インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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今回はどうやっても多くなってしまったので、上下に分けました。
それでも(下)はさらに長い……
ま、まぁ…ではどうぞ~


第八話 VSブリュンヒルデ(上)

もう一度控え室に送られた後も俺の興奮は覚めなかった。

まず自身がボロボロにされたIS相手にあそこまで戦えた事に喜びを覚えた。

次に他のIS相手にも互角に戦える力が自身にあることに自信を持てた。

そして何よりも英雄(ヴァッシュ)に近づいている事を自覚できた。

このまま行けば俺は英雄(ヴァッシュ)に近づける。そして……そして?

俺は自身の状態に気が付く。

彼に近づいている?本当に?あんなただ暴力を振るうような戦い方でか?

ただ自身の成長を計る事ができたのを喜ぶのならまだ知らず、俺は今自身が手に入れた力を喜んでいた。

こんなものが俺が追い求めていた英雄か?あこがれた姿なのか!?

違う……確実に違うと言い切れる。

 

彼は何よりも力を恐れた。          【ただ力を求める俺とは違う】

彼は誰よりも優しかった。          【力に喜び相手のことを気にしない俺とは違う】

彼は人々と愛と平和を分かち合った。     【自身の力に酔い一人で喜ぶ俺とは違う】

 

なんという無様だろうか。俺は今戦った相手の名前すらわからずその引きがねを引いたのだ。相手のことを気にもせず暴力を振るったのだ。

何時からだ、俺の引きがねがここまで軽くなったのは。

いくら勝負だ、試合だと言っても俺にとってはその事実の方が重大だ。

この、今俺が身に着けているのはどんな言葉で着飾ろうとも兵器だ。人殺しの道具に過ぎない。

それを軽々しく使っていたと言う事実に俺は控え室で一人頭を抱えていた。

 

 

 

 

『織斑先生……カザネ君の状態がおかしいんです。』

「!?至急向う。」

 

私が久々にISを身に纏い戦いの準備をしているとそう山田先生から連絡が入った。

聞くところによると『先ほどの試験終了後からしばらく後にバイタルの様子がおかしくなりとても試験が出来るようではない』とのことだった。

何があったかはわからないが彼は私と一夏の恩人でもあるのだ。

心配になりISを装着したまま風音の元に駆けつけた。

控え室に入ると彼は椅子から立ち上がりいつもと変わらない様に笑っていた、否、変わらない様に笑って見せていた。

それは少しでも彼とかかわった事がある人物ならわかるであろう違いだ。

彼の笑顔に濁り(・・)を感じたのだ。

 

「………風音、なにがあった。」

「…え?千冬さんが相手ということで緊張してるのばれました?」

「冗談はいい、話せ。」

「ははは、緊張しているのは本当ですよ?」

 

と言いながら笑う声は知らない人なら緊張で乾いた笑いをあげていると感じるのかもしれない。

しかし弟同然に生活していた事もある私には痛々しく見えてならなかったのだ。

 

「お前はそんな柄ではあるまい。もう一度聞く、何があった。」

「……ちょっと弱気になってました。」

「何に対してだ、まさか私とは言うまい。」

「…かなわないな。ここで敗北宣言してもいいですか?」

「いいから話せ。言う事も出来ない事か?」

「いえ、単なる自己嫌悪ですよ。これ秘密でお願いしますね?」

「……ああ」

 

そう言って椅子に座りながら自身の腕部にのみ展開しているISを見た。

 

「僕、IS(これ)を手に入れて調子に乗っていたんですよ。」

「……」

「一度僕、一夏を助ける時にこれと同じIS相手に手も足もでませんでした。」

「IS相手に生身で打ち勝てるはずが無いだろう。」

「そうですね、でも僕の、いや俺の目標とする人は勝てると思います。」

「……」

 

実際に先ほど目の前で勝たれているのだ、千冬は何も言わずに話を聞いた。

彼はただただ思っていることを口に出しているのか言葉を吐き出していた。

 

「俺もそれに追いつきたかった、追いつけないまでもせめてその道を歩みたかった。」

「………」

「でも俺はその背中(生き様)を追っていたはずなのにいつの間にか見失って力だけを追い求めていました。」

「………」

「さっきの戦い、見てました?あの下手な暴力。ただ相手に当てようとするだけの攻撃。俺あの程度で彼を追いかけているって考えてたんですよ。」

「………」

「傑作なのは俺があこがれていたのは彼の力に対する姿勢と優しさだったのに、追いかけていたのは力だったんですよ。ね?無様でしょ。」

「………」

 

風音は痛々しい笑顔のまま話しを続けた。

なんて事は無い、彼は自身の理想が高すぎて、それから大きく外れた事を後悔しているだけなのだ。

 

「多分千冬さんは聞いてて意味がわからないでしょ?スイマセン。俺の尊敬する人とかまったくわからないですしね。」

「………いいや、言いたい事はなんとなくだがわかった。」

「はは、まあ、ガキみたいな理由でへこんでただけですよ。」

「そうだな。お前はガキと言ってもかまわない年齢だしな。」

「手厳しい、まぁそのとおりですけどね。」

「だから間違ってもいいんだ。」

「………」

 

私の言葉に風音は黙り込んでこちらを見る。

 

「お前はまだ子供なんだ。間違う事など山ほどあるだろう。それは別にいいんだ。」

「……でも俺の(これ)はただの暴力で、いま身に着けてるIS(これ)もどんな言葉で着飾ろうとも人殺しの道具ですよ?一歩どころか半歩でも間違えば人を殺してしまいます。」

「それを何とかして止め、導くのが大人の仕事だ。それに…」

「…それに?」

「……それに、おそらくだがお前の尊敬する人とやらも、その力に悩みながらも進んだのではないのか?」

「……そうですね、そうかもしれません。」

「しかしそれでもお前の言うように優しくあり続けようとしていたのだろう。」

「……はい。」

「ならばお前がすべき事はここで後悔しとまる事ではなく、前に進むことではないのか?」

「……ええ。」

「まだ納得できないか?ならば自分に自信がもてない時やどうしても道からそれてしまいそうだと感じた時には時は私のところに来い、大人の務めだ、叩き直してやる。」

「……ははは、そりゃ曲がる訳には行きませんね。」

 

いつもの笑顔に戻ったな、もう心配は無いだろう。

 

「ならば曲がらずに追い続けろ。そうすれば私が叩きなおす必要も無い。」

「そうですね、でも弱音を吐くのはありですか?」

「吐いた後に説教をされても良いならな。」

「そいつはごめんですね。……ありがとうございました。何とか落ち着きました。」

「そうか、ならば良い。」

「後試験は全力でいかせてもらいますよ?」

「誰に物を言っているつもりだ?叩き潰してやるから安心しろ。」

「おお、怖い。じゃあ、よろしくお願いします。」

「ああ、では行こうか。」

 

私たちはそのままアリーナへと向った。

 

 

 

 

(しまった…弱りきってて弱音を吐いちまった……それも(ヴァッシュ)についても話すとか……)

 

アリーナに向う途中俺は頭の中で悶えていた。

普段なら隠し通せただろうが相手が千冬さんでそれも見たことが無い顔で心配してくるのだ。

普段の気を張った凜とした顔ではなく、不安そうに心配するような顔だったのだ、こちらもペースが狂ってしまった。

不意打ちに不意打ちが重なってとうとう弱音を吐いてしまう事になった。まぁ千冬さんなら言いふらしたりしないだろうから安心だ。

それにISの脳内無線?(コア・ネットワークの事である)もなぜか切れてたから千冬さんが黙ってくれるなら広がる心配も無い。

俺は自身を落ち着かせるように頭の中で言い聞かせた。

それにしても精神年齢も下がっているのだろうか?

現実世界の俺はここまで青いことを言う人間だったろうか?

 

(まぁ今はこの後の戦いを意識しろ。)

 

俺は頭の中の情報を一新し、集中した。

なんといっても相手はあの世界最強の女性、ブリュンヒルデと呼ばれた女性だ。

そして俺のトレーニングをする上での仮想敵対者(・・・・・)だ。

彼女の専用機『暮桜』では無いとしてもその実力は油断できる相手ではない。

彼女の戦いぶりは過去の大会の映像で何度も見ている。その強さは他の操縦者と比べ、『ものが違う』レベルである。

もしかして世界大会を総合優勝者(ブリュンヒルデ)だけでなく各部門の優勝者(ヴァルキリー)などと作ったのは他の人も『彼女は別格だ』と考えたからでは無いだろうか?

まぁ話はそれたがそれほど油断できない相手なのである。

俺は自身の覚えている千冬さんの動きを頭の中で思い浮かべた。

 

(トレーニングのシャドウだと何とか勝てるまではいけてはいるが、そんな事関係ないと考えるべきだな。)

 

そう考えているとアリーナに到着した。

先ほどの無様な有様が頭に浮かび集中が乱れる。

落ち着け、今は試合のことだけを考えろ。

自身が振るう力に関しては今は考えるな。

ただ自身が持っている物が何の道具なのかだけは忘れずにいろ。

自身がこれからする事を認めるな。

戦いから逃げられる事なら逃げるようにしろ。

そう考えていると千冬さんからの無線が入る。

 

『ふ、お前は真面目だな。では私から最後の忠告とアドバイスだ。』

「なんでしょう?」

『このフィールドにたった時点で逃げ場は無いのだ、それに相手のことを気にかけすぎるのも相手に対する侮辱だぞ?』

「……わかりました。」

『あとアドバイスだが、……お前では私を倒せないんだ、気にせずに思いっきりこい。』

「………了解しました!!」

 

最後の言葉に笑いがこみ上げた。

そうだ勝てるかどうかもわからない相手にもし傷つけたらどうしようと考えるのはある意味失礼だろう。

それにここで手を抜くのは千冬さんに対する侮辱になる。

なら今回だけは全力で戦おう。

俺はそう心に決めふと頭の中で打鉄に言葉をかける。

 

(多分これで最後だと思うがよろしく頼むぜ?打鉄ちゃん)

 

腕部の装甲とシールド以外は使ってないが何だかんだで3回目の戦いなんだ。

一応声はかけておこう。そうするとアリーナ内に放送が響いた。

 

『今回の試験は相手のシールドエネルギーをゼロにするか、5分経過で終了となります。双方よろしいでしょうか。』

「把握している。」

「了解です。」

 

放送を聴き俺と千冬さん、いやアリーナを覗くすべての人にも緊張が走った。

 

『開始3』

 

千冬さんがブレードをかかげる。

 

『2』

 

俺は銃のグリップに力を込める。

 

『1』

 

モニタールームの観客たちにも緊張が走る。

 

『開始です!!』

 

その言葉と同時に二人は瞬時に行動を開始した。

 

 

 

 

 


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