インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
試験開始直後、奏は大きく後ろに飛び跳ねながら引きがねを引いた。
打ち出された弾丸は先ほどの山田先生との戦いの時と同じように弾幕をつくっていた。
奏は自身の頭の中で考えていた。
(映像で見た千冬さんは凄まじい踏込みの速さと鋭い太刀筋で多くの相手に勝っていた。ならば今回も開始早々に突っ込んでくる、そこにカウンターのように弾幕を張れば大きなダメージを与えられるはずだ…)
しかし彼は予測は外れた。
理由は二つある。
一つは先ほどの試験での『早撃ち』である。
いくら自身が世界大会優勝者だからといってもあの早撃ちは早すぎる。
しかしかわす手段が無いわけではない。なぜなら早いのは彼の早撃ちなのであって弾丸ではない。
先ほどの山田先生は開始早々に前に飛び出したため弾丸との距離が近くかわす時間が無かった。
ならば距離をとれれば相手の武器は普通なのである。かわす事は不可能ではない。
その通り千冬は奏の弾丸に当たることなくかわす事ができた。
だが本来接近戦をするはずの千冬が距離をとったのは次の理由が主である。
それが二つ目の理由、彼に自分は言ったのだ。
『全力を受け止めてそれを潰してやると。』
そこまで言ったのに
そう考え奏の弾丸をかわしながら、コア・ネットワークを奏の打鉄と繋いだ。
「どうした?私相手にそんな不意打ちが通用すると思ったか?」
『いやぁ~、千冬さんの公式試合を見る限りどんな時も開始と同時に突っ込んでいたので……』
「あれは
『…僕の事過大評価しすぎじゃないですか?』
「IS相手に生身で勝っておいて何を言う。それにお前はまだ本気じゃあるまい。」
『いえいえ、本気ですよ。』
「本気の人間がここまで話しながら戦えるか。」
『………………』
「突然黙るな、わざとらしい。そして一言言っておく。」
『あはは、なんでしょう?』
「全力で踏み込む。出来るだけ
『!?』
その掛け声と同時に先ほどまで20m以上あった千冬と奏の距離が一瞬で縮まった。
そして上段から振りぬかれた千冬の打鉄のブレードが奏に当たりバリアーが展開された。
続く二太刀目を紙一重でかわしながら奏は距離をとり、銃を撃つが今度は同じような速さでさらに距離をとられ当たったようには見えなかった。
「さすがブリュンヒルデってことですかねぇ…。」
「ですね~やっぱりイレギュラーでもねじ伏せますか。」
モニタールームでは二人の試験を見ながら教員たちが話していた。
試験を見ている限り現在はやはり千冬先生が押していて、奏のほうはそのまま状況を打開できないでいる。それが映像のみを見ている教員の判断だった。
だが数人、その映像を見ながらも二人の装着しているISのモニタリングをしている人物は固まっていた。
それに先ほどまで奏と戦っていた山田先生は気が付くと声をかけた。
「どうしました?風音君の適正に変化がありましたか?」
「……いえ…あの…現在の互いのシールドエネルギーの残量なんですが…」
「何か問題が起きましたか!?」
「少ないんです…」
「ハイ?」
「はじめは織斑先生の一太刀で風音さんのシールドエネルギーが一気に減ったんですけど、その後はなぜか織斑先生のほうのシールドエネルギーがじわりじわりと減っているんです。」
その言葉を聴きアリーナ内を映している画面に目を戻すが先ほどから織斑先生の太刀を何とかかわしながら接近しようとしている風音しか映っていなかった。
確かに銃を撃ってはいるが2~3発ぐらいの銃声しか聞こえない。
だが織斑先生のISモニターを見ると確かにシールドエネルギーが少しずつ無くなっているのだ。
(まさかISの方に問題が!?)
そう考え彼女は自身の先輩へと連絡を取る。
「織斑先生、こちらの方でシールドエネルギーの不自然な減少が見られます。何か問題は起きていませんか!?」
『……安心しろ。……問題は!!…ない!!』
「しかし!?実際にエネルギーが!!」
『……攻撃を!!……くらっているだけだ!!切るぞ!!』
<―ブツン!!―>
そう言って通信がきれた。
教員たちは顔を見合わせる。
「攻撃って言ったって…かわしてるだけよね?」
「時々撃ってはいますけど、2~3発でこんな風にはなりませんし……何が起こっているんでしょうか?」
「……撃っているんですよ。弾丸を」
モニターの先生が半笑いになりながら言う。
「見てください、彼の弾丸の使用数。一瞬で10発ずつ無くなっています。しかもそれが先ほどからすごい勢いで起きているんです。」
「はぁ、でもモニターでは2~3発の銃声しか聞こえませんよ?」
「多分ですが……一度の銃声の間に10発ずつ撃っているのでは無いかと…」
「……いくらなんでもそれは…」
教員たちは顔を見合わせながら全員半笑いになった。
誰もいえないのである、『そんな事はありえない』と。
なぜならこの
いまさら一瞬の間に弾丸を10発撃てると言われても否定できる人物はこの中にはいなかった。
「本当に…なんなんですかね…彼。」
「……彼が入学するなんて頭が痛くなってきたわ…私あんな子に教える技術なんて無いわよ?」
「……それを言ったら私なんて既に負けてますよ…それも生身に…」
教員たちは引きつった笑い顔になったまま試験を眺め続けた。
(やっぱり千冬さんは強い。)
迫り来る太刀を紙一重でかわしながら奏は思った。
最初に見せられた踏み込み、あれにはほとんど反応は出来なかった。
一太刀目はかわせないと判断しそのまま早撃ちで相手のシールドエネルギーを削ったがおそらくこちらの方が多く削られただろう。
その後こちらが少しでも距離をあけようとするとすかさず相手も距離をとろうとするのだ。
(距離をあけられ過ぎるとこちらが危ない。)
今の自分ではあのありえない速さの踏み込みには反応しきれない、そしておそらくもう一撃喰らえばこちらのシールドエネルギーは尽きるだろう。
そう判断した奏は、銃で戦う身でありながら相手の懐、いわば超至近距離での戦闘を余儀なくされた。
(まるで操られているようだな、だがこれしかあるまい。)
そう考え
(まったく、こいつはどこまででたらめなんだ……)
打鉄のブレードを振るいながら千冬は考えた。
あの踏み込みの後ヒット&アウェイをされたら不利だと判断したのであろう。
こいつは
しかしここまでは自身の想定の範囲内であった。でたらめなのはここからである。
私は全力を出しているわけではないので距離を取るために宙に浮くなどの方法は取るつもりは無かった。よって確かに彼に接近戦が出来ないわけではない。
しかし仮にも接近戦は自身の距離だ、全力で無いまでも現在出している力でもこいつを制しきる自信はあった。
だがこいつは私の距離で私の攻撃を捌きながら攻撃を加えてきているのだ。
体裁きで紙一重でかわす、かわせないようならブレードの一点を弾丸で撃ち隙をつくりかわす、距離をとって立て直そうと身構えると即座に多数の弾丸でシールドエネルギーを削ってくる。
(……いったい、これで満足していないとはこいつの目標とやらはどんな化け物なのやら。)
そんなことを考えていると残りシールドエネルギーが1/3になっている事に気が付く。
相手のほうは自身の手加減が間違っていなければ既に1/4になっているはずだ、だがこのまま行くとこちらが削り殺される。
そう考えた彼女は自身のギアを一段階あげる事を決めた。
(っち、攻撃をして相手を削る余裕がなくなってきた!!)
相手の得意な距離での攻撃をかわしながら奏は考える。
ちょっと千冬さんも本気を出してきているか?
なにも彼女がやっている事はそれほど変わったわけではない。
宙を飛ぶわけでも、新たな武器を使うわけでも、戦術を変えるわけでもない。
ただ太刀筋をさらに鋭くさらに早くするだけだ。
それだけでもかわすタイミングが早くなり、隙をつくるために武器を撃つ弾丸の量が増え、距離をとられそうになるのを必死になって喰らい付かなければいけなくなった。
(これが世界最強か!!)
自身の現在の全力をもってしても底が見えない相手。
しかしまだ喰らいつけないわけでは無い。
覚悟を決め千冬さんに連絡を入れる。
「千冬さん…」
『……どうした!!』
「…もう少し…底の方を見させてもらいます!!」
『…やって見せろ!!』
自身も全力を振り絞ろうとした瞬間
『し、試験終了です!!!』
頭の中に声が響き、ぴたりとお互い止まる。
………このタイミングで?
千冬さんの顔を見ると彼女も不完全燃焼みたいだ、顔から窺うことができた。
アナウンスをした先生も悪い事をした考えているのかちょっとあわてているようにも感じた。
『え、え~っと……時間が少し経過しすぎてしまいましたがこれで試験は終了とさせていただきます。お疲れ様でした。』
あ~うん……終わったんならいいや。時間なら仕方ないし。
俺はとりあえずISを解除するために控え室へと向った。
控え室で俺はISを解除し係りの先生に待つように指示され、そのまま椅子に座っていた。
(ふぅ……とりあえず驕った気持ちは振り払えたかな?)
そう苦笑しながら自身の現状を考えた。
戦闘を始めたときの暗い気持ちは最早ほとんどなくなっていた。
一通り暴れて落ち着くとはやはり精神年齢も体に引っ張られているようだ。
その後真面目な顔になり目を閉じ自身の感情に整理をつける。
(俺の目標は『ヴァッシュの強さ』じゃなくて『ヴァッシュの生き様』なんだ、別に力自体は大切じゃない。ただあの生き方をあの世界でするのに必要だっただけだ。なら俺もこの世界で彼の生き方を真似出来るだけの力を求めよう、彼の力が必要な時が来るかもしれないから鍛え続けはするが闇雲に力を求めるのはもうおしまいだ。これからは力じゃなく生き方で彼を目指そう。)
「よし……やるぞ。」
小さくそう呟きながら静かに目を開けると、にやついた顔をした千冬さんがいつの間にか控え室内にいた。
「…………何時からいました?」
「お前がにやついた後に目を閉じてやるかと言うまでずっとだ。」
「へんな言い方しないでくださいよ。」
「ふふ、冗談だ。どうだ、何かつかめたか。」
「ええ、おかげさまで何とかなりそうです。」
「そうか…良かったな。」
そういいながら千冬さんは微笑みかけてきた。
この人も多分聞きたい事はあるんだろうけどあえて聞かないんだろうな……世話になりっぱなしだ。
そして再び千冬さんが口を開いた。
「おまえのIS適正に関してだがD判定らしい。」
「へ~そうっすか。」
「なんだ、何も言わんのか?今期で最低値だぞ?」
「うわぁ、ぼくおちこぼれになっちゃった~(棒)」
「あまりふざけるなよ?」
「いや、スイマセン。ただ武器を使うのがうまいかどうかってことでしょ?」
笑いながら俺がそういうと千冬さんは少し悲しい顔をしながら話し始めた。
「お前ははっきりと言うのだな、武器や人殺しの道具だと。」
「……どちらかと言えば自分に自覚させるためですけどね。自分が何を使っているかどうかを。」
「……そうか。」
「個人的な意見だと、早いところこれを正しい使い方で使える時が来て欲しいんですけどね~。」
「………どういう意味だ?」
「え?これいわば個人用の宇宙船でもあるんでしょ?だったら行ってみたいじゃないですか、宇宙。」
千冬さんははっとした顔をした後優しい顔に戻った。
そうだ、このISは元々彼女ともう一人の科学者が共に宇宙を目指して造った物なのだ。
いまはこのような使い方をされているが正しくは宇宙を目指すために造られたもの、ならば正しい使い方をするべきだろう。
そしておそらく千冬さんもそれを望んでいる。再びそれを思い出せたのか笑いながら話した。
「そうだな、いずれはそういう時が来てくれるだろう。」
「出来るだけ早く来て欲しいですね~」
「なぜだ?お前ほどの力があれば現状でもいい生活がおくれるぞ?」
「戦ったりはもうごめんだと今決めたので。あと宇宙って浪漫があるじゃないですか。」
「そうだな、戦うよりはましか…」
~現在~
その後は係りの人が来るまで二人で話しながら時間を潰した。
一応その時に会った先生方には今見た光景を言わないようにお願いすると全員快く受け入れてくれた。
まぁ実際はどう言っても下手なジョークにしか聞こえないからだろう。
そのときに山田先生に会ってなかったのだがその事を忘れたのが今になって自身に襲い掛かってきているのである。
ああ、この騒ぎどうやって収めるつもりなの?千冬さん。
後もしかしてあの時の試験の事恨んでた?山田先生。
嘆いても現在のこの騒ぎは収まらないのであった。
(……神よ、これ超えられる試練なんですか?僕心が折れそうなんですけど)
この後のことを考えると頭が痛くなってくる彼はこの後どうしようと悩みながら信じてもいない神様に
何事かを成し遂げるのは、強みによってである。
弱みによって何かを行うことはできない。
できないことによって何かを行うことなど、到底できない。
~ピーター・ドラッカー~
ということでちょっと長くなってしまった入学試験編でした~~。
しかし基本3500~5000の間に収めるよう努力しているのですが実力不足かオーバーしてしまう……精進あるのみですね。
今回も読んでいただきありがとうございました~