい。」

「何の事でしょう?」

「とぼけなくても結構ですわ。もう解っていますもの、あなたのその出鱈目といっていいほどの射撃の腕については。」

 

セシリアも馬鹿では無いし無力ではないのである。

はじめに不審に思ったのはあの怒って帰った後でふと奏の射撃の姿を思い出した時である。

彼の射撃の姿勢を見る限りあのまま撃てば銃がよほどでなければ弾丸は的に当たっている。

自身も射撃を得意とする身、それくらいの事はなんとなくではあるが理解できた。

しかし彼は30分間撃ち続けて的に当たっていたのは一発。一発分の穴のみしか(・・・・・・・・・)確認できなかったのである。

これに違和感を覚えたセシリアは自身で彼の射撃姿をISを利用しながらも確認し唖然とした。

確かに彼は的には一発しか当てていない。

残りの弾は一発目の銃弾の穴を見事に貫通し続けているのだ。

ワンホールショット。ISを利用しても出来るものが少ないこの技術を彼は生身でそれも100m先の的でおこなっているのだ。

セシリアは自身が気が付いたこのような説明をしたのち奏に再び話しかけた。

 

「以上のことに違いはありますか?カザネソウ。」

「……お見事ですよ。オルコットさん。あとフルネームって呼びづらくありません?どちらかだけでいいですよ。」

「結構ですわ、わたくしまだあなたのことを認めておりませんの。」

「さいですか。面倒になったら何時でもどうぞ。」

「質問に答えていただきますわ、カザネソウ。」

「なんでしょうか?」

「あのあなたが愛と平和と言った後わたくしあなたの事を観察させていただきましたわ。」

 

それストーカーじゃないですか?

と言おうとも思ったがジョークが通じる相手ではなかったので奏は黙って聞く事にした。

 

「あなたはなぜ自身があれほどの力を持ちながら女性に媚びるようにしているのですか?プライドはあなたには無いのですの!?」

「その答えを言う前に僕も質問していいですか?」

「………いいですわよ。」

「なぜ君はそこまで肩の力をはって必要以上に強く見せようとするんだい?」

「!?……な…何の事ですの?」

 

明らかに動揺している。これ余りつきすぎるとまた怒ってどっか行っちゃいそうだな~。

仕方ない先に相手のほうを答えるか。

 

「言いたく無いなら別にいいですよ。じゃあ先ほどの質問の答えですが力が強いからといってなぜ威張らないといけないんですか?」

「……力あるものが率先して誇りある自身の立場を示さなければいけないからですわ。そうでなければ守れるものも守れませんわ。」

「僕の考えではちょっと違うんですよ。誰かに自身を示す時にもっとも必要なのは生き様だと。」

「………生き様ですか?」

「ええ、力はそれを示すための一つだと僕は考えています。ちょっと話は変わりますがあなたにとってISってなんですか?」

「……簡単に言えば選ばれたものの力ですわ。」

「そうですか、これは僕の意見だとはじめに言っておくので怒るのは最後にしていただきたい。僕に言わせてもらえばISは人殺しの道具、暴力に過ぎません。それ以上でもそれ以下でも無い。」

「なっ、なんてこと「スイマセン!!…最後まで聞いてください。」っ!?…………」

「ありがとうございます。IS一つあれば凄まじい力が確かに手に入る。それは一個師団にも匹敵するほどのものもある。でもその程度です、力は力でしかない。」

「………」

「僕はそれほどの力は要らない、自分の手に収まる力で十分です。あとは誰かと話し合い分かち合う、笑顔で共に話し合う。その生き方のほうがたかが一個師団程度の力より何百倍も価値がある。そこで笑って、笑顔でいるためなら媚びるような事でもするし、争い合う誰かと誰かの間にも立つ。殴られても馬鹿にされてもへらへら出来る。」

「……」

「プライドは無いのかってさっきおっしゃいましたよね?オルコットさん。」

「………ええ、確かに言いましたわ。」

「僕にとってのプライドはこの生き様で手に入れた今までの笑顔です。」

 

あの砂漠の星で愛と平和を歌い続けたあなたもそうだろう。

そして俺もその生き様を貫いてみせる、そう自身に誓ったのだ。

 

「ではあなたはなぜ力を鍛え上げているの?それほどの力があればもう十分なのでは?」

「腕を落とさないための訓練と言うのもありますが一番はまだ足りないと感じているからですかね?」

「そこまでの腕前で足りないとおっしゃいますの!?」

「僕の目標はどんな状況からも逃げられるようになる事ですからね。」

 

彼のように。たとえ町ひとつがすべて敵になっても誰一人殺すことなく逃げ回れるほどの実力が今の俺には無い。だからこそ、それを目指し鍛えているのだ。

だがセシリアは俺の逃げると言う発言がわからないようだった。

 

「逃げる?なぜですの!?それほどの実力とISがあれば……」

「力に力で向えばその後、またさらに大きな力とぶつかりあうことになりかねない。それだと回りの力ない人もただじゃすまない……それなら、もし誰かに力に襲われるとするのなら…」

 

彼はこう言ったんだ、誰かに力で襲われようとなじられようと攻撃されようとただひたすらにこれを貫きとおしたんだ。

 

「『もしもそうなったら僕は急いで逃げよう。そしてまたほとぼりがさめたら静かに寄りそうよ。』 これが僕の目指す力の使い方ですよ。」

「…………そんなの……」

 

そんなの認められないって言いたいのかい?

でも彼はそれを貫き通した。最後の最後まであの過酷な星でだ。

それに比べればたかがどんなに長くなっても100年程度、やれないと言えないだろう。これほどの力をあたえられて。

しかしセシリアは納得できないのだろうかまだ頭を悩ませていた。

まあとりあえず結論だけは伝えておこう。

 

「質問に簡単に答えるのなら『誰かと笑顔でいること。それが僕の生き様でプライドは得た笑顔。力に関しては誇る気はさらさら無い。』こういうことですかね。もちろん守るべきものが有って逃げられないと感じた時には戦いますがね。納得できるかどうかは別として理解はしていただけたでしょうか。」

「……ええ、理解は出来ましたわ。」

「そいつは良かった。」

「……あなたの質問に関しては後で…試合後にでもお教えしますわ。それまで考えさせてください…」

「ごゆっくりどうぞ。」

「ええ……」

 

そう言ってセシリアはゆっくりと射撃場から離れていった。

………ふう、とりあえず言いたい事はすべて言えたかな?まぁ後は一夏がとどめを刺してくれる。

ここまで援護したんだ、きめなかったらただじゃおかん。

そう考えながら奏は射撃場の訓練を続けたのである。

 

 

 

 

 

試合当日、俺と一夏と箒はアリーナ横の控え室で待ちわびていた。

 

「なぁ奏、お前のISって今日の朝には届くんじゃなかったけ?」

「………来ないんだから仕方が無いだろ。」

「試合開始予定時間まで後10分しかないぞ?」

「10分あればカップラーメンくらい作れる。」

「3分じゃないかそれ?」

「お湯の沸騰込みでの時間だ、今から食うか?」

「いいよ、遠慮しとく。」

「……一夏落ち着け。」

「って言ってもさぁ……」

「……いいから静かにしてろ。」

 

箒さん、キレかかって無いですか?

一夏は自身のISも俺のISも届けられない事に不安を覚えているのか先ほどから落ち着かない。

俺のほうもおっさんは朝には届けると言っていたのに連絡も無い。あのおっさん何やってるんだ?

そうしていると五分後、おっさんが走ってきた。

 

「すまん。間に合ったか!?」

「女性相手なら、おっさん今頃ビンタされてるよ。」

「へっ、野郎相手なら関係ねぇな。早くしろ、準備は出来てる。」

「了解、じゃあ一夏、先に行ってるわ。」

「おう、がんばれよ奏。」

「……行ってこい奏。」

「おう。あ、最後に一夏、忠告だ。」

「何だ?」

 

そう言った瞬間俺は人差し指を銃のようにし一夏に最速で向ける。

恐らく一夏には見えなかっただろう。

 

「今のが見えたか?一夏。」

「い、いや。見えなかった。」

「そうか、じゃあ相手がこれくらい早いと思え。もしくは突然訳の解らない攻撃をしてくると考えろ、そうすりゃ負けないだろう。ようは油断するなよ。」

「お、おう。」

「じゃお前もがんばれよ。」

 

あっけに取られる一夏をおいて俺とおっさんはアリーナの控え室の一室へ向った。

部屋に入ると山田先生が半べそになっていた。

 

「か、風音君!?これなんですか!?」

「僕の打鉄です。」

「打鉄って……原型無いじゃないですか!?」

「そりゃ80%近く別のパーツだしな。」

「……おっさん、最初60%位って言わなかったか?」

「そんな事いったかな?おっさん年だからわかんねぇな。」

「っち、覚えとけ。…山田先生。」

「なんですか!?風音君?」

「後で説明もしますし、反省文や謝罪ならするんで今は行かせてください。」

「………必ずですよ!?」

「了解しました、あ、おっさん。」

「何だクソガキ。」

「このISの名前は?打鉄のまんま?」

「いいや、元になった機体の仮称は『赤銅』。言うなれば『打鉄改-赤銅-』だ。」

「赤銅でいいだろそれ。」

「うるせぇ、一応改造機だろうが。」

「そういやそうだったな、じゃあ行ってくる。」

 

俺はそう言い放ちISを展開した。

その姿は元となった打鉄の姿は最早無かった。

特徴的な宙に浮く二枚のシールドは無くなり、代わりにボデイアーマーが追加されている。

両手共に丸みを帯びていたはずの腕部は四角く、重装甲のような印象を受け、更に左腕部にはチェインガンが付いている。

下半身の方の和風の甲冑のような特徴的なアーマーは印象ががらりと変わりもはや近代兵器の装甲板のような印象を受ける装甲にすべて変更されている。

そして何よりも大きな変化は全体の配色である。

黒ずんだような赤、全体的に赤銅色に染められているのである。

機体の反応はかなりいい。本当に打鉄なのか疑うくらいだ。

これならある程度の力を出せる、そう考えながらアリーナ内に入ると既に青いISを展開したセシリアがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

もしもそうなったら僕は急いで逃げよう。そしてまたほとぼりがさめたら静かに寄りそうよ。

                            ~ヴァッシュ・ザ・スタンピード~




ということで主人公の専用機もとい改造機『打鉄改-赤銅―』です。
全体的に印象ががらりと変わったせいで最早別物です、山田先生他の先生方への説明がんばってくださいwww
さて次回はようやくVSセシリアです。
奏に与えられたISの性能は!?お楽しみに~
では今回も読んでいただきありがとうございました~

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