インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
あの夢から三年。かれこれ色々と聞きまわって何とか英語とフランス語はカタコトながらしゃべれるようになっていた。とりあえず三年間生きてわかったことは神様という奴が居るのならこの上なく俺のことが嫌いなのだろう……
この世界はある程度元の世界と同じだがひとつだけ、かなり違うところが有った。それは『
このIS自体には何等問題はない。むしろ宇宙進出とかの面で考えればすばらしい技術なんだろう。しかしこのIS、乗れるのは女性のみ。さらにそのせいで広がった女尊男卑というか『女性最上主義』みたいなのが広がっているのだ。もちろんそんなこと関係ないといった感じで生きている女性もたくさんいる。しかし都市部や人が集まるところではその動きが強いらしい。
まぁ現在ストリートチルドレンとして生きている男の俺には何等関係はない事……ではないのだ。田舎ならまだしも都市部を歩けばそのような傲慢な女性が俺のことを指差し汚らしいと言う。言うだけならまだしも飲み物をかけられたり物を投げられ、果てには警察を呼ばれたりもする。回りは見ているだけだ。ああ、なんと生きづらい世の中だろうか……もし神様に会ったらとりあえず一発チョップを決めよう、うんそうしよう。
この三年間で自身についてわかったことは大まかに4つある。ひとつは銃についてだ。リボルバー式の銃。実際それほど使うことはないがこの銃自体にはおそらくおかしな点はない。問題は弾丸ケースである。はじめ何発ほど銃弾があるのか確かめようと人気のないところで数えてみたが子供の両手に乗るようなサイズの箱の癖にいくら数えても終わらない。つまるところ弾切れの心配はないようである。
二つ目に周りからの認識である。さすがにはじめは小学生くらいの子供が一人で歩いていると誰かに心配され通報されると思ってが。三年間そういうことは一切無かった。心配して話しかけてくる人にも、
「旅行中です。」
「そうかい、じゃあ気をつけるんだよ?」
といわれるだけである。
コレには本当に助かった。おかげでしつこく話しかけてくる奴は犯罪者か人攫いといった悪意を持った接触であることがすぐにわかった。
三つ目に自身の能力の高さである。現在の正確な年齢はわからないが体つきや身長からおそらく10歳くらいだと仮定している。10歳でありながらどう考えても体力、筋力の面から見ておかしい。と言っても10歳としてなのでもしかしたら体が小さい男性(現在身長130cmほど)では?と言う可能性もある。無いと願いたい……切実に。
最期に文字化けした通帳。アレはとんでもないものだということがわかった。
ATMで使ってパスワードを適当に打つとなんとそのまま限度額までお金を引き落とせるのだ!!
すごいぞ!!コレで俺も億万長者!!って考えてたけど連続して使えないことと、どこから出た金だかわからないので慎重に使うことにしている。
ただ仮に現実世界に帰れるのならコレだけは持って帰りたい。
まあ色々なことをこの三年間で味わいながら俺は欧州をうろちょろしていた。一箇所にとどまるとどうしても目立ってしまうのだ。そりゃストリートチルドレンがなぜか通帳を持ってしかも大金を持ち歩いている……いくら身体能力が高いといってもただの人。囲まれて奪われたら終わりである。そういった面から俺はできるだけ都市部をさけ田舎の町などを転々としてきたのである。
そして現在。俺はフランスののどかな町に来ている。
なんだかんだでこちらの世界で一番長く使っているフランス語の使えるところが安心できるからである。実際には初めの内はどうにかして日本にいけないかと考えていたが結論としてもう少し年をとらなければ日本には戻れないと判断したため次点としてフランスが良いだけではあるが、まあ居やすいことには変りがない。都市部で無ければの話だけど……
しかしここは風景もよく飲食店も多い。そして山奥に川がある。かれこれ三年間まともに家の中で生活していないのでもっぱらきれいな川の上流での水浴びが基本になってしまった……だんだん野生児と化してきているが仕方が無いことだと割り切ろう。
そうやって現状をあまり深く考えないようにしながら街中を歩いている時突然大声が上がった
「クソ!!引ったくりだ!!」
見ると一人の身なりの良い男性が倒れており、逃げる男二人を指差している。
回りにいる人たちは「警察を呼べ」や「大丈夫ですか」と声をかけたりはするが犯人のほうには目はいっていない。
俺だって普通かかわる事じゃない、なんたってこっちはまだ自称10歳児。見ぬ振りをしたって怒られやしない。……しかしなぜかこんな時頭に浮かぶのだあの赤いコートの男の姿が。どれだけ他の記憶が薄くなってもあのやさし過ぎる男の記憶だけは少しも薄れないのだ
「……はぁ…取り戻すことだけでもがんばりますか…」
そうボソっと口に出しとりあえず逃げた男たちのあとを追った。
男たちを追いかけるとある程度はなれた暗い路地、そこから声が聞こえる
「おい!?何だこれは!?金目のものなんてありやしねぇ!!」
「知るかよ!!あんな良い身なりだったんだ!!金ぐらい有ると思うだろうが!!」
隠れながら路地を見てみると男たちが言い争いながらかばんの中を覗いている。一応書類等にはまだ手はつけられていないようだが……犯人の身なりを見ているとある作戦を思いつく。
よし。この作戦で行こう。まずはとりあえずダミーの財布をひとつ用意し日本円で2万円ほど突っ込んでおいた。そしてその財布を持って弱々しい印象を与えるように注意して、身なりは……十二分にみすぼらしいな…よし行こう。
「あの……お兄さんたち?」
「!?何だガキか。おいクソガキ!!あっち行ってろ!!」
「オイ!!かまうな!!早く金目のもの見つけないとサツが来るぞ!!急げ!!」
おお、あせってるあせってる。さてここからが本番だ……
「あの……これ落としましたよ?」
「「!?」」
ふふふ、驚いてるな?実際は盗んだ荷物を落としたはずなんて無いことはこの二人のほうがわかっているだろう。しかしこの目の前に居る馬鹿なガキはわざわざどこかから財布を持って来たのだ。
「オイガキ。それをよこせ……」
「……はい。」
財布を渡そうとすると奪い取るように財布を受け取り中を見る。その瞬間お互いにニヤリとしたかと思うと
「オイ坊主。礼にこのかばんをくれてやる。だからここで俺たちを見たとか言うなよ?」
「そうだなぁ…ぬいぐるみも入っていたしちょうど良いな。コレをもってどっかに失せな!!」
と言った後俺を押しのけて走って去っていった……よしよし急いで散らばった荷物をかき集めこの場を走って去る。あのふたりが気がついて怒り狂う前に。
話としては簡単である。あせりにあせったあの二人は逃げ去るときにもう手に入れた財布と金。あとは警察に見つからないように必死だった。だからこそ気がつかなかったのである二人の自分自身の財布が
悩みに悩んだあげくとりあえず3万のうち2万だけ取り後は財布を落としてしまうことにした。運がよければ二人に戻るだろう……ほぼ無理だと思うが。
先ほどのひったくられた男性の場所に戻ると、おお!運がいいことにまだひったくられた男がいた。さすがに立ち上がっているがどうしようもないようにたたずんでいる。あたりを見渡して警察がいないことを確認しながら近寄る。やったことは無いがさすがに警察官に職質されて現状がばれたりしたら洒落にもならん。少し関係ないことで緊張しながら声をかける。
「あの、ごめんなさい。さっきかばんを取られたおじさんですか?」
ある程度の敬語を使いながらできるだけ子供のようにもじもじとした感じで話す?
少し疲れたようにしながら振り向いた男は年齢としてはまだ30代後半と言ったところだろうか。身なりは良く確かに金を持っていそうではあった。
「さっきお兄さんたちがかばんを捨てて、ここでかばんを盗んだって言ってたのが聞こえたから……ぬすまれたおじさんですか?」
うむ。我ながら気持ち悪い。しかし外から見ると礼儀正しいやさしい男の子に見えているのではないだろうか。そのほうが盗まれたかばんを持ってきた時に違和感が無いのでは?と考えての行動だが中身はほぼ30代の男である。どう考えても気持ち悪いものは気持ち悪い。
そんなことを考えながら男のほうを見ると先ほどまでの疲れが吹き飛んだかのように話し始めた
「本当か!?すまない。中身を確認したいので渡してもらってもいいだろうか!?」
口早にこういうので少し驚き、押されながらもとりあえずかばんを渡す。受け取ったかばんをあけ、中身を覗きほっとしたようにあるものを取り出す。サイズとしては15cmほどのサイズのクマのぬいぐるみだ。
……え?そっち?てっきり重要な書類が入ってるものだと思ってたんですけど……いや待てよ?もしかしてぬいぐるみの中にSDチップとかが入ってるとかかな?そう思い男の顔に目をやると、男はそのぬいぐるみを見つめやさしい顔をしながら涙を浮かべて見つめていた。
貴方の心が正しいと感じることを行いなさい。
行なえば非難されるだろうが、行なわなければ、やはり非難されるのだから。
~エリノア・ルーズベルト~
女尊男卑についての考え方は多分こうなんじゃないかな~と言った推測も入っています。