インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第三話 女性の国での一日

一夏がいなくなってから数分、俺は上野動物園のパンダ状態だった。

廊下では少しずつ移動しながら俺を一目見ようかと歩いているのだろうか常に動き続けていた。

この際名前をカンカンに改名してパンダのキグルミでも着ようか……まぁやらないけど。

……よし、気にしても仕方が無いんだ。もう無視しよう。

そう心に決め俺は携帯音楽プレイヤーを鞄から取り出そうとした。するとある一人の女子生徒がこっちに向かってきていた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「(えっと……おかしいな?ここに入れたはずだったんだけどな?)」

「ちょっと!?聞いてらっしゃるの!?」

「………僕ですか?」

 

おお、この状況で俺に話しかけてくる生徒が居るとは!?辺りの生徒たちも一斉に静かになる。

彼女はそれを気にもせず話を続けた。

 

「まぁ何ですの?その返事の仕方は。このわたくしが話しかけていると言うのに」

「はぁ……えっと……確か君は……セシリア・オルコットさんだったけ?」

「あら。わたくしを知っていらっしゃるのね。褒めて差し上げますわ。」

「そりゃ、さっき自己紹介してましたし。」

 

と気の抜けた返事を返す。

一応思い出せた記憶では最初高飛車で後すぐデレる俗に言うチョロインだったはず。なんで高飛車だったんだっけなぁ……まぁそこは一夏が何とかしてくれるらしいし任せよう。

 

「……じゃあ私がイギリス代表候補生という事は?」

「あ~スイマセン。僕今までそういうこと気にして生きていく余裕無かったんですよ。」

「へ?」

 

予想外の対応だったのか今度はセシリアが気の抜けた返事を返した。

俺は気にせず話を続けた。

 

「いや~恥ずかしながら、僕幼少期の記憶が無い状態でフランスに一人で居たんですよ。大体8年前くらいかな?んでそこから4年間ほどほぼホームレスみたいな生活してまして。」

「は、はぁ…」

「んで4年位前でしたかね。すごい追い詰められていた時、教会のお婆さんにありがたい事に拾ってもらってそこから3年間育ててもらったんですよ。でもやっぱり生活は苦しくてISとかも気にして生活する余裕も無かったんですよ。」

「そ、それで?」

 

完全にこちらのペースである。

そろそろ授業の時間だし適当なところで相手にペースを返すか。

 

「だから代表候補生とかそういうことに興味を持つ時間も余裕も無くて、そういうこともこの学園生活で覚えていければな~って考えてたんですよ。」

「という事は解らないんですね?」

「恥ずかしながらそうなりますね。」

「では、教えて差し上げますわ。代表候補生というのはIS操縦者のなかでもさらに選ばれた存在。つまりエリート中のエリートなのですわ!!」

「へーそうなんだ。わざわざ教えてくれてありがとうございます。」

 

と言うとセシリアも何とか自分のペースに持ち直せたらしい。

 

「あら、良い姿勢ですわね。つまりそのわたくしと同じクラスになれただけでもあなたには光栄なことなのですわ。」

「そうですか。じゃあ僕は足を引っ張らない程度にがんばらせてもらいます。」

 

というと丁度先生と一夏たちが教室に戻ってきた。

 

「あ、オルコットさん。先生が来ましたよ。」

「あら、では話はまた。」

 

と言い機嫌よく自分の席に戻っていくセシリア。

そして周りの野次馬たちも何かこそこそ言いながら去っていく。

 

(記憶が無いって……やっぱりテレビの~~~)

(本当?じゃああの噂も本当なのかな?)

(解らないよ?もしかして~~)

 

と口々にしながら彼女たちは去って行った。

まぁ、これに関しては遅かれ早かれバレる事だし、別に話しても問題ないだろう。

それよりもセシリアの話し方。原作でこういう子じゃないと知っているからだろうか何か無理をしているように聞こえる。

なんというか力が入りすぎているのだ。まるで自分を強く見せようとしているかのように。

まぁセシリアに関しては一夏に任せると俺は勝手に決めたのだ、後は任せよう。

と考えていると二時限目が始まった。

 

 

 

 

 

(こりゃ思ったよりも大変だ……)

 

俺は喰らい付くように教科書を見ながらノートを書き取っていた。

山田先生の授業がわかりやすいからか何とか喰いついているが、それでも専門用語が多すぎる。

 

(こりゃあれだな、とりあえず授業中に言われた事やかかれた事すべてメモるつもりで書いて、その後教科書で調べながら別のノートにまとめよう。じゃないと大変な目に遭うな。)

 

とテストのことを考えながら必死にノートに書き記していた。

ちらりと一夏の方を見ると、完全に顔が凍りついていた。

 

(あいつ大丈夫なのか?)

 

俺がそう不安を覚えると

 

「織斑くん、風音君、何かわからないところがありますか?」

 

と山田先生が不安げに聞いてきた。それに対して一夏は

 

「先生!!」

「ハイ!!なんですか?」

「ほとんど全部わかりません」

「えっ……ぜ、全部…ですか……」

 

ああ、あからさまに気落ちしちゃってるよ。

 

「せ、先生。僕は専門用語みたいなとこ以外は何とか理解できてますよ!?」

「!!ほ、本当ですか!?」

「ホント、ホント。一夏もそんな感じだよな!?」

「いや俺は「な!!!!」……おう…おれもそんなかんじです(棒)。」

 

棒読みしてんじゃねぇよ。ったく俺は小声で話しかける。

 

「(おい、一夏ここはあわせろ!!)」

「(でも本当にわからないんだって!?)」

「(後で出来る限り教えるから、とりあえず黒板と先生が大切って言ったとこだけはノート取っとけ!!)」

「(あ、ああ……)」

 

俺たちの話に興味を持ったのか山田先生が話しかける。

 

「どうしたんですか?やっぱり……」

「い、いえ!!お互いがんばろうなって話してたんです!!なぁ奏!!」

「あ、ああ。そうですよ先生!!」

「そうですか!!」

 

と何とか山田先生が元気を取り戻してくれた。これで一安心かと思ったらそうは問屋がおろさなかった。

教室の隅にいる千冬さんが一夏に向かって声をかける。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「…古い電話帳と間違えて捨ててしまいました。」

 

一夏、アウトー!!

 

パアンッ!

 

という音と共に一夏の頭に千冬さんからの指導(物理)が入った。

 

「ったく、何をやっているんだお前は。あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「一週間はちょっと……」

「良いな!?」

「はい…」

 

哀れ一夏。まぁ流石に捨てるのはいけないがな。

その後特に問題なく授業が進んだ。

 

 

 

 

放課後。俺たちは椅子に座りながら魂が抜けたようになっていた。

 

「奏~~俺、これ以上ここ続けていける自信が無い……。」

「言うな一夏。住めば都だ。」

「いくらなんでも無理だろ…。」

「……家に帰ったら、とりあえず今日のノート取り直して復習するぞ。」

「……マジかよ…」

「千冬さんに殺されたいなら一人だけでどうぞ。」

「……ハァァァァ…」

 

と話しながらゆっくりと帰り支度を始めた。

すると向こうから山田先生が歩いてきた。

 

「ああ、織斑くん、風音くん。まだ教室にいたんですね。よかったです。」

「山田先生どうしたんですか?」

「えっと、寮の部屋が決まりましたのでそれを知らせに行こうかと。」

「「はい?」」

 

え、寮に関しては一週間後じゃなかったっけ?俺の勘違い?

参ったなぁ…荷物もってくるの忘れちまったよ……ってそんなはず無いか。一夏も驚いてるし。

 

「えっと山田先生、僕や一夏の部屋はまだ決まらない筈では?」

「一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど……」

「確かにお二人の言うとおりなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……二人とも、そのあたりのことって政府から聞いてます?」

 

と山田先生は最後は声を小さく話しかける。政府…って事は嫌な予感がする。

 

「先生、僕たちの部屋って同室なんですよね?」

「おい、奏。じゃなかったら互いに一人部屋かよ。いくらなんでもそれは無いだろ。」

「……実は風音君は一人部屋なんです。」

「風音君は?って事は俺は?」

「織斑くんは女子と一緒です。」

「はぁ!?」

 

ははは、嫌な予感はしたが俺の方ではなかったらしい。

 

「え!?女子と一緒って?」

「ごめんなさい!!でも無理やり決めたせいでこうなってしまったらしくて……」

「で、でも…それなら俺と奏の相部屋でもいいじゃないですか!?」

「それは…その…」

 

と困った顔をしながら俺の方を見てくる山田先生。

やっぱり原因は俺ですか。

 

「一夏。先生に言っても仕方が無いだろ。それに原因は僕だ。」

「え?何でだよ奏。」

「ヒントは僕の国籍。」

「え……お前が無国籍なのは知ってるけどそれがどうして…」

「多分お偉いさん方は僕と部屋を一緒にした相手が僕を勧誘しないか不安なんだろうさ。」

「俺でもか?」

「多分な。出来るだけ機会を平等にしようとしてるんじゃないか?ッチ、馬鹿らしい。」

 

と話すと山田先生は否定もせず「あはははは…」と乾いた笑い声を出している。それに最後は素が出てしまっている、気をつけねば。

とここで愚痴を言っていても仕方があるまい。とりあえず急いで荷物を取りに行かなければ。

 

「じゃあ先生、僕と一夏はとりあえず荷物を取りに言ってきますね。」

「その必要は無い。」

 

声がするほうを振り向くと千冬さんが荷物を抱えこちらに来た。

片方は俺の鞄か。でも普通女性がもてるほど軽い荷物じゃないと思うんだけどな……やはり世界最強の女は違うという事なのだろうか。

と考えていると俺たちめがけて荷物が飛んできた。何とかキャッチするがやはり重かった。

 

「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう。何か他に必要なものが有ったら休日に取りに行け。」

「ああ千…織斑先生、解りました。」

「あと風音。とりあえずお前に与えた部屋に有った鞄を持ってきたがそれでいいか?」

「ええ、一週間くらいならこれで何とかなりますし。」

「そうか、ならいい。」

 

といって千冬さんはうなずいた。

続けて山田先生が説明を始めた。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーが備え付けてありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、お二人は今のところ使えません」

「残念だったな一夏。」

「はぁ……昨日が最後の風呂だったのか…もっとゆっくり入ればよかった。」

「い、いずれ使えるようにはなると思いますけど、今のところは部屋のシャワーで我慢してください。」

「「は~い」」

「お前ら?」

「「ハイ!!解りました!!」」

 

と返事をし俺たちは千冬さんから逃げ去るように自分たちの部屋に向かった。

 

 

 

 

神様は私たちに、成功してほしいなんて思っていません。

ただ、挑戦することを望んでいるだけよ。

                                 ~マザー・テレサ~




ということで第3話終了です。
作者は仮にIS世界に行ったら授業中一夏と同じようになる自信が有ります。
って言うかあれ?いつの間にか一日一回以上投稿してる……ストック大丈夫か?
……まぁいいか。
では読んでいただきありがとうございました。

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